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雪たちの踊る夜

作者: 真倉サク

第一話『帰ってきた不思議探検隊』



「妖精を探しに行こう」


それは俺が暖房の効いた教室で追試を終えた時だった。


立ち上がると同時に大きく伸びをして

急に言葉が発せられた。


俺の伸びは止まってしまう。


「・・・・は?」


聞きなおす。口をあんぐりと開けて。


「だから、妖精を探しに行こうって」

「わかってるよ。そうじゃなくて」

「その口ぶり・・・疑ってるな?」

「はぁー・・・」


大きくため息をつく。


高校二年の俺と雪定は苦手な英語の追試を受けて

なんとか留年をまぬがれたところだった。


そんな中、雪定が言った言葉は俺をさらに疲れさせた。


「お前、頭大丈夫か?勉強のし過ぎでおかしくなったんじゃ・・・」


雪定のオデコを抑える。

その手を振り払って雪定は続ける。


「どこもおかしくなってないよ。

 うちの近所に大きな森があるでしょ?そこで妖精を見たって人が出てきたんだ」

「その人もきっとおかしくなったんだ。わかったら帰るぞ」

「ちょっと茉莉!!」


腕を引っ張る。お前は子供か・・・。


「俺は帰る」

「なんでだよー」

「勉強のしすぎで頭が痛い。よって帰って寝る!」

「・・・・・」


急に腕にかかっていた抵抗がなくなり俺はそのまま床に放り出される。


「いってぇな!」


どうやら腰を打ったみたいだ。


床に座り込んだ雪定はうつむいている。

またわけのわからんことを言うんだろう。


出来ることなら早く帰りたい。

俺はゆっくりと立ち上がり、うつむいたままの雪定を横目にバックをかるいなおす。


「じゃあな」

「茉莉は・・・変わったよ」

「・・・・」


暖房の効いた教室とは打って変わって

廊下の冷気は通り抜けるものがあった。


「昔はさ、僕がなにか言えばいつもふたりで確かめに行った。

 それが嘘でも、間違いでも・・・楽しかった」

「・・・・もう十年も前だ」







小学校の頃だ。

俺と雪定は『不思議探検隊』なるものを結成していた。


その頃は雪定が何か摩訶不思議な情報を拾ってきて

その真偽を確かめに行く・・・。


ただそれだけのしょうもないことだった。


噂なんてどれもこれも嘘やガセ。

ホントのことなんてこれっぽっちもなかった。


時の流れとともに俺の興味も薄れ

俺は雪定の『不思議な噂』を聞き流すようになった。






「あの頃はホントに楽しかったんだよ?僕と、茉莉と・・・詩子でさ」

「・・・・」


詩子・・・。


かつての『不思議探検隊』のメンバーだ。

元気いっぱいでいつも笑ってるような子だった。


「そうだよ!!詩子も誘ってさ、またみんなで行こうよ!!不思議を確かめに!」

「いい加減にしろよ・・・。お前、今何歳だ?

 高校二年にもなってそんなくだらねぇこと・・・。

 第一、俺は良くても詩子がなんていうか」

「私が何だって?」

「詩子?!」


俺の後ろにいたのは確かに詩子だった。


「な、なんでお前・・・まさか」

「まさか・・・って、私が追試を受けてるとでも?」


詩子は今や学校一の学歴を持つ頭の持ち主。

全校生徒の憧れの的とも言われてる噂がある。


正直、妖精とかよりそっちの噂の方が気になる。


「ねぇ詩子!あのさ・・・」


俺は雪定の口を押さえ込んだ。


詩子が不思議そうな顔でこちらを見ている。


「何するんだよ」

「あの学業優秀の詩子がそんなくだらない事に付き合うとでも思ってんのか?

