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第25話 驚愕!沖田一、フルモデルチェンジ!!

さらなる高みを目指し、はじめと慎太郎はトレーニングに励む。


冬を越え、いざ春の甲子園へ調整を始める。


しかし、このトレーニングがはじめにとって運命を大きく左右することになるとは、誰も予想できなかった。。。



ある日の紅白戦のマウンドにはじめは立った。


予定は3イニング、いわゆる調整登板のようなものだ。


試合開始前、はじめは違和感を覚える。


“シューーーッ!!”


“パァーンッ!!”


はじめ「な、なんだ?この感じ……」


身体に痛みなどは全くない。


しかし自慢のストレートの感覚がおかしいことに気づく。


その異変を最初に感じ取ったのは、キャッチャーの慎太郎だった。


慎太郎「た…球が…伸びがない?どういうことだ?」


そう感じながらも試合を止めるわけにはいかない。


そして紅白戦が開始される。


その異変、違和感は当たっていた。


下級生に簡単にバットに当てられ続けたのだ。


ヒットにこそならないが、圧倒的な結果を出し続けて絶対的な自信を手に入れたはじめにとって、それはとてつもない違和感を感じると共に、まるで出口の見えないトンネルに立たされた気分に陥る。


慎太郎「どっか痛めてるのか?」


はじめ「いや、どこも痛くない。痛くないし全力でやってるんだけど、球が走らないんだ。こんな感覚初めてだ、、、クソッ!」


自分の膝を叩き頭を抱えるはじめ。


演技ではない、明らかに動揺するはじめを見て、ただ事ではないと察した慎太郎。



慎太郎「今日はもう投げるな。余計な雑念でフォームが崩れて怪我したら一生後悔してしまう。俺も今日は交代するから」


はじめは静かに頷いた。


慎太郎「田中!ちょっと来てくれ!」


田中「ん?なんや…って沖田!お前頭抱えとるやないか!大丈夫か?」


慎太郎「田中、悪いんだけど、はじめ体調が優れないみたいなんだ。俺、家まではじめを送っていくから、後のこと、お前に託していいか?」


田中「そら、かまへんけど、大丈夫なんか?」


慎太郎「あぁ、じゃあ頼んだぞ」


田中「わかった……おい、斎藤!お前次マスクかぶってくれ!ほんで保村!次の回からマウンド上がってくれ!………ほら、早よ準備せんかい!」



慎太郎は自宅に帰り、はじめの前年夏の甲子園での投球フォームをチェックする。


しかし、何も見つからない。


慎太郎「なんでだ?なんで球が走らないんだ?」


慎太郎もついに頭を抱える。


ここまで圧倒的な活躍で甲子園を騒がせた二人に、はじめのストレートが走らないという大きな壁が立ちはだかった。


慎太郎は焦り始める。


それまで、マウンドでのはじめの心理を何も言われなくても何となく察して常にサポートしてきた慎太郎にとっても、これはかなり辛いことだった。


しかし、慎太郎は主将でもある。


はじめの状況を把握した上で投手陣や野手陣にはじめに頼りすぎないように、とハッパをかける。 


慎太郎「ピッチャー陣!来てくれ!……いいか、はじめがいるからって遠慮も萎縮もするな!結果次第でお前らだってエースになれる可能性があるんだ。最初からエース奪うつもりで練習しろ!いいな?」


