表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

第18話 小前の意志を継げ!はじめの怒りと涙と祐衣の愛

波乱の準々決勝を終え、ナインは球場を後にする。



そこではじめと慎太郎は赤木監督に呼び止められた。



赤木監督「何故ストレートを投げなかった?」



慎太郎「球が走ってなかったからです」



はじめ「試合前にまともに準備が出来ていない中で、ショートで出続けていた自分のあの時のストレートは、投げていても棒球である事は投球練習の時にわかったので、変化球しかないと思ってピッチングしていただけです」



赤木監督も正直度肝を抜かれていた。



はじめ「さっきは生意気で失礼な事言ってすいませんでした。冷静さを欠いていたとはいえ、監督にとって良い態度と言動ではありません。罰はしっかり受け止めます」



赤木監督「沖田…謝らなければいけないのは俺の方だ。小前を壊して、お前達に試合の責任まで背負わせてしまった。あと少しお前の登板が遅れていたら、試合も勝てなかったかもしれん」



はじめ「謝るのは俺じゃなくて、小前さんですよ、監督。では、俺達はこれで失礼します」



はじめと慎太郎がその場を後にバスへ乗り込む。



赤木監督「“あれが高校1年生バッテリーの投球術か……”」




サイクル安打を記録し事もあり、新聞にも1面で報じられるなど、はじめの名前は全国に轟くことになる。



翌日、準々決勝での疲労を考慮され、はじめは準決勝を欠場させられ、決勝戦までノースロー調整を言い渡される。



準決勝で投げたのは2年生の左腕の杉原だった。



ところが前日の苦戦が嘘のように15対0で5回コールド勝ちを収めた。



はじめは何度も監督に出してほしいと懇願していた。



はじめ「監督、そろそろ俺代打で出してください」



赤木監督「ダメだ!座ってろ!」



はじめ「……あ!ナイスバッティング慎太郎ぉ!!監督!俺慎太郎より足速いんで代走で出してください!!」



赤木監督「いい加減にしろ!お前は今日は何があっても出さない!!座って休んでろ!!」



はじめ「監督…クソっ!!……おい田中!テメェ俺を差し置いて今打席に立ってるんだ!!くだらねぇバッティングしやがったら、今日1日俺ん家で勉強させてやる!覚悟しろ!!」



田中「“な、なんで俺やねん!!今から打席に入る言うのに…沖田のアホ。余計なプレッシャーかけよって…”」



はじめ「チッ…クソが!!」



飯島「沖田…気持ちはわかるが、今日だけは我慢してくれ。今小前の変わりに決勝で投げれるのはお前しかいないんだ。わかってくれ」



はじめ「飯島さん……わかりました…じゃあ座って観戦しときますね」



はじめは無理矢理納得させられ不貞腐れていた。



しかしはじめは執念深い人物であることを慎太郎以外のチームメイトや監督は知らなかった…



準決勝を欠場したはじめは大荒れした。



室内練習に響き渡る打撃音と、はじめの叫び声が、はじめの荒れ具合を物語る。



はじめ「クソボケ!この采配オンチ野郎が!この馬面キャプテンが!田中のアホがぁぁぁぁ!」



打球音をかき消す叫び声に、その場にいた慎太郎も呆れ顔でため息をつく。



慎太郎「あーあー、荒れてんなー…」




すると、室内練習場に“来客”がやってくる。



?「失礼します」



慎太郎「ん?…どちら様ですか?」



小前の父「小前悠介の親です」



慎太郎「え!?小前さんの!?あ、こんばんは!!武市です!」



小前の母「えぇ、知ってますよ。悠介が本当にお世話になってます」



慎太郎「いえ、お世話になってるのはこちらですよ!」



なんと、そこにやってきたのは、小前の両親だった。



はじめ「うぉーるぁーっ!!!」



“キーーーンっ!!”



慎太郎「おい!うるせぇぞはじめ!!お前もこっち来て挨拶しろ馬鹿が!!」



はじめ「あぁ!?なんだと!この馬面!……ん?どちらさん、ですか?」



慎太郎「小前さんのご両親だよ!」



はじめ「小前さんの!?こんばんは!沖田です!」



小前の父「知っていますよ。息子の尻拭いをさせてしまって申し訳ない」



小前の父は深々と頭を下げる。



はじめ「いえいえいえいえ!そんなとんでもない!頭上げて下さい!」



慎太郎「それにしても、こんな時間にどうされたんですか?」



小前の両親は少し間を置き、静かに口を開く。



小前の父「悠介は、あの後病院の精密検査を受けました。そしたら左肘の靭帯が断裂し、甲子園どころか、完治までに何年かかるか、あるいは完治するのかすらわかりません」



慎太郎「なん…ですって…」



はじめ「………」



慎太郎は言葉を失い、はじめは黙って小前の父の話を聞いていた。



小前の父「当然今年のプロ入りは出来ないと医者からは言われました……そんな悠介から沖田くんと武市くんに尻拭いをさせてしまったことを謝っておいてほしいと言われましたので、今日は来た次第です」



