序章
闇夜に包まれる広大な荒野を無限軌道の軋みを響かせ黒い影がうごめいていた。
唸る発動機、そびえ立つ太い砲身を備えた巨体の後部からは消炎器を越してなお、抑えきれていないオレンジ色のまばゆい炎が立ち上っている。
その車上、戦車長用のハッチ、キューポラと呼ばれる部分から青白い眼光をのぞかせる若い将校がいた。
「フリーク、後続はついてきているか?」
騒々しい発動機のうねりに負けず、自然と大声になってしまいながらこの小隊を治めるベルガー大尉は副官のフリーク中尉へ無線機越しに問うた。
「ついてきてます、隊長!」
「よろしい、攻撃地点までわずかだ遅れるなと厳命させよ」
「ヤー」
わずかばかりの交信を終えると、ベルガーは正面を見据えた。
狭いキューポラの防弾ガラス越しの景色ではあるが彼にはそれで十分だった。
この地域の地形はすべて彼の頭に入っているといっても過言ではない。
作戦を立案するにあたって、地形は叩き込んである。
あとはどう利用するかだ。
「ハイマン!!右20度!!」
ベルガーが指示すると操縦士、ハイマン伍長はあざやかなハンドルさばきで巨体を旋回させた。
まもなく攻撃地点だ。
スリット越しの景色からは敵陣の灯火が見て取れる。
このままいけばよいのだが・・・
と、突如として前方の地面が盛り上がった。
遅れて、轟音とともに土砂の洗礼が降り注ぐ。
次は左側だ、今度は至近弾らしく50トンもの巨体が跳ね上がった。
ベルガーは内心で舌打ちした。
敵さんはまあまあ腕が良いらしい。
だがしかし。不敵な笑みを浮かべると、無線のTPPスイッチを押した。
現時点での損害なし、攻撃開始地点への到着・・・いま!!定刻通り!!
「貴様ら!よく耐えた!奴らにこの地まで来たこと後悔させてやれ!!」
「戦闘開始!!」
ベルガーの叫びとともに隷下の戦車が火を噴いた。
敵弾はじく無敵の装甲、大地を踏みしめ、いかなる悪路も走破する無限軌道、そして、難敵打ち砕くアハト・アハトの巨砲を備えた重戦車ティーゲル
そして、その黒鉄に騎乗するベルガー率いる第088独立戦車団の初陣が切って落とされた。