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第7話 夢の継承と恋の始まり

はじめといおこが昼食を終え帰宅すると、自宅の扉の前には慎太郎と祐衣の姿があった。


はじめ「慎太郎くん!祐衣ちゃん!」


慎太郎「はじめくん!大丈夫なの?」


はじめ「あ~、うん。心配かけてごめんね。俺もう死なないよ」


いおこ「慎太郎くん、心配してくれてありがとう。そっちの子が、小林祐衣ちゃんね」


祐衣「…え?…あ、はい。こ、こんにちは」


いおこ「菊田先生から聞いたよ。はじめを助けてくれたって。本当にありがとう」


いおこは2人に深々と頭を下げる。


祐衣「わ、私は、別に…」


はじめ「祐衣ちゃん、心配かけてごめんね。これからは何かあったら、まず2人に相談するよ」


慎太郎「次死のうとしたら許さないよ。俺も祐衣ちゃんも」


祐衣「あの!沖田くん、さっきは、その、怒ってしまって、ごめん。私、沖田くんが辛い気持ちだったの知ってたのに」


はじめ「祐衣ちゃん、俺祐衣ちゃんの事好きだよ」


祐衣「え?」


慎太郎「えっ!?」


いおこ「まぁ!」


まさかのはじめの告白に3人は、驚いた。


はじめ「母さん以外に、あんなに俺の事考えて泣いてくれたの祐衣ちゃんだけだし。俺の話いつも笑って聞いてくれるし、可愛いから」


祐衣「え、あ、いや、何で今言うの!?」


祐衣は顔を真っ赤にして慌てふためいた。


すると慎太郎は、”爆弾発言”をする。


慎太郎「え?付き合うんじゃないの?」


いおこ「慎太郎くん!まだそれは早いんじゃないの?!」


慎太郎「何言ってんのおばさん!はじめくんと祐衣ちゃんが好き同士なんだったら年なんか関係ないよ!で、2人共どうなの?」


はじめ「俺は好きに決まってんじゃん!祐衣ちゃんは世界一の人だよ!」


祐衣「!?世界一って…ちょっとやめてよ…」


いおこ「ほら、2人共!祐衣ちゃんが困ってるじゃないの!いいかげんにしなさい」


祐衣「大好きだよ!”はじめくん”の事!」


祐衣は大声で自分の気持ちを伝えた。


そして祐衣は涙を流し始めた。


祐衣「だから、嫌だったんだよ。大好きなはじめくんが私の目の前で死のうとしたんだよ!どんな気持ちだったかわかる?」


いおこ「祐衣ちゃん…」


はじめ「…ごめん」


祐衣「すごく辛かったんだからね!お父さんもYU-TOも死んで、目の前ではじめくんに死なれたら、私……次あんな事したら、結婚なんか絶対してあげないからね」


はじめ「ごめんなさい………え?」


いおこ「ふふっ良かったじゃない!はじめ!祐衣ちゃん、気に入ったわ!祐衣ちゃんみたいな子なら大歓迎よ!」


慎太郎「へへっ!はじめくん!祐衣ちゃん!よかったね!」


慎太郎の爆弾発言からのやや強引なアシストで、はじめと祐衣は付き合う事になった。小学3年生にして。。。


しかし1つ問題が起きる。


それはその日の夕方の練習で顕になる。


斉藤コーチ「次、ショート、行くぞ!」


はじめ「はい!」


武市監督「ん?はじめくん、今日はやけにエラーの回数が多いな…どうしたんだ?」


いつもの堅実な守備は見られず、武市監督や斉藤コーチ、チームメイトまでもが怒るどころか、心配になっていた。


そんな中、慎太郎だけははじめに檄を飛ばしていた。


慎太郎「なにやってんだよ!グラブ出すの遅いよ!これじゃ練習にならないじゃないか!!!」


はじめ「わ、わかってるよ!」


慎太郎「わかってるなら、何回も同じミスしてちゃダメじゃないか!気合入れろよ!もっと!!!」


慎太郎には何となくはじめの心に空いた穴の大きさがわかっていた。


それは祐衣と付き合った今でも塞ぎきれない程の巨大な穴だってことが。


だからこそ、親友の心に空いた巨大な穴を埋めるために誰よりも檄を飛ばしていた。


慎太郎ははじめの救い方がわからない以上、そうするしかなかった。


バッティングでも、珍しく内野フライを打ち上げる事が多く、攻守にわたって、はじめらしさが見られなかった。


練習終わり、慎太郎がはじめに声をかける。


