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第21話 不満爆発!難舞高校、出場停止の危機!!

そして甲子園を戦う為の宿舎へ到着した難舞高校の選手たち。


その中に木場の姿は無かった。


体調不良を理由にチーム帯同を拒否したのだ。


谷原と慎太郎が宿舎から球場に向かうバスの中で会話していた。


慎太郎「木場さん、やっぱり来ませんでしたね」


谷原「仕方ないよ。体調悪いんだから、今は休んでしっかり体調整えてもらわないとね」


慎太郎「本当に体調不良だと思ってるんですか?」


谷原「……信じるしかないよ。彼が野球をやめてない以上ね」


はじめ「…………」


はじめは、アイマスクをしながら2人の会話を黙って聞いていた。


はじめ「…………“木場さんってどんな人なんだ?あんな紅白戦までやって伝えたかった事って何なんだ?”」


はじめは谷原の意図が全く掴めなかった。


一方杉原と田中は全く別の話をしていた。


杉原「抹茶味は食べたくないなぁ」


田中「えぇ〜。抹茶美味しいやないですか」


杉原「抹茶味の緑色って何でできてるか知ってるか?」


田中「え?抹茶やから……お茶の葉とか、ですか?」


杉原「まぁまぁ間違っちゃいないんだけどな。あれはお茶の葉を食べた蚕の糞なんだぞ」


田中「マジっすか!?俺めっちゃ好きやったのに急に嫌いになりそうです」


その会話がはじめにも聞こえていた。


はじめ「………“こっちはこっちでバカみてぇな話ししてんなぁ”」


結局あちこちの会話が聞こえたせいで移動中一睡も出来なかったはじめ。


はじめ「………」


永倉「沖田。着いたぞ」


はじめ「はい」


アイマスクを外すはじめ。


永倉「お前起きてたのか!?」


はじめ「もちろんです。目を休める為にアイマスクしてるだけですから」


球場に到着し、はじめ達のセンバツが幕を開けようとしていた。


初戦の先発ははじめ。


はじめは前年の夏とは違い、ストレート解禁。しかし最速145キロに抑えていたが、はじめの投げる球に相手打線を散発で内野安打3本で2塁ベースを踏ませずに無四球で完封する。


打線も1番の田中、2番の谷原、3番の慎太郎、4番のはじめが、それぞれ3安打の活躍を見せ、効率よく9点をもぎ取り快勝した。


相手チームの主将は、試合終了後記者にはじめの投球を語った。


“ストレートも変化球も途中で視界から消えて、いつの間にかミットに収まってるんです。まるで魔球を操っているみたいでした。だけど、コントロールも良いので、四球も望めない。本当にお手上げでした。完敗です”


そして2回戦、3回戦は杉原が先発。


見事2試合とも完封に抑え、準決勝と決勝ははじめが完封し見事に優勝を果たした。


それと同時に難舞高校は沖田一だけのワンマンチームでは無いことを証明したのだった。


センバツを優勝し、宿舎に到着する一同。


杉原とはじめは、その優勝の喜びを分かち合っていた。


杉原「最高に気持ちよかったぜ!この大会1点もやらなかったな!」


はじめ「本当ですね。杉原さん、俺よりも目立ってましたよ」


杉原「いや、あれは武市のリードがデカかったよ。お前や小前さんが武市と組みたがる理由がよくわかったぜ。だがお前はピッチングだけじゃなくてバッティングもやばかったな。14本もホームラン打つなんて、つくづく敵じゃなくて良かったと思う」


