黄金の果実
ツンデレ回ですぅ
呼び出された蝶の羽を持つナビはカルラの周りを飛び回りながら待機状態を保っている。
黒と黄色のグラデーションがシンメトリーになっている派手ないでたちである。
「どーよ、うちのアゲハは優雅で素敵でしょ!」
そういいつつ蝶娘を自慢してくるが、俺にはさっぱりわからない、一体この二人はなにを言っているのだろう?ナビゲーションがどんな姿をしていようが役割は変わらないだろうに。
「ああ、どちらも可愛い姿をしているな、まぁ俺のナビが一番なのは当然だが」
俺のアイも蜂娘で黒と黄色だがお尻の針がチャームポイントだと思っている。あ、いやそんなのはどうでもいい。
「どうでもいいって感じがありありと顔に出てるわよ」
どうやら顔にでていたようだ。だが気を取り直し話を進めることにする。
「とにかく今後の方針だ、イベントは失敗扱いになっていないということはまだやり直しが効くということだ、君たちは始めたばかりの初心者のようだし、俺は・・・あーβテスターみたいなもんだ、少しアドバイスしてやろうか?」
コレラは少し考えながら「うーんパパに見栄張って大丈夫っていっちゃったからなぁ」とあまり乗り気ではなく
カルラは「いらないわよそんなもの!」と強情である。
そこにはただの自信過剰というより様々なゲームをしてきたという自負が感じられる。
実際のところそこまでプレイングの基本がわかっていないというわけでもないのだろう、初見ということで興奮して冷静さを失っていただけなのかもしれない。
「そうか、自分たちで解決するなら俺が手伝えるのはここまでだな」
そういって俺はアイにパーティからの脱退を申請しソロにもどる。
助けてやるのもひとつのプレイだが、お互い王を目指しているライバルだ、余計なお節介なら関わらないほうがいいだろう。
「俺が抜けたことでイベントの達成は不可能になったが、緊急要請をした時点で得られる名声値も下がっているからな、街にもどって別の依頼を受注したほうがいいんじゃないか?」
コレラはガブを握り締めながら、マップを検索する。
「うーん、残念ですけどしかたないですね、この位置からだと遠回りになるでしょうし、いったん街にもどったほうがいいですね」
カルラは俺たちの会話に特に興味を示さず、俺の蜂娘と自分の蝶娘を見比べている。
「むむむ、女王としての品格と棘を隠し持った妖しい魅力が・・・」
カルラの脳内ではどのようなドラマが起こっているのかわからないが、とりあえず無視でいいだろう。
「それなら街まで同行しよう、俺はまだ街にいったことがないから丁度よかった」
「ありがとうございます、心強いです!」
コレラはとてもうれしそうな様子を見せるが俺は少し困惑気味になる。
「いや、そんなに喜ばれても、敵も出ないしマップも確認すれば迷うこともないだろうし・・・」
「いえ、私がマップを見てる隙に姉があっちこっちにふらふらといなくなってしまうので、全然先に進めなかったんです」
「ああ、そうなんだ、二人でやっているとそれなりに苦労が・・・あれ?どこに行った?」
俺が周囲を見回すとカルラの姿がない、もしかして・・・
「あっちゃーおねぇちゃんのまた悪い癖がでちゃいましたね」
「ま、まぁフレンド登録しているなら直接会話もできるだろうし、同じパーティメンバーならマップ上に現在位置も表示されるから迷うこともないはずだから大丈夫だろう」
「そうだといいんですけど・・・お姉ちゃんいまどこ?」
そういいながら、ガブに話しかけ連絡を取ろうとするコレラ、すべてのシステムはナビを通して行われるので自分で操作する必要がないのがいいところだ。
すると、ガブから返事がある。
「森の中」
「マップ出してこっちのほうに向かってよ、・・・そっちちがうよ、こっち」
うーむ、指示を出すほうもアバウトだが方向音痴は周囲の環境を記憶したり、天体の位置で自分の基準位置を常に把握しておかなくては克服できない。
このゲームは天体もいいかげんであるし、樹木も岩の形もさらには地形マップでさえもコピーペーストしただけの何の参考にもならないオブジェクトだ。
ナビシステムに目標物にむかってナビゲートするシステムは入っていない。対象を追跡するようなスキルは職業ごとに設定してあるのでそこまでの能力は不要なのだ。
そこまで考えておれはふと気づいた。
「なぁ、弓使いってことは狩人の職業がでてるんじゃないのか?スキルに追跡術があるはずだからそれで俺たちを捕捉しておけば迷うことなく森から出れるぞ」
「おねぇちゃん聞こえた?追跡術だって」
「聞こえたわよ!ひとを迷子みたいにいわないでよ、ちゃんと帰れるんだから!」
「なに怒ってるんだろうな」と俺たちは首をひねっていた。
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カルラは怒っていた、妹は小姑みたいにうるさいし、いきなり現れた男は保護者面してうざったいし、妹の甲虫好きは理解できないし、あーでも男のナビは可愛かったし・・・・
そう、崖よ!あんなところから飛び降りるなんて聞いてなかったし、だから怒ってるのよ!