慎太郎「はじめくん、やっぱり全然大丈夫なんかじゃないじゃん。しばらく休んだ方がいいよ」


はじめ「いや、全力でやってるんだけど、今日はちょっとおかしくて。明日からちゃんとやるから、心配しないで」


はじめは慎太郎の考えた通り、かなり悩んでいた。


心の穴は本人でも気付かないほどのだった。


全力でやってるのに、足が手が腰が全くついてこない。


翌日も、同じミスを繰り返した。


日曜日になり、珍しく野球が休みだった為、約束通り祐衣と一緒にはじめの部屋でHDのCDを流しながら、はじめ自作のギターを祐衣に見せた。


祐衣「え?!これはじめくんが作ったの?!しかも幼稚園の時に!?凄すぎない?」


はじめ「でしょでしょ?でね、このステッカーも自分で作ったんだ!」


祐衣「凄い!」


楽しく日曜日を過ごしたはじめだが、やはり心の穴は空いたまま。次の週も同じことの繰り返しで、ついに武市監督から呼び出される。


武市監督「沖田!次の試合はお前は出さない!レギュラーとして次は出れるなんて思うな!ベンチでしっかり頭冷やせ!」


はじめ「はーい」


武市監督はその日の帰宅後に慎太郎と話をしていた。


武市監督「いいのか?はじめくんを外しても」


慎太郎「これぐらいやらないと、はじめくんを休ませてあげられないじゃん」


実ははじめのレギュラー剥奪を武市監督に進言したのは、慎太郎だった。


そして、試合の日がやって来る。


はじめはベンチで試合の様子を眺めていた。


はじめ「だっさー。何やってるんだろう、俺」


斉藤コーチ「ほら、沖田もしっかり声を出して集中しろ!」


はじめ「うぃーっす。どんまーい」


その様子を心配そうに宗一郎といおこも見守る。


宗一郎「何か様子おかしいな、はじめ」


いおこ「はじめ…」


結局はじめは出ることはなく試合が終わり、その夜に誰かとの連絡を試みる宗一郎。


宗一郎「…実は息子を救ってもらいたくて、連絡させていただきました…はい…本当ですか!?はい、明日ですね!わかりました、ありがとうございます!宜しくお願いします!」


電話を切る宗一郎。


宗一郎「いおこ!やったぞ!」


いおこ「まさか、本当に連絡が繋がるなんて…」


宗一郎「でもこれでダメなら、手の打ちようがないな…」


いおこ「いや、これなら大丈夫。まさかあなたがこんな提案するなんて思ってなかったわ」


宗一郎「まぁ、俺もたまには父親らしい事したかったからな。でも、今は”あの人”に賭けるしかないか」


いおこ「そうね」


次の日、はじめは野球の練習に向かう為に、学校が終わったら走って帰宅しようとしていた。


慎太郎「はじめくん!父さんが今日は練習中止にするって言ってたよ」


はじめ「え?なんで?こんなに晴れてるのに?」


慎太郎「なんか父さんもコーチも皆仕事なんだって。だから今日は家に帰って自主練だって」


はじめ「ふぅ~ん。まぁいいや」


練習の中止を慎太郎に知らされ自宅に戻る途中のはじめ。


はじめ「慎太郎くん、何考えてるんだよ…何か知らないけど、嘘が下手なんだよな〜。今日は祐衣ちゃんと遊ぼうかな〜…ん?」


自宅の前に到着すると見知らぬ人が、扉の前にいた。


はじめ「誰だあの人?」


はじめは怪しいと思いながらも、扉の前の人に声をかける。


はじめ「あの!ここ俺ん家だから!邪魔だよ」


?「あぁ、こんにちは。君がはじめくんかい?」


はじめ「何で俺の名前知ってるの?誰?」


?「自己紹介がまだだったね。僕の名前は林公一。YU-TOの弟だ」


はじめ「!!YU-TOの、弟…」


はじめの鼓動が急に早くなる。


はじめは冷静を装いながら、林に問いかける。


はじめ「YU-TOの弟さん、会えてうれしいけど、何の用?」


林「あぁ、君のお父さんから昨日連絡があってね。君を救ってほしいって」


はじめはムッとする。


はじめ「俺を救う?別にもう大丈夫だよ。死ぬ気なんか無いし。それに何してもらってもYU-TOは帰ってこないんでしょ?悪いけど俺レギュラーから外されたから自主練しなきゃいけないんだ」