黙って話を聞いていたはじめは静かに口を開いた。



はじめ「……冗談じゃねぇ……」



はじめは静かに呟く。



慎太郎「おい!はじめ、やめろ!」



するとはじめは小前の両親に伝言を預ける。



はじめ「…すみません、僕から小前さんへの伝言をお願いできますか?」



小前の母「伝言?」



はじめ「くだらないエースのプライドとやらのために、甲子園への夢を絶たれかけた先輩たちの気持ちも考えられないで何がエースだ!!怪我人のテメェにも頼られないぐらい見下されて、正直めちゃくちゃ不愉快だった!そんな後輩に尻拭いしてもらうなんて、本当無様だな!いい笑い者だった!と沖田が言っていたと伝えてください!」



慎太郎「はじめ!……あの野郎…」



はじめは、そう言い残し室内練習場を後にする。



はじめの怒りの伝言を聞き、呆然とする小前の両親。



慌てて慎太郎が小前の両親をフォローする。



慎太郎「…あ、すいません!あいつ、準決勝で出れなかったから、ストレス溜まっちゃってて!!本当にすみません!!」



はじめの怒りの矛先は、試合に出さなかった監督や飯島や、何故かとばっちりを受けた田中ではなく、大怪我を負った“エース”に代わっていたのだ。



決勝戦に向かう道中、はじめは小前にメッセージを送る。



”今からテメェが立つはずだったマウンドに格下の俺が立つから、テメェは指くわえてテレビで見てろナルシスト野郎!”



そして決勝戦がプレーボール。



県大会の決勝戦はテレビでも中継されていた。



はじめは1番ピッチャーとして出場。



初回、打席に入ったはじめは、いきなり初球の内角高めの明らかなボール球を、強引にライトスタンドまで運んだ。



はじめはそれを皮切りに4打席連続本塁打を放った。



そしてピッチングでは、なんとカーブとチェンジアップのみで被安打2、27奪三振の驚異的な記録を残しゲームセット。



スコアは4対0。



得点は、はじめの4本塁打のみという、まさに沖田劇場だった。



それと同時に、はじめはこの試合でプレースタイルの幅を見せつけて完全に勝利し甲子園への切符を掴んだのだった。




決勝戦で大暴れしたはじめは、翌日からメディアへの対応に追われる。



中学時代の実績と県大会での投打での大活躍、メディアにとってはこれ以上話題になることはなかった。



記者「沖田選手、中学生の時の剛速球は今のところ投げていないのは何故ですか?」



何度答えても、また同じ質問の繰り返しに、はじめは怒りを少しだけぶつける。



はじめ「あの、それこないだも同じ質問されてもう答えてるんで、そっち見てください。今まで答えたこと無いことだったら質問受け付けますけど、前に答えたことある質問は無視します」



はじめはそう吐き捨て、その場を後にする。



剛腕として知られるはじめが、なぜ変化球しか投げなかったのか……



メディアには



”ストレートの投げ方忘れたからです”



と適当にはぐらかしたが、本音は違った。



ある日のピッチング練習の様子がはじめの記憶に蘇る。



それは小前とはじめが隣同士でピッチングしていた時のことだった。



先に終えた小前がはじめのピッチングを見守る。



“小前「沖田、カーブはその緩いカーブしか投げられないのか?」



はじめ「え?は、はい」



小前「だったら教えてやるよ。もっと親指を、こうして……」



小前「沖田、チェンジアップの時ほど腕を振るんだぞ。真っすぐの時よりも腕を振らないと空振りはとれないぞ」



小前「そう!いい感じだ!いいか沖田。お前の真っすぐは確かにすごい。確かにすごいが、その真っすぐが走らなくなる時が必ず来る。その時のために引き出しを持っておいたら、必ず役に立つ」



はじめ「小前さん…ありがとうございます!」



小前「よし、じゃあ、飯でも行くか?奢ってやるよ、牛丼だけどな!」



はじめ「ファストフードは食べませんよ。よかったらうちに来てください。小前さんがうちに来てくれたら、父さんも喜びますし、是非!」



小前「そうか?じゃあお邪魔しようかな!(笑)」”



