第17話 エースのプライド!難舞に立ちはだかる最大の試練!
その後、テストが返ってきた。
はじめは当然のように全教科満点。
慎太郎も平均98点とはじめに次ぐ学年2位の成績を残した。
そして、問題だった田中も……
田中「す、すげぇ…俺が平均92点も取れるなんて……まるで夢見てるみたいや」
慎太郎「よかったじゃないか!」
はじめはその頃、野球の勉強をしていた。
はじめ「…………」
慎太郎ははじめの様子を遠目に見ながら田中に語りかける。
慎太郎「田中。アイツ、お前の事相当頼りにしてるみたいだぞ」
田中「どういうこっちゃ?」
慎太郎「お前と野球してたいってことだよ。勉強なんかで、大事なチームメイトを失いたくないんだろうな」
田中「感謝してるで、ホンマに。これからは真面目に勉強もやるわ」
慎太郎「また授業中寝てたら、今度こそ”地獄”が待ってるからな!(笑)」
田中「これ以上お前や沖田に迷惑かけたないから、絶対寝ぇへんよ」
すると館内放送が鳴り響く。
“野球部3年の川瀬と小前!!今すぐ生徒指導室まで来い!!”
それは赤木監督の声だった…
赤木監督「おーまーえーら……」
川瀬「………」
小前「…監督?」
赤木監督「なんだあのテストの点数は……」
小前「あー、それですか!」
赤木監督「それですか!じゃない!!よりにもよって、エースと4番が赤点なんて取りやがって……」
川瀬「監督。俺勉強苦手っす」
小前「ハッハッハ……川瀬!お前と初めて意見が合ったな!」
川瀬「小前…ふっ!」
2人は怒り狂う赤木監督の目の前でハイタッチした。
赤木監督「こんな事…許されると思うなよ……2人共授業が終わり次第俺の所に来い!!みっちりしごいてやる!!覚悟しろ!!」
その日の練習に小前と川瀬、そして赤木監督の姿はなかった。
飯島「あのバカ共が!!こんな大事な時期に赤点なんか取りやがって!」
はじめ「お疲れっす…飯島さん、ちょっといいですか?」
飯島「おう、なんだ?」
はじめ「飯島さん、さっきのノックでゲッツーの時に気になる動きがあったんです。さっきみたいな二遊間寄りの打球なら、捕球してから体捻るより、捕球しながら後ろに下がって、こうやってトスしたほうが、ショートからも邪魔にならないし、ランナーにもかぶらないし、尚且つ早いと思うんですよ」
はじめは身振りを交えながら飯島に提案した。
飯島「うしろに下りながら、か…考えたこともなかったが、やってみるか!ありがとう!」
飯島は怪我を治し、セカンドのレギュラーを狙っていた。
そして月日は少しだけ流れ、はじめと慎太郎、そして田中の1年夏の大会前の背番号発表を迎える。赤木監督が1番から順に選手に背番号を渡す。
赤木監督「1番、小前」
小前「はい」
エースはドラフト1位候補の小前だった。赤点だったが、赤木監督と飯島の”熱血指導”のおかげで追試を何とかクリアした。
赤木監督「2番、武市」
慎太郎「はい!」
慎太郎は予想通り、正捕手を勝ち取った。
赤木監督「3番、谷原」
谷原「!!は、はい!」
ファーストは2年生の谷原だった。
谷原はこの春はベンチ外の左投げ左打ちの選手だった。派手さは無いが高いハンドリング技術で難しいバウンドも難なく捌き、バッティングでも夏に向けて調子を上げ、レギュラーを勝ち取った。
赤木監督「4番、飯島」
飯島「はい!」
キャプテンがセカンドのレギュラーとして復活した。
赤木監督「5番、川瀬」
川瀬「はい。」
川瀬は4番として期待されていた。川瀬も小前と同じく、赤木監督の”熱血指導”を受け、追試を何とかクリアしていた。
赤木監督「6番、沖田」
はじめ「はい」
はじめはショートのレギュラーとして1年夏に挑む。
赤木監督「7番、藤田」
藤田「はい!」
藤田は3年生の右投げ左打ちの選手。センバツから1番センターのレギュラーとしてチームを支えていたが、この大会からはレフトを守る。
赤木監督「8番、田中重久」
田中「はい!」
田中は足の速さと視力2.0を十二分に生かした守備範囲と、最速143キロの強肩ではじめと慎太郎と同様、1年生でセンターのレギュラーを獲得した。
赤木監督「9番、松羽」
松羽「はい。」
松羽は3年生でセンバツでは3番に座りライトを守っていたが、センバツ同様にライトを守る。
1年夏の大会は飯島と二遊間を組むことになったはじめ。
そのメンバー発表のあった日の帰り際、飯島から呼び止められるはじめ。
飯島「少しいいか?」
はじめ「少しだけなら」
飯島「実は俺の左手、殆ど握力は戻ってないんだ。去年の秋の練習試合の時に相手のスライディングをモロに喰らってな。あぁ、俺の野球人生終わったかもって思った。お前達に会うまでