私の家の日本人形「お菊ちゃん」
昔、友人宅の日本人形がほんとに怖くて遊びに行くのも怖かったです。
日本人形って、不気味ですよね。でも、それに親しい人がとりついたらどうなるかなー?と思い書いてみました。
この作品のばあちゃんは、いろいろ最強です。
私の家には、昔から日本人形がある。
おかっぱの幼女、といえばたぶん「ああ!」って思い浮かぶ代表的な感じの人形。
よく夏の恐怖特集で「切っても切っても髪の毛が伸びるんです! もう怖くて怖くて」とか「夜、人形がうごくんです!」とかのベタなアレです。
まあ、ぶっちゃけそういう怖さならよかった。お祓いすればいいし、最悪手放せばいいと思うから。
うちの日本人形の「お菊ちゃん」はそうはいかない。お祓いしてもお坊さんが説教され、手放しても次の日には普通に戻ってきてる。
なぜなら…
(また寝そべりながら携帯をいじって!お行儀が悪いと何度言えば分かるんですか?!)
ベッドに寝そべる私の背中に衝撃が走る。
「うるっさいなぁ~私の勝手でしょ! …ていうか背中がマジ痛いんだけど、あ~もう! ムカつく。さっさと成仏したら?」
そう、うちの日本人形「お菊ちゃん」には・・・なぜか10年前に他界した祖母が、成仏せずに納戸で埃をかぶっていた日本人形にトリツイテいるから。そして我が家を相変わらず取り仕切ってる。主に被害は孫の私に来るので、家族(父・母・兄・姉)は見ない・知らない・関わらないを貫いてる。ヘタに逆らうとそれはそれは恐ろしいことになるからだ。
生前から孫である私に対して厳しい祖母だったけど…(私が出来ないコだから余計にね)
祖母の口癖は「華代が立派な殿方に嫁に行くまで死にません!」だった。それまで病気ひとつしたことのない祖母が突然ぽっくり亡くなり、家族も親戚一同もびっくりしたのは記憶に新しい。
当時私は10歳。あれから10年。私は20歳になり、大人の仲間入りをした。
もういいかげん勘弁してほしい…。
(二十歳になったからといって、大人の仲間入りをしたなんて思っているんでしょうが、私からすればまだまだ子供です!家事も料理もろくにできない、バイト先でも迷惑ばかりかけて!どこが大人ですか!?情けない!!)
むかっ、痛いところを突かれた。昨日、バイト先で大失敗をやらかし、クビになったのだ。てか内緒にしてたのになぜ知っている!だから携帯で新しいバイトを探していたのに…。
私は高校を出た後、就職できずしぶしぶフリーター生活。母は気にしなくていいのよーって言ってくれるけど、家に住まわせてもらってる以上そういうわけにはいかない。せめて食費だけでもいれようと鈍くさい私なりに頑張ってる。
(なぜ、知ってるかですって?そりゃ、見たからですよ…)
日本人形に表情はないはずなのに、にやりと笑った気がした。
ぞっとした。まさか、ばあちゃん…その人形の姿で外に…?
(孫のあなたがどれだけ社会で役に立ってるのか、昨日見に行きました!このサイズだから大変でしたが、あなたの荷物にまぎれてたのに気がつかないなんてねえ。荷物もあれだけごちゃごちゃしてたら人形が一体混ざっても、分からないものですねー)
おーまいーがー…私のボストンバッグにばあちゃん入ってたの?!まったく気付かなかった…。
「ばあちゃん…外に出るのはやめて…」
バイト先にばあちゃんが来てたなんて…あの失態を見てたんだ。
昨日、バイト先の社長に対して、何かにつまずいて運んでいた熱いお茶(社員五人分)を盛大に股間にぶっかけ、うぁぁっと悲鳴を上げる社長に、慌てて冷やさなきゃと冷蔵庫から氷水を作り股間にぶっかけるはずが頭からぶっかけ…、はっと我にかえった時には…全身びしょびしょの股間を押さえた社長。ごめんなさい。
当然、社長は鬼のような形相になっておりましたとさ。
それでなくても毎日毎日ドジを繰り返していて、社長の怒りゲージは振り切れてしまったらしい。
「~~、クビだ~~! 二度と顔をだすな、この疫病神め!」
私に殴りかかろうとするのを、騒ぎを聞き付けた社員さんが押さえてくれ、なんとか逃げ出した。
あぁ…
なんでこんなにうまくいかないんだろう?
父・母・兄・姉は容姿端麗眉目秀麗を地で行く。
私だけが地味で平凡以下のミソッカス。私、拾い子じゃなかろうか、ここまで似てないなんて呪われてるとしか思えない。
(だから、私が鍛えてるんじゃないの!あなたは昔の私にそっくりなのよ。私が出来たのだから、あなたもやればできます!!)
え、うそ!
なんでもできるスーパーばあちゃんが私と同じダメな子だったの?
