第31話 怪物ルーキー達の衝撃!!
ニューヨーク。
高層ビル群が空を突き刺し、活気と喧騒が街を支配する。
その雑踏の中に、沖田一の姿はあった。
はじめ「とうとう来たぞ。アメリカ!!」
目に映るすべての光景に心を揺さぶられながら、はじめは静かに呟いた。
はじめ「すっげー」
その時、屈強そうな男がはじめに話しかけてきた。
彼こそが、はじめを“スカウト”した張本人、ファンだった。
ファン「君がハジメ、オキタくんだね」
はじめ「!!は、はい。“で、デケェ…”」
ファン「私はニューヨーク・ドルズ海外担当スカウトのファンだ。よろしく」
はじめ「よろしくお願いします」
ファン「では早速だが、今日泊まってもらうホテルに行こうか。長旅で疲れもあるだろうから、今日はそこでゆっくり休んで、明日テストを受けてもらう」
はじめ「はい“送迎付きかよ…ただプロテストを受けに来ただけなのに、この待遇はやばいな……”」
実はあの手紙には送迎付きであることが記載されていたのだが、はじめはその部分を見落としていた。
その日は球団が用意した宿泊施設に泊まり、翌日、運命のプロテストが行われることになっていた。
翌朝、思いのほかよく眠れたはじめは、スカウトのファンと共に“テスト”が行われるスタジアムへと足を運んだ。
そのスタジアムにはじめは驚きを隠せない。
はじめ「ここは!ドルズスタジアム!!!」
そう、何を隠そう、名門、ニューヨーク・ドルズの本拠地、ドルズスタジアムだったのだ。
しかしそれと同時に違和感を感じる。人が全くと言っていい程いないのだ。
はじめ「人がいない……どういうことだ?」
ファン「さぁ、ハジメ、中には入って準備が終わったら、ウォーミングアップを始めるんだ」
はじめ「ファンさん、これは」
質問しようとするはじめの言葉を遮り、ファンははじめを急かした。
ファン「すまないが、時間があまりないんだ。さぁ早く準備するんだ」
はじめは何が何だかわからないまま準備を始める。
そして球場に足を踏み入れると、更なる違和感を覚えた。
バッターボックスにはバッティングゲージ、マウンドには打撃投手用のネットとカートに入った大量のボールが用意されているだけ。
人は誰もいなかった。
とにかく違和感を感じながらもウォーミングアップと軽いウェイトトレーニングとストレッチを行っていると、ダグアウトからファンがゆっくりはじめの元へやって来た。
そしてファンの口から明かされたのは、これまた驚きの事実だった。
ファン「驚いただろ?今日のテストの参加者は君だけだ」
はじめ「俺だけ?」
ファン「そうだ。君が中学生の時から、我々は君の類まれなる素質に注目していた。特に日本代表としての君のホームラン。あれには正直驚かされた。君の最後の甲子園の後に我々もすぐに君へのアプローチをしたかったが、君は日本でプロ志望届を提出したって聞いて手が出せなかった。それで手紙と招待状を送ったんだ。だから君には気の毒だったが、我々はホッとしたよ。このテストはあくまでも建前だ。本当は君の実力を知るために、ここに君を呼んだんだ」
はじめは心底驚いた。
それと同時に幸福感と不安が入り交じる複雑な心境になった。
そしてはじめは決意する。
はじめ「ありがとうございます。貴方たちの期待をいい意味で裏切ってみせますので、目ん玉見開いて、よく見ておいてください」
大口を叩いたはじめは、最初にバッティングのテストに挑んだ。
まずは左打席。
最後の甲子園から一際逞しくなった体からは、並の打者ではない事が誰の目からも明らかだった。
ファン「……なんとまぁ……しかし何故彼が日本でプロ入りできなかったんだ?あれだけの打棒ならこっちでもスグにスカウトされるはずなのに……」
そう首を傾げながらはじめの打撃を見つめるファンの目の前では、豪快なスイングから次々とスタンドの上段まで打球を運ぶ彼の姿があった。
しかしここまではファンの予想通りだった。
次にはじめは右打席に入った。
そこでファンの目の前には衝撃の打撃が繰り広げられる。
はじめ“見せてやるよ、ファンさん。貴方がスカウトした男の本当の実力を!!”
