第8話 怪物中学生!沖田一!!
はじめは、かつての肥満児だった時の面影は今は残っておらず、身長187センチ、体重94キロの筋肉質な体格からは、何処か只者ではないオーラが滲み出ていた。
はじめ「あっ!またいるよアイツら…」
女子生徒B「あ!沖田さんだ!おはようございます!」
女子生徒A「沖田さん!今日こそ私とデートしてください!」
女子生徒C「あ!ずるい!」
はじめ「おはよう。悪いけど今日も俺…あ!警察!」
女子生徒ABC「!?…警察なんていない…あれ?沖田さん?」
はじめは足もかなり速くなっており50メートル走を5秒台で駆け抜ける俊足も手に入れていた。
はじめ「…ランシュ履いててよかった…アイツらのせいで革靴履き潰されたからな…ってか、なんだよあの化け物みたいな化粧は…香水臭いし…本当毎日毎日朝っぱらからいい迷惑だよな…」
はじめは中学に入ると、その逞しい体格と野球での実績から、かなりモテるようになり、ファンクラブができるほどの人気ができていた。
慎太郎「全く、アイツら何時に起きて準備してんだよ…冗談じゃねぇよ、朝っぱらから…!!おーい!はじめ!!」
はじめ「ん?おぉ、慎太郎!ってお前も汗だくじゃねぇか!…もしかして、お前も?」
慎太郎「そうだよ!アイツら本当毎日毎日飽きねぇよな!こないだアイツらのせいで革靴潰れて、お袋からめっちゃ怒られたんだよ」
はじめ「俺もだよ」
慎太郎も逞しく成長を遂げていた。
慎太郎の身体は、身長186センチ、体重94キロとはじめと変わらない程の体格をしていた。
慎太郎も同じくファンクラブができるほど人気だった。
2人は朝7時に登校し、毎朝2人だけの練習をしてから朝授業を迎えるのがルーティーンだった。
この日はブルペンに入る2人の姿があった。そして驚くべき事に、そこにはキャッチャーミットを持つ慎太郎の姿があった。
慎太郎「よし、はじめ!わかってると思うけど、5割以上で投げるなよ!」
はじめ「今日はそんなに力入れねぇよ」
“シューっ!!!パンッ!!!”
はじめ「ふぅーっ!気持ちー!」
慎太郎「…いってぇな!軽く投げろって言ってんだろうが!このゴリラっ!!」
“シューっ!パンっ!”
はじめ「いってぇな!俺のはピッチャー用のグラブだぞ!このボケ!」
はじめと慎太郎の喧嘩投球練習は3日おきに行われる。
その他の日はティーバッティングやウェイトトレーニングが朝練の中心だった。
“おはようございます。今日は4月9日…”
町内放送が始まる8時15分に朝練を終え、部室裏で水で体を洗ってから2人は教室に行く。
慎太郎「うぁー、まだ水は冷てぇし、寒いな…」
はじめ「お前モロに体にかけるから、そうなるんだよ。風邪引いて俺に移したら訴えるぞ」
慎太郎「あぁ~、寒い!」
はじめ「ったく…おい!アイツら教室で待ち構えてやがるぞ!」
慎太郎「ん…!?あのヤマンバどもが…」
はじめ「……ふん、蹴散らしてやる!」
慎太郎「は?」
はじめは何かを取り出し、そっと手放した。
“げごっ、げこっ”
はじめが手放したのは、大きいウシガエルだった。
ウシガエルが女子生徒たちに近づくと、悲鳴を上げながら逃げていった。
慎太郎「どこで捕まえてくるんだよ、あんなの!」
はじめ「あぁ、さっき部室の裏にいたよ」
慎太郎「まぁ、おかげで助かったけど」
はじめ「だろ?」
2人は悠々と自分の席に着いた。
慎太郎「あぁ!そう言えばお前の去年の日本代表の話聞いてなかったな」
はじめ「あ~、話してなかったっけ?あれ硬式だったんだけど、俺肩痛いって嘘ついてDHでしか出てないんだよ。今軟式だし、まだ無理に硬式投げる必要ないって思ってな」
慎太郎「それは新聞に載ってたの見たから知ってるけど、俺が聞きたいのはメンバーとか相手チームの事だよ」
はじめ「そっちか。大したヤツいなかったよ。でも味方の方は俺以外全員先輩だったけど、先輩面するヤツは1人もいなかった。まぁ、打つ方でも投げる方でも負ける気はしなかったけど」
慎太郎「なるほどな。どおりで全試合4番で出れてたわけだ」
実ははじめは、あれから本格的に投手をやり始め、その剛速球で小学校卒業を待つ硬式野球チームが沢山あったが、中学生に上がると、学校の野球部に所属していた。
中学1年生から投打にズバ抜けた存在であったが、嫌いな先輩を早く追い出す為に、県大会の準決勝の大事な試合で”わからないように”痛打を打たせて、早く大会を負けたりしていた。
2年生に上がっても同じ事をしていたが、才能に気付いた日本代表の首脳陣が黙っていなかった。
