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第20話 内部分裂。新主将、谷原の苦悩

そして月日は流れ、はじめと慎太郎は高校2年生の春を迎えようとしていた。


はじめ「じゃあ、ストレートいくぞ」


慎太郎「おう」


“シューーーっ!パァーン!!”


慎太郎「!”な、何だ、この球!”」


慎太郎ははじめのストレートに違和感を感じた。


はじめ「…おい、いつまでボール止めてんだよ!さっさと返せ!」


慎太郎「…あ、あぁ。悪い(球速は抑えてる。しかし、球が途中から加速して浮き上がった…?)」


はじめ「もう1いくぞ」


“シューーーっ!パァーン!”


慎太郎「“明らかに今までのはじめの球とは違う。単純な伸びや球威だけじゃない。これは、俺も気を引き締めないと捕り損ないそうだ!”……」


はじめ「…おい!ボールの次は声が止まってるぞ!マスク越しにアホ面見せてんじゃねぇぞクソ野郎!!」


慎太郎「うるせぇ!“フォームは変わらない。150キロも出してない。なのに何でこんなに打ちづらそうな球質してるんだ?”」


赤木監督はブルペンではじめの投球を見ながらスピードガンで球速を出していた。


赤木監督「”2球とも145キロか…それにしても、ずっと沖田の球を捕り続けていたはずの武市が明らかに動揺している…まったく、アイツらには指導者なんてまるで必要ないみたいだな。だとするなら俺ができることは1つだ…”」


はじめ「よし、ラスト3球。全部ストレート、外角低めいくぞ」


“シューーーっ!パァーン!”


赤木監督「おい、沖田!明日ケース打撃で投げたら、お前はセンバツまで投げるな」


はじめ「ふぅ……え?なんでですか?」


赤木監督「お前右手見せてみろ」


はじめ「はぁ、別に構いませんが」


はじめは赤木監督に右手を見せる。


赤木監督「……ほら。人さし指と中指の指先、この一見硬そうなこのマメが破れたら、無意識のうちにフォームが崩れて大怪我に繋がりかねない。小前のようにな」


はじめ「……この何回も破れまくっ強くなったはずの硬いマメが?」


赤木監督「あぁ。だから一見硬そうに見えてるのが、コイツの厄介なところなんだ“小前の二の舞にならないように守ってやることしか、俺にはできん…にしてもこの嘘はさすがにバレるか?”」


はじめ「……わかりました。でもバッティングだけはやらせてもらいますよ」


赤木監督「当たり前だ」


翌日のケース打撃。


田中は打席に入ると、ゆっくりと足場を作りながらバットを構える。


田中「“ストレートの球速は147キロぐらいか。それにしても沖田の球はどの球も本物や…今の俺がどこまで通用するかわからへんけど、全力でいくで!”」


はじめ「………ふんっ!」


“シューーーっ!”


“キンっ……”


はじめの投げる球を田中は何とかファールチップにする。



田中「……”前までの156キロのストレートのノビや球威も既にあの時のレギュラー陣が手も足も出ない程仕上がってたけど、今回のストレートのキレは、もはや重力無視して浮き上がってくる変化球みたいや!”」


“シューーー!”


“パァーン!!”


田中「ははっ、お前にはいつまでたっても追いつかれへんわ!」


はじめ「いや、お前の成長スピードには負けるよ。野手になって1年で、よくここまで仕上げてきたな。少しヒヤッとしたぞ」


田中「やめぇや…ほんま敵やなくてよかったわ」


はじめはセンバツの前に新たな武器を手に入れたのだった。


はじめと慎太郎は家に一緒に帰宅する。


慎太郎「お前、何を試そうとしてるんだ?」


はじめ「……少し前にピッチングした時に、どうも真っすぐの指のかかりが気に食わなかったんだ。だから握りをもとに戻しただけだ」


慎太郎「指のかかり?」


はじめ「あぁ。秋の大会でマメが潰れてから第2関節に引っ掛けて投げるようにしてたんだけど、その後ぐらいからかな?抜ける感覚がどうしても消えなくてな」


慎太郎「それで、握りを元に戻した…と?」


はじめ「そう。そしたら回転数が上がったみたいだな。前よりも指のかかりが良くなってたんだ」


慎太郎「だとしたら、なんで全力で投げないんだ?」


はじめ「まだコントロールできねぇんだよ」


はじめは苦笑いする。


しかし慎太郎は逆に手応えを感じていた。


慎太郎「十分だ!夏に続いて春も優勝できるぞ!」


はじめ「は?」


慎太郎「一応聞いておくけど、夏までに仕上げられる自信はあるか?」


はじめ「当たり前だろ」


慎太郎「よし、それなら俺たちの高校野球は全部優勝できる!!間違いなくだ!」


慎太郎は目を輝かせながらはじめの肩を抱く。



はじめ「なんだよ!急に暑苦しいんだよお前!」


慎太郎「いや、俺は本気で言ってるんだ!難舞高校を無敵のチームにしてやろうぜ!!」


はじめ「わかったから、離れろよ気色悪い!」


この慎太郎の自信は、結果として出るのだろうか?


