10、新しい剣
この話から少し地の文を変えていきます。
少しでも読みやすくなる方法を模索中なので、ご迷惑をかけるかもしれませんが
どうか許してください。
何かいい方法あれば、随時募集中です。
「おいおい、何してんだ?」
「アィール……さん……魔法……辛い……」
「はぁ?!」
僕は部屋の簡素なベットの上でそう答えるだけ。
それで精一杯だった。
全身が軋む様に痛み、生命活動以外の気力がごっそり奪われた感じだ。
何故皆が魔法を使えないか。
それは簡単に理解した。
まず、魔力の感覚。
あれは、誰かに教えてもらわない限り絶対に出来ない。
なんていうか、魔力を操作するという概念が説明出来るような物ではないのだ。
現代の知識で無理矢理例えるなら……そう、初めてのインターネット接続を機械だけ用意された状態で、事前知識なし、説明なしで全部やれ。と、言われているようなものだ。
説明書や手引きがあって初めてインターネットに接続できる。
細かな機械の意味や原理の説明なんてまるで出来ない。
それと同じだ。
魔法も魔力という機械は用意されているが、それをどう扱うか説明や手引きが無いと
使用出来ないのだ。
僕は魔法使いの老人であるセネクスさんに、無理やり魔法を使わせて貰ったから魔法は使える。
一度でもインターネットへアクセスすれば使い続けられるのと同じだ。
でも、魔法の習得の難しさはそこではない。
魔法は精神を使い切る。
無理やり体から魔力を引き出すのだ。
魔力を引き出すという行為は、いきなり”限界まで怒れ。”とか”心躍るくらいワクワクしろ”
と言われている様な物なのだ。
しかも、演技では無く”本気”で。
それが非常に精神を消費するのだ。
昔、アィールさんは貴族か王族などしか魔法が使えないと言っていたがそれは本当だと思う。
今の僕では魔力の制御が出来ず、一度魔法を使えば最後。
体内の全ての魔力を吐き出し、動く事さえままならなくなる。
この部屋にだって文字通り地面を這って帰ってきた位なんだから。
たった一度あの強化魔法を使っただけなのに。
よっぽど裕福じゃなければ、とてもじゃないけど魔法の習得なんて不可能だ。
魔法の練習をしたら一日終了。
そんな生活、一般市民に送れる訳がない。
「なんで片言に戻ってるんだ?それよりこれを受け取れ」
アィールさんは僕に向かって何かを投げる。
当然、今の僕がそれを受け取れるわけが無く。
「あいた!」
投げられた硬い物が頭にぶつかり地面へ落ちる。
……かなり痛かった。
おまけに、アィールさんの”何してんだ?”という溜息まで追加されて。
「いきなり投げなくても……」
僕は聞こえない様に小さく文句を言いながら頭に当たった物体をゆっくりと手に取る。
それは青い綺麗な鞘に入った剣だった。
「それはお前用にカスタマイズしてある。刀身も通常よりも短く、軽く、振りやすくしてある鋼の剣だ。4日後の試合用までには慣れておけよ」
「え?えーー!!!」
いきなり何言ってるんですかアィールさん!!
剣って安くないよ!!
奴隷の時に鉄剣を壊して殺された人いたじゃないですか!!
「お、お金は?」
「借りた。出世払いでな」
待ってよ!そんなお金返せないよ!
どうしよう。あの食堂のおばちゃんに頼んでアルバイトさせて貰おうか。
あ、でも、それじゃあいつ返せるか……
「ど、どうやって返すんですか?!」
「決まってるだろ?試合に勝ってだよ。忘れたのか?試合に勝てば金が入るって話したろ?」
「ああ、そういえば!!」
そこまで聞いてやっと思い出した。
剣闘士は試合に勝てばお金を貰えるのだ。
「まぁ、ここのシステムは良く出来てるんだよ。毎日戦うわけじゃない。7日に一度だ。それに同じ方位内であれば、誰が出てもいい。ただな、そうすると戦わない剣闘士なんてもんが出来上がっちまう」
あぁ……またアィールさんの長い話が始まってしまった。
一度語りだすと、止まらない。
「それを防ぐ為に、90日に1回は強制的に試合に出させられる。ただ、そうすると今度は90日に1回しか試合に出ない奴が大勢出てくる」
それは分かるよ。
僕だって出来るなら試合したくないし。
戦わなきゃいけないなら、最小限にしたい。
「だから、勝者には金を渡すんだ。それも結構な額のな。金があれば、上手い飯、酒、女、全てが買える。その欲の為に剣闘士は自ら進んで殺しあうって訳だ」
アィールさんは話は終わり。とばかりに簡素なベットに腰を下ろす。
意外な事にアィールさんの話はこれで終わりらしい。
うん、いつもこれくらいにしてくれると嬉しいよね。
「でも、よくお金貸してくれましたね」
「ああ、それは簡単だ。剣闘士の中でもやっぱり戦闘をしたく無いって奴は一定数いる。そいつらに金を返すまでは代理で試合に出てやる。って言ったんだ」
「えーー!!」
アィールさんは、また驚く事をさらりと言う。
「でも!!アィールさん!それじゃあ、またすぐ試合に出る事に……」
「気にすんな、俺は50勝してここから出ていく。その為に一試合でも多く戦いたい。だから、お互いにメリットだらけの取引だったって訳さ。あとその契約にお前は含まれてないから安心しろ」
その言葉を聞いた瞬間、体からゆっくりと力が抜けていく。
”お前は含まれていない。”
その言葉に僕は心底安堵してしまったのだ……。
アィールさんは死ぬ可能性のある試合を増やし、命を賭けてまで僕の為に剣を作ってもらってきたというのに。
僕はただ、自分の身の心配だけ。
……最低だ。
「ごめんなさい……」
「いいから、気にすんな。といってもお前の性格じゃ無理そうだな」
違うんです。
たぶん、アィールさんと僕が気にしている所が違うんです。
僕はとてもじゃないけど、アィールさんの顔を見れない。
「じゃあ、俺が50勝したら一緒についてこい。試合に勝った金を貯めてお前を買い取ってやる」
アィールさんが、ボリボリと頭を掻きながら言う。
「え?」
「俺は自分の故郷へ戻る。そこでお前に助けてほしいことがある。それを手伝ってくれ」
アィールさんが僕に頭を下げていた。
僕に出来る事なんて何も無いのに……
ああ、そうか。
初めて会ったときもそうだった。
やっぱり、アィールさんは優しい。
「……分かりました!いつかこの恩は返します。絶対に!」
気を使ってくれたんだ。
確かに今僕が出来る事なんてない。
でも、いいよ……今は何もできなくても良い。
いつか恩を返せるように成長すればいい。
「ああ、返すまでは死ぬんじゃないぞ?」
「はい!!!」
「よし、じゃあ寝るか」
「はい!!」
そう言ってアィールさんが部屋の蝋燭を消す。
それだけで、部屋は真っ暗になった。
僕はベットの中で明日から出来うる限り全てを尽くそうと改めて心に誓った。
そして、アィールさんから貰った剣を抱いたまま眠りにつく。
アィールさんが命を賭けてまで買ってくれた大切な剣。
その剣は寝返りをうつ度に、ゴツゴツと体に当たり凄く邪魔だった。