林「まぁまぁ、そんなに邪険にしなくてもいいじゃんか。君に付いてきてもらいたい場所があるんだ。今日このあとにね。お父さんやお母さんには話ししてるから、ね!」


はじめ「どこなの?その場所って?遠い場所なら行かないよ」


林「行けばわかるよ」


林ははじめを車に乗せて走り出す。


はじめ「………これって誘拐じゃないよね?」


林「はっはっはっ!そんなわけ無いじゃん!笑。心配ならそこに僕の携帯置いてるから、君のお父さんに連絡してみるかい?」


はじめは助手席から林の方を見る。


はじめ「!?YU-TO…」


林の横顔にYU-TOが重なり、はじめはあからさまに動揺する。


林「?あぁ。一応YU-TOは僕の兄さんだからね。似てるって思われてもしかたないよ」


そんな会話をしながら車を走らせること、1時間。とある高級タワーマンションに到着した。


はじめ「どこに連れてきたの?」


林「ここはね、高級タワーマンションだよ」


はじめ「そんなの見ればわかるよ」


林「そうだよね。まぁ、もうすぐ着くから」


そして林が案内した一室に到着する。


林「ここはね、兄さんが死んだ場所だよ」


はじめ「え…YU-TOが、ここで?」


林「そう。そしてここは兄さんが住んでた場所でもあるんだ。今日ようやく入れる様になって、明日片付ける予定なんだ」


はじめ「YU-TO…」


はじめは言葉を失った。


憧れ続けていた人の住んでいた場所に来られた事、しかしそこは憧れ続けていた人が死んだ場所。


複雑な感情で言葉が出なかった。


林「ここに来たファンは君が最初で最後だね。少しここで待ってて」


林ははじめにそう言い残し、別室に行った。


はじめは言葉を失いながら立ち尽くす。


林「あ!はじめくん、こっちおいで」


林がはじめを別室に呼んだ。


林「これ!見覚えないかい?」


はじめ「!!これは、あのギター……」


はじめが見せられたギターは、はじめが小さい頃にテレビでYU-TOが使っていた本物のギターだった。


林「君が作ったギター、見せてもらったよ。正直言って僕も鳥肌立ったよ。本当に弟として、まっすぐに兄を誇らしいと思った。よかったら触れてみるかい?」


はじめ「……いいの?」


はじめはYU-TOのギターに触れると、今まで野球に勉強に頑張ってきた事と、テレビで見た憧れのYU-TOの思い出が蘇ってきた。


はじめの頬に涙がこぼれだす。


はじめ「YU-TOは、死んだんだ。俺これから、何をしたらいいの?どうすればいいの?俺は何がしたいのかわからないんだ。野球上手くなっても何もうれしくない。痩せてもYU-TOに会えない……」


はじめは心の置き場所を完全に見失っていた。


林「…兄さんは罪深いよ。こんな小さい子の夢と目標を同時に奪ったんだ……そうだ!はじめくんに見せようと思ってたものがあるんだった!」


そう言ってクローゼットの中を漁りだす林。


林「…あった!はじめくん、これ見て」


林は古いアルバムをはじめに渡した。


それには幼い時のYU-TOと林が仲良くキャッチボールをしている写真やYU-TOが野球をしている写真でいっぱいだった。


はじめ「これは…」


林「そう、僕も兄さんも野球やってたんだ。小学生まではね。でもさ、2人共運動が全くダメで、試合には最後まで出られなかったんだ。兄さんがロックに出会ったのは中学生の時。アメリカ旅行に行った時にホテルのテレビで見たロックバンドに魅了されたのがきっかけで、ギターを始めたんだ。そのバンドの名前は忘れちゃったけど」


