少女は公園の管理人を愛している
私はテントの入口から差し込む光で目が覚めた。
寝惚け眼を擦りながら、ゆっくりと上体を起こす。
スマホを掴んで、時刻を確認する。画面には午前八時と表示されていた。
通知で母からメールが届いていることに気付く。スマホを操作し、メールを開く。『昨日は二十代の男の子をお持ち帰りしちゃいました。』とどうでもいい内容のメールだった。
母から届くメールはいつも男のことばかりで、娘の私からすれば良い気分ではなかった。男と交わる母はギラギラとした目つきで、性欲の仮面を被ったかのような穢らわしさだったことを今でも覚えている。
軽く首を振ると、ポータブル冷蔵庫を開ける。お茶のペットボトルを手に取り、水筒に移した。
水筒には『藤宮万理華』と書かれた可愛らしいデザインのラベルが張ってある。
どちらも公園の管理人――羽根村咲子さんからプレゼントされた物だった。
咲子さんは勝手に公園の隅にテントを張った私に、イヤな顔一つせずに優しく接してくれる。長らく会っていないお父さんと同じ苗字ということもあり、初対面の時から、親しみを覚えていた。
母の遊び癖が原因で、私が小学一年生の時に、お父さんとは離婚していた。
公園で寝泊まりする私からすれば、ポータブル冷蔵庫は飲み物を冷やすのに重宝するし、咲子さんが充電もしてくれるのでありがたかった。
私が女子校に行っている間は咲子さんがテントを管理してくれて助かっている。
鼻歌まじりに、水筒の蓋にお茶を注ぎ入れた。蓋を両手で持ち、ゆっくりとお茶を飲んだ。お茶が喉を通り、一瞬で渇きが癒える。
一息ついた時、トラックの走行音が聞こえた。その十数秒後、テントの入口が開き、咲子さんが入ってきた。手提げ鞄を持っている。
「美春ちゃ……じゃないや。万理華ちゃん、おはよう」
「おはようございます、咲子さん」
咲子さんの微笑みに胸の鼓動が速くなったが、美春とは誰だろうかと疑問符が頭に浮かんだ。咲子さんはたまに私を美春と呼ぶことがあるけど、どうしてだろうか?
心の中で首を傾げたが、ふわりと漂う香りが鼻腔をつき、そんなことはどうでもよくなってきた。優しくて美人な咲子さんを心から愛していることの方が重要だ。
母と交わる野郎共の下卑た笑みを見てきたこともあり、どうにも男が好きになれなかった。理由はそれだけではなかった。男を嫌いになった決定的な出来事を思い出す。
あれは中一の夏休みのことだった。
私は自分の部屋で夏休みの宿題に没頭していた。他にやることがなかったからだ。
宿題に取りかかっていると、いきなり扉が開いて誰かが入ってきた。母の遊び相手の一人だった。
「あ、あの、お母さんは?」
「疲れたみたいで、昼寝しているよ」
「そ、そうですか」
私は気まずさを感じ、俯いた。早く部屋から出ていってほしかったが、男はニヤリと笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる。
「暇だからさ、お嬢ちゃんがおじさんの相手をしてくれよ」
「私が……ですか? 何をすればいいのでしょう?」
「お嬢ちゃんは何もしなくていい。俺が一方的にするだけだから」
突然、男は私を押し倒して、唇を奪ってきた。必死でもがいて抵抗したが、中一女子の力では男の腕力には適わなかった。
「柔らかい唇だな。ゾクゾクしてきたぜ」
男は下卑た笑みを浮かべ、顔中を舐め回してくる。ザラザラとした舌の感触は、まるでムカデが顔の上を這いずり回っているかのようだった。
男に顔を舐め回された挙げ句、服を剥ぎ取られ、一糸まとわぬ姿にされてしまった。
「い、いや、見ないで!」
「お嬢ちゃん、良い体をしているじゃねえか」
