第26話 俺に任せろ!正捕手、沖田一!!
ある日の打撃練習中に悲劇が起こる。
“カーン”
“ゴキッ!!”
なんと慎太郎が自打球を左足に当て、その場に倒れてた。
斎藤「武市さん!!」
慎太郎の元へ駆け寄る斎藤。
田中「えぇか?構える時に全身の力抜いて、ピッチャーのモーションと同時に2歩ぐらい歩くねん。ほんで打球が飛んできたら…」
保村が守備練習中の田中の元へ駆けつける。
保村「田中さん!」
田中「なんやねん!今こいつらに守備のレクチャーしてるところや!」
保村「すみません!!でも武市さんが自打球左足に当てて倒れました!」
田中「なんやて!?」
慎太郎「これ、完全に終わった…」
打球が当たった瞬間そう感じた慎太郎。
田中「武市!!大丈夫か!?おい!救急車呼べ!早よせぇ!!」
するとトイレへ行っていたはじめがグラウンドに、戻ってきた。
はじめ「あー、腹痛ぇ…ん?何の騒ぎだ?……っ!!慎太郎!!おい田中!何があったんだよ!」
田中「あぁ沖田!!なんか自打球当てたみたいや!!今保村が救急車呼びに行っとる!」
はじめ「自打球って……慎太郎!この馬鹿野郎が!!おい斉藤!坂田!アイシングとテーピング持ってこい!!ほら、動くぞ慎太郎!」
慎太郎「うぅ!」
はじめは救急車が来るまでの間、慎太郎の手当てをしていた。
はじめ「うわぁ…“これ…完全に折れてる”」
慎太郎は救急車で病院に運ばれた。
そして慎太郎は左足首の骨折と診断されたのだった。
翌日の練習後、入院中の慎太郎の元にはじめが駆けつける。
はじめ「間に合いそうか?」
慎太郎「無理っぽいな」
するとはじめは静かなトーンで少しだけ説教する。
はじめ「ったく。ちゃんとレガースしねぇから骨折なんてするんだよ。練習だからって気ぃ抜いてんじゃねぇよ」
慎太郎「悪い。それよりもチームはどうだ?」
はじめ「あぁ?どーもこーもねぇよ…」
はじめはその後のチームの様子を慎太郎に語り始めた。
慎太郎が病院に運ばれると、はじめは状況を見て慎太郎は夏の予選に間に合わない事を悟っていた。
“はじめ「今からピッチングしたいんだが……坂田!ちょっと捕ってみてくれ!」
坂田「は、はい!」
はじめ「よし!ストレート行くぞ!」
“シュルルルルルルッ!!!”
坂田「!!ヒィィィっ!!」
坂田ははじめのストレートに完全にビビり、避けてしまった。
はじめ「げっ!!ま、マジかよ……洒落になんねぇよ……」
それもそのはず。
伸びやキレを失ったのは、あくまでもはじめと慎太郎の基準。
160キロに迫るはじめのストレートを捕れるキャッチャーは、難舞高校には慎太郎以外にいなかった。
田中「まったく、ウチのキャッチャーは武市以外はホンマに頼りないで!!坂田!お前ホンマキャッチャーやのにエースの球避けるってどういうこっちゃ!!ミット貸せアホ!…沖田ぁ!俺がお前の球捕ったるわ!!」
はじめ「あぁ?」
防具を付けた田中がブルペンにやってきた。
田中「よっしゃ!来い!沖田!!」
はじめ「……おい、かっこつける前に自分の足元よく見てみろ」
田中「ん?足元……あ!」
はじめ「右足にアップシューズ、左足にランシュって!捕る前からビビってんじゃねぇか!アホが!!」”
はじめ「ってことで、誰も俺の球捕れねぇんだよ。あれじゃ話にもならないね。」
慎太郎「だよな」
その後少し沈黙が続き、はじめが話し始める。
はじめ「俺がお前の代わりになろうと思う」
慎太郎は一瞬理解できなかった。
慎太郎「は?俺のかわりって、そりゃお前しかいねぇよ、4番打てるやつなんて」
はじめ「4番だけじゃねぇ、キャプテンとキャッチャーだよ!」
なんとエースのはじめがキャッチャーとキャプテンをやると言い出した。
それにはさすがの慎太郎も怒る。
慎太郎「馬鹿かお前!キャッチャーなんて簡単にできるもんじゃねぇんだぞ!」
しかし、はじめは言い返す。
はじめ「バカはテメェだろうが!こんな時期に気ぃ抜いて骨折なんかしやがって!テメェが骨折なんかしなかったらこんな事にはならなかったんだよ!」
慎太郎「はじめ……」
すると黙り込む慎太郎。
はじめは静かに続ける。
はじめ「それにさっきも言ったろ?俺の球捕れるヤツがいないって。それに嫌なんだよ。今さら他のヤツに俺のキャッチャーされるのが」
慎太郎「はじめ…」
はじめ「まぁ、お前が戻ってくるまで俺がしっかりお前の代わりにチーム引っ張っていってやるから、甲子園までには戻って来いよ、慎太郎」
そう言い残し、はじめは帰っていった。
はじめが慎太郎を訪ねた翌日、はじめは赤木監督に話をした。
はじめ「監督、慎太郎が戻ってくるまで俺がキャッチャーとキャプテンやります」
赤木監督「今さらお前らに何されても驚かない。やってみろ。ダメならいつでも変えてやる」
はじめ「……俺以外にアイツの代わりできるやつなんていませんよ」
はじめはそうと言い残し、その場を後にする。
赤木監督「確かにそうかも知れんな」
赤木監督そう呟いた。
そしてはじめは練習前に選手全員を集めた。
はじめ「みんなもわかってると思うけど、慎太郎は県予選は出られない。だからさっき監督に俺が変わりにキャッチャーとキャプテンをやると言ってきた」
