第2話 無意識の才能
翌日、早速はじめは野球を始めることを両親に話す。
はじめ「お父さん、お母さん。僕野球やるんだ」
はじめの突然の報告に2人共驚く。
いおこ「え!?野球やりたいって何でまた急に!?」
宗一郎「野球なんて今まで見たことすら無かっただろ!?」
はじめ「え?昨日テレビで見たよ。お父さんもお母さんも野球見て楽しそうだったから。だから野球面白そうだから、やりたいの」
いおこと宗一郎は少し考えたが、はじめはまだ5歳。野球を始めるのは早すぎると考えた。
いおこ「野球やりたいのはわかったけど、でも小学生にならないとチームに入れてもらえないの」
はじめ「えー。じゃあグローブとバット買って」
宗一郎「グローブとバットか…よし!お父さんが買ってきてあげよう」
はじめ「本当に?やったー!」
嬉しそうにするはじめ。ところがいおこが待ったをかける。
いおこ「待って。はじめ、ボールは買ってあげる。だけど本当に野球をやる気があるなら、グローブとバットは自分で作りなさい」
宗一郎「何を言ってるんだ?そんなの無理に決まっているだろう」
いおこは本気ではじめが野球をやりたいと言ったとは思っていなかった。もし野球を本気でやりたいなら、あのギターみたいに自作で道具を作る気力はあるはず。そう考えたのだ。
はじめ「え!いいの!?また段ボールとテープ使って良い?」
そんないおこの考えとは裏腹に、はじめの目は輝いていた。
その様子に少し驚いたいおこ。
いおこ「えぇ。家にある物なら何使っても良いわ」
はじめ「やったー!かっこいいの作るぞー!!!」
はじめはやる気満々で野球道具を自力で作り始めた。
ところが、そんなはじめに最初の壁が立ちはだかる。
それはグラブだ。
グラブは非常に作るのが困難だった。
はじめ「あんなの、どうやって作ったら良いか分かんないや。グローブは後にして、先にバット作ろう!」
そして先にはじめ力作のバットが完成した。
はじめ「出来たー!これで僕も野球が出来るぞ!!!次はグローブだ!」
はじめが道具作りに夢中になっているのを見守るいおこ。
いおこ「あんなに楽しそうに、、、それだけに野球なんて厳しい場所に、あの子がついていけるか心配」
はじめ「ん~~。やっぱりグローブは難しいや。こうなったら、段ボールいっぱい使って、捕っても痛くない物作ろっと」
そう言ってはじめが作ったのは、段ボールを何枚も重ねて紐を付けただけの板の様なものだった。
はじめ「できたー!お父さん、お母さん!!できたよー!見て見て!!!」
はじめの自作の道具を見た両親は、少し困惑した。
いおこ「これ、バットはよく出来てるけど、、、、これが、グローブ?」
宗一郎「おいおい、こんなグラブじゃボールは捕れないだろ」
はじめ「捕れるように特訓するの。じゃあ公園行ってきまーす」
そう言い残し、はじめは公園へ一目散に走り出した。
はじめは、公園へ到着すると周囲を見渡して両親が来ていないことを確認する。
はじめ「お父さんもお母さんも来てないや。じゃあ」
次の瞬間、はじめがバットを持って行ったのは素振り!ではなかった。
激しく頭を振り、バットをまるでギターを演奏するように扱い、演奏ごっこをし始めた。
はじめ「はは!やっぱり楽しいや!僕カッコいい!」
そして、足音が聞こえると、すぐに素振りを始めた。
はじめ「9、10、11、」
本当は今始めたばかり。
足音の正体は宗一郎。
宗一郎「お!すごいスイングじゃないか!これはプロ入り間違いなしだな」
見事に宗一郎を欺くことに成功したはじめ。
次に初めたのは、、、
はじめ「よーし、次は1人キャッチボールだ!」
壁に当てて転がってくるボールを捕る練習だった。案の定、板のグラブを最初から上手く扱えるわけもなかった。
はじめ「うぅん、やっぱり難しい」
はじめはこんな特訓を小学生に上がるまで、雨の日も雪の日も続けた。
そして少し時は流れ、いよいよ小学生になったはじめ。
入学式が終わって帰宅すると、はじめは一目散に公園へ特訓しに行く。
特訓を始めてから1年半、はじめはあの板の様なグラブを巧みに使いこなしていた。
はじめ「もうこのグローブで何でも捕れる。ボールが傷付かないように、優しく捕るようにしたら、簡単だね」
この粗末に見える段ボールの板グラブ、実は実際に野球の練習用として市販されている。
革製のもっとしっかりした物だが、プロでもキャンプで使用されるほど捕球の練習には適していたのだ。
そんな事を幼いはじめが知る由もないが、1年半かけて板グラブを完璧に使いこなしていた。
次はグラブをバットに持ち替えて、スイングする。
するとスイングする度にシャカシャカと音がする。
実ははじめは、バットを振るだけじゃつまらない為、雨や雪、蝿や蚊をボールに見立てて振り続けていた。
ところが段ボール製のバットは軽すぎて扱いづらかった為、バットの中に砂場の砂を入れて、ガムテープとビニールテープで頑丈に巻き上げて、バットをパワーアップさせていたのだ。
それも飽きてきたら、次はバットに印を付けて、その印に蝿や蚊を当てるゲームを思いつき、実践していた。
その印を付けた部分は、いわゆる芯と呼ばれる場所だった。
はじめ「おりゃー!、、、よし!もう全部当てれるようになった!」
はじめの両手は血豆と絆創膏だらけ。
はじめはどうせやるなら、カッコよく野球もやりたかった為、特訓には熱を入れてやっていた。
そして血に汚れたバットのグリップエンドには、こっそりとYU-TOが愛用しているギターに付いているマークを貼り付けていた。




