第一話 異世界移転~吸血鬼の王との出会い~
あらすじに書いてある通りの作品です。
題名である、吸血鬼の王の力を手に入れるのは次です。(厳密には一話と二話の間)
主人公は人間の中では最強クラスになりますので、俺TUEEE系の作品だと思ってください。
俺の人生は平凡に進んだ。
名前は樹。歳は二十五。
性格は負けず嫌いなところがあると自負している。
家族構成は父と母、姉と弟がいた。
私立の中学、高校を通り、地元の国立大学の工学部を卒業後、地元で有名な会社に入社した。入社して二か月ほどして俺は念願の一人暮らしを始めた。地方だったこともあり、安月給でもなんとか生活が続けれていた。
趣味はドライブ。読書。ホラー映画鑑賞。他にもいくつかあるが、一つのことに没頭することはしない。
友達の数は多くなく、また少ないわけでもなく。ただ親友と呼べる相手はいなかった。
休日は家でレンタルしてきたホラー映画を見ながら、お酒を飲むのが日課だった。お酒にあったおつまみを作ることも同時に得意になっていた。
そう。
そんな平凡な人生。
だった。
少なくとも、その時までは。
気づいたら、そこは草原が広がる世界だった。
草原の上に俺は寝転がっていた。
ここはどこだ。
と思っても、答えがあるはずもなく。
ここに来る前のことを思い出してみる。
久々の日曜日に家でホラー映画を見ながら日本酒を飲み、初めて挑戦したアヒージョが意外と美味しくできたことに嬉しかったのを覚えている。
そして気分良く寝た。
久々の休みだったこともあり、ものすごい快眠だった。ベッドの上に寝転がり、数分で眠ったと思う。
そして、目が覚めたらこれだ。
意味が分からない。
何が起きた?
誰の仕業だ。
そんなことを思いながら、あたりを見渡す。
すると、ここかどこなのか分かってくる。
いる場所は草原。前には大きな湖。湖の先は森。後ろにも森。湖の先の森の中に大きな屋敷が建てられている。人が作ったであろう道は見当たらない。
「とりあえず人を探そう」
あまりにも非現実的なことが起きると、むしろ冷静に行動できるみたいで。
俺は見える屋敷を目指すことにした。
素直な心を言えば、その屋敷に行きたくはなかった。
森に囲まれた中に建つ屋敷。あまりにも怪しい。
何故、こんな森の中に建てたのか。何か良くない理由があるはずだ。
しかし、今はそんなことを言っていられない。
湖の周りを歩き、その屋敷を目指す。
湖の直系は目算で一キロほどだろうか?
ならば、外周は三キロとすると、俺が歩く距離はその半分。でも屋敷と湖が離れているから、二キロほどだろうか。一般的な歩行速度は時速4キロほどだから。
「三十分ぐらいか」
時間にすると妙に近い気がした。
でも実際は違う。
道なき道を歩くことの大変さに俺は気づいた。
大小さまざまな石。草木。足に神経を使う。時には邪魔をする木を避けて遠回りをする。
コンクリート以外の道を歩くのは久々だ。
汗が出始めて、シャツが汗で濡れる。そんな不快な感情を押し殺して、ただ俺は屋敷を目指す。
三十分ほど、歩いただろうか。
ふいに甲高い獣の遠吠えが聞こえた。
犬か。狼か。
その類だと俺は思った。
「まずいかな」
襲われるかもしれない、という安易な恐怖が生まれた。
野生の動物、例えば熊とか。そういった危険な動物がもしも目の前に現れたら。俺は逃げるか死んだふりしかできない。
急ぐべきだと俺は思った。
そんな俺の前に一匹の狼が現れた。
静かに湖の水を飲む。
その姿は凛々しく、美しい。
真っ白な体毛。真っ赤な瞳。
そんな狼に見惚れたのはほんの数秒。
すぐに恐怖を覚える。
「…………でかっ」
体長は四メートルを超えそうだ。俺の身長では狼の足の付け根にも届かない。
そんな狼が目の前で水を飲み始めたら、誰もが驚くはずだ。そして恐怖する。
見つかってはダメだ。
そう思って俺は周りの木の陰に身を潜めた。
静かに狼を見守る。
しばらく水を飲むと、狼は口を上へ向けて。
一瞬俺の方に視線を向けた。
「××××、××××××。×××、×××××××」
狼が遠吠えとは違う、声を出す。
それが言語だと俺は直感的に理解した。
意味のある言葉。
狼は俺と意思疎通を図ろうとしている、と。
「××××。××××、×××××××××××××××」
狼がまた口を開く。
すると、狼はその大きな足をこちらへ向けて、一歩ずつ俺に歩みよってくる。
ずしんと大地が揺れた。
俺の目の前まで来ると、鼻を俺の顔先まで近づける。
近くで見ると、さらにその大きさに驚く。でかい。
「×××××」
狼が俺の腕に牙を向けた。
そして、狼は俺の腕をかじりとった。
「…………あ?」
この人生、経験したことないような痛みが俺を襲う。
「あああああああああ!」
何故?
分からない。
ただ、分かるのは死が迫っていること。
そして、狼は別に怒っているわけではないこと。
人間が虫を殺すように、この狼は人間を殺すことができる。
そう、ただそれだけ。意味はない。意味なく、何となく。この狼は俺を殺そうと思ったのだ。
そうでなければ、俺は納得が出来なかった。
俺の腕を地面に吐き出し、次に俺の足に目を向ける。
「…………やめてくれ」
そう言ったところで、狼に伝わるわけがない。
狼は俺の足をかじりとった。
また襲う激痛。溢れる血が、地面を赤く染め、真っ白な狼の体毛もまた赤く染める。
そして、うっすらと目蓋が下がっていく。
意識がぼやけてくる。
狼が俺の最後の腕に牙を向けた時。
「×××!」
叫び声が聞こえた。
狼の後ろに一人の女性の姿が見えた。
その女性が狼を止めてくれたことは理解できた。
真っ黒な長い黒髪を揺らす、女性。黒いドレスを着た、例えるならば天使。その天使は俺の方に近づいて何か呟いた。
「×××××」
その時。
俺の意識が途切れた。