はじめ「いやぁ、俺の前打つ慎太郎が13本でしたからね。アイツには負けたくなかったんですよ」


前年の夏に引き続き、センバツも優勝したことを難舞高ナインが喜び合う中、1人だけ甲子園には帯同しなかった木場が、何やら怪しい動きを見せる。


その日木場は寮を抜け出し、制服を着て近くのスーパーへ来ていた。


木場「“俺が問題起こせば、アイツら全員大会には出れなくなる。俺も捕まるが、あいつらも道連れにできる”」


木場は周りを見渡し、商品を物色する。


その時だった。


何者かが木場の肩に手を乗せた。


木場「“き、来たぁ!”」


?「おい。お前、木場だろ?こんなとこでなにしてんだ?甲子園はどうしたんだよ」


木場「え?“こ、この声は…”」


木場が、ゆっくり振り返る。


木場「こ、小前さん!!」


そこには高校を卒業しても、未だ左肘のサポーターが取れていない、痛々しい姿の小前がいた。


小前は木場の様子を見て何かを察した。


小前「………お前、時間あるだろ。ちょっと付き合え」


小前は木場の首根っこ掴んで店から引きずり出し、近くの喫茶店に入った。


小前「奢ってやるから、好きなの頼め」


木場「…え?」


小前「え?じゃねぇよ。俺が奢ってやるって言ってんだ。遠慮なんてしやがったらぶん殴るぞ」


木場「は、はい!じゃあ、サンドイッチとアイスカフェオレお願いします」


小前「おぅ。あ!すみません、サンドイッチとアイスカフェオレ、あとホットコーヒーお願いします」


注文を終えた2人は、注文したものが届くまでの間、沈黙した。


木場「…“き、気まずい”」


そしてサンドイッチ、アイスカフェオレ、ホットコーヒーが届く。


小前はゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。


小前「……苦ぇ。で、お前何盗もうとしてたんだよ」


木場「……」


小前「あんなペット用の餌しか売ってねぇ所でコソコソしやがって」


木場「え?ぺ、ペットですか!?」


木場は少し動揺した。


小前「あぁ?お前自分がいた場所も分かってなかったのかよ。ったく、声掛けてよかったぜ、本当に」


木場「……何でも良かったんです。盗めれば」


小前「まぁ、お前が考える事なんて大体想像がつく。問題起こして難舞を出場停止にしてやろうって魂胆だろ?ベンチ入りさせてくれなかった事の腹いせに」


木場「……はい」


木場は図星を突かれたが、素直に返事した。


小前「ったく。しょうがねぇな……いいか?お前の野球人生はまだ終わったわけじゃねぇだろうが。腐ってる暇があるなら、少しは真面目に野球の勉強でもしたらどうだ?」


木場「……小前さんにはわかりませんよ。俺の気持ちなんて」


小前「あぁ、わかんねぇよ。大先輩の俺が奢ってやってるのに、まだサンドイッチ食わねぇお前の気持ちなんてな!」


木場「は?」


小前「は?じゃねぇよ!誰に口聞いてんだお前!!早く食え!!残したらぶっ殺すぞ!!!」


木場「!は、はい!いただきます!」


木場は小前の恫喝にびっくりして、目の前のサンドイッチをものの数秒で食べ終えた。


小前「……頭冷やせ木場。確かに才能や運、監督や谷原の好き嫌いでメンバーを決める事もあるかもしれない。だけどな、そこで腐ってたって時間は勝手に過ぎるんだよ。お前も気が付けばもう3年だろ?だったら残された時間で、死ぬ気でレギュラーのやつらに食らいつくつもりでやってみろ」


木場「意味ないですよ。どうせ俺なんて…」


小前「馬鹿野郎。努力したって上手くならないなんてな、努力した事がない奴しか言わねぇんだよ。やってもねぇのに、簡単に弱音吐くんじゃねぇ。弱音なんて、野球やめた時にいくらでも吐けばいいだろ。やり方がわからないなら、谷原と田中に聞いてみろ」


木場「谷原と田中、ですか?」


小前「そうだ。あいつら最初はお前なんかよりも下手くそだっただろ?それなのにいつの間にかレギュラーだ。谷原なんてキャプテンにまでなりやがったんだ。逆に言えば谷原でもレギュラーになれるぐらいまでは成長できたんだよ。谷原にできて、お前に出来ないわけがない」


木場「小前さん……」


小前が木場のグラスを指さす。


小前「……アイスカフェオレ、残ってるぞ。まさか残す気じゃねぇだろうな?あ?」


木場「!?い、いえ!今すぐいただきます!」


木場はアイスカフェオレを一気飲みした。



小前「ふっ!……なぁ木場。必死になってやってみろよ。もし高校でダメだったとしても、大学や社会人に行って、気が済むまでやればいいじゃねぇか。それでプロ、いや、メジャーまで上がれれば最高だろ」


