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幕間─竜王─

 数百年前、この世界は『魔物』と『人間、亜人、獣人』の高い知性がある者たちは敵対していた。


 敵対……というより、数百年前の技術力の差では、魔物が一方的に人間たちをエサとしていただけなのだが。


 そんな折りに突如現れ始める、凄まじい能力を持った勇者と呼ばれる英傑たち。


 魔物は一気に狩る側から、狩られる側へと転じた。


 しかし英傑が現れたのは、何も人間や亜人の中からだけでは無かったのだ。魔物の中にも凄まじい強者が現れる。


 人間、亜人、魔物たちを震撼させた百年前に現れた傑物『魔王ゼロ』


 圧倒的な力と知性を持ち、知能の高い魔物を束ねていく。


 だがその中でも特に知能が高い種族『ドラゴン』『吸血鬼』『アンデット』『巨人』の王たちは、魔王自らが名前を下賜し『四天王』と呼ばれる存在となった。


 『四天王』と同時に魔将と呼ばれ、そしてその部下や眷属等の知能が高い魔物を、人間たちは『魔族』と呼び、知能の低い魔物を『魔物』と呼び分けるほど、その存在に警鐘を鳴らす。


 だが魔王が誕生した時、人間と魔物の間に大改革が起きたのだ。


 『魔王ゼロ』は人間たちとの共存繁栄を唱え、妄りな武力侵攻を拒んだ。


 漆黒の甲冑に漆黒のマントを羽織り、高らからに笑う魔王を盲信したドラゴン族の長──竜王シャネル。


 彼女は100年前の当時、魔王の命により無力な人間種に魔法という強力な武器を与えた。


「魔王様の指示で魔法技術を授けた結果が、今の魔族をここまで苦しめるなんて……忌々しいですわ人間共……」


 竜王シャネルは紫色の髪を撫でながら、酷い歯軋りで不快感を表す。


「治療は終わりましたよ。シャネル」


 落ち着いた声音で竜王を呼び捨てにする女性が一人。


 白銀のフルプレートに身を包み、ヘルムを小脇に抱えながら魔法の詠唱を止めた女性は、深紅の髪を靡かせる。


「助かりましたわ──不死王エルメス……いいえ、今はカーミラと名乗っているのでしたわね」


 不死王エルメス──赤色の髪、血のように赤い瞳を持ち、若く瑞々しい白磁の肌をした、吸血鬼の女王。


「覚えていてくれてありがとうシャネル。私の息子はどうでしたか?」


 赤い瞳を向けられたシャネルは『魅了(チャーム)』の魔法に掛からない耐性を有しているが、エルメスの目は何を考えているのか分からない気味悪さを覚えている。


「人間の世界で『黒騎士』と呼ばれてる混血鬼(ヴァンピール)でしたわね。たいした事ありませんでしたわ! オーホッホッホ!」


 高らかに笑うシャネルを、朗らかな笑みを浮かべながら見守るエルメスが「気は済みましたか?」っと窺う。


「えぇ! かつて貴女が次代の魔王様を育てると大言壮語を打った結果がアレですわね……まぁ多少は魔族の一員として、悪くない実力でしたけれど……」


「魔王様は既にこの世にいません。シャネル……いい加減に人間と共存する術を模索しましょう」


 エルメスの言葉にあからさまな不快感を示すシャネル。


「あんな下等生物と共存など冗談ですわよね? 100年で随分老けましたわね」


「人間たちとの共存は、今は亡き魔王様の意思です」


 今は亡き──その言葉に怒りを覚えたシャネルは、魔王を思わせる尊大な態度と高笑いを忘れ、縦に割れた瞳孔をエルメスへ向けた。


「魔王様はお隠れになられた。いずれ再び、我々魔族を導いてくれますわ……──」


 魔王の死は事実であり、未だにそれを受け入れない魔族も多い中、四天王は巨人族の王を除き、皆半永久的に生き続ける。


「──魔王様の意に背いたわたくしを罰するため、再びこの世に降臨される……」


 今にも涙が零れそうな瞳を向けるシャネルに、エルメスは肩を竦める。


「100年も誓いを守ってきたシャネルを、お優しい魔王様が罰するとは思えませんが、今度は死なないでください」


 エルメスの言葉にシャネルは思い出したかのように、自らが敗れた相手──佐藤 勇気──の姿を思い出す。


「忌々しい人間でしたわ……あの力だけを見れば、魔王様の再臨と言われても不思議ではありませんでしたわ」


 魔王の再臨と言われ、明らかに興味を示すエルメスが口の端を僅かに歪めながら口を開く。


「シャネル、貴女を破ったのは私の息子では無いのですか?」


「えぇ話してませんでしたの?」


「先程まで肉塊でしたので……」


「名前までは知りませんが、人間たちが蛮族の国(・・・・)と呼ぶ者たちの特徴を有していましたわね」


「黒い髪に黒い目、平たい顔に黄色い肌……と言った容姿でしょうか?」


 エルメスは人間種に近く、その特徴を見るだけで区別できるがドラゴンの顔の違いは分からない。


 逆にシャネルは、ドラゴンの容姿や特徴を正確に区別できるが、人間や亜人の区別はつかない。


「詳しい人相は分かりませんわ。ですが、あの人間からは、まったく魔力を感じませんでした……」


 それからシャネルは、佐藤勇気に関する情報をエルメスに伝える。


 一つ、魔力を全く感じない。


 二つ、あらゆる言語を理解し、言葉を正確に操れる。


 三つ、異常な力を持つマジックアイテムを持っている(恐らく呪われている)


 特徴を聞いたエルメスは、美しく整った眉間に皺を作りながら難しい顔をしていた。


「聞いたこともない強者ですね。私の息子──エイガー──に帝国の勇者──アレン・シュタイン卿──法国の聖女──ロキシー──に匹敵するのでしょうか?」


 一人譫言のように呟くエルメスに対し「また始まりましたわ 」とため息を吐くシャネルに、人間たちの歓声が街の中央から発せられた事に気がついた。


勝鬨(かちどき)でしょうか?」


「今さらですわね…………魔族の間者を捕らえたので処刑する……っと言ってますわね」


「貴女の眷属に、人型など居ましたか?」


「居るわけ無いですわ。第一、こんな街に入るのに、わざわざ手引きして貰わなくても入れますのよ」


 魔族と叫ぶ人間の声は、人間程度の聴覚では聞き取れないが、ドラゴンの長であるシャネルには容易に聞き分けられた。


 何よりも仲間意識が強い彼女が、間者呼ばわりされた魔族が自らの犠牲になることを許せない。


「どこの魔族は知りませんが、魔王様の(めい)──なによりわたくしの失態ですわ」


 そう言うとシャネルは認識阻害の効果を持つ、マジックアイテムの仮面を取り付け外套を羽織った。


「乗り掛かった船ですから、私もお手伝いします。シャネル」


 エルメスも同様のマジックアイテムを取り付けると、分厚い革製の外套を羽織り、シャネルと並んで歩き始める。



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