ピッチャー陣「はい!」


ある日の帰宅途中、偶然フラワーショップGirlsの前に立ち尽くす飯島の姿を目にする。


慎太郎「あれ?飯島さん!お久しぶりです!」


慎太郎が挨拶すると、飯島は驚いて動揺した。


飯島「あ、あぁ武市か!久しぶりだな」


慎太郎「飯島さん、こんなとこで何してるんですか?ってか何見てたんですか?」


慎太郎がガラス越しに飯島が見ていた方向に目をやると、一際美しい輝きを放ちながらも透明感があり、全男が憧れるほどの美しい女性店員がいた。


慎太郎「祐衣ちゃん!?」


慎太郎は祐衣がフラワーショップでバイトしているのを知らなかった。


飯島「祐衣ちゃんって、あの子と知り合いなのか?武市」


飯島が驚いた様子で質問する。


慎太郎「知ってるも何も幼馴染ですよ、あの子は。祐衣ちゃん!」


手を振りながら祐衣に声をかける慎太郎。それに祐衣も気づく。


祐衣「慎ちゃん!」


祐衣は嬉しそうに近づいてくる。


飯島「慎ちゃん!?」


飯島は動揺する。


そんな飯島をよそに二人は再会を喜ぶ。


慎太郎「いやーびっくりしたよ!中学卒業して以来だもんな。でも花屋さんの店員さんって、祐衣ちゃんにピッタリだね」


それを聞いた飯島は安堵の表情を見せる。


そして飯島の存在にも気づいた祐衣。


祐衣「あ!茂さん!こんばんは!今日もお花見に来てくれたんですか?」


慎太郎「今日も?茂さん?」


飯島「あ、いや、今日は何でもないんだ!たまたま通りかかった所でコイツと久しぶりに会ったもんでさ。じゃ、武市頑張れよ」


そう言い残し、飯島はその場を後にする。


慎太郎「完全に惚れてるよ、可哀想に」


慎太郎は小さく呟く。


祐衣「久しぶり、慎ちゃん!聞いたよ!今キャプテンなんでしょ?しかもホームランもたくさん打ってるし甲子園でも大活躍してたじゃん!はじめに負けないぐらいすごいよ」


これまでの慎太郎の活躍を称える祐衣。


すると慎太郎が何かを思い出したように話し始める。


慎太郎「あ!そうだ、はじめ。祐衣ちゃん、バイト終わってから少し話聞いてもらえないかな?」


祐衣「うん、わかった」


祐衣のバイト終わりに近くの喫茶店で落ち合う。


慎太郎ははじめのスランプについて祐衣に話す。


慎太郎「祐衣ちゃん、一のことで聞きたいんだけど、最近何か悩みとか相談されてない?」


祐衣「いや、何も聞いてないよ。今のはじめのことは多分慎ちゃんの方が知ってると思うけど」


すると肩を落としながら慎太郎は話す。


慎太郎「そっか。いやー実はアイツ今スランプでさ。俺もアイツのスランプの原因探してるんだけど、全く見つからなくて」


祐衣「スランプか…」


祐衣はコーヒーを一口飲み、慎太郎に質問した。


祐衣「それで、はじめは何か悩んだりしてるの?」


慎太郎「あぁ。頭抱えてたよ」


しかし、思い返すとはじめが頭を抱えて悩んでる様子を見せていたのはあの紅白戦の時だけだったことに気づく。


慎太郎「そういえば、あれ以来は普通だったな。焦ってもいないような気がする。バッティングも相変わらずゴリラみたいな怪力で飛ばしまくってるし…」



祐衣「そう。なら良かった、、、ねぇ慎ちゃん。はじめのこと、私たちよりも知ってる人は他にいないんだよ。多分そんな私たちでも驚くような解決方法を、もう見つけてるんだと思う。だから、そんなに焦らなくて大丈夫だよ。それにしても、はじめって幸せ者だよね。こんなに頼もしい相棒と、こんなにも可愛い彼女がいるんだからね」


祐衣は戯けながら話す。


慎太郎「ほんとだ。うらやましいよ」


話を終え、喫茶店から2人が出る。


すると慎太郎は後ろから体当たりされる。


体当たりした相手は、嫉妬に狂ったはじめだった。


はじめ「て、テメエ、よくも、、、、よくも俺の大事な祐衣と喫茶店で仲良くお茶なんかしてやがったなコラァ!」


慎太郎「いってぇ!!何すんだこの野郎!!!」


はじめ「俺は外で見てたんだ、、、2人が見つめ合いながら笑う様子を!」


慎太郎「幼馴染なんだから、そんなことぐらいあるだろうがよ!」


祐衣「はじめ!」


祐衣ははじめに声をかけ、いきなりはじめの唇にキスをして、思考を停止させる。


そして彼の頭をギュッと抱きしめながら話す。


祐衣「バカ……慎ちゃんは、はじめのこと本気で心配して私に相談しに来てくれたんだよ。それに私が浮気なんてすると思ってるの?私は浮気なんて絶対にしないよ」


これには慎太郎も少し驚いたがすぐ我に返った。


慎太郎「ちょ!お前らこんな所マスコミに見られたらやばいから!!!」


慎太郎はそう言いながら2人を近くの建物の中に連れていく。



慎太郎「祐衣ちゃん、助けてくれたことはありがたいけど、あんな人前でキスとハグはダメだよ、、、はじめはこれでもプロ入り確実の有名人なんだから、今マスコミ騒がせたら後々面倒なことになるよ」