そして小前はサポーターをつけた左肘を触りながら話を続ける。


小前「俺だって今はこの通りさ。肘が治ったって前みたいに投げれるとは限らない。だから怪我して投げられないこの時間に、前の俺を超える方法を探しながら必死にリハビリやってるんだよ」


木場「……」


木場は自分の行いが恥ずかしくなって俯いて話を聞いていた。


小前「顔上げろ、木場。難舞辞めてないってことは、お前はまだ野球が好きって事なんだろ?だったら万引きなんて考えてねぇで、野球の事真剣に考えてみろ」


木場「小前さん、ありがとうございます」


小前「あっ!そうだ!これも、良い機会だ。お前次会う時に腐ってやがったら、そん時は半殺しにしてやるからな!覚悟しろよ!」


木場「や、やります!全力で野球やります!!」


小前「よし。じゃあ、そろそろ行くか」


木場「はい!」


会計を終え、店を出る2人。


木場「小前さん、ごちそうさまでした!」


小前「あぁ。元気でな」


小前は木場を背に、右手を小さく振って帰路に着いた。


木場「……あいつらが帰ってきたら謝らないと」


木場はようやく“本気”で野球に取り組む覚悟をしたのだった。


センバツを優勝し、帰宅したはじめ。


はじめ「ただいまー」


いおこ「あ!はじめ!おかえりなさい!センバツ優勝おめでとう!」


はじめ「ありがとう」


いおこ「ん?また祐衣ちゃんの家行って空振りしたの?」


どこか元気がないはじめの様子のいおこ。


はじめ「そんなんじゃないよ…は!祐衣!祐衣に会わなきゃ!!じゃ、母さん!祐衣にセンバツ優勝報告してくる!!」


はじめは、一目散に家を飛び出した。


いおこ「待ちなさいはじめ!……行っちゃった…ったくあの子ったら!」


はじめはスキップしながら祐衣の家へ向かっていたが、その途中でまだ帰宅途中だった慎太郎を目撃する。


はじめ「祐衣たん♫祐衣たん♫祐衣たーん♫……お?あれは…まだ帰ってなかったのか、アホ面め……とりあえず隠れよ」


はじめは、電柱に身を隠す。


慎太郎「……ん?なんだ?」


慎太郎は何か違和感を感じて後ろを振り向く。


慎太郎「“いや、あのアホは腹減らして帰ったはずだ。しかしなんなんだ!あの気持ち悪い気配は!”……ぶるぁっ!“寒気してきた!あの子たちかもしれねぇから、早く帰ろ”」