初球は内角高めの難しいボール球を芯に当てながら鋭い打球のファーストゴロ。
次はワンバウンドしそうな内角低めのボール球を芯に当てながらのセカンドゴロ、次はサードゴロ、ショートゴロ……。
ファン「!?こ…これは単なる打ち損じなんかじゃない!コースも球種も球速さえもバラバラの中で、まるでバットでボールを操っているかの様だ!なんてヤツだ!!!」
ファンははじめの異次元のバットコントロールを目の当たりにして鳥肌が立った。
そして最後の5球は、鋭い打球をバックスクリーンの全て同じ箇所に突き刺して見せた。
ファン「長打力も素晴らしい!予想外だ!これは即戦力、とんでもない逸材だぞ!」
衝撃の打撃テストを終え、次はポジションを見極めるテストが行われた。
まずは外野。
はじめは人生で外野を守った事は一度もなかった。
使い慣れた投手用のグラブで外野のテストに挑むはじめ。
しかし初めての外野。
打球判断はイマイチだった。
はじめ“やっべー…外野なんてやったこと無いから、全然打球感覚が掴めねぇや…だったら、足と肩でカバーするまでだ!!”
それでも足の速さと肩の強さはメジャーでもトップクラスだと、ファンは評価する。
ファン「ふむぅ…彼の足と肩はこのメジャーに置いても5本の指に入るほど優れている…だが私は彼が高校1年生の時にショートを守っていたことも知っている…次は内野のテストだ。じっくり見させてもらおう」
続いて内野、ショートのポジションでノックを受けた。
そこでファンはまたしても衝撃を受ける。柔らかいグラブ捌き、送球の素早さとコントロール、捕球の正確さ、冷静な打球判断と間合い。全てがメジャー級のクオリティ。
ファン「す、素晴らしい…これは即戦力と言ってもいいかも知れん。この慣れない天然芝のグラウンドで、あれだけのパフォーマンスをするとは!!これは即メジャーに合流させないと!!」
ショートのポジションでほぼ決まりかけましたが、球団からの確認項目にはキャッチャーとしてのテストの指示もあった為、キャッチャーのテストも行った。
ファン「すまない、はじめ。一応キャッチャーとしての試験もあるんだ。念の為受けといてくれ」
はじめ「わかりました。ミットなら準備してますから、大丈夫ですよ」
そこでは、またしてもファンの度肝を抜くことになる。
キャッチャーとしてのテストが始まる。
ブロッキング、キャッチング、スローイング、全てにおいて高クオリティ。
そしてここからが驚きだった。バッテリーを組む投手と相手打者を立ててゲーム形式で行われる。
するとはじめは僅かな投球練習で投手の特徴や能力、性格までも見抜き、巧みな声かけで投手のポテンシャルを最大限に引き出した。
実はバッテリーを組んだ投手はルーキーリーグの選手だった。その投手の投球は、ファンを驚かせた。
ファン「崖っぷちの選手がここまでの投球をするとは」
それは投手出身のはじめならではの技術だった。
はじめ「いいボールだった。ありがとう。最高のピッチングだったよ。お互い早くメジャー上がろうぜ!」
はじめはバッテリーを組んだルーキーリーグの選手を称える。
その様子を見ていたファン。
ファン「ふっ!通訳無しでもしっかりと会話ができているな。若いのに大したものだ……ん?そ、そういう事か!ハジメが彼のポテンシャルを引き上げたんだ!そこまでの選手だったのか、ハジメは!!」
全てのテストを終えたはじめ。
確かな手応えを感じていた。
するとファンははじめのプレーを称えた。
ファン「正直驚いた。全てにおいて、我々の期待を遥かに上回っていた。それと同時に日本のプロ野球のスカウトが君を指名しなかった理由がわかったよ。君の才能を扱いきれないからだってね」
はじめ「ファンさん、ありがとうございます」
ファン「そして君に伝える事がある。今すぐにキャッチャーとしてメジャーに合流してくれ!」
はじめ「はい……え?今なんて……」
ファン「君は即戦力、いや、このチームの正捕手だ。今すぐメジャーチームに合流するんだ!!」
はじめ「えぇーーー!!」
これにははじめも心底驚いた。
はじめ“ま、まじかよ、いきなりメジャーのロースター枠に挑戦って…でもまぁ、やるっきゃない!!死ぬ気で学んでやる!!”