 俺は恥をかくのはまっぴらゴメンだ」

「詩子はそんな子じゃないよ」

「あの頃とは違うんだ!!」


俺は声を荒げる。


その声に反応したのか詩子が話しかけてくる。


「ね、ねぇ。どうしたの?あの頃って・・・」

「な、なんでもねーよ。それよりお前は何してたんだ?」

「部活よ。部活」

「え?」


詩子の部活は弓道部。

しかし確か弓道部って終わるの8時とかだった気が・・・。


もしかして・・・。


「げ?!もう8時?!」

「そうよ。だから何してんのかなーって行ってみれば私の名前が聞こえたの」


話の内容は聞こえてなかったみたいだ。


「詩子!妖精を探しに行こう!」


隙を見て雪定が叫ぶ。


「んなっ・・・!」

「妖精?」

「そう!妖精!」

「違う!なんでもない!!」

「何言ってんの。うちの近所の森覚えてる?あそこでね・・・」

「もうそれ以上話すなぁ!!」

「なんで止めるんだよ!行こうよ!妖精探しに!」

「行くわけ無いだろ!あの詩子がだぞ?!」

「詩子だからだよ!詩子だったら絶対行きたがるもん!」

「行くわけ・・・」

「クスッ・・・」

「行くよ!」

「行かねー!」

「クスクス・・・」

「行くってば!!」

「行かねーよ!!!」

「あははは!ほんっとあんたら・・・仲いいわね・・・あはは」


詩子は笑い疲れて息切れしている。


俺と雪定は目を白黒させている。


「はぁー・・・おっかし。で、ユッキー。妖精がなんだって?」

「詩子!!」

「お、おい・・・・」

「話を聞くぐらいいいんじゃない?それに・・・」


詩子の顔が近づく。

顔が火照るのを抑えようと頑張る。だが無意味かもしれない。


耳元で詩子が囁く。


「またあの頃が帰ってくるわけだし」

「お前なぁ・・・」


悪ぶれた笑顔を振りまいてその日は一度家に帰ることにした。

次の日曜日。雪定の家に3人が集合する。




『不思議探検隊』が帰ってくる。















第二話『お茶と、やなぴよと、』


枯葉を撒き散らす北風をマフラーで防ぎ

手袋で握り締めた自転車のハンドルをあまり動かすことなく雪定の家に到着する。


懐かしさなんて覚えないほどごく最近見たピンポンを何気なく押す。

詩子の自転車はなかった。


間もなくして雪定が出迎える。


「わざわざピンポン押さなくてもいいって」

「俺のポリシーに反するんだ」

「ふーん。ま、いいや。あがってあがって」


よっぽど嬉しいようだ。よく見ると小さくスキップしている。

こういうところもそうだが・・・こいつは昔から何一つ変わらねぇな・・・。



ふと、あの頃の雪定が目の前で小さくスキップしてみせた。



瞬きすると雪定は俺と同じくらいの背になっていた。


「なんだ幻覚か・・・疲れてんのかな」

「どした?」

「なんでもない」


俺はコタツに入りテレビを見ている。

雪定は・・・なんかしている。



ピンポーン。

ガチャ。



「おっじゃましまーす」

「勝手に入るならピンポン押すなよ」

「いやぁー久しぶりだったから、つい」


(。・ ω<)ゞてへぺろ♡ ってやつなのか?そうなのか?


