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運命

 この世界は理不尽だ……


 15歳の春、僕──佐藤(さとう) 勇気(ゆうき)は晴れて通うことになった私立高校の入学式である事件に巻き込まれ(・・・・・)た。


 っと言っても今までに遭遇した不幸な出来事に比べれば、厄介な事はない。


 入学式が終わってすぐに、先輩不良生徒による新入生いびりの対象に選ばれしまった。


 他の三下不良たちは、すぐに先輩不良たちに取り入り気に入られたが、僕や他数名の一般生徒は、連中の遊び道具程度の認識だ。


 さっそく人間ダーツから始まり、生来の不幸体質(・・・・)のお陰か、人間ダーツでは僕がマトになりハードダーツの矢が腕に刺さった。


「いっつぅ……」


 軽いリアクションを見せると、連中は「つまらない」と口を揃えブー垂れる。


 そう言われても、この程度のいじめなら小学生の時に経験済みだ。


 そして次は人間サンドバッグ──っと言っても根は優しい先輩なのか、殴り返すのはOKとの事で遠慮無く殴り返すと、連中は想像以上にシロートだった。


 格闘技をかじってる様子だが、総合格闘技の経験が無いようでサブミッションで簡単に落ちた。


 アメリカ旅行中に裏格闘技大会で、血の汗を流した頃に比べればこの程度はお遊びの範囲。


 この気に乗じて連中を軽く修正してやると、次の日には僕がこの高校の番長と呼ばれるようになった……って! 僕は昭和の不良か!


 なんて思っているのも束の間、番長となった僕は前日お世話になった先輩たちに呼び出され、今度は暴走族同士の勢力争いに巻き込まれ(・・・・・)た。


 前置きが長くなったけど、この暴走族同士の勢力争いというのが、女子の陰険な喧嘩のようにしつこい。


 夜道で突然襲われたり、誘拐されたり、友人を人質に取られ、武装した集団にタコ殴りにされた。


 僕は生まれつきの不幸体質のせいで、何度も死にかけたが何とか生きてこられた……まるで神様に見守られていたかのように。


 さして武装した集団にタコ殴りにされた日の晩、熱の引かない僕はうなされながらベッドで眠っていると、そのまま帰らぬ人ととなった。


+++


 ふと目を覚ますと、薄暗い鍾乳洞(しょうにゅうどう)のような場所で、水面に一筋の糸を垂らす、三人の美女たちがクスクスと笑っている。

 

 神秘的な雰囲気と僅かな話声、フェイスベールに包まれ、露出の極めて少ない黒いドレスを着ている三人の美女の一人が口を開く。


『天が定めた運命(・・)に従いなさい。佐藤(さとう) 勇気(ゆうき)……』


 一人の美女が嘲笑混じりに僕の名を呼ぶと、水面から糸を巻き上げる。


 その先には二匹の蛇が互いの尾を喰らいながら蠢き、奇妙な輝きを放つ指輪がついていた。


『異なる世界では、この《ウロボロス》が貴方の助けになるでしょう……』


『せいぜい私たちを楽しませなさい!』


 美女によって無理矢理右手の人差し指に指輪を嵌められ、その瞬間僕の視界は真っ白に染まっていく。


+++

 