男は鼻息を荒くし、服を脱いだ。男の裸を見るのは初めてのことだった。
「や、やめて! 誰にも言わないから!」
「美味そうな餌を前にして、やめるわけないだろ」
私の懇願を無視し、男は何時間も犯してきた。その間、母は起きてこなかった。望まない形で処女を卒業してしまったことがショックだった。
男は私を犯した後、全身に口づけしてから、帰っていった。即座に浴室に行き、嗚咽を上げながら、全身を隈なく石鹸で洗う。
男の残した痕跡が消えることを願い、肌が赤くなるまで何度も擦った。どれだけ洗っても、不快感は消えてくれなかった。
妊娠が発覚したのはそれから数ヶ月後のことだった。お腹の中にあの男の遺伝子を受け継ぐ子がいると思うと、吐き気がした。赤ちゃんに罪はないことは分かっているけれど。
悩んだ末に中絶を決意して以来、男が大嫌いになった。
私は頭を振り、過去の忌まわしい記憶を追い出す。
咲子さんはテントの入口に立ったまま、なぜか後ろを振り返っていた。
「正雄さん、入らないの?」
咲子さんはテントの外に向かって手招きしている。お父さんと同じ名前だ。理由は分からないけど、男を連れて来たようだった。
外に男がいると思うだけで、全身の筋肉が強張った。体の震えが止まらない。男が怖い。
「話が終わってから入るよ、咲子ちゃん」
どこか懐かしさを感じさせる聞き覚えのある声だった。お父さんの声に似ている気がする。でも、まさかね。
お父さんの声に似ていると思うと、途端に全身の筋肉がほぐれた。
「分かったわ。じゃあ、後でね」
咲子さんは前を向くと、手提げ鞄から弁当箱を取り出し、円卓テーブルに置いた。
入口の隙間から、少し離れたところに誰かが立っているのが見える。足元しか見えないが、その人が正雄さんだろうか。
「美春……万理華ちゃんと一緒に朝ご飯を食べようと思って、作ってきたの」
咲子さんはそう言いながら、弁当箱を開ける。視線を男性から弁当箱に向けた。大好物のおかずが詰まっている。私好みの弁当を作ってきてくれたらしい。
「ありがとうございます! いただきます」
私は両手を合わせてから、箸を持ち、玉子焼きを頬張った。甘さ控えめで濃厚な味わいが口の中に広がる。
続いてハンバーグを食べた。噛んだ瞬間に、じゅわりと肉汁が溢れ出し、旨味を感じる。ウインナーや唐揚げも口に頬張って味わう。
咲子さんは柔和な笑みを浮かべ、私が食事する姿を見つめていた。ときどき、ぼんやりとした表情になり、目を伏せるのが気になった。テントの外からは子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。
「あら、万理華ちゃん、口元に玉子焼きがついているわよ」
咲子さんはこちらに手を伸ばしてきた。口元に付着していたらしい玉子焼きのカスを取ると、何の躊躇もなく、パクリと食べる。何だか気恥ずかしかった。
「ふふっ、照れちゃって、可愛いわね。口を開けて、食べさせてあげる」
咲子さんはそう言うと、自分の箸でご飯を掴んだ。そのまま、こちらの口に持ってくる。
私は少し迷ったが、咲子さんのマイ箸をねぶるように、ご飯を頬張る。
流れるような動作で、咲子さんは箸を咥えて、残ったご飯をねぶり取っていく。間接キスに思わず顔を伏せた。
「万理華ちゃんって今、高校一年生だっけ?」
「そうです。咲子さんと会ったのが中三の時ですから、それからもう一年も経つんですね」
「自宅とテント暮らしの二重生活にはもう慣れた?」
「ええ、最初は自宅とテントを行き来する生活は大変でしたけど、今は慣れました」
私は頷いた。