「まぁ寒いからとりあえず入りなよ」

「お言葉に甘えて」

「詩子って暖かいお茶と冷たいお茶どっちがいい?」

「暖かい・・・ほうがいいけど」

「・・・詩子は猫舌だろ?」

「あーそういえばそうだったね。ごめんごめん」


雪定は熱いお茶が好きだ。

風呂もどういうわけか熱い。そりゃあもうバカみたいに。


そんなお茶を唯一飲めないのが詩子だった。

詩子は生粋の猫舌だったからな。


「はい。ぬるめのお茶」

「どうもありがと」

「はい。抹茶」

「なんで俺だけ抹茶なんだよ」

「レッドブルとかの方が良かった?」

「なんでお茶から外れるんだよ」

「紅茶?」

「緑茶」

「粗茶?」

「へりくだってないではよ持ってこんかい」

「へいへい!」


江戸っ子みたいなよくわからないポーズでお茶を取りに行く。

抹茶でも飲んどくか・・・


「あんたら相変わらず面白いわね」

「そうか?いつもこんなんだけどなぁ」

「ほんと。あの頃と全然変わってない。こうやってお茶一つで笑い合ってさ」


あの頃の情景でも思い浮かべてるんだろうか

詩子は天井の方を眺めている。


しばらくして、雪定のあつーいお茶が出される。


もう慣れた。




「それで・・・ですね」


雪定がいつもの位置に座り話し始める。


思わず俺も体が強ばる。


「妖精の噂ね」

「そう。この噂は実はあの数学の『やなぴよ』が言っていたことなんだ」

「やなぴよ!懐かしー」


俺たちの通っていた中学校の数学の先生、柳井小鳥。

通称、やなぴよ。


「やなぴよに会ったのか?」

「まぁね。バイト先で偶然」

「バイトとかやってたの?」

「本屋だよ。本屋。ほら、よく立ち読みしに行った・・・」

「私は行ってないわよ。ってことははなまる屋?」

「そ。そこで本を整理してたらやなぴよに会ってさ。

 そこでちょっと話してたんだけど・・・」

「噂の話になったわけだな」

「うん」




や な い こ と り の う わ さ



あ、そうそう。この前ね私の息子が森で妖精さんを見たっていうの。

えっとねー覚えてるかな。吉田さんの家の近くにあった大きな森。

あそこに遊びに行ってて見たっていうの。


もうそんなこと言う歳でもないから私驚いちゃって。


もしかしたら・・・なんてね。ちょっとだけ夢を抱いてみちゃったりね。





「やなぴよの息子さんって確か今中学二年・・・」

「中二病の可能性は?」

「ちょっとは考えたけど・・・なんといってもやなぴよの子だからね」

「あー・・・」


やなぴよといえば理論派で有名だ。


うちの中学には感情論派の先生と理論派の先生のカテゴリがあった。


ただの怒り方の話だが、

感情論派は感情むき出しで怒るためスルーできる。


しかし理論派は違う。


正論に基づいた説教をされるため言い逃れはできない。

やなぴよはその中でもトップに君臨する理論派だった。


その息子ときたならば理論派じゃないほうがおかしいだろう。


よって中二病とかいう訳のわからん病気は発症しないと推測したのだ。


「ってことは息子さんの言ってることは正しいとでも?」

「そう思って茉莉に相談したんだよ」

「ふむ・・・・」


今の噂の量じゃ少なすぎる。


これはもう・・・・。



気づいたら二人の目が俺に向けられていた。


この目は・・・・期待か。



「しゃーねぇ。まずは噂集めだ」

「茉莉!!」

「とっとと支度しろ。二十秒で出発だ!!」

「おー!!」


雪定はドタバタと準備をしに行った。


「どう?あの頃に戻った気分は」

「・・・・悪くない」

「はは。そりゃあ良かったわね」

「ああ」


遠くで雪定が催促をしている。

「はいはーい」と元気な声で返事をして詩子は玄関へ向かった。



「あの頃・・・・か」


くすりと笑う俺を運良く誰も見ていなかったようだ。


「茉莉ー!はーやーくー!」

「はいはーい」



頬を打つ北風は俺の眠気を吹き飛ばしていったようだ。


















第三話『ニーナと噂』


噂集め。


俺らの情報源は全て「噂」だ。

だからこそ信憑性はなく、嘘やガセが多かったんだ。


なんでそんなあてにならない情報集めをまたやろうとしているのか

俺自身、未だに分からずにいる。



「さぁーって・・・まずはどうする?」

「どうするって・・・噂を集めるんだろ」

「集めるってどうやって」

「どうやってって昔みたいに・・・」

「人づて・・・だっけ?」

「この歳でそれは避けたいなぁー・・・」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」

「だってよぉー」

「はい!じゃあまずは森近辺の家を回ってみるわよ!!」

「よっしゃー!断然テンション上がってきたー!!」

「はぁー・・・あらほれさっさー」


テンションが高いのは詩子と雪定だけだ。

俺は未だにこのテンションについてついていけずにいた。




森近辺の家を回ってみたが噂について知っているのは数組の家庭だけだった。

どれも似たりよったりの信憑性の薄いものばかりだった。



そんな中、中嶋塔子の家に行ったとき俺たちは重大なことを思い出さされたのだった。





な か し ま と う こ の う わ さ


うっわ、久しぶりじゃん。しかも3人揃って。

こうやって3人を見るとあの頃を思い出すよ。

噂を教えてくれーなんて言い出してね。


え?また噂を教えてくれって?


