邂逅
気持ちの良い晴天、雲ひとつ無い青空、煌々と照らす太陽! そして……瓦礫に潰れた人から流れる血の匂い、阿鼻叫喚に呼応するよう眼前のドラゴンは、耳を劈くほどの咆哮。
てらてらと黒光りした鱗に、蝙蝠を思わせる大きな四枚の羽根に、ワニのような鋭い歯、爬虫類を連想させる姿。
そんな空想上の怪物が今まさに目の前で、カチカチと歯を鳴らし火薬に火が着いたように、口の端からメラメラと陽炎が生まれるほどの真っ赤な光がチラつく。
「ウロボロスの指輪……《創造》」
僕の言葉に呼応するよう、カイトシールドから一瞬にして僕が想像したモノへと形を変えた。
『M59 155mmカノン砲』榴弾砲よりも大口径で砲身長も長い、かつて中央アジアでの紛争にて使った事のあるモノを作った。
「大砲なぞで、わたくしのドラゴンを倒せるとでも? でも変ですわね……人間が使う大砲は、もっと丸かったような……」
竜王シャネルとやらが、ブツブツと考え込んでいるうちに、対戦車榴弾を装填したカノン砲が、ドラゴンの咆哮にも負けない爆裂音と共に発射された。
「オーホッホッホ! わたくしのドラゴンに大砲なぞ──」
効かないとでも言いたそうな竜王シャネルは、四枚羽根のドラゴンの悲鳴にも似た声を聞き青ざめる。
ドラゴンの喉に大きな穴が空き、そこから滝のように真っ赤な血が吹き出したのだ。
慌てて僕はカノン砲を指輪の形に戻して、ドラゴンから離れると、吹き出した血は湯気をあげている。
「──な、なぜですの……人間如きの武器で……」
「まだ死んでないよな……《創造》」
再び指輪の形を変えて今度は『KD 35mm機関砲』を作り出し、2門の銃口が火を吹く。
これだけではまだ足りないと思い『T45 多連装ミサイル砲』を28連発でお見舞いする。
白煙の中、ドラゴンの悲鳴が聞こえなくなり、飛び散る血と肉片、臓物に焼き焦げた異臭を放ち、巨体は石畳に倒れた。
「そ、そんな……わたくしのドラゴンが──」
半分泣きそうな顔で口元を覆う竜王シャネルが、キッと僕を睨んだ。
見れば城壁側のドラゴンを倒したようで、兵士たちが勝鬨を上げており、満身創痍な女騎士と黒騎士が駆けつけてきた。
「──くっ、生意気な人間共ですわね!」
涙目の竜王シャネルが宙に浮き、凄まじい速度で飛んでくる。
「《アクセラレーション》」
風を切るように黒い物体が眼前を遮ると、突然の金切り音が響く。
見れば、黒一色の物々しいフルプレートが眼前に立ち、血のように真っ赤なマントが靡き、黒檀のロングソードが火花を散らしながら宙に浮く大鎌を受け止めていた。
「吹き飛べ……《エアロスマイト》」
緑色の魔方陣から強烈な突風がシャネルを襲う。
異世界と言えば……いわゆる魔法という奴だろうか。
「アルバスの清らかな水よ。我が手に集い敵を穿て! 《ウォーターアロー》」
飛ばされたシャネルを追い討つのは、青色の魔方陣から複数の水で出来た弓矢を放つ女騎士マリアンナ。
「鬱陶しいですわ! 《マジックディスペル》」
シャネルが何かを唱えると、マリアンナの周りに浮いていた青色の魔方陣が掻き消え、水の弓矢が突然蒸発した。
「マリアンナ、そいつは魔族だ! 口頭詠唱魔法を無効化する魔法を使えるぞ!」
「さ、先に言ってちょうだい!」
シャネルに対して有効な魔法ではなかったようだが、見た目女騎士だけあってマリアンナの剣の腕は、黒騎士よりも洗練されていた。
援護の必要があるように感じる。
黒騎士エイガーと女騎士マリアンナの剣術だけでは、竜王シャネルを抑えきれない様子。
かといって僕が剣を持って参戦したところで、多少西洋剣術を齧った程度の実力ではむしろ足を引っ張るだろう。
「ウロボロスの指輪……《創造》」
やはり僕にはこれしかない。現代の非殺傷兵器『|アクティブ・ディナイアル・システム《ADS》』人間相手に使う指向性エネルギー兵器だ。
巨大なアンテナを三人が戦う方向へ向け、照射を開始する。
対象へ向けられた電磁波で皮膚の表面温度を上昇させて、対象者に火傷を負ったと錯覚させる兵器だ。
「がぁぁ!!」
突然の叫び声と共に、真っ先に飛び退いた黒騎士は頭に装備していたヘルムを脱ぎ去ると、その下から現れた素顔に驚いた。
黒髪のショートヘアに赤い瞳、雪を思わせる白地の皮膚に、顔半分は酷く爛れている。
「お前か……」
黒騎士の怒りに満ちた目が僕へ向けられた。
そして次にシャネルは上空へ飛び退き、目的のシャネルが一人になる。
「《創造》」
相手は魔族、生半可な武器では通用しないだろう。
しかも目標は人並みの大きさで、機関砲では命中精度に欠ける上に目標は自在に空を飛べる。
ならば質量で対抗だとすれば、現代兵器最強の核ミサイルなのだろうが、当たったとしてもこの距離では街どころか僕自身も吹き飛ぶ。
空を飛ぶ者にとって最も怖い事……そういえば旅客機のエンジンに鳥が飛び込む事があると聴いたことがある。
ウロボロスの指輪は形を変え、大型旅客機『ボーイング747』が街の上空に現れる。
「バードストライク! いや、この場合はデーモンストライクってか」
僕は高らかに笑い勝ちを確信する。
大きな影を落とす大型旅客機のエンジンの一基、鋭いプロペラがシャネルのローブを吸い込み、瞬く間にグチャグチャと酷い音をたて、同時にエンジンが異物を吸って爆発した。
地上に降り注ぐ真っ赤な血肉、ところどころ布切れを残し、中には骨までついてくる。
爆発した大型旅客機が墜落する前に、指輪へと姿を戻すとプロペラでも細切れにしきれなかった大部分が、ぼとりと落ちてきた。
肋骨に守られたピンク色の臓器、それに纏わりつく黄色い脂肪、ほとんど原型を留めていない頭蓋骨に片目だけが残されていた。




