第六話 ティーファ
俺とリーリア、はギルドへ戻ることにした。
依頼の進行は止め、二体のリザードマンの首をギルドに渡すと、変わりとして銀貨一枚が渡された。まだ完遂されていないから、これが限度と言われた。
そして宿へ戻り、三人にして向かい合う形となる。
そう俺とリーリアはエルフの子を保護した。リザードマンが溢れる森に置いておくことは問題と判断したからだ。ただ、エルフを人間の街へ連れていくことは許されていない。そのため、ティーファにはフードを被ってもらい、なんとか誤魔化した。
「私はエルフとヒューマンのハーフです。エルフの里にも人間の街にもいることが許されず、一人で生きていました」
ティーファと名乗ったエルフとヒューマンのハーフはそう自身の境遇を説明した。
こういうことは少なくないらしい。
「エルフとヒューマンのハーフ? 全然、そう見えない」
リーリアの言葉通り、ティーファの見た目は普通に綺麗なエルフだ。
長い金髪と、少しとがった耳。肌は白く、スタイルも良い。エミリアさんに劣るが、張り合えるほどの美女だ。
「それでこれからどうする? 保護しちゃったけども、森には返せないし」
リーリアが相談してくる。
「この街に住むことは難しいのか?」
「人々は許さないと思うよ。人間は難しいから。私は違うけども」
「大丈夫です。フードがありますから。これで耳を隠せばまず見つかることはないです。それに」
それにとティーファは続けて。
「イツキ様が助けてくれますから」
どういうわけか、俺はティーファに好かれてしまった。
命を助けた恩人だからだろうが、それにしたら簡単すぎる気も。まあいいや。
何故か様付けで、俺にべったり着いてくる。
リーリアがジトッとした目を向けてくる。
「イツキ、鼻の下伸びてる」
「伸びてない」
「嘘。ティーファの大きな胸の感触が気持ちいいのでしょ? あーあ、汚らわしい」
リーリアがそんなことを言う。
いや、まあ。
ティーファはなぜか俺の隣にいる。そして当たり前のように胸を押し付けてくる。
「お母さまはこうしろと言っていました」
「あんたのお母さん、すごいな」
「ショーフをしていたと聞いています。何かは分かりませんが」
ショーフ?
どこかで聞いた言葉だ。
それを必死に漢字に変換するができない。喉元まで上がっているのだが、思い出せない。
なんて思っていると、リーリアの顔が赤く染まった。
「ちょ、何を言って!」
「リーリア分かるのか?」
「むしろ、なんでイツキは分からないの?」
「知らないから」
そう言うと、リーリアは小さくうずくまり、ごにょごにょと小さく口を開く。
「…………ふよ…………たち」
「…………?」
「娼婦よ! 男の人たちが性欲解消のために利用する人たちよ!」
「ああ!」
娼婦のことか。なるほど。これは確かに言いづらいことだ。特にリーリアには。
「え、あれ。本当に?」
思わず聞き返してしまう。
「可笑しくはないと思う。人間に捕まって、なんてことはあると思うから」
そうリーリアは真面目な表情で言った。
その言葉を聞くと、俺は人間に対して殺意が沸く。
どうしてそんなことをするのか。そう考えて、復讐を考えている男が何言っているのかと思うと、自分の存在もまた汚いものだと分かり。
俺は少し考え込んでしまう。
「大丈夫ですか? 表情が暗くなりましたが」
「大丈夫大丈夫」
いや、違う。
吸血鬼の王を殺した人間の方が悪いに決まっている。
その人間を殺すことは違う。
これは意地汚い人間とは違う。
正しい心だ。
「私はイツキ様に助けられました。もしも助けられなかったら、私の人生は終わっていました。だからイツキ様にご恩をお返ししたいと思っています。もしも何かあれば仰ってください。もちろん、そのショーフに近いことでも。何でもします。だから悲しい表情はしないでください。私も悲しくなります」
「ちょ! ティーファ、そんなこと言ったらだめよ!」
「どうしてですか?」
「ああ、もう!」
リーリアがティーファを連れて、ひそひそと内緒話を始める。
話の内容は分かる。
ティーファはこれからそういった発言をしないこと。男はそう言ったことを望まない。もっと、気品あふれる方が好まれる。
そんなことを力徳していた。後半の内容である、好みは人それぞれであり、答えはない。あくまで、ティーファの発言を和らげるために言ったみたいだ。
「分かった?」
念を押され、ティーファは。
「はい。分かりました」
と返事をした。
これからティーファの行動は抑えられることになると思う。
そう思うと少しだけ残念だった。