祐衣「そうだった!ごめんね。」


慎太郎「でも、話聞いてもらって気持ち楽になったよ。ありがとう」


祐衣「うん。また何かあったら言ってね。あとはじめのこと、よろしくね」


慎太郎「あぁ」


そして祐衣は帰っていった。


その場には迷いが晴れた慎太郎と、未だ祐衣のキスと顔に残る祐衣の胸の感触の余韻に浸り、思考が完全に停止しているはじめの姿があった。


はじめ「祐衣のメロン……甘い、チュウ……♡」


慎太郎「ちっ!この変態野郎が!」


文句を言いながらもはじめをおんぶしながら自宅に送り届ける慎太郎。


祐衣の言っていたように、はじめはストレートが走らないことに対する解決方法を見つけていた。


ある練習試合でキャッチャーをしていた慎太郎もセンターを守っていた田中も驚いた。


田中「沖田が…変わりよった…」


はじめがたどり着いたのは、まさに打たせて取る投球術だ。


伸び悩むストレートは微妙に癖をつけ、大きく曲がる変化球を見せ球に小さな変化球で打たせて取る、そんなピッチングで相手打線を完全に封じ込めたのだ。


一方で打撃では力強さは増したものの、荒さが目立ち、左投手の外に逃げる変化球に苦戦していた。


ヒットにはなるが、芯には当たらない。


逆に右投手には無敵状態。


慎太郎「あの変態野郎……こんな引き出し持ってたんなら、早く言えよな」


そう思いながら慎太郎ははじめのたどり着いた投球術に舌を巻く。


実はあの紅白戦の後、帰宅したはじめは勉強に励みながら、あることを思い出していた。


はじめ“くだらないプライドのために甲子園への夢を絶たれかけた先輩たちの気持ちも考えられないで何がエースだ!!”


小前“いいか沖田、お前の真っすぐは確かにすごい。確かにすごいが、その真っすぐが走らなくなる時が必ず来る。その時のための引き出しを持っていたら必ず後で役に立つ”


それは、かつて自分が小前に言い放った言葉と、その小前から受けたアドバイスだった。


はじめ「くだらないプライド、、、引き出し」


そう呟きながらボールを手に取る。


そしていつもブルペンで隣にいた杉原の投球を思い出していた。


はじめ「俺の武器は真っすぐだけじゃない。三振だけがアウトの形じゃない…」


はじめはそう自分に言い聞かせていた。


迎えた3年春の甲子園。


その頃には打順が少し変わり、はじめが3番で4番には慎太郎が入った。


すると打線での化学反応が起きる。


はじめへの勢いをつかせないために初戦から決勝まで相手チームは左投手を当ててきた。


そこに関しては相手チームの狙い通り、この春の甲子園でははじめに本塁打は出なかった。


ところがその後ろを打つ4番の慎太郎が大爆発。


この大会1人で37打点の新記録を叩き出し、はじめを援護する。


そして守備面でも、相手チームは尽く、フルモデルチェンジしたはじての投球術に翻弄され、内野ゴロの山を築き上げる。


終わってみれば大会通じて奪った奪三振は0。


それでも全試合を2塁ベースすら踏ませない完封で勝利し、見事に春の甲子園を制覇した。


新たな手応えと共に、はじめは打撃面での課題とも向き合っていた。


ある日の練習終わり、一人室内練習場でマシン相手にバットを振るはじめと、一緒に練習する田中の姿があった。


田中「沖田…いつもやけど、お前にはホンマにビックリさせられるで!!」


“カーーーン”


はじめ「よし、使える!これなら大丈夫だ!!」


“カーーーン”


田中「お前ホンマ天才やな」


そしてその翌日に、チームメイトは驚くことになる。


なんとはじめが右打席に入ってバッティングしようとしているではないか。


バッティングピッチャーをしていた、2年生の左投手の保村は戸惑う。


赤木監督「保村、全力で抑えろ」


赤木監督の隣には慎太郎がいた。


慎太郎「監督。これから全員度肝を抜かれますよ」


赤木監督「ふん。お前らには散々度肝を抜かれてきた。今さら抜かれる度肝なんて残ってないさ」


そう言いながら、はじめのバッティングを見守る。


するとはじめは保村の投じた外角低めの完全なボール球を打ち返し、打球は低い弾丸ライナーでセンターの頭を越え、そのままバックスクリーンまで飛び込んだ。


赤木監督「ふん、まだ抜かれる度肝があったみたいだな。お前らのせいで寿命が縮んでしまうかもな。今日の練習、後は頼んだぞ武市」


そう言い残し、赤木監督はグラウンドを後にした。


はじめの右打席を見て誰もが度肝を抜かれたが、冷静に状況を見守る人物がいた。


そう。慎太郎と田中だ。


慎太郎「右でも長打力も手に入れていたか…」


田中「昨日見てたから、こんなことぐらいで別に驚かへんわ」


慎太郎「おい!大松!次はお前が投げろ!はじめ、悪いけど、もう一回打ってくれ」


はじめ「りょーかーい」


そしてはじめが打席に立つ。


慎太郎「…やっぱりスイッチか」


田中「当然やろ。あんな化け物みたいな左打席捨てる言うたら、俺が半殺しにしたるわ」


右投手の大松相手に従来の左打席で勝負をする。


結果は右中間への場外アーチだった。


慎太郎「コイツ……また勝手に色々やりやがって。毎回毎回一言ぐらい言えよな」


文句を言いながらも、少しニヤつく慎太郎。


ここへ来て投打で新たなプレースタイルを確立したはじめ。


しかし夏の大会を前に、さらなる壁が難舞高校へ立ちはだかる事になる……

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