はじめは小前から習った変化球や投球術がいかに凄いかを見せつけたかったのだ。



その夜、はじめは自室のベッドの中にいた。



はじめ「…祐衣に会いてぇ……」



はじめは甲子園を前に、自室のベッドで大好きな祐衣への思いを募らせる。



はじめ「祐衣たんに甘えたいよぉ、、、、、」



布団に包まりながら弱々しく悶える姿は、これまで野球で大暴れした選手と同一人物であることが信じられないほど子供っぽいものだった。



そして……



はじめ「怖いんだよ、俺。本当は……だから祐衣に甘えないと戦えないよ……」



はじめは布団の中で呟く。



すると誰かがはじめの部屋の扉をノックする。



慌てて飛び起きたはじめは苦し紛れの嘘をつく。



はじめ「今勉強してる」



しかし、ノックの叩く音の小ささから、それが祐衣であることに気づく。



祐衣「はじめ。勉強してたの?ごめん、邪魔じゃなかった?ってそんな理由無いよね。(笑)」



扉を静かに開けた祐衣。



祐衣の登場は、はじめにとって野球では感じられないほど嬉しいものだった。



しかも元々の美しさに磨きがかかり、彼氏のはじめも思わず息を飲んだ。



はじめ「か、かわいい…」



思わずはじめは声を漏らす。



祐衣「え??何よそれ(笑)」



祐衣は思わず笑ってしまう。



祐衣「久しぶりだね、はじめ。中学卒業して以来だもんね」



実は祐衣とはじめは中学を卒業してから一度も会っていなかった。



祐衣「もう!連絡しても全然返してくれないもんだから、私フラれたと思ったじゃん」



少し膨れた表情を見せる祐衣。



するとはじめは慌てて携帯を確認する。



はじめ「え!連絡!?あれ…あ!本当だ…ごめん、全く気づいてなかった」



はじめは野球に勉強に夢中になりすぎて、祐衣との連絡が携帯を通じてできることを忘れていたのだ。



はじめ「……俺と慎太郎、甲子園に行くよ」



祐衣「知ってるよ。毎日ニュースで取り上げられてるんだから。史上最強の1年生が甲子園へ……ってね。おめでとう、って言うのは甲子園優勝してからだよ。その時はいっぱい抱っこしてあげるからね」



祐衣は、はじめに褒めてあげる条件を与えた。



祐衣「小前さん…だっけ?あのピッチャーの人、残念だったね。すごい人だったんでしょ?プロ注目とか何とか言ってたし。多分はじめにとってもすごく頼もしい人なんだって思ったから少し心配になって様子見に来たの」



はじめ「あぁ、すごい人だよ、あの人は。俺なんかよりも、ずっと」



そしてはじめは入学してすぐに行われた、特待生対当時のレギュラー陣との試合での小前のピッチングに衝撃を受けたことを祐衣に話す。



はじめ「初めてだったよ。あんなにレベルの差を見せつけられたのは。あの人は、それでいて面倒見も良くてさ。俺や慎太郎のことをいつも気にかけてくれてたんだ。だからあの人がマウンドに倒れた時、俺も絶望した、一瞬だけどね」



黙って話を聞く祐衣。



はじめ「嫌な予感がしたんだ……あの時の小前さんの肘から聞こえた音………もう小前さんのピッチングを見ることはできないんじゃないかって。いや、もっと小前さんと野球してたかったんだ。だから無理してマウンドに立ち続けた小前さんに腹が立った」



はじめはブルブルと小刻みに震えながら涙を浮かべる。



はじめ「俺1回もあの人に勝ってない。恩返しもできてない。あんな大怪我をさせてしまった事が悔しいよ本当に……実は決勝戦の前に小前さんに喧嘩吹っ掛けるような連絡したんだ。自分が立つはずだった決勝戦のマウンドでの俺のピッチングを指くわえて見てろって。けど本当は小前さんに教えてもらったことがどれほど的確で正しいことなのかを、小前さんに見てほしかったんだ。馬鹿だよな俺」



涙と本音の吐露が止まらないはじめ。



はじめ「祐衣、俺小前さんに酷いこと言っちゃった。本当は感謝してるし、師匠だと思ってるのに。。。そんな俺に、小前さんの代わりに甲子園のマウンドに立つ資格あるのかな……」



祐衣は涙に濡れて小刻みに震えるはじめの右手に、そっと左手を添えた。



祐衣「本音隠すために大口叩いちゃったんだね。怖かったね……はじめなりのメッセージ、小前さんにもきっと届いてるよ」



優しく声をかける祐衣。



祐衣「だから逃げちゃだめだよ。小前さんと一緒に立つ甲子園のマウンドから」



はじめ「小前さんと、一緒に?」



はじめは意味が分からなかった。



祐衣「そうだよ。小前さんに教えてもらったことが的確で正しいって言ったじゃない。だったらそのことを今度は甲子園でも証明しなきゃ」



祐衣はそう言うと、はじめの右手を持ち上げ、手のひらに、そっとキスをする。



祐衣「小前さんだけじゃない。私もはじめと甲子園のマウンドに立つよ。はじめにとって、こんな心強い味方、他にいないでしょ?」



優しく微笑みかける祐衣。



はじめ「祐衣……やっぱり、俺は祐衣が大好きだ♡」



祐衣に抱き着こうとすると祐衣はそれをそっと制止した。



祐衣「まだダメだよ。甲子園優勝してからって言ったでしょ?」



はじめ「そうだった!ごめんなさい…」



祐衣の突然の訪問で、迷いや恐怖から解放されたはじめ。



そして、祐衣の優しくて温かい癒やしをもらったこの怪物が、甲子園でもとんでもないことをやってのけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