・・・違うわね、コレラとあの男が仲良く話しながら歩いているのがなんか嫌だったの
昔からそうだった、妹ばっかり告白されて、でもそれを断ったとかそういう話を聞かされたり、それが私が好きになった人だったと知ったときはまた、荒れてしまった。
どうやら私に気を使って断ったのかもしれないと思うとまた苦しくなった。
今回はそんなんじゃないと思ってるし、出会ったばかりだし、でもそういうのを思い出させる光景だった。
ふとそんなことを考えながら歩いてたら、二人とはぐれてしまってアゲハからコールが聞こえるまでオロオロしていた。
コレラの指示はもらったけど生まれ持った方向音痴っぷりでどうしていいかわからなかったところで追跡術のスキルを使うといいというアドバイスをもらっていまは二人の足跡を辿りながら森の外へ向かっている。
自分がいつも空回りして、周りに迷惑かけまくって、それでもいつかきっといいことがあると思ってる。
ふと、前を見ると光が差し込み風が吹いてきた。どうやら暗い森もここまでのようだ。
「おねーちゃーん、遅いよー」
いつものようにしっかり者の妹が私を待っててくれる。
「よーやくご到着か、大冒険でもしてたのか?」
いっつも一言多いオヤジが憎まれ口を叩いてくる。
「うっさいわね、迷子じゃないし、色々拾いながら来たんだから!」
だめだ、素直になれない自分が勝ってに口をつかってしゃしゃり出てくる。
でもこの男は全然堪えた様子もなく笑顔になり、頭をなでてくる。
「そうか、そりゃあ偉いな、狩人はそういうプレイが基本だ、よくできました」
私は頭を払いのけ、収納袋から黄金色の果実を取り出し、男に押し付ける。
迷っていた最中に偶然大きな木の下に出た際、一個だけ生っていたのをちぎっていたのだ。
「べ、別に感謝してるわけじゃないんだからねっただ世話になったからただのお礼なんだからっ」
すると隣にいた妹が驚いた様子で失礼なことを言ってくる。
「お、おねぇちゃんが贈り物!、しかも男の人に!ありえない・・・」
「私だってこれくらいするわよ!」
男はひとしきり眺めた後、果実を収納袋にしまうと、代わりに小さな小物を取り出し、目の前に差し出した。
「お礼はもらっておくけどちょっともらいすぎだな、コレやるよ、妹さんとわけな」
男が差し出したモノは二点、ひとつは植物の実が連なった髪飾りと木彫りの十字架だった。
「私たち同じものじゃないと喧嘩になるんだけど・・・」
「おねーちゃんわたしこっちがいい!」
「駄目、あたしがどっちも預かっておくから、あんたは私の許可を得て使うの!」
「そんなこといって私が彼からもらった香水でもバッグでもなんでも使っちゃうじゃない!」
「なに言ってるのよ!あんたが彼と仲良くやれてるのは私のおかげでしょうが!」
「それとこれとは話が別でしょ!」
それを見ていた男はあきれたように、仲がいい姉妹だなぁと呟いていた。
それを聞き逃さなかった私たちはつい声を揃えてしまった。
「「どこがよ!」」
お読みいただきありがとうございますぅ