あー残念だけど最近全然そういう話を聞かなくなってねー・・・。


あ、そうだ。ニーナには会った?

噂と言ったらやっぱりニーナだと思うんだよね。


にしてもホント懐かしいなぁこの感じ!

ニーナにあったらよろしく言っといてね。








「そうだよ!!ニーナ!ニーナがいるじゃん!」

「なんでこんな大事なこと忘れてたのかしら・・・」

「そんな大事かぁ?」


ニーナ。

本名芳沢ニーナ。


色白金髪碧眼の外国人ハーフであり、我らが不思議探検隊の頼もしき噂提供人だ。


どういうわけかファンタジックな噂に詳しかった。


そんなニーナの家に俺らは足を運ぶことにした。

正式には自転車なわけだが。


山奥の小さな小屋。

そこがニーナの住処だ。


今もほんとに住んでるんだろうか・・・?



「ノックしてもしもーし」


コンコンコン。

リズムよくノックしてみる。


「あれ・・・珍しい。とりあえず入りなよ」


相変わらずラフな格好をしている。

真っ白いレースのどう見てもパジャマの服に毛布をかぶって出てきた。

早くドアを閉めてやらないと可愛そうだ。


もうあれから10年も経ったわけだが

ニーナってこんなに可愛かったっけ・・・?


白いレースのパジャマ的な服がとても似合っている。


3人は暖炉の前に揃って座り込む。

木で出来た小屋に大きな暖炉。小洒落た椅子や机。

昔からここが一番の不思議だと思っていた。


というか、ニーナが何よりも不思議な存在だった。


「さて・・・。君たちが来たのは・・・妖精だね」

「な、なんでそれを?!」

「今はそんな話しか入ってないから・・・」

「なら、話は早い。持ってる噂を教えてくれ」

「ん」

「ん?」


ニーナは右手を俺に向けて突き出した。


これって・・・。


「この世は・・・等価交換」

「あなたの口癖。そういう意味だったのね」


ため息混じりに笑う。


「んー・・・そうだ」


雪定がなにか思いついたかのようにニーナに耳打ちする。


「ごにょごにょごにょ・・・・」


長い。


「ごにょごにょ・・・」

「・・・・・・」


数十秒後。


ニーナが親指を立てる。若干笑ってるように見えるのはなぜだ。

そんなにいい報酬だったんだろうか?


雪定が俺に向かってウインクする。


嫌な予感がしてしょうがない。あとで問いただそう。





ニ ー ナ の う わ さ


妖精の話。実は私も見た。

多分あれは冬告精。


冬を告げる妖精のこと。

春告、夏告、秋告・・・そして冬告。






「冬告・・・」

「春告鳥ってのなら聞いたことあるわね」

「それと同じものと思うといいわ」


ニーナは淡々と話すがあくまでもこの話も「噂」であり

本当にいるかどうかはまだ確かではない。


そういえば・・・


「ニーナ。お前さっき『実は私も見た』って言ったよな?

 実際にはどんな容姿なんだ?」

「なんか堅苦しくて気持ち悪い・・・」

「あの頃とは違うんだ」

「・・・・そ」


暖炉の炎がぼうと燃える。


「残念だけど・・・妖精の姿については覚えてない。

 どういうわけかモザイクがかかったかのように姿が思い出せない」

「モザイク・・・」


ふと妖精の姿を想像しようとした。


なるほど。

ぼんやりとしてとても想像できない。


よくファンタジー物の小説の挿絵とかで見るが

そういう感じなのだろうか?