母は離婚後も反省する素振りはなく、男と楽しむ姿に呆れ、家出を決意した。自宅からさほど離れていない公園の隅にテントを張ったが、寒くて家出は断念して、すぐに帰宅。
けれど、母が男と楽しむ家にいたくなくて、気候が暖かい時だけテントで寝泊まりしている。
私が弁当を食べている間、咲子さんは簡易トイレに顔を近づけて臭いを嗅いでいた。トイレ内の尿や大便の臭いを嗅がれるのは恥ずかしいが、いつも排泄物を持ち帰ってもらっているだけに何も言えない。この簡易トイレも咲子さんからプレゼントされたものだった。
うっとりとした表情で簡易トイレ内の尿や大便を見つめる咲子さんにチラチラと視線を向けながら、食事を終える。
「万理華ちゃん、こっちにおいで」
私は両手を広げる咲子さんの胸に飛び込む。そっと優しく抱きしめられた。弾力のある胸の感触が心地良かった。
「……ところで前から聞きたかったんですけど、どうして私に優しくしてくれるんですか?」
「ん? そうね。万理華ちゃんが亡くなった妹に似てるからかな?」
「え? 妹さんが亡くなったんですか?」
「ええ、妹は母と買い物に出かけた際に、居眠り運転のトラックに轢かれたの。妹も母も即死だった。この公園で万理華ちゃんに出会う一年前の出来事だったわ」
咲子さんはどこか遠い目をしていた。亡くなった妹と母のことを思い出しているのかもしれない。ここに来た時に、咲子さんが口にした美春というのが、妹なのだろうか。
「妹さんの写真ってありますか?」
「ええ、あるわよ」
咲子さんはポケットに手を差し込むと、一枚の写真を取り出した。どうやら、写真を肌身離さず持ち歩いているようだった。
写真を受け取り、視線を落とす。黒髪のボブヘアに、クリクリとした瞳の少女が、咲子さんと手を繋いでいる写真だった。
背景の棚には黄色い液体と茶色の固形物がはいった瓶が並んでいる。
確かに少女は私に似ているかもしれない。だが、それよりも目を惹いたのは一緒に写っている一人の男性だった。
「え? この人は――」
白髪交じりのオールバックに、鋭い目つきの男性は間違いなく私のお父さんだった。小学一年生以来会っておらず、記憶にあるよりも老けているが、お父さんに違いない。
「この人とはどういう関係なんですか?」
写真に写るお父さんを指差し、咲子さんに問い質す。
「その人は母の再婚相手で、私からすれば、二人目の父親ね。その人と母との間に生まれたのが妹なの」
お父さんが再婚していたなんてまったく知らなかった。
「つまり万理華ちゃんと妹は異母姉妹ってことになるのよね。父親は同じだけど、母親は違うから」
「え? 咲子さんはこの人が私の父親って知っているんですか?」
私は思わず咲子さんに詰め寄った。いつから知っていたのだろうか? 私と会った時にはもう分かっていたのか?
「ええ、知っているわ。妹が亡くなった後、その人から万理華ちゃんのことを教えてもらったの。妹が死んで、万理華ちゃんがどうしているかが気になったのかもね」
咲子さんはそっと髪を撫でてきた。その目は私に向けられているが、亡くなった妹を見ているようだった。
今までずっと妹と重ねて見ていたのだろうか? 咲子さんの心の中にいるのは妹であって、私じゃない。そう思うと、胸が痛んだ。
「……お父さんは元気ですか?」
「体は元気よ。メンタルは相当参ってしまっているけど。愛しい妻と娘が亡くなったのだから、当然よね」
咲子さんの言葉を聞き、私は少し胸をなで下ろした。体が元気なら、それで良い。メンタル面は心配だけど、体が健康的ならば、とりあえずは一安心だ。
あれ? 待てよ。私のお父さんが咲子さんの二人目の父親なら、テントの外にいるのはもしかして……。
