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異世界で吸血鬼の王の力を手に入れた  作者: 海木海
第一章
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第一話 初めてのギルド

序章は過去編。

一章はあらすじ後の話です。

復讐はだいぶ先になるかもしれません。

 俺がこの世界に来て五十七日が経った。

 今日。初めて俺は人間が住む町に着いたことになる。

 言い換えるならば、この世界で初めて人と出会い会話をすることになる。

 これまではフェンリルなんて呼ばれている巨大な狼か、不愛想な吸血鬼のメイドたちか、その主である吸血鬼の王としか会話ができなかった。それで十分だった。

 ただ、人生の大半を人間として生きた俺は、人間と会話をすることができると思うと久々に子供のように心躍った。


 太陽の位置は頂上から少し下がった所。上がっている途中。天気は快晴。

 初めて入った町は大きな屋敷を中心に、目算で直径四キロほどの町である。そして、初めての町への訪問と同時に、ギルドと呼ばれる組織に関わる日にもなる。

 この世界の街並みはレンガ造りの建物が多いらしく、二階あるいは三階建ての建物が隙間なく立ち並ぶ。等間隔に植えられた木や花が町を美しく飾る。綺麗な町だ。

 町の人々に聞き、ギルドの場所を教えてもらうと俺は一直線にその建物へ向かった。


「初めまして。ようこそ。冒険者様」


 扉を開けると同時にベルがカランコロンと音を鳴らす。好奇な目で見られた俺を綺麗な声で出迎えてくれる。

 受付の女性は二十代後半だろうか。

 なんて綺麗な人だ。

 と初めに思った。

 長いストレートの髪を後ろで縛り、営業スマイルで向かい入れてくれた女性。歳は二十代後半と見た。

 綺麗な女性にはとりあえず言わなくてはいけない言葉がある。

「お名前は?」

「エミリアと申します」

「エミリアさん。もし良かったら、今夜お食事でも」

「申し訳ありません。冒険者様を特別扱いすることはできませんので」

 そう言って、左手の指輪を軽く見せてくる。

 どうやら男がいるみたいだ。まあこんな綺麗な人を放っておく男がいるわけがない。当たり前と言えば当たり前だ。

 日本にいたころの俺なら、こんなナンパはしなかった。

 どちらかというと、姉がいた身として女性という存在に恐怖を抱いていたと言っても過言ではない。

 この世界に来て俺の心は変わってしまった。妙に自信に満ち溢れている。

「それで冒険者様はどのようなご用件ですか?」

「ああ、すみません。冒険者ではありません。冒険者になりたくて。ですが世間知らずでして、冒険者について詳しくないので。それでお話を聞きに来ました」

「あらそうなのですね」

 そう言ってエミリアさんは笑う。

「珍しいこともあるものですね。あなた様のような方は初めてです。失礼ですが、お名前は?」

「イツキと言います」

「分かりました。イツキ様ですね。では、イツキ様。初めに聞かせていただきます。死を覚悟することになります。その覚悟がおありでしたら、こちらの書類に目を通してください。規則としまして、冒険者でない方に詳しくお話することが出来ません」

「分かりました」

 カウンタの下から取り出された書類。エミリアさんから受け取った書類に俺は目を通す。

 幾何学の文字。この世界に来て、知った言語。文字。

 書かれている内容は、契約に関することだった。要約すれば、冒険者はギルドを通して依頼主と関係を持つこと。報酬の数割はギルドに収められること。命の保障は出来ないこと。ギルド側は下記にわたる事で冒険者をサポートすること。

 そのサポートとは例えば仲間との出会いの場だったり、武器や防具、道具の補助と付け加えられている。

「こちらの書類に書かれている契約項目すべてに同意が出来ましたら、下に名前と手形を押してください」

 エミリアさんの言葉に思わず聞き返してしまう。

「手形ですか?」

「はい。手形です。本人かどうかの判断基準になります」

「なるほど」

 元いた科学の発達した世界ならいざ知らず、この世界で手形から本人確認ができるかどうか疑問だったが、そう言うのであればできるのだろう。まして、俺はこういったことに疎い。

 花から取られた赤い液体に手を付けて、書類に押す。

 エミリアさんがタオルを差し出してくれて、それで手を拭く。

「では、冒険者となられましたイツキ様に、僭越ながら私が、ギルドについて説明させていただきます」

 エミリアさんは書類を確認した後、ごほんと咳払いをして説明をしてくれた。


 説明内容を要約すると。

 ギルドの存在意義は冒険者と依頼主の間を持つこと。冒険者のサポートを行う変わりに依頼達成における報酬の三割がギルドに入る。

 冒険者には階級があり、また同時に依頼にも階級がある。

 冒険者の階級は0から6、依頼は0から9存在する。どちらも数字が低い方が上。

 階級を上げるためには信頼が必要であり、そのためには依頼への熱意、達成日時、依頼へ対する誠意などを総合的に判断し上げてくれるとのこと。

 以上。


 階級を表す数字は手の甲にハンコで押されるらしい。

 その数字は魔法がかけられており、簡単には消えないとのこと。

 魔法は何とも便利なものだ。

「そういえば、イツキ様の武器はその背中にあるものでしょうか?」

 エミリアさんが俺の背中にある棒に目が行く。もの珍しそうに言った。

 鉄の棒。

 俺の武器を一言で説明するとそうなる。何の飾り気のない、二メートルほどの棒だ。強度は十分あるが、剣や槍の様に分かりやすい外傷を残す物ではない。言い換えるなら、殺傷能力では劣る。

「そうです」

 俺がそう頷くと、エミリアさんは心配そうに。

「刃物がついた武器を推奨しますが」

「大丈夫ですよ。これでも十分戦えます」

 まだ、エミリアさんからの信頼はないみたいで。いやというよりも普通の人間と思われているみたいだ。確かに俺も同じならば同様に刃物の武器を推奨する。

「じゃあ、最初の依頼を受注したいと思います。おすすめはどれですか?」

 俺は依頼ボードの前まで歩き、明るく言った。

「そうですね」

 エミリアさんはカウンタから出てきて、俺の隣で同様に選んでくれる。

「この依頼が初心者向けだと思います。食肉であるボアの捕獲ですね。外の森によく現れます」

「なるほど」

 ボアとはイノシシみたいなものだ。

 確かに、簡単な依頼だ。

「ではこれにします」

「かしこまりました」

 エミリアさんはカウンタの上でその依頼にハンコを押したのち、下の七桁の数字が掛かれた箇所を破り取る。そして残りを俺に返してくれる。

「そうだ」

「なんでしょう?」

「この報酬の銀貨一枚はどれぐらいの価値ですか?」

「はぁ?」

 俺の質問にエミリアさんは目を丸くした。

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