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第29話 大人の階段と新たな決意

甲子園の熱狂が冷めやらぬ頃、日本中を沸かせた最強バッテリー、沖田一と武市慎太郎は、すでに伝説として語り継がれていた。


優勝の余韻に浸る間もなく、二人は学校の屋上で今後の進路について語り合っていた。


慎太郎「お前ってやつは、いつもいつも伝説残しやがって。おかげでマスコミがうるさくてたまらないんだよ」


慎太郎は不いきな笑顔でこぼした。


はじめ「褒めてんじゃねぇぞ、気持ち悪い。テメェも人のこと言えねぇじゃねぇか」


慎太郎「は!……俺は、シャークスかキャッツに指名されるみたいだ。お前は?」


はじめ「さぁな。興味ねぇよ。どこ行ったって、お前とバッテリーは組めないんだ。何せお互いドラフト1位候補だからな」


慎太郎「確かにな」


静寂が二人を包む。


はじめ「……もうお前相手に毎日キャッチボールすることも無くなるな」


慎太郎「なんだよ、辛気臭えな。まさか寂しい何て言うんじゃないだろうな」


はじめ「……正直言って寂しいよ……」


はじめはそう言うと、立ち上がり、その場を後にした。


慎太郎ははじめの背中を見つめ、小声で呟いた。


慎太郎「……これからは、ライバルとして世界を騒がせようぜ、相棒」


そして、はじめの後を追うように教室に戻った。


その日の夜、自宅に戻ったはじめは、甲子園優勝時のウィニングボールを固く握りしめながら、天井を見上げていた。


はじめ「……もうあんなすげぇ球、二度と投げれねぇよ」


いおこ「はじめー!祐衣ちゃん来たわよー!」


祐衣がはじめの部屋へ入って来る。


祐衣「はじめ、甲子園優勝おめでとう!」


だが、大好きな祐衣が来たにもかかわらず、はじめはどこか素っ気なかった。


はじめ「あぁ。サンキューな」


その様子に祐衣は違和感を覚えた。


いつもなら、ボロボロ泣き出すか、抱き着いてくるか、いずれにせよ祐衣に“甘え”てくるのに、その時はベッドに横になって天井を見ていたのだ。


祐衣「どうしたの?優勝したのに、全然嬉しそうに見えないけど。悩み事?」


はじめ「そんなんじゃないよ」


祐衣「……何を考え込んでるの?」


はじめ「……投げれないんだ。もう」


祐衣「え?…投げれない?」


祐衣は戸惑う。すると突然、はじめが正気に戻ったかのように飛び起きた。


はじめ「……祐衣!!!祐衣じゃんか!!!見てた?俺の全力ストレートとホームラン!!!カッコよかったでしょ?凄かったでしょ???偉かったでしょ?????可愛かったでしょ??????」


祐衣は突然普段通りに戻ったはじめの姿を見て安堵した。


祐衣「ふふっ、見てたよ……全部ね。可愛くはなかったけど、最高にカッコよかったよ、本当によく頑張ったね、はじめ」。


祐衣ははじめに抱き着き、その頭を優しく撫でた。


祐衣「約束ね」


はじめ「……幸せ♡」


はじめは幸せを噛み締める。


すると祐衣は抱き着いたまま、はじめの耳元で囁いた。


祐衣「ご褒美あげる」


はじめ「はぁぁぁ…祐衣の声が気持ちいい♡」


そしてそのままはじめを押し倒し、唇にキスをした。


祐衣「……今日は好きにしていいよ。でも初めてだから、優しくして……」


はじめ「ゆ、祐衣…か、かわいい…祐衣……好きだ、祐衣ぃぃぃ♡♡♡」


照れながら呟く祐衣に、はじめは完全に理性を失いながらも、大好きな祐衣を労わりながら、優しく熱い、二人の初めての夜を過ごした。



翌朝、“初夜”を過ごし、何度も重なり合った二人は裸でベッドの中にいた。


はじめ「祐衣、大丈夫だった?」


祐衣「うん、はじめが優しくしてくれたから」


はじめ「よかった。本当にうれしいよ祐衣」


祐衣「私も……」


祐衣は突然ベッドから立ち上がり、服を着た。


祐衣「ねぇ、今からデートしよ」


はじめ「デート?どこ行くの?」


祐衣「秘密♡」


祐衣がはじめを連れてきたのは、“あの場所”、はじめが野球を始めるきっかけを作り、はじめが憧れ続けたヘビーメタルバンドHDの伝説のギタリスト、YU-TOの墓だった。



