プロローグ
ある男が言った。
「目の前にある事は起こっているように見えるが、何も起きてはおらず、何も起こっていないように見えるが実は起こっている」と
俺は高校生のときに初めてVR技術なるものを知った。当時はプレイヤーはコクピットさながらに作りこまれた大型筐体に入りヘッドギアと手袋を使って仮想空間で現実のように振舞うというものだ。
いわゆるモーションセンサーを使って体の動きと仮想世界の体の動きがリンクさせているわけ、なかなか好評であったようだがそこまで普及しなかった。
大学生のときにVRでオープンワールドのゲームが開発されたとの噂をチラホラ聞いた。海外ではなにやら領土拡張を主とするゲームが開発されているらしい。それに付随して様々なタイトルのゲームも出てきているとのこと。
だが、残念なことにわが国にはサーバーが設置されておらず、実装されるのはまだ先であり、ただの大学生の俺には高嶺の花であった。
社会人なりたてのときに同僚に誘われて対戦型VRをやってみた。俺の住んでる街にはまだ普及していなかったが、繁華街のゲームセンターでは導入済みであった。
三国志をテーマにしたゲームで好きな武将と兵種になって仲間と共同で部隊を指揮しながら戦うという対戦型で、思った以上にはまってしまった。
まだまだVRMMO黎明期のこともあり、視覚と聴覚のみでコントローラーを握って動かし、ボイスチャットで会話をしたが、戦場の臨場感や戦略の幅はいままでのゲームのそれではなかった。
さらに10年ほど経ちVR技術は急速な進化を遂げ、ついにサーバーと脳と直接リンクさせ体は横になっている状態でありながら感覚を共有させるという技術が確立された。
さて、そんな俺だがつい2ヶ月ほど前に仕事をやめた。
別に深い理由はない。ムカつく上司、先輩、同僚、客、そんなもんに関わりあって生きていくのがアホらしくなっただけだ。
そして、別の仕事に就く事になった。
それもフルダイブ式VRMMOのモニターだ。なんともゲーマーの俺にぴったりの仕事と思う。
フルダイブできるVRMMOなんて、おとぎ話かと思っていたが実際にやってみると不思議なもので、そこまで違和感のないものだった。
俺は開発会社直属のモニターになっているので、カプセル型の誘導装置に入っているが、一般向けにはヘッドギアと呼ばれるものを頭にかぶることになるらしい。
こんな大掛かりな装置なしで自宅で楽しめるようになれば、それはいいことだろう。
2ヶ月の間、おれはほぼ毎日、VRMMOの中に入りっぱなしだった。
なにせ、企業秘密に守秘義務だらけ、実際に販売されるまでモニターであることすら秘密だ。
それに俺の仕事はいわゆる長時間のダイブによる体の異常を調べるのが仕事だ、つまりは被検体となって行う実験台だな。
そして今日ようやく新作VRMMO、『シャイン・キャッスル・オンライン』の発売を迎えることとなった。