仙境の地
まだまだ続くよ説明回
山道を登っていくとしだいに木々が姿を消し、岩場が増えてきた。頂上付近を眺めるとうっすらと雪がかかり、雲もかかっている。
「これは雨になりそうだなぁ」
『本日の天候は曇り後雨、ところによって雷雨になるかもしれないですぅ』
俺は周囲を見渡し、岩がひさしのようになっている場所に避難する。
「いったん休憩にしようか」
『了解ですぅ』
アイは周囲を飛び回り、俺は野営の準備をする。
山からの眺めはいいが、標高が高くないので達成感はそれほどない。頂上に登れるほどの装備があるわけでもないし、ここまでかなと思う。
「山で取得できる職業はなにがある?」
『山が関連するジョブは狩人、レンジャー、山伏、仙人、忍者、暗殺者などですぅ』
「ふむ、いまの文明度ならこの程度か、近代になれば採掘師や園芸師という生産職も可能なはずだがまだ無理なのかな」
『生産職もしくは採集職といわれる分野は販売しなければ取得できませんのですぅ』
「なるほど、作っただけ、採取しただけではジョブとしてみとめられないということか」
俺は山登りのついでに拾ってきた薪を並べて火を起こす。ここらへんの手順はモニターをやっていた頃にさんざんやった。
「しかし、動物の類が全くいなかったな、イベントフラグも立ってないんだろ?」
『初期エリアではイベントフラグ以外にはモンスターが出現しないようになっているのですぅ』
「えー何でそんな仕様になったんだ?」
『端的に言えば情報量の過多を是正するためというのが理由ですぅ』
「・・・スタートダッシュ対策か」
ネトゲで一番嫌われる行為というのはいわゆる事前情報を入手して効率の良い稼ぎをしてトップに立つと言うものだろう。
俺のように企業に雇われたモニターだけでなくいわゆるβテスターといわれる有志も発売前にプレイしている。
彼らも守秘義務はあるが、そもそも給料を貰っているわけでもないしプレイが始まってしまえば公言してもはばかりのない立場だ。
俺はテスターと違い運営側なのでそんなことをすれば職務規定違反に損害賠償請求が飛んでくる。
ただ俺のような下っ端にそんなに重要なことは教えてもらえないのだが、そんなことはどうでもいい。
「俺のやっている行為って言うのはスタートダッシュしているように見えるのか?」
『そんなことはないのですぅ、どのようなプレイをされても公平、中立、自由なのですぅ、プレイヤーがどのような行為を行ってもその責任はシステム側がもつのですぅ、仕様と思っていただければいいのですぅ』
「なるほど情報量の違いがあっても当然、その対策は運営側がすべて行い、個人に責任をとらせることはないということか・・・」
これは非常にありがたいことだ、多人数が一度に集まると様々な問題が頻発しバグや裏技といわれるものも出てくることがある。
それを運営がかぶってくれるということは巻き戻しやペナルティというものが存在しないと言うことだ。
ゲームの話に戻ろう。今現在の俺の職業は旅人になっているが、現状でも成れる職業はある。吟遊詩人や盗賊、冒険者など自分が名乗ればそれで済む職業だ。
俺は今後の方針を考えることにした。
「アイ、 実績やギルドへの加入が必須な職業はクエストを受けなければならない。ということはそのほとんどは街区にあるため、プレイヤーはまずそちらへ向かうことになるんだよな?」
『おっしゃる通りですぅ』
「だが、この道を進んでも街は見当たらない、あるとしても山小屋くらいだろう、現状ではその選択肢はとれない」
俺の現在地である森林や山岳地帯で成れる職業となると文明度によっては、精霊使い、魔獣使いといった職業もなどがある。どれもアウトドアな能力に特化しているが、名声値をあげるためというより、基本能力を高めてソロ活動に特化させることができるというものだ。
プレイヤーの基本能力はだれもが一緒だが、なった職業によってスキルや能力値が変化するのは当然だ、ただし、能力値が絶対ではない。
肝心なのは使いどころといえるだろう。
ルートはひとつではないし、他人からの妨害もあることを考えると、同盟プレイをやらない限りはソロ能力を高め隠密に情報を収集し、難易度に見合ったルートを探索するのが俺のスタイルだ。
もちろん対人戦の能力はあったほうがいい、最低限の武力がなければ対応できない場面もあるからだ。
「仙人、もしくは忍者になるためにはどうしたらいい?」
『現在地からイベントフラグを検索します・・・この山には仙境の地がありますぅ』
「ほー、運がいいな事前に街でイベントフラグを立ててなくてもよかったのか」
『街でのイベントフラグを建てなくても対象キャラに話しかければ受注は可能ですぅ、ただし、ヒントがないのでコンプリートは難しいかと思いますぅ』
なるほど、これがスタートダッシュを阻止する仕組みか、たしかにどこに何があるというのはわかっていてもランダムに条件を変更してしまえばヒントを求めて街に戻らなくてはならない。
また、当て推量で正解する可能性も残しておけば元テスターも文句は言わないだろう、うまくできた仕組みだ。
「雨が上がり次第、仙境の地へいくとするか」
『了解ですぅ』
仙境の地か・・・モニター時代に何度か仙人プレイをやっていたが基本的にはお使いクエストの連続だ、仙人の好みの品を探して右往左往しながら制限時間内にコンプリートできれば合格、晴れて仙人の仲間入りとなる。
今はまだ自分を高め、力を蓄えるときだ、森の先に見える街を見下ろしながらそうつぶやいた。
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