春の甲子園へ出発の前々日、飯島の後に主将になった谷原へ、ベンチ入り出来なかった推薦入学者の木場が詰め寄る。


木場「おい、お前が決めたんだろ?何で俺がベンチ入りできねぇんだよ!」


谷原「……はぁーあ、めんどくさっ」


木場「テメェ…ナメやがって痛い目に遭いたいのか?あ?」


谷原「自分の実力不足棚に上げて恨みぶつけて来る輩に興味ないよ。そんなに暴力振るいたいなら、野球やめたら?いらないよ、そんなヤツ……いつまで胸倉掴んでるんだよ。離せ!!」


木場「…!て、テメェ」


木場が谷原へ殴りかかろうとした瞬間、木場は右手を掴まれる。


慎太郎「いい加減にしてください、木場さん」


木場「武市!」


慎太郎「こんなところで暴力事件で出場停止なんて洒落にならないですよ。そんなに気に入らないなら、赤木監督に言ってください」


木場「チッ!…谷原!覚えてろよ!!」


木場は苛立ちながらその場を離れた。


慎太郎「ふぅ、やれやれ。大変ですね、キャプテンやるのも」


谷原「武市、明日紅白戦やらない?」


慎太郎「何言ってるんですか!こんな大事な時期に誰か怪我なんかしたらどうするんですか?」


谷原「大丈夫。怪我なんかさせないよ。ただ、身の程をわきまえない下手くそに現実を突きつけてやるだけだよ」


慎太郎「………はじめは、はじめは投げさせませんよ」


谷原「当然だよ。沖田は甲子園まで絶対に投げさせない。杉原に投げてもらうよ」


慎太郎「杉原さん、ですか。なるほど、それなら良いかも知れませんね」


杉原陽太。左投げ左打ち。はじめと慎太郎の1学年上で、前年の夏から背番号11を着けて小前とはじめに次ぐ3番手投手としてベンチ入りしていた。


ストレートの最速は144キロと特別速くはないが、癖球で球の出どころがわかりづらく、変化球も腕の振りが変わらない為バッターからは尽く嫌がられる。大崩れせずスタミナもある、他の高校なら間違いなくエースになれる逸材だ。


翌日、谷原は赤木監督に紅白戦の提案をしてみる。


谷原「監督、紅白戦やりたいです」


赤木監督「紅白戦だと?駄目に決まってるだろ」


谷原「……杉原、そろそろ試合で投げさせてみませんか?」


赤木監督「杉原、だと?」


谷原「えぇ。彼、ベンチ入りしてるのに登板機会がないことに苛立っていましたから。その、ガス抜きも兼ねて、ベンチ外の木場達相手に紅白戦やりたいんです」


赤木監督「ふむぅ……わかった。しかし無理だけはさせるな。こんな時期に怪我なんてされたら、元も子もないからな」


谷原「わかってます」


その様子を扉の外から黙って盗み聞きしていたはじめ。


はじめ「“……木場さんか…あれ?木場さんって誰だっけ?”」


するとはじめは急に、赤木監督と谷原の目の前に姿を現します。


はじめ「谷原さん!俺投げませんよ!!なんかつまんなそうだし」


谷原「安心しなよ。君は出さないから」


はじめ「…なら良かった!」


そして、紅白戦。レギュラーチーム対ベンチ外チームの試合が始まる。


木場「先発は杉原か。つくづくナメやがって……すぐに沖田を引きずり出してやる!」


紅白戦が始まるや否や、はじめは室内練習場に籠もり、バッティング練習をしていた。



“カーーーン!”