はじめ「そうだったんだ……」


林「はじめくん、もし君がまだ兄さんの事を思い続けているなら、お願いしたいことがあるんだ」


はじめ「俺に?」


林「実はね、君と同じように兄さんの熱狂的なファンで後追い自殺をしようとする人がたくさんいるんだ。その人たちにとっての”希望”になってほしい」


はじめ「!?」


林「君の小さい時の写真も見せてもらったよ。あれだけ大きかった子がここまで引き締まった体になるまでには、きっと想像を絶する努力をしたんだろうなって事は僕でもわかる。さっき会ったばっかりだけど。だからお願いしたいんだ。はじめくんに」


はじめ「俺に…できるかな?」


林「君にしかできないんだ。だから兄さんが果たせなかった、全世界を魅了する存在になるって”夢”をはじめくんに叶えてもらいたい」


はじめ「全世界を魅了する……」


林「そう。兄さんの意思を、夢を、君に継いでもらいたい。お願いできるかな?」


はじめ「…YU-TOの夢を…継ぐ…」


はじめは拳を握りしめた。


はじめ「やってやる…全力で、YU-TOの意思を継いで世界を驚かせてやるっ!」


林「はじめくん!」


はじめ「ありがとう。公一さん。俺YU-TOみたいになれるかわからないけど、何事にも全力でぶつかって世界を驚かせるようになってみせるよ!…で、一つ俺からもお願い聞いてくれる?」


林「なんだい?」


はじめ「YU-TOのお墓に行きたい…」


林「うん、じゃあ行こうか」


2人はYU-TOの墓前に来た。


そこで、はじめはまた大泣きする。


はじめ「YU-TO...会いたかったよ…なんで俺が大人になるまで待ってくれなかったんだよ!俺、絶対世界一カッコいい男になるから!だから、だから帰ってきてよ!YU-TOぉぉっ!!」


林「はじめくん…」


その様子を影からこっそり見守っていた宗一郎といおこ。


いおこははじめの涙の叫びを目の当たりにして、改めて自分が過去にやってしまった事を後悔した。


いおこ「私ったら、はじめがこんなに想っているのに、それを取り上げるようなマネをして…」


宗一郎「いおこ、そう自分を責めるな。帰ったら改めて2人で謝ろう」


いおこ「そうね…」


それから宗一郎といおことはじめは帰宅した。


はじめ「ただいま、って2人共何で玄関にいるの?」


宗一郎「はじめ、すまない。お前からHDやYU-TOさんを取り上げるようなマネをしてしまって」


はじめ「何言ってんの?やめてよ、俺そんな小さい時の事気にしてないよ。それよりも、ありがとう、父さん。俺新しい目標ができたよ」


宗一郎「目標?」


はじめ「うん。それは中学終わるまでは野球と勉強に集中する。野球も勉強も一切気を抜かない。勉強では学年1位、野球では、まずは中学までに日本一になる。だからロックは一旦禁止する」


いおこ「それでいいの?はじめ?ロックを禁止するって…YU-TOさんを追いかけるんじゃなかったの?」


はじめ「うん、そうだよ。だけど公一さんが教えてくれたんだ。YU-TOも野球やってたって事とロックと出会ったのは中学生からだって。俺は中学終わるまでは絶対にやらない。ロックを目指すのはそれからでも間に合うって、公一さんも教えてくれたし」


いおこ「そう…はじめ、何度も言うけど」


はじめ「無理だけはしないでね、でしょ?でも無理しないと1番にはなれないんだよ、きっと。…心配しないでよ。ご飯食べてたら絶対死なないんだから!」


いおこ「はじめ…」


宗一郎「そうか、なら、今日は飯食って早く寝て、明日に備えるぞ!外食でも行くか?」


いおこ「!!外食は絶対ダメっ!!!!」


翌日の練習、はじめの動きは前日までの動きとはまるで別人だった。


斉藤コーチ「次!ショート、いくぞ!!」


はじめ「はい!こい!!」


難しい打球も柔らかいハンドリングと素早くて正確な送球で捌く様子から、慎太郎は安心した。



慎太郎「はじめくん、立ち直ったみたいだね」


慎太郎はようやく戻ってきた“相棒”に嬉しさが爆発しそうだった。



あれから時は経ち………



はじめ「母さん、行ってくるよ」


いおこ「いってらっしゃい。気を付けるのよ」


はじめ「あぁ」


はじめたちは中学3年生になっていた…


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