森に行けば会えるものなんだろうか?


わかったのは「冬告精」。それだけだ。




「ありがとう。報酬はなんなのかしらねぇが約束は守る」

「珍しい。積極的だね茉莉クスクス」

「何笑ってんだ?」

「・・・・」

「?」


雪定は笑いをこらえてるように見える。

ニーナは何故かうつむいている。

詩子は全く何のことかわかってないようだ。


嫌な予感しかしない・・・。


















第四話『バベルの塔に吹く風』


ニーナの小屋を出る。


「おい、雪定。お前ニーナに何言ったんだ?」

「そんなことより森に行ってみようよ」

「こら、話をそらすな」

「そうね。ここまで噂集めて森に行ってみない手はないわよね」

「それじゃあ妖精のいる森へ・・・」


「レッツゴー!!」


「はぁー・・・」


それぞれの手袋が灰色の空にそびえ立つ。

これがバベルの塔にならなければいいけどな・・・。



雪定の家から徒歩15分程度のところにある大きな森。

森の手前まで行くと足場が悪くて自転車では進めそうにない。


「しょうがない。歩いていこう」

「そうね」


森の木々はすでに枯葉が落ちており、裸の木が風に揺れる。

落ちた枯葉は湿っていて踏みしめた感触は柔らかくちょっと気を抜いたら転びそうだ。


「足元気をつけろよ」

「ふふ・・・」


詩子が俺の注意に笑う。


「なんだよ」

「ん?あーごめんごめん。いや、昔この森に来た時のこと思い出しちゃって」

「昔・・・あーあん時か」

「なになに?それ僕知らないんだけど」


そりゃ知らないはずだ。

俺と詩子の二人でこの森に来た時のことだからな。


「茉莉が私の心配ばっかするんだけど結局そのあと派手に転んじゃってさ

 泣きながら家に帰ったなーって。あの時の茉莉可愛かったなー」

「・・・・昔のことだ」

「そんなことがあったんだ。じゃあ茉莉、今度は足元気をつけてね」

「へいへい・・・」


そんなこんなでもうだいぶ歩いているけど・・・。

どんだけ歩けども暗くなっていくばかりで森に変化はない。

そもそも妖精がいるのかどうかすら怪しいってのに。


北風が俺らのあいだを駆け抜ける。


「寒くなったな・・・」

「もう冬だね」

「この寒い風がまさに冬告って感じよね」

「そうだな」


ん・・・?

ちょっと待てよ。


この北風が吹けば人々は冬が来たと感じるのならば

この風をおこすのが『冬告精』そのものなんじゃないか?