はじめ「よし、悪くないな。あんな下手くそ相手に紅白戦なんて、やってらんねぇよ。そんな暇俺には無いっての!」


レギュラーチームの、スタメンは……


1番センター田中、2番ファースト谷原、3番キャッチャー慎太郎、4番ピッチャー杉原、5番サード森脇、6番ショート永倉、7番ライト長谷川、8番セカンド霧谷、9番レフト小池


ベンチ外チームのスタメンは……


1番ショート菊川、2番センター伊東、3番セカンド藤堂、4番ライト木場、5番ファースト犬飼、6番サード三沢、7番キャッチャー山田、8番レフト森、9番ピッチャー阪丸


結果は言うまでもなく、レギュラーチームの圧勝だった。


それも2番手の杉原がパーフェクトに抑え、36対0のスコアだった。


木場「ちくしょう……相手が沖田なら…もっと打てたんだ……クソぅ……」


杉原「笑わせんなよ。俺の球が打てないお前らに沖田の球が打てるわけないだろ」


木場「うるさい!杉原、お前なんか3流以下のピッチャーじゃねぇか!」


杉原「じゃあお前らはそれ以下って事だな!(笑)お前みたいな身の程知らずに沖田の球は絶対に打てない。沖田どころか、俺の球すらも打てねえよ。悪いけど、お前らには負ける気がしない…木場、お前は野球やる前に道徳からやり直したらどうだ?」


木場「杉原ぁ……」


谷原「どう?気が済んだ?」


木場「谷原、テメェ…急に運良くレギュラーになったからって調子に乗りやがって」


谷原「何で僕や赤木監督が君たちをベンチに入れないか、わからないなら教えてあげるよ。そうやっていつも運や人のせいにして、努力もしないし全く上手くなってないからだよ。そんな君たちをベンチに入れても空気を悪くするだけだからね」


杉原「木場、お前俺らがただ運だけでベンチ入りできたって本気で思ってるのか?じゃあお前は俺以上に練習したって言えるのか?」


谷原「………」


杉原「木場!どうなんだよ!」


杉原が木場に詰め寄る。


木場「俺たちだって練習はやってる!なのに」



杉原「練習って全体練習だけだろうが!お前寮生のクセに何で自主トレも何もしねぇんだよ!!手見せてみろ!!」


杉原は木場の手を見てさらに激昂した。


杉原「なんだよこの綺麗な手は!?あぁ!?ナメてんのはテメェなんだよ!どの面下げて喧嘩吹っかけてんだテメェ!?悔しいならな、谷原や田中の手見てテメェも必死に練習しろよ!谷原も田中もピッチャーで入ってきたのに、必死に努力してレギュラーポジションつかみ取ったんだよ!それは才能の差じゃねぇ、練習量の差だよ!!」


木場「う、うるさい!離せ!」


杉原「木場!テメェは甘いんだよ!俺だって、控えピッチャーとしてベンチ入りするのがやっとなんだ。必死に努力してるつもりだけど、小前さんや沖田の練習量は半端じゃない。悔しいけど勝てる気がしない…だから練習するんじゃねぇか!!」


すると黙って聞いていた谷原が杉原の肩に触れる。


谷原「杉原。もういいよ」


杉原「谷原……ふっ!悪い、ついつい感情的になっちゃったよ」


そしてバッティングを終えたはじめが戻ってきた。


はじめ「やっべー…また手袋破れちゃったよ……誰か裁縫教えてくんねぇかな………あれ?まだいたんですか?」


谷原「うん。これでも一応キャプテンだからね。戸締まりもしないといけないし」


杉原「お疲れさん、沖田」


はじめ「あ!杉原さん!お疲れ様です!!」


木場「沖田……くっ……」


木場ははじめを見るなり、走って帰っていった。


はじめ「……なんですか、あれ?俺何かしました?謝ったほうがいいですかね?」


はじめは何故か自分を見て帰っていった木場を見て自分が何かやらかしたと思い込んでいた。


谷原「気にしないでいいよ。アレは沖田に嫉妬してるだけだから」


はじめ「俺に嫉妬?ですか……そう言われると余計に気になりますよ」


すると杉原が、ニヤリと笑いながら決定的な情報をぶっこんできた。


杉原「お前の彼女すんげー可愛いらしいな!小前さんが言ってたぞ!」


はじめは祐衣の話などしたこと無かった為、驚きを隠せなかった。


はじめ「え!えぇーっ!……まぁ、世界一可愛いですけど!」


杉原「だから嫉妬してんだよ、アイツは!馬鹿だろ(笑)?」


はじめ「なるほど!それなら納得ですね(笑)!で、こんな事聞くのは非常にマズいと思うんですけど……」


杉原「ん?」


はじめ「あの人、誰でしたっけ?」


谷原、杉原「は?」


2人はきょとんとした。


はじめ「いや、なんかBチームにいた気がするんですけど、話した事もないし、申し訳ないけど知らないんですよ…うち人数も多いですし」


谷原「あれが、木場だよ」


はじめは驚いた。


はじめ「あー!あれが、例の木場さんですか!」


杉原「チームメイトも覚える暇も無いってか……つくづく勝てる気がしねぇよ、お前には」


杉原は静かに呟いた。

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