明日に続く道
説明回です
俺は川を上流にさかのぼり、森の入り口に来ていた。小高い丘になっており、広さはなかなかのものだ。
このまま探索をしてもいいが、今の装備では不安もある。たとえ獲物がいたとして、遠距離で攻撃するような武器もないし、罠を仕掛けるにしても道具がない。
動物を捕獲する職業もあるはずだが、名声的にはどんなものだろうか・・・
「アイ、この森で猟師になるというのはどうだろうか?」
『猟師のルートを選ぶと最終的に森の王という称号が得られます、ただ、現在の文明度では効率がわるいかもしれません』
確かに文明度と職業というのは密接な関係がある。文明レベルがもう少し低ければ達成できたかもしれないが、さすがに剣と魔法が発達している時代に狩人で王になるには厳しいものがある。
現代で熊が狩れたら総理大臣になれるわけではないのと同じだ。
「この森でなれる職業はどんなものがある?」
『森の中にあるのは動物や樹木だけではないですぅ。運が良ければ古代王国の遺跡かダンジョンを発見できる場合もあるのですぅその場合は盗掘王、冒険王の称号でクリア可能ですぅ』
これらはギャンブルの要素は強いが、名声値を簡単に上げられるので短期決戦の場合は有効だな。
「盗掘王と冒険王の違いは?」
『簡潔にいえばプラス評価とマイナス評価の違いだけですぅ、ダンジョン発見を国に報告し、その探索成果を国に貢献すればプラスになりますぅ、逆に秘匿して自分のために売り払えばマイナスになりますぅ』
ここらへんはゲーム的なシステムだな、現実ならなにをしたところで認知されなければ犯罪として成立しないが、監視されてる以上その点はいたしかたない。
「その名声値のプラスとかマイナスっていうのがどういう風に影響するんだ?」
『公的な施設においてはプラス評価でなければ利用できません、裏社会のつながりはマイナス評価でなければ利用できませんですぅ』
平たくいえばお尋ね者が街で昼間は歩けないということだろう。
さて、とりあえず獲物は追わずに軽い探索のみ行うことにする。
評価も気になるところだが、あまり気にしすぎても何もできなくなってしまう。常識的な範囲で行動すれば問題はないはずだ。細かく言えばギルドを通さず獲物を狩ればいわゆる違法行為になるし、薬草類も個人で使う分には構わないだろうが、販売用に乱獲すれば取り締まりの対象になる。
大地は誰のモノでもないはずだが、人の枠組みの中で生きるのであれば限度があると言うことだ。
ま、ゲームの中なのでかなり緩いんだがな・・・
「そうそう、確認だがいわゆる官憲のプレイヤーに対する強制力はどんなかんじだ?」
俺がモニターでやっていたときはノンプレイヤーキャラクター(NPC)はプレイヤーに対する直接的な強制力がまったくなかった。
それもそのはず、かれらは陪審員であり、有権者なのだ。
運営側の人間らしくNPCの説明をすると彼らは プレイヤーの行動に対して評価をする存在である。もちろんイベントフラグとしての役割もあるがプレイヤーの行動を制限する能力はなかった。
『捕縛するという行為は可能ですぅ、しかしながらNPCでは太刀打ちはできないですぅ、ただし、官憲を職業としているプレイヤーとはPVPをして勝利したほうの条件を飲むというのがルールですぅ』
どのような方法であれ、名声値は上がるので結局は難易度にあわせたプレイングが攻略の早道ということになる。
さて、森の探索を始めた俺だが、いまのところ小動物にもであってないし、猪や鹿といったものにも出会えていない。
夜行性の動物もいるのだろうが、森で夜を過ごすと襲われかねないので遠慮したいところである。
もし、ねぐらにするなら洞穴か、木の上、もし山小屋があればそこで休みたい。完全なセーフエリアというものは森には存在しないため、焚き火の周りでキャンプなんぞしていればいい標的になる。
基本的にNPCが森でキャンプをするはずはないのでプレイヤーだとすぐにばれるからだ。
「そうだ、プレイヤーもしくはモンスターにやられた場合のペナルティについて聞いてなかったな」
ここらへんは俺としてもきになるところだ、モニターでやっていたときは正式版での仕様とは状況が異なるかもしれない。
『一度体験してもらってからのほうがよくわかると思いますが、まず名声値の変動が起こります。プレイヤーに倒された場合、倒したプレイヤーの善悪の属性によってプラス、マイナスのどちらかが上昇しますぅ』
なるほど、ここらへんは変わってないな、善悪の属性というのは公権力側か犯罪者側かという違いのことだろう、モニターとしてプレイしていたときと同じだ。
『モンスターにやられた場合はそのモンスターがNMとしての格が上昇し得られる名声値が上昇しますぅ』
NMいわゆる希少種ということだろう、これは今までになかった仕様だ。
「つまり、モンスターもプレイヤーを喰らって成長するということか」
『最後にアバターですが消滅ですぅ』
「・・・・・・え?いや教会で復活とかするんじゃないの?」
『復活とかありませんですぅそこでゲームオーバーですぅ』
「えーっとじゃあリトライする場合はどうなるの?」
『この世界においては死亡扱いになるので新しい世界で最初からやり直しになりますぅ』
なるほど、かなりシビアなゲームレベルだな。最終的にはお互い殴り合って最後の一人を決めるゲームということか。
こうなってくると、プレイヤーの情報というのが重要だな、一方的に情報を知られるのは不利である。
直接的ではなくとも相手を妨害する方法などはたくさんある、相手の勝利条件をつぶし、こちらの有利に事を進めていくのがこのゲームの面白いところなんだろう。
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道なき道を進むとふと森が途切れ山道を見つけることができた。川をさかのぼってきたから気づかなかったが、どうやら道のある森と山だったようだ。
俺は暇つぶしに肩に乗っているアイを突ついてその反応を楽しみながら山道を登ることにした。
その道中周囲に気を配りながらもある思いが胸に去来する。
「シャイン・キャッスル・オンライン」は、ある点において現代社会と違うのが職業に就くということだろう。
そもそも身元審査もなければ住所がいる、なんてこともない。そもそも学歴すら必要ない。健康状態がなんだというのだ。
この世界ではすべてが平等であり必要なのは意思だけだ。
俺はこの道を歩いている。誰に何を言われたわけでもなく俺が決めた俺の道だ。
「なぁ、アイ・・・なんのイベントもないし、ただ道を歩いているだけなんだけどさ・・・自分で決めた道を歩くって面白いな」
『それはよかったですぅ』
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