田中「はぁ?何勝手に決めとんねん!そんな事、俺が許せへんで!」
はじめ「お!自ら名乗ってくれたか!田中、お前に副キャプテンやってもらおうと思ってたんだよ!さすが気が利くね関西人は!」
田中「ちょお待て!お前がキャプテンで俺が副キャプテンやる言うのはわかった。せやけどお前難舞のエースやろ!エースのお前がキャッチャーやるなんて、誰が納得するんじゃ!」
はじめ「田中……わかった。けど4日後の練習試合は俺がキャッチャーをやる。それでお前が納得できなかったら、坂田にやらせれば良い。それでどうだ?」
田中「うぅん……」
はじめ「頼む……わかってくれ…」
頭を下げてお願いするはじめ。
田中「沖田……」
田中はチームメイトの顔を一通り確認して、ゆっくり口を開いた。
田中「わかった。まぁ、今お前の球取れるキャッチャーがおらへんのは事実やし、いっぺんそれでやってみよう」
はじめ「田中……ありがとう」
そして、ブルペンに入ったはじめを見たチームメイトは戸惑う。
前日までマウンドに立っていたエースのはじめがミットをはめて、キャッチャー防具を着けて登場したからだ。
はじめ「保村、俺相手に投げてみろ」
保村「は、はい!」
はじめは保村のピッチングを受ける。
レギュラー陣全員がブルペンで見守る中、その銃声のような捕球音、ブレないキャッチング、ブロッキング技術、積極的な声出し…
誰もがその光景に驚きを隠せなかった。
田中「信じられへん……なんやねん、アイツ……なんぼほど引き出しあんねん……」
そしてその光景に保村も緊張してしまう。
はじめは保村に声を掛ける。
はじめ「緊張しすぎだ!相手は沖田一だぞ!こんな心強い味方他にいないんだぞ!」
すると保村も少し笑みがこぼれ、再びピッチングに没頭した。
みるみるうちに保村の球は威力を増して、まるでエース級の投手のようだった。
ピッチングが終わるとはじめは保村に声を掛ける。
はじめ「やるじゃないか。これなら甲子園でも活躍できる。結果は絶対出るから、もっと自信持って投げろ。そしたら緊張も無くなるから」
はじめは保村の胸を叩き、アドバイスを送った。
保村「は、はい!ありがとうございました!」
その光景はまさにキャプテンそのものだった。
4日後の練習試合、はじめは人生で初めてキャッチャーをやった。
ピッチャーは保村だった。
結果は上手く保村をリードし、相手打線を無失点に抑える好リードを見せつけ、はじめのキャッチャーに反対していたチームメイトを見事に黙らせたのだった。
そして慎太郎を欠いた状態で夏の大会は始まる。
はじめは背番号1ではなく、2を着けて出場した。
背番号1を託されたのは保村だった。
迎えた県予選の初戦。
スタンドには小前と飯島が見に来ていた。
小前「さ、あの三人がどう成長したのか見させても……おい!飯島!あれ、バックスクリーンのメンバー見てみろ!!」
飯島「ん?…えぇ!!沖田が…キャッチャー!?武市はどうしたんだ!?」
小前は難舞高校のベンチとスタンドを見渡す。
小前「何処にもいねぇ…それに沖田が背番号2だと!?……どうなってやがるんだ……」
何も知らない2人は戸惑っていた。
初戦の立ち上がり、いきなり制球を乱し四球でランナーを出すと、はじめはタイムを取り保村の元へ行く。
小前「……飯島、沖田のキャッチャー、どう見る?」
飯島「…案外適任かもな」
小前「俺もそう思う」
マウンドで緊張のあまり、目を泳がせる保村。
保村「す、すいません…やっぱり僕には」
はじめ「勘違いするな、お前には俺や頼もしいバックがいる。コントロールが効かないならど真ん中に構えるから、それ目がけて投げてみろ。お前の球なら絶対に送りバントすら出来ない。心配すんな、沖田一がそう言ってるんだ、自信持って投げろ」
保村「沖田さん…」
はじめ「テメェの投げる球をテメェ自身が信じねぇでどうすんだよ。もっと信じろよ、お前自身を」
はじめアドバイスを送り保村の肩を軽く叩き、守備に就いて、ミットを力強くど真ん中に構えた。
保村は言われた通りど真ん中へストレートを全力で投げた。
すると相手バッターはバントするがキャッチャーフライを上げてしまった。が、次の瞬間はじめはキャッチャーフライをあえてワンバウンドで捕球し、セカンドベースへ送球。
そして一塁へ送球が渡りダブルプレーを成立させ、その球場中の度肝を抜く。
小前「う…うそだろ!?アイツ…」
飯島「す、すげぇ…」
しかし、はじめは自分の指先に何か違う感覚を覚えていた。
はじめ「……この指先の感じ…これは……」
そしてその勢いのまま打線も爆発。
右打席に立ったはじめのホームランを皮切りに18得点を叩き出した。
完全に立ち直った保村は5回コールドながらノーヒットノーランを達成。
そして自信を手に入れた保村は、他の試合でも躍動し、全ての試合に先発し、全試合で完投する。
取られた失点は9と、決して少なくはないが、味方打線が大爆発したため見事に県大会を優勝した。
はじめは左右両打席で打ちまくり、打率.964、本塁打はこの大会だけで20本(右打席では2本)というケタ外れの成績で県大会を終え、甲子園への切符を手に入れた。