はじめ「なるほどな」


祐衣「実は私、ここに来たの初めてなの」


はじめ「そうなの!?意外だな」


祐衣「だから、ちゃんとYU-TOに私の事紹介してよ。自慢の彼女って♡」


はじめ「あぁ、そうだな。彼女の祐衣です。世界一可愛くて、美しくて、いい匂いがして、最高に優しくて、頼りになって」


祐衣「ちょっと…褒めすぎだから!そこまで褒められたら嘘っぽく聞こえちゃうじゃん」


はじめ「そっか……とにかく俺にとって最愛の人です」


祐衣は静かにYU-TOに語りかけた。


祐衣「……私もYU-TOの大ファンなの。YU-TOがいたから、私たち仲良くなれたんだよ。はじめは私にとっての恋人でもあり、恩人でもあるの。友達が出来なかった私と仲良くしてくれたり、私とお母さんが一番辛い時には救ってくれた。きっとYU-TOが出会わせてくれたんだよね。私、本当に今幸せだよ。ありがとうYU-TO」


そして一呼吸して再び話し始めた。


祐衣「ねぇ、はじめ。はじめがどんな道を進もうと、私はいつでもそばにいるよ。だから、自分の行きたい道、胸張って進んで行ってね」


はじめ「そういうことか。ありがとう祐衣」


はじめは改めて祐衣にお礼を言った。 


しかし次にはじめが口にした言葉に、祐衣は少し驚く。


はじめ「ね?最高の彼女でしょ?YU-TOさん。いつでも俺の事考えてくれてる。でも祐衣、俺の行く道は、もうとっくに決まってるんだ。最後の甲子園の前にね」


祐衣「え?どーゆー事???」


はじめ「んー……まだ秘密♡」


はじめは先ほどの“お返し”と言わんばかりにいたずらっぽく返事をした。


祐衣「えー、なにそれー」


はじめ「俺はYU-TOさんにも、YU-TOさんの弟さんにも約束したんだ。残されたYU-TOさんのファンにとっての希望の存在になるって。それに俺は祐衣の恋人なんだ。選んだ道で世界一にならなきゃカッコ悪いじゃんか」