この森に吹く風。


その風の吹く先に・・・




「風だ」

「え?」


雪定が俺の方を振り向く。


「そうだ。風だ。詩子が言ったように『風こそが冬告』なんだ」

「風が冬告・・・?」

「だから!この風を吹かしているのが『冬告精』なんだよ!!」

「!!」

「ってことは・・・」


そうだ。


「この風の吹く先に・・・」




「妖精がいる!!」




















第五話『あの頃のぬくもり』


「ってことは」

「この風の吹く先に・・・妖精がいる」

「かもしれない・・・ね」

「そうだ」


3人は風の方を向く。

真正面から強い冷風が吹き付ける。


この風の先に・・・・。


詩子の長い髪が乱れる。


「寒いな」

「うん」


ふと手にぬくもりが伝わる。

それは雪定も同じだったようだ。


俺と雪定の間にいた詩子が俺たちの手を繋いでいた。


「こうすればあったかいよ」


静かな空間に風が流れ、俺たちの口から溢れる白い煙が流されていく。


「こんなのさ・・・いつ以来かしら」

「10年ぶりだ」

「もうそんなに経つんだね」

「茉莉は今もあの頃とは違うって思う?」

「・・・・」


あの頃とは違う。


それは今こうしてる間ですら感じている。


こいつらはあの頃と同じ気持ちで俺と同じ時間を過ごしているんだろうか。



「ああ」

「そっか」

「だがな・・・」



今思えばなんであんなことを言ったのか俺も不思議でしょうがない。


















第六話『風の吹く先に!!』


「まさか茉莉があんなこと言うなんてね」

「・・・うっせぇ」


俺たちは風に向かって歩いていた。

耳がちぎれそうなほど寒くなってきた。


繋いだ手だけが暖かく、俺の心の支えもまたそれだけだった。


嘘でもいい。間違いでもいい。

ただ、今こうして3人でいる。そこに意味があるんだ。


「なんかさっきより風・・・強くない?」

「そうかなぁ?」

「寒いことには変わりねぇけどな」


ついには辺りは真っ暗になってしまった。


街灯のない森の奥。

暗がりに見えるのは一寸先の闇ばかり。


そんな時。

雪定が口を開いた。


「あ」


何かに気づいた声だった。


「どうした?」


俺が聞き返す。

雪定の方を見ると雪定は空を見ていた。


俺も同じように空を見上げてみた。

妖精かと思ったがどうやら違った。


「一体なんなんだって・・・」

「・・・・雪」

「え?」


詩子が繋いだ手を持ち上げる。

その手袋の上に小さく白い点が落ちてきた。


その白い点はやがてすっと消えていく。

消えたと思ったらまた次の点。

それが消えたらまた落ちてくる。


その繰り返しがどんどん早くなり

点は一つから二つ、三つと増えていく。


これはまさに・・・


「雪・・・だな」

「冬だね」

「冬が来た・・・ね」


3人は声が出なかった。


いや、出せなかった。


ただただその場に立ち尽くしていた。





「帰ろっか」


一番最初に口を開いたのは雪定だった。

詩子はくすりと笑って頷いた。



「ちょっと待て」


二人が歩き始めようとした時。俺はその行動を止めた。


「どうしたの?」

「しっ・・・」


人差し指を口に当てる。


「なにか聞こえる・・・」


いつの間にか風は止んでいた。

そして静かになった空間からなにか聞こえてくる。


笑い声のような、とても小さな音。


「まさか・・・」


目を見合わせる。


そしてゆっくりと声のする方へ歩き始める。


声はだんだん大きくなる。

しかしまだ小さいまま。


遠いわけではない。

ほんとに小さな声なんだろう。


木々の合間から見える光。

それはまるで蛍のようで、雪の様に儚げ。


「すごい・・・」


詩子が声をこぼした。


「冬告精・・・」

















最終話『今』


三日後。


俺は高校二年の冬。

積もった雪の上を珍しく歩いていた。


「まさか噂の報酬が俺とのデートだったとはな」

「・・・・」


隣にいるのは外出用の服を着たニーナだ。


町並みをまさかニーナと歩く日が来るなんてな・・・。


「そういえば・・・妖精には会えた?」

「ん?あぁ、まぁな」

「どうだった?」

「んー・・・・よく覚えてねぇ」

「ふふ・・・でしょうね」


そう。確かにすごかったことは覚えているんだ。

だが、明確に思い出せない。


でもまぁ・・・


「それでいいんだろうな。噂なんて」

「懐かしい・・・。その言葉聞くの」

「え?」

「あの頃、茉莉は噂がガセ情報だったってわかったときいつも言ってた」

「そうか?」

「そう。そんな茉莉が・・・私は」















だがな、俺は思うんだ。

変わっていってもいいんじゃないかって。


あの頃にはあの頃の良さがあって

今には今の良さがある。


俺たちが大人になってこうして会うことがあっても

きっと今とは違う風景が見えている。


でも、それでいいんだ。


こうして昔を思い出して笑っている。

それでいいんじゃないかって。






高校二年の冬。

もうすぐで俺たちは大人になる。




今回の作品のコンセプトは「懐かしいもの」です。


私が子供の頃は明らかになさそうな噂話とか

なんかしらのグループとか

ちょっとした不思議体験とか。


そんなことがちょいちょいあったんですね。


そんなことを思い出して

「高校生にもなってなにやってんだかww」

って思って頂ければ成功かなって思ってます(*´∀`*)

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