はじめは慎太郎の様子を電柱の影から見ていた。


はじめ「なんだあいつ。なんか震えてたな…ま、いいや。そんな事より、祐衣たんに会いに行こっと♫」


はじめは再び祐衣の家へ出発しようとするが、突然顎に左手を添えて考え込む。


はじめ「………“いや待てよ?まだバイト中かも…祐衣のバイト先って確かウチの球場のすぐ近くだったな…”よし!」


そしてはじめはフラワーショップGirlsに到着する。


しかし、その日は休日だったようで、店は閉まっていた。


はじめ「マジか……」


はじめは落胆したが、明かりの消えた店の中に人影を見つける。


はじめ「ん?誰かいるのか?」


はじめが中の様子を見ていると、その人は急に倒れた。


はじめ「やばい!」


はじめは扉を押して鍵が空いているのを確認すると、一目散に倒れた人の元へ行った。


はじめ「大丈夫ですか!?」


太田店長「……わわわわわ……」


はじめ「マズいな…今救急車呼びますから!」


はじめは太田店長をその場に寝かせ、太田店長の足を野球用のバッグの上に置き、救急車を呼んだ。


はじめ「到着するまで少し時間がある!けど、今離れたら店には誰もいなくなる…は!祐衣だ!」


はじめは急いで祐衣に電話した。


祐衣「はじめ!甲子園優勝おめでとう!」


はじめ「それどころじゃないんだ!今祐衣の店に来てんだけど、店の中で人が倒れたんだ!事情は後で話す!急いで店まで来てくれ!!」


祐衣「わかった!!」


電話を切ったあと、はじめは野球用のバッグの中からタオルを取り出した。


そして辺りを見渡して、手洗い場を発見する。


はじめ「すみません、水使いますね」


はじめはタオルを濡らし太田店長の額へ乗せ、枕代わりに自身の着替えを置いた。


はじめ「もうすぐ救急車来ますから」


太田店長「……わわわ………」


はじめは救急車到着まで必死に看病していた。


すると祐衣が到着する。


祐衣「店長!!」


祐衣は2人の元へ駆け寄る。


はじめ「祐衣!」


祐衣「はじめ!救急車は!?」


はじめ「呼んでる!もうすぐ到着するはずだ!」


そして救急車が到着し、はじめと祐衣は店の鍵を閉めて救急車に乗った。


祐衣「どういう状況?」


はじめ「あぁ、祐衣にセンバツ優勝の報告をしに店行ったら休みみたいだったから帰ろうとしたんだ。そしたら中にこの人がいて、急に店の中で倒れたんだ」


祐衣「そうなんだ」


病院へ到着し、はじめは医者にも状況を話した。


医者「なるほどな。大丈夫だ。命に別条はない。何日か休めば良くなるだろう」


祐衣「よかった」


医者ははじめの方へ向き語りかける。


医者「ところで、沖田。運ばれてきた患者さんとは知り合いか?」


はじめ「いえ、この子が働いてる花屋さんの……ん?沖田?」


はじめが医者の顔をじっと見つめる。


はじめ「斉藤コーチ!!」


斉藤「よ!久しぶりだな!随分派手に活躍してるな、お前」


はじめ「いやぁ、っていうかお医者さんだったんですか!?知りませんでしたよ、全然」


なんという、偶然。


斉藤「まぁまぁ、あそこじゃ仕事なんて言う必要ないからな。そちらの彼女は、お前の友達か?」


まだ状況が飲み込めていない祐衣の表情を見るはじめ。


はじめ「いえ、彼女です」


斉藤「なるほどな………」


甲子園のスターになったはじめに彼女の存在が公になる事が大変なのは、斉藤コーチも重々分かっていた為、それ以上は突っ込まなかった。


斉藤「しかし、あの太っちょだったお前が、いつの間にか甲子園のスターだもんな〜。覚えてるか?お前と最初にキャッチボールした相手は俺なんだぞ」


はじめ「覚えてますよ。慎太郎より良い音で捕ってくれてました」


斉藤「そんなことないよ。慎太郎も頑張ってるじゃないか。甲子園で夏春連覇した高校のバッテリーを指導していた、なんて本当に鼻が高いよ」


ナース「斉藤先生、急患です」


斉藤「今行くよ。じゃ、慎太郎にもよろしくな」


はじめ「はい!」


斉藤「あ…さっきの患者さん、一応今日は入院させるからな。部屋は655室だ」


はじめ「ありがとうございます!祐衣、とりあえず病室まで行こうか」


祐衣「うん」


すぐに病室に向かう2人。


すると目を覚ました太田店長がいた。


太田店長の左手には点滴が繋がれていた。


祐衣「店長!大丈夫ですか!?」


太田店長「なんとかね」


太田店長がはじめの方を見る。


太田店長「あの、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」


はじめ「いえ。大したことなくてよかったですよ」


太田店長「貴方確か、難舞高校の沖田選手ですよね?こんな所で言うのはなんですが、甲子園優勝おめでとうございます」


はじめ「あ、あぁ。ありがとうございます」


祐衣「…店長、今日は店を閉めてゆっくり休むって言ってたのに、何してたんですか?」


太田店長「一応、お花を手入れしてたの。花も生き物だから、店は休みでも手入れはしておかないとって思ってね。そしたらさ、あれもこれもって気になるところが出てきちゃって、ついついやりすぎちゃったみたいね」


祐衣「……無理しないでください。明日お店は私一人で何とかやるので、店長はしっかり休んでください」


太田店長「ごめんなさいね」


祐衣「それじゃ、私たちはこれで。失礼します」


はじめ「お大事になさってください。失礼します」


病室を出る2人。


太田店長「……祐衣さんの彼氏って沖田選手だったのね。これはお客さんに知られると大変な事になりそうだわ……」


そして2人ははじめの家に行き、前年の夏同様に甲子園優勝を分かち合った。

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