「……本当はね、遠くから万理華ちゃんを見るだけのつもりだったの。万理華ちゃんのことを聞いて、どんな子か気になったから。けど、自宅とテントを行き来して暮らしていると知り、放ってはおけないと思ったの」
「それで私に優しくしてくれたんですか?」
「そうよ。妹に似ているってのもあるけど、それが何よりの理由かもね」
咲子さんは相好を崩すと、私を力強く抱擁する。
「……ねえ、万理華ちゃん。自宅とテントを行き来するのは大変よね? そこで提案があるんだけど、私たちと一緒に暮らさない?」
「え? 一緒にですか?」
「ええ、万理華ちゃんのお父さんも喜ぶと思うわ。それにいつまでも自宅とテントの二重生活を続けるわけにもいかないでしょ?」
確かに咲子さんの言うとおりだった。今は優しい咲子さんのおかげで、公園で暮らせているに過ぎない。
それに公園を利用する子供たちの保護者が、ひそひそと私の悪口を言っていることも知っていた。
「でも、迷惑じゃ?」
「可愛い万理華ちゃんと一緒に暮らせるのよ。迷惑なわけないじゃないの」
咲子さんは目尻を下げて口角を上げた後、私のおでこにそっと口付けする。柔らかい唇が触れ、湯沸かし器のように顔が熱くなった。
一緒に暮らすことを提案してきたのは、亡くなった妹の代わりにしたいのかもしれない。それはイヤだった。妹の代わりではなく、一人の女性として見てほしいという思いがあった。
でも同居を断ったら、嫌われるかもしれない。公園に来てくれなくなったら最悪だ。咲子さんと離れるのはイヤだ。
私はすぐに結論を出すことができなかった。咲子さんと一緒にいたいけれど、妹と重ねて見られるのは心がモヤモヤする。もし、そうなったら、私はきっとこの世にいない妹に嫉妬するだろう。
咲子さんに愛されている異母姉妹が羨ましい。
「イヤなら、断ってくれてもいいのよ?」
逡巡する私から咲子さんはそっと視線を逸らした。その反応に不安を感じた。迷う素振りを見せて、嫌われてしまったのだろうか?
咲子さんに好かれるためには同居を受け入れるしかないのだろうか。一緒に過ごせるのは嬉しいけど、何度も私を美春と呼び間違えるのが引っかかっていた。
妹が亡くなってから時間は経っているようだし、しっかり者の咲子さんが名前を間違うとは思えない。何か意図があるのだろうか。
「……それではお言葉に甘えさせていただきます」
悩んだ末に私はそう応えた。亡くなった妹の代わりはイヤだが、大好きな咲子さんの側にいられるのなら。咲子さんの心を独り占めしてみせる。
「万理華ちゃんのお母様には私が説明しておくから。早速だけど、私たちの家に行きましょうか」
「あっ、はい。でも、荷物はどうしましょう。持っていくのは大変ですよね?」
「それなら大丈夫よ。正雄さん、入ってきて」
咲子さんはテントの外に向かって声をかけた。ゆっくりと足音がテントに近づいてくる。
「……久しぶりだな、万理華。元気にしていたか?」
テントの入口を潜り、入ってきたのはお父さんだった。やっぱり、外にいたのはお父さんだったんだ。記憶よりも年老いているが、咲子さんの言うように、体は元気そうだった。
「うん、久しぶり、お父さん。元気だよ」
あまりの懐かしさに数年ぶりに再会したお父さんに思わず抱きつく。何だか視界がぼやけてきた。
お父さんは口元を緩ませると、そっと人差し指で目元を拭い、頭を撫でてくれる。
「荷物はトラックの荷台に積み込めばいい」
お父さんはポータブル冷蔵庫を抱えると、テントの外に出た。
「これは私が持っていくわ」
咲子さんは手提げ鞄を肩にかけ、円卓テーブルと簡易トイレを持っていった。
私は水筒や学校関連の荷物を抱え込むと、咲子さんの後をついていく。
