王太子の婚約者の悪評を流したら ~罪と罰の感度~
ちかごろ羽虫がうるさい。
誰かが我が婚約者の悪口を吹聴しているようだ。
淫乱である。
いろいろな男をベッドに引っ張り込む。
王太子殿下の悪口を言っている。
贅沢三昧である。
わずらわしい。
王太子である私の婚約者。
この王国で一番の貴族の御令嬢。
しかも、王太子妃教育で、始終顔をあわせている相手。
そもそも贅沢三昧などする暇がない。
我が婚約者に会ったこともない人間からしかありえない。
調べさせ始めようとしたら、噂はぱったり消えた。
拍子抜けしたが、調べ続けさせたら。
三日と経たぬうちに、ひとりの男爵令嬢に辿り着いた。
私は覚えていなかったが、どうも孤児院に慰問に訪れていた私を見かけたらしい。
なるほど。
私は覚えていないが、これからも民草を助けてくれ、とその令嬢に言っていたらしい。
それ以外、私と会ったこともないらしい。
なのに、私を運命の相手とか、見初められたとか、婚約者が邪魔をしている、とか周囲に吹聴していた、らしい。
たった一度の出会い。
しかも、一度話しかけただけで。
こちらは顔さえ覚えていないぞ。
この程度の会話なら、視察に訪れた市場の野菜売りとでさえしている。
やれやれ。
相手は狂人だ。
私は決断した。即日、処そう。
だが、報告の最後に。
すでに死んでいることが記されていた。
階段から落ちて急死したそうだ。
葬式も済んでいて、遺体は荼毘に付されている。
「……」
火葬ね。
我が国では珍しい。
落ちて悲惨な有様だったから、らしいが。
本当のところは、死体を改められては困る、ということだろう。
一カ月後。
私は、男爵家の領地の近くを視察するついでに、訪れた。
「そういえば御令嬢が亡くなったそうだね」
そうすると男爵は目頭を押さえた。
「殿下の御前だというのに、申し訳ありません」
「いや、急なことだったと聞いている。悲しみもひとしおだろう」
「こんな若い身空で死ぬとは、何かの天罰としか思えませぬ」
そこには娘の死を嘆く父親がいるだけだった。
だが、私は引っかかった。
わざわざ娘が若い身空で死んだことを天罰だと言うだろうか。
当主は知っていたのか。
娘が我が婚約者を害する噂を流していたことを。
そして処断した。
それを天罰という形で伝えようとしたのではないか。
……確かこの家には、もうすぐ成人の長男と、嫁入り直前の長女と、まだ幼い弟がいたな。
彼らには悪い噂はない。
私は彼に告げた。
「天罰だとしても、これで終わりだ。他のモノに累は及ぶまい」
「そう仰っていただけると……お心遣いありがとうございます……息子が成人したらわたしは引退し、娘の墓守をするつもりです」
なるほど。そういうことか。
男爵家は自ら病巣を切除した。潰すほどのことはないだろう。
三日後。
王宮で婚約者に会ったら、彼女が私に告げた。
「そういえば最近、ある男爵家が潰れたそうです」
「ほう?」
「何でも夜盗に入られて、一家は皆……。おそろしいことです」
王家はしていない。
ということは。
なるほど。
婚約者か婚約者の実家は、私が思っていたよりも苛烈であったらしい。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
評価や感想をいただけるととても励みになります。
別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