はじめは前年に行われた硬式での日本代表に選抜され全試合4番DHで出場していたのだった。
それも、全試合で本塁打を放つ活躍を見せており、はじめは徐々にメディアからも取り上げられ始めていた。
はじめ「高校までは硬球で投げないって決めてるし、何よりお前以外に捕ってもらいたくないんだよ」
慎太郎「はっ!それは光栄だね」
武市慎太郎、彼にも変化があった。
実は小学4年生の時にチーム事情で捕手をやり始め、その才能は一気に開花。
その洞察力とキャプテンシー、指揮力や配球能力の高さ、動体視力にブロッキングやキャッチングの技術力の高さ、肩の強さと正確性…全てにおいて理想のキャッチャーそのものだった。
小学5年生の時には既に加古熊ドルズのキャプテンを務めていた。
これには当時監督をしていた慎太郎の父親も驚きを隠せなかった。
さらにバッティングにも磨きをかけ、広角に長打を打ち分け、必要な時には本塁打を打ち、全く三振をしない3番打者として、現在ははじめの前を打ち、対戦した後の相手チームのバッテリーからは、はじめよりも怖い存在として印象に残る程だった。
“キーン、コーン、カーン、コーン”
授業が終わり、野球部の練習が始まると、その練習風景からは、まるで軍隊の訓練を思わせる程、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
そんな中でも、はじめと慎太郎は特に目立っていた。
そしてまたも、我々は衝撃を目にする事になる。
それははじめのバッティング練習の時だった…
有村先生「よし、次沖田!」
はじめ「うっす」
なんとはじめは左打席に立ち、バッティングをしていたのだ。
しかも打球はほとんどがグラウンド外の防球ネットの上部に当たる大飛球。
実は小学5年生の時に、当時チームで1番足が早くなったはじめに武市監督から左打ちを勧められ、最初は全くバットにボールを当てることすらできなかったが、持ち前の直向きさで左打ちをモノにし、完全に左打ちに転向した。
しかも長打力は右打ちの時よりも、遥かに凄まじいものとなっていた。
そんな練習にも、2人のギャラリーはついて回っていた。
投球練習に入るはじめ。
ブルペンでのはじめの性格はまるで別人。
女子生徒B「沖田さーん、こっち向いて!」
はじめ「うっせぇぞ!!テメェら俺を怒らせてぇのか!さっさと帰れ馬鹿野郎!!」
慎太郎「…あーあ、またやってるよ。仕方ない…」
慎太郎は立ち上がり、はじめに指示を出す。
慎太郎「おい!足使えてねぇぞ!もっと集中して投げろアホ面!」
はじめ「あぁ!?くだらねぇこと言ってねぇで、うんこ座りしてろよボケが!…次ゆるいカーブいくぞ」
慎太郎「おう」
次の瞬間はじめが投げたのはゆるいカーブ、ではなく、全力ストレートだった。
“シューーーッ!!!”
慎太郎「うわっ!!」
これにはさすがの慎太郎も反応できなかった。
それもそのはず、はじめのストレートはスピードガンで計測すると最速153キロで、ノビやキレも球威も既にプロ級。
一瞬びっくりして言葉を失ったが、すぐに怒りツッコミスイッチが入る慎太郎。
慎太郎「あっぶねぇな!殺す気がテメェ!!」
はじめ「軟式だから死なねぇよ」
練習が終わると、はじめと慎太郎はいつものように自主練を2人でする。
その頃にはギャラリーや他の人は誰もいなくなっていた。
はじめ「慎太郎、お前またミットの手入れサボったろ?」
慎太郎「は!?毎日磨いてるわ!」
はじめ「オイルの拭き取りが甘いんだよ。ボールに微妙にオイルがついてたぞ」
慎太郎「え?まじ?」
はじめ「オイル塗るだけが手入れじゃねぇよ」
慎太郎「それはわかってるけど…」
自主練を終えて自宅に向かって歩く2人。
?「はじめ!慎ちゃん!お疲れ様」
後ろから2人に向かって声をかける人物がいた。
その人物はトップアイドル顔負けの可愛さと美しさを兼ね備え、さらにトップモデルのようなスレンダー体型で、長くていい匂いを放つ髪をなびかせながら美しく歩く正真正銘の美少女だった。
はじめ「祐衣!今日も迎えに来てくれたんだ!嬉しー」
そう、その美少女こそ祐衣だ。
慎太郎「本当毎日毎日ご苦労だね、祐衣ちゃん」
祐衣「2人が人気すぎて、学校じゃ近づけないからね」
慎太郎「まぁね。アイツらに祐衣ちゃんとコイツが付き合ってるって知られたら、絶対面倒だしね」
はじめ「本当。迷惑極まりないよ。俺は祐衣以外の女に興味ないのに」
祐衣「女の子に人気なんだからいいじゃないの。でも、あれはちょっと、私も怖いって思うけどね」
3人は談笑しながら一緒に帰宅した。




