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王太子の婚約者の悪評を流したら ~罪と罰の感度~

作者: マンムート
掲載日:2026/10/22

 

 ちかごろ羽虫がうるさい。


 誰かが我が婚約者の悪口を吹聴しているようだ。



 淫乱である。


 いろいろな男をベッドに引っ張り込む。


 王太子殿下の悪口を言っている。


 贅沢三昧である。



 わずらわしい。



 王太子である私の婚約者。


 この王国で一番の貴族の御令嬢。


 しかも、王太子妃教育で、始終顔をあわせている相手。


 そもそも贅沢三昧などする暇がない。



 我が婚約者に会ったこともない人間からしかありえない。



 調べさせ始めようとしたら、噂はぱったり消えた。



 拍子抜けしたが、調べ続けさせたら。


 三日と経たぬうちに、ひとりの男爵令嬢に辿り着いた。



 私は覚えていなかったが、どうも孤児院に慰問に訪れていた私を見かけたらしい。


 なるほど。


 私は覚えていないが、これからも民草を助けてくれ、とその令嬢に言っていたらしい。


 それ以外、私と会ったこともないらしい。


 なのに、私を運命の相手とか、見初められたとか、婚約者が邪魔をしている、とか周囲に吹聴していた、らしい。



 たった一度の出会い。


 しかも、一度話しかけただけで。


 こちらは顔さえ覚えていないぞ。


 この程度の会話なら、視察に訪れた市場の野菜売りとでさえしている。



 やれやれ。


 相手は狂人だ。


 私は決断した。即日、処そう。



 だが、報告の最後に。


 すでに死んでいることが記されていた。


 階段から落ちて急死したそうだ。


 葬式も済んでいて、遺体は荼毘に付されている。


「……」



 火葬ね。



 我が国では珍しい。


 落ちて悲惨な有様だったから、らしいが。


 本当のところは、死体を改められては困る、ということだろう。



 一カ月後。



 私は、男爵家の領地の近くを視察するついでに、訪れた。



「そういえば御令嬢が亡くなったそうだね」


 そうすると男爵は目頭を押さえた。


「殿下の御前だというのに、申し訳ありません」


「いや、急なことだったと聞いている。悲しみもひとしおだろう」


「こんな若い身空で死ぬとは、何かの天罰としか思えませぬ」



 そこには娘の死を嘆く父親がいるだけだった。



 だが、私は引っかかった。


 わざわざ娘が若い身空で死んだことを天罰だと言うだろうか。



 当主は知っていたのか。


 娘が我が婚約者を害する噂を流していたことを。


 そして処断した。



 それを天罰という形で伝えようとしたのではないか。



 ……確かこの家には、もうすぐ成人の長男と、嫁入り直前の長女と、まだ幼い弟がいたな。


 彼らには悪い噂はない。



 私は彼に告げた。


「天罰だとしても、これで終わりだ。他のモノに累は及ぶまい」


「そう仰っていただけると……お心遣いありがとうございます……息子が成人したらわたしは引退し、娘の墓守をするつもりです」



 なるほど。そういうことか。


 男爵家は自ら病巣を切除した。潰すほどのことはないだろう。



 三日後。


 王宮で婚約者に会ったら、彼女が私に告げた。


「そういえば最近、ある男爵家が潰れたそうです」


「ほう?」


「何でも夜盗に入られて、一家は皆……。おそろしいことです」



 王家はしていない。


 ということは。



 なるほど。


 婚約者か婚約者の実家は、私が思っていたよりも苛烈であったらしい。







たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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