公園を出ると、路肩にトラックが停めてあった。ポータブル冷蔵庫や円卓テーブル、簡易トイレが荷台に積まれていき、咲子さんたちはロープで固定し始めた。
私は抱えた荷物を荷台に置いた。それから公園へと走って、テントを折り畳み、トラックに戻り、そのまま荷台に乗り込んだ。
トラックはエンジン音を響かせ、ゆっくりと出発し始めた。荷台に座り込む咲子さんの肩にもたれかかる。
「素敵な髪の毛ね、万理華ちゃん」
咲子さんは何度も髪の毛に唇を落としてきた。妹にも同じことをしていたのだろうか? 髪の毛が唾液で濡れるのを感じながら、これからの同居生活に思いを馳せた。
☆☆
公園からトラックで数分ほどの距離に咲子さんたちが暮らす二階建ての一軒家があった。
「二階の部屋が空いているから、そこに荷物を運ぼうか」
私は頷くと、咲子さんに案内された部屋に荷物を運んだ。部屋の中心に円卓テーブルを置き、ポータブル冷蔵庫と簡易トイレは壁際に配置する。テントは押し入れに仕舞った。制服を衣紋掛けに通すと、クローゼットにかける。
咲子さんと手を繋ぎながら、一階に降りてリビングへと向かった。
台所でお父さんがエプロンを着けて、夕食の準備をしていた。お父さんが料理する姿を見るのは初めてで、何だか新鮮だった。
私は咲子さんの膝の上に座り、背中に両手を回して甘える。可愛い子ぶれば、私のことを好きになってくれるかな?
「……ああ、可憐で愛しい美春」
咲子さんは髪の毛の匂いを嗅ぎながら、ポツリと呟いた。また美春と呼び間違えられ、心の奥がざわつき、焼きもちを抱く。呟きに愛情が感じられ、妹を妬む自分がイヤになる。
「……咲子さん、私のことをもっと見て!」
私は嫉妬に火がつき、咲子さんの唇を奪った。唾液とともに舌を捻じ入れる。咲子さんにディープキスし、体が火照るのを感じる。
「やっと万理華ちゃんからキスしてくれた。わざと美春と呼び間違えた甲斐があったわ」
咲子さんは思惑通りとでもいうかのように、小さくガッツポーズしていた。やっぱりわざと間違えていたみたいだけど、理由が分からなかった。
「どういうことですか?」
「何て言えばいいかな? 万理華ちゃんの心を私の物にしたくて、何度かわざと美春と呼び間違えたの。知らない名前で呼ばれたら、嫉妬心を募らせてくれるかもと思ってね」
咲子さんは頬ずりしながら、理由を話し出す。頬が柔らかくスベスベしていて快い気分だった。
「いつか嫉妬が爆発して、万理華ちゃんから私にキスしてくれるのを望んでいたけど、それが見事に叶ったわ」
「でも、どうして私の心を物にしたかったんですか? 私が妹さんに似ているからですか?」
「いいえ、違うわ。最初は美春にそっくりで親近感は湧いたけど、万理華ちゃんと過ごすうちに、人柄に惹かれていったのよ」
咲子さんは頬ずりを中断すると、瞳をジッと見つめてきた。私への愛情が込められているように感じ、心が躍った。
「いつしか万理華ちゃんの愛くるしさにドキドキするようになった。これが恋なんだって知ったわ。私にとって、万理華ちゃんは初恋の相手なのよ」
咲子さんはほんのり頬を染めて、少し目を伏せた。可愛らしい様子に胸がキュンとした。
ふと視線を感じて、台所を振り返る。お父さんが料理の手を止めて、にこやかな笑みを浮かべ、私たちを見ていた。
目が合った瞬間、お父さんは拳を握り締めて親指を上げた。グッドサインだ。私と咲子さんの関係を歓迎してくれているらしい。
私はお父さんに軽く頷くと、グッドサインを返す。お父さんは頷き返し、夕食作りを再開する。
「万理華ちゃん、先にお風呂に入ろうか。私と一緒にね」
「あっ、はい」
咲子さんに手を引っ張られながら、私は浴室に向かった。
☆☆