それを聞いた祐衣は嬉しそうに微笑んだ。


祐衣「じゃあ、そのはじめが選んだ道っていうのが、次の私への“プレゼント”って事で、期待してていいんだね?」。


はじめ「当たり前だろ?今度のは、とびっきりビックリするぞー」


祐衣「いつもビックリさせられてるよ」


微笑ましい会話をしながら、はじめは最後にYU-TOに挨拶した。


はじめ「じゃあ、俺たち行きますね、YO-TOさん」


そう言い残し、YU-TOの元を去ろうとした時、はじめの心の中に声が聞こえた。


YO-TO『童貞卒業おめでとう、はじめくん。頑張るんだぞ』


はじめ「!!YO-TOさ……」


驚くはじめは振り返り、YU-TOの墓の方に目をやった。


はじめ「ふっ、ありがとうございます」


そう呟き、YU-TOの元を後にした。



YU-TOの墓参りをした翌日、はじめは驚きの行動に出た。


慎太郎、田中と共に高校日本代表として選出されていたはじめは、その選出を辞退することを表明したのだ。


理由は“肩痛”と報道された。


エースとして期待されていたはじめの辞退には、はじめを知る全ての人たちが驚きを隠せなかった。


これに一番驚いたのは慎太郎と田中、そして祐衣だった。


慎太郎は田中と共にはじめの家へ行き、問い詰めるように話し始めた。


慎太郎「おい!はじめ!どういう事だよ!日本代表辞退するって!答えろ!」


はじめ「うるせーな!肩が痛ぇって言ってんだろうがよ。甲子園1人で投げてたんだぞ。そりゃ痛みも出るってんだ」


田中「お前まさか、あの時無理してたんとちゃうやろうな?それで…」


はじめ「そんなんじゃねぇ。ほら、こんな所で油売ってんじゃねぇよ。お前ら日本代表だろ。練習してこいよ。」


はじめは慎太郎と田中を家から追い出した。


その日の夜、祐衣がはじめを尋ねた。


祐衣「ねぇ、あのニュース、本当なの?肩、痛めてるの?」


心配そうにはじめに問いかける祐衣。


はじめ「あー、祐衣にも心配かけちゃった感じ?ごめん、あれ嘘なんだ。てへっ」


祐衣「嘘!?」


祐衣は驚くと同時にはじめの軽い態度に怒った。


祐衣「なんでそんなくだらない嘘つくの?いったいどれだけの人が心配してると思ってるのよ!慎ちゃんだって、きっと心配してる。何か考えがあるなら言いなさいよ!」


はじめは少し考えて、口を開いた。


はじめ「祐衣には、そろそろ言おうか。何故俺がそんな嘘ついてまで日本代表を辞退したのかを」


祐衣「もったいぶってないで、早く言いなさいよ!」


はじめ「そう怒らないで、ちゃんと聞いて。祐衣、俺はもうピッチャーやる気なんて無いんだ」


これにはさすがの祐衣も驚きを隠せなかった。


祐衣「ピッチャーやる気ないって、どういう事?なんで?」


はじめは冷静な様子で話し始めた。


はじめ「俺、最後の甲子園、覚悟を決めてマウンドに上がったんだ。これが俺にとっての最後のマウンドだって。それは監督にだけは話してたんだ。どこか痛めてるとか、納得したピッチングが出来ないとか、そんなネガティブな考えじゃない。決勝戦のピッチングは、投げてる俺自身が一番興奮してたんだ。すげー球投げてるな、俺って。だから正直言って名残惜しかったよ。監督からもピッチャー続けろって言われたし」


祐衣「………」


祐衣ははじめの考えは理解できないが、最後まで黙って聞くことにした。


はじめ「でも、この先のステージで小前さんと本気の勝負したい…それに、慎太郎以外のキャッチャーに俺の球は捕ってほしくない……その事が頭から最後まで離れなかった。このままプロに行けば、間違いなく俺と慎太郎は違うチームに行く。だったらプロでしのぎを削るライバルでいれば良いって考える人もいるかもしれない。だけど俺の考えを理解して、上手く配球出来るのは慎太郎しかいないんだよ。それじゃダメなんだ。それじゃいつまで経っても、小前さんには追いつけないし、世界一カッコいい野球選手になんかなれないんだ。その考えが頭から離れなかった」


はじめは固く拳を握りしめた。


はじめ「でも慎太郎が骨折してキャッチャーやった時に思ったんだ。慎太郎に負けたくない。慎太郎よりも絶対良いキャッチャーになってやろうってな」


祐衣は一の考えがやっと理解できた。


祐衣「まさか!」


はじめ「そう。これから俺が選ぶ道、それは世界一の打者になる事だ。日本代表でピッチャーやってる時間があるなら、俺は自分の打者としてのレベルを上げるために時間を使いたい。だから辞退したんだ。それをマスコミや慎太郎に話すと今回以上に余計な騒ぎが起こると思って、監督に話して肩が痛い事にしてもらった」


はじめの話を聞き終えた祐衣は静かに納得した。


祐衣「はじめも、私が知らない所でいろいろ考えてたんだね……ごめんね、頭ごなしに怒っちゃって」


祐衣ははじめの考えも理解せずに怒鳴ったことを謝罪した。


はじめ「黙っててごめん。驚かせたかったけど、まさか怒らせちゃうなんて思わなかったから」


祐衣「……今日は帰るね」


はじめ「えぇ?泊まっていかないの?」


祐衣「さすがに、お母さん心配しちゃうから」


はじめ「そう。寂しいな……」


すると祐衣ははじめの唇にキスをした。


祐衣「今日はこれで我慢して。いい子にして寝るんだよ♡」


そして祐衣はその場を後にした。


はじめ「祐衣…最高♡♡♡」


一方のはじめは初夜の事を思い出し、余韻に浸るのだった。

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