 次に目が覚めた時、僕は見知らぬ異様な景色の前に立っていた。


 ヨーロッパ風の石畳に石造りの家々が建ち並び、遠巻きながらも高く聳える城に、所々が欠けた岩壁が見渡す限り連綿とつらなる。


 石畳の道路を馬車が通り、妙な格好の人たちが僕を見ては訝しんでいるようだ。


「おいお前! 怪しい格好の!」


 突然、背後から怒声が飛び、恐る恐る振り返ると全身を鉄製の鎧で覆われた人間が、腰に帯びたロングソードを引き抜いてやって来る。


 怪しい格好って……僕はTシャツに八分カーゴパンツの至ってシンプルな格好のはずだが。


「っと、見れば子供じゃないか……東国の子供か? あっ言葉は通じないんだっけ」


 子供だと認識されているにも関わらず、兵士風の男はロングソードをしまう素振りはない。


「あの……ここは?」


 僕は恐る恐る口を開くと、兵士風の男は驚いた様子で答える。


「お! 言葉が分かるのか! もしかして迷子か? ここは『白の王国』こと、アルバス王国領内のアルビオンという街だ」


 アルバス王国? アルビオン? 聞いたことの無い国と街の名前だ。


 いままでの人生でも突然、海外に飛ばされた事は何度もあったが……


 中世ヨーロッパ風の町並みに、式典か何かでも無いのにフルプレートの兵士が街を警備しており、自動車が無く馬車が不揃いな石畳を軽く跳ねている。


 その中でも一際目を引くのは、こちらへ歩いてくる女性──銀髪のロングヘアーに汚れ一つ無い銀色のプレートメイル──が僕たちの前で立ち止まった。


「どうしたのですか?」


「はっ! マリアンナ様──」


 兵士は驚いた様子で、マリアンナと呼ばれた銀髪の女性に敬礼をする。


「──この東国の少年が迷子の様子で……」


「どーもぉ」


 マリアンナは訝しむように僕を見る。


「黒髪黒目、たしかに東国出身のようだけれど、私は東国の言葉は分からないわ……エイガー、あなたなら言葉が分かるんじゃないかしら?」


 マリアンナが背後に目を向け、エイガーと呼ばれた異様な男性──漆黒のフルプレートメイルに家紋入りの赤いマント──が顔を出す。


「チッ……お前、本当に東国出身か?」


 兜の内側からくぐもった声と、赤い瞳が僕を睨む。


「え、えっと…………──」


 僕が言い淀んでいると、突然の轟音と共に城壁が崩れた。


「──嘘だろ……」


 僕の小さな呟きを掻き消すよう、高く劈くような咆哮。


 爬虫類のような頭頂眼、トカゲのような真っ赤な鱗と鋭い牙から漏れる真っ赤な炎──まるでゲームに出てくるような怪物──


「ド、ドラゴンだぁ!!!」


 兵士の叫び声に呼応するよう、その場にいた人々は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「落ち着きなさい。あなたは兵舎へこの事を知らせ、住民の避難を! 私とエイガーでドラゴンの囮になるわ!」


 マリアンナは腰に携えた豪華な装飾のロングソードを引き抜き、冷静に兵士へと下知を下し、僕の背中を叩いた。


「言葉は分からないでしょうけど、逃げなさい! はやく!」


 彼女は身振り手振りで、僕に逃げる方向を教えると、彼女は黒騎士の手を取ってドラゴンへと駆ける。


「さっさと消えろ異世界人……」


 去り際に黒騎士の男が、黒いロングソードを引き抜きながら吐き捨てた。


 さっきの兵士が慌てた様子で他の兵士たちを連れて戻ってき、住民の避難を呼び掛ける。


「ドラゴン……異世界……」


 心の奥底から沸き上がる興奮。


 ドラゴンの咆哮と共に吐き出された火球が、家屋を吹き飛ばし瓦礫と粉塵が舞い上がる。


 悲鳴が谺し、絶望する住民に紛れローブをはためかせ不敵に笑う紫髪の少女が、僕の顔を覗き込む。


「お前は逃げないのかしら? あぁわたくしの言葉は、お前達には通じないのでしたわね。フフッ」


 白い肌に鋭い牙を覗かせ、フードの下にはヤギを思わせる角が窺える。とどのつまり彼女は人間ではない。


「キミは逃げないの? ドラゴンって、たぶん強いよ?」


 僕の言葉に驚いた様子を見せ、彼女は素早く飛び退いた。


 え? もしかして僕、何かマズイ事言った?


「お前……わたくしの言葉を理解し、話せるというのかしら? 見たところ人間のようですけれど?」


「えっと~人間というか──」


 僕が返答しかねていると、突然大鎌の刃が眼前に迫る。


 咄嗟にカイトシールドを思い描くと、指輪の蛇が瞬く間に盾へと変化し、とてつもない衝撃を腕に受けながら彼女の一撃を止めることが出来た。


「──あっぶねぇ!!」


「ふむぅ……それは珍しいですわね」


 フードを取った彼女は、大鎌を宙に浮かせながら両手をかざすと、幾重にも重なった魔方陣が浮かび上がる。


「ではこちらはいかがでしょう? サモン(召喚)! 《四翼のドラゴン》」


 魔方陣からヌッと顔を出したドラゴンが這い出るように姿を現す。


 僕は慌てて彼女から距離を取ると、鼓膜が破れそうなほど巨大な咆哮が谺する。


「わたくしは魔王様の忠実なシモベ! 四天王が一人『竜王シャネル』冥土の土産に覚えてよろしくてよ!」


 城壁にいるドラゴンには、さっきの女騎士と黒騎士、それに追従する様々な人種が武装しており奮闘している。


 かたや城壁のドラゴンよりデカイ、四枚の翼を持つドラゴンと大層な肩書きを持つハイブランドな名前の竜王シャネル様。


 今に始まった理不尽ではないが、状況を飲み込む間もなく巻き込まれ(・・・・・)にため息が出る。


「死ぬつもりは無いけどお手柔らかに……」

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