いきなりメジャーのロースター枠への挑戦権を与えられたはじめ。
メジャーチームがキャンプを行う施設にはじめは足を運ぶ。
すると1人の日本人選手がはじめに話しかけた。
清井「君が沖田くんだね?」
彼の名は清井和喜。右投げ左打ち。
日本のプロ野球でも数々の記録を打ち立て、メジャーでも活躍する世界でも指折りのスラッガーだ。
突然スター選手に声をかけられたはじめは、そのスターのオーラに圧倒され、声が裏返った。
はじめ「あ、初めまして。清井さん。僕が沖田一です。こないだピッチャーやめました」
そんな緊張しているはじめの姿に清井は優しく声をかけた。
清井「ハッハッハ!そんなビビらなくても君を食ったりはしないから、大丈夫だよ。気楽にやろうぜ。ここにはスターがゴロゴロいるが、皆情に熱い、いいヤツらだ。何かあったらいつでも相談乗るぜ」
清井ははじめの肩にそっと触れ、その場を後にした。
はじめ「……ビビったー!いきなり清井との対面はダメだよー。ちょっと小便ちびったかも」
そう思って自分のパンツを確認し、失禁してない事を確認しはじめは安堵した。
はじめがプロテストで衝撃を与え、ニューヨーク・ドルズのフロント陣の度肝を抜いている頃、慎太郎と田中もまた、衝撃を与えていた。
行われた紅白戦に8番キャッチャーとして出場した慎太郎。
実は慎太郎のキャッチャーとしての評価はあまり高くなかった。
はじめと共にずば抜けた打撃でチームを牽引した事の評価は非常に高く、甲子園でははじめが投手として無双していた事もあり、キャッチャーとしての見せ場はほとんどなかった。
そして田中は9番センターとして先発出場していた。
ところが、この紅白戦からそんな下馬評は覆ることになる。
田中は第1打席からヒットを放ち、いきなり2盗、3盗を決め、守備ではその広い守備範囲と強肩、俊足を存分にアピールした。
そして回を追うごとに慎太郎の実力が顕になり、次第にまるで球場全体が慎太郎に支配されているのかと思うほどに卓越したゲーム展開を作り出す。
打撃では4打数4安打4二塁打の活躍、しかも全打席で10球以上ピッチャーに投げさせた上での結果に、このルーキーがただ者では無いこと各紙面が記すようになる。
“なんなんだ、あのルーキーは!?あの甲子園での伝説は沖田一の圧倒的なピッチングだけじゃなかったんだ!”
見たもの全員を意のままに操るような司令塔、武市慎太郎と俊足豪打のセンター、田中重久の存在感は日を追うごとに増していき、オープン戦でも結果を残し続けた為に開幕戦を慎太郎は3番キャッチャー、田中は1番センターとして迎えることになる。
相手は東京ブラックキャッツ。
東京ブラックキャッツには難舞高校出身の谷原雄平もいた。
谷原も開幕スタメンを勝ち取り、開幕戦を1番レフトで出場していた。
ブルーシャークスの先発は坂松。
場内アナウンス「1回の表、東京ブラックキャッツの攻撃……1番、レフト、谷原。背番号24」
谷原「久しぶりだね、武市」
慎太郎「谷原さん…お久しぶりです」
谷原“坂松さんはそう簡単に制球を乱すタイプじゃない。武市のリードの特徴を考えると……”
初球はスプリット。
“カーン!!”
慎太郎「!!」
結果は左中間を深々と破るツーベースだった。
慎太郎「………“さすが谷原さん。完全に読んでたな……”」
しかし2番打者、3番打者を連続三振に打ち取り、迎えたバッターは……
場内アナウンス「4番、サード、川瀬、背番号25」
慎太郎「“ここで川瀬さんか……相変わらずの鉄仮面だな……”」
2アウトランナー2塁の場面。
すると突如制球を乱す坂松。
2ボールからの3球目、慎太郎は立ち上がり、バッターの肩の高さにボールを要求する。
ところが投手の投げた球はベース付近でバウンドする。
坂松「し、しまった!!」
谷原“暴投?!”
それを絶妙なハンドリングで捕球し、そのままセカンドベースへ送球する。
谷原“!!”
するとベースカバーに入ったのはセンターの田中だった。
完全に意表を突かれた谷原はタッチアウト。
田中「へへっ!ここには武市だけやなくて、僕もおるんですよ、谷原さん」
谷原「田中!!……“やられた……ふっ、やっぱり一筋縄ではいかないか……”」
このプレーにはスタンドはどよめき、解説陣も含めた全員が騙されたトリックプレーは、まさに慎太郎の真骨頂とも言えるプレーだった。