私は手早く体を洗い終えると、ゆっくりと湯船に浸かる。すでに洗い終えていた咲子さんの胸が背中に当たってドキドキした。正方形タイプの浴室は二人で入るには狭いけれど、咲子さんと密着できて幸せな気分だった。
『ハックション!』
外から男性のくしゃみが聞こえ、体がビクリと反応した。あの男の声に少し似ている気がした。あの男に何時間も犯された時の記憶が脳内に蘇り、背筋がゾッとする。反射的に自分の体を抱きしめた。
「大丈夫、私が傍にいるから」
咲子さんは優しい声で囁き、包み込むように、ギュッとしてくれた。感激のあまり、咲子さんの指に吸い付く。
「ふふっ、指に吸い付くなんて、赤ちゃんみたいで可愛いわね」
咲子さんに耳を甘噛みされ、少しくすぐったかった。
体を密着させてしばらく温もった後、お風呂から上がった。
「体を拭いてあげるわ」
自分でできたが、咲子さんのお言葉に甘えて、されるがままにバスタオルで体を拭いてもらう。
私は咲子さんと腕を組んで、リビングに向かった。
☆☆
テーブルにはすでに美味しそうな料理が並べられていた。
私は咲子さんと並んで座り、お父さんは真正面に腰を下ろした。
『いただきます』
私は手を合わせると、肉じゃがを掴んで頬張った。ホクホクのじゃがいもと肉の組み合わせは最高に美味かった。
続いてピーマンの肉詰めを食べる。ピーマンと肉の相性が良く、濃厚な旨味が広がる。
「お父さんの手料理、美味しいよ」
「それは良かった」
お父さんは満足気に頷く。会話を楽しみながら、夕食を終える。
お父さんが後片付けをしている間、私は咲子さんに連れられて、彼女の部屋に向かった。
部屋に入るや否や異臭が鼻腔をついた。臭いの元を辿ると、壁際の棚に黄色い液体入りの瓶と茶色の物体が詰まった瓶が置かれてあった。
「あれは何ですか?」
私は棚の瓶を指差した。
「あれは美春の尿と大便よ。大切に保管しているの。ホントはもっとあったんだけど、臭いからって母に捨てられたのよね」
咲子さんは唇を噛み締め、どこか悔し気に呟いた。
「万理華ちゃんの尿と大便も保管するつもりだから安心して。大好きな人の排泄物は可愛げがあるから、取っておきたいのよ。まあ、すでにいくつかは保管しているんだけどね」
「え? そうなんですか?」
私は驚愕し、壁際の棚を凝視する。どれが私の尿と大便なのだろうか? どの瓶の中身も同じに見えて、どれが私の物なのかはまったく分からなかった。
「万理華ちゃんが簡易トイレで用を足した尿や大便は私が回収していたでしょ? その際に処分せずに、万理華ちゃんの尿と大便を保管していたのよ」
「そうだったんですね」
咲子さんはいくつかと言っているけれど、結構な量を保管しているようだった。出会ってから一年は経っているし。
「自分の排泄物を保管されているって知って私のこと、引いた?」
「いいえ、そんなことありません。驚きはしましたけど、排泄物ごと愛してくれているんだって分かって感激しました」
私は咲子さんの目の前で排泄してみたいという思いが芽生えた。
「咲子さん、これから先、私が大を催したら、お尻を拭いてくれますか?」
「ええ、もちろんよ。いくらでも拭いてあげるわ」
「お願いしますね」
私はそう言いながら、咲子さんにもたれかかる。
「今日は疲れたでしょ? もう寝ようか。自分の部屋で寝る? それとも私と一緒に寝る?」
「咲子さんと一緒に寝たいです」
「よし、万理華ちゃん、ベッドに行こうか」
咲子さんに促されて、窓際のベッドに寝転んだ。
「おやすみ、万理華ちゃん」
「おやすみなさい、咲子さん」
私は咲子さんと深く抱き締め合いながら、ゆっくりと瞼を閉じて眠りに落ちた。
感想頂けると幸いです。