「ばあちゃん、それほんとっ?」
ばあちゃんがトリツイテる人形を揺さぶる。
(揺さぶるのをやめなさい! まったく、落ち着きのない。仕方ないわね、一緒に納戸に来なさい。おばあちゃんの秘密を見せてあげます。)
うちの納戸はかなり古く大正以前からある。
最近は誰も使わないので、もっぱら人形にトリツイテるばあちゃんが管理している。納戸の中身を正確に把握してるのがばあちゃんしかいないからだ。
(この箱を開けてみなさい。写真があるはずです)
ばあちゃんがある一角を指差し、ぐるぐるに縛られた箱を私に取らせた。
(この箱を開けて、私が如何にダメな子だったか見なさい。本当に嫌になるほどそっくりだわ。)
ばあちゃんがため息をつく。人形だから表情は不明だが呆れてる雰囲気は伝わる。
紐をほどき、恐る恐る箱を開けたら…!モノクロの写真がたくさん入っていた。
えぇ?私にそっくり!
もしかして、これがばあちゃん…
写真のばあちゃんは…なんというかすごく残念な子供だった。
家族写真らしきものがあったが、ばあちゃん以外みな美形。
目にも当てられないひどい写真ばかりだった。まさに黒歴史といった感じ。
(当時は出来損ないの子供として、今よりはるかに酷い扱いや差別を受けました。そういう時代でしたからね、ですから死に物狂いで自分を磨き鍛えました。努力すれば自分は変えられます! あなたはこのままでいいと思っているのですか?)
うぐっ。
このままでいたいとは確かに思えない。
パラサイトシングルになるのは目に見えてる。
(あなたを昔から厳しく叱るのは、子供時代の自分を見てるようで嫌だったからです。あなたが立派な淑女になれば、私も安心して成仏できる気がします。)
そうだね、いつまでも甘えてちゃだめだ!私も、私にしかできない何かがあるはず。
「わかった! ばあちゃん、私、頑張ってみる! 心を入れ替えて頑張るから、これからも私を指導してくれる?」
あれ?
返事がない…
日本人形が横に倒れてる。動かない…いつもなら気味悪い動きで私を叱るのに。
「ばあちゃん? ばあちゃん?」
人形をこれでもかと揺さぶる。しかし人形の髪の毛が乱れるだけで、返事はない。ただの人形だ。
まさか…成仏しちゃったの…?あれだけ私が立派な殿方と結婚するまで成仏せん!とかいってたのに。
う、うそ…
私は日本人形を抱えて母の元に走った。
「お母さん! ばあちゃんがばあちゃんがいなぐなっだぁ~うあああ~」毎日うるさい小言をいうばあちゃんが確かに嫌いだったが、逆に大好きでもあったのだ。家族はドジな私に甘くて成長しない原因でもあった。ばあちゃんだけがいつも私を厳しく叱る存在だったのだ。かなり尊敬していたのだ。
「あらあらー、何事かと思ったら、おばあちゃんの日本人形こんな風に雑に持って怒られるわよ…あら? ほんとに人形に戻ってるわ」
「うわぁーん、ばあちゃん~」
涙やら鼻水やら撒き散らしながら、泣きつづけた。ばあちゃんが死んだ時もこんなに泣かなかったのに…せっかくわかりあえた途端、消えたばあちゃんに私は茫然としてしまった。
ばあちゃんがトリツイテいた日本人形は、ただの日本人形に戻ってしまった。そして、ショックで私は意識を失った。
(何をボケっとしてるんですか!? ほら、さっさと支度なさい。まったく私がいないと朝も起きれないなんて情けない!)
ん?
ばあちゃん?
成仏したんじゃ?
なんだ夢か…ぐう…
(夢じゃありません! このっ! 起きなさい!)
ばちっ。体に電撃が走った。ひいっ、痛い!
「ばあちゃん?!」慌てて飛び起きた。そばにおいていた人形はそのまま動いていない。あれ?
(こっちですよ、人形だといまいちあなたの行動がきちんと把握できませんからね!)
まさか…
枕元の携帯に、ばあちゃんが満面の笑みで映っていた。いつのまに・・。
てか携帯、乗っ取られた----!!
(さー、これだとどこでもあなたの行動が把握できますね。覚悟なさい。びしばし鍛えてあげます。)
「…参りました。よろしくお願いします。おばあさま。」
もはやなんでもありのばあちゃんに白旗をあげたのだった。
こうして、日本人形「お菊ちゃん」はただの人形に戻り、ばあちゃんは人形から携帯に居場所をシフトチェンジした。成仏したかと泣き喚いたが、ばあちゃんが帰ってきてうれしいのも事実で・・・・
これからもよろしくね!ばあちゃん!
ばあちゃんの成仏は当分先になりそうです。お茶さえまともに運べないある意味、箱入り娘な主人公ですから。働かなくても大丈夫なそれなりに裕福な家の設定です。家族はドジな主人公がかわいくてしかたなく甘やかしたため、ほんとにダメな子に。きちんと躾けてれば、それなりのお嬢さんになったと思います。大人からやり直すのって大変。。。。がんばれ、主人公!!
納戸の中には
家族それぞれの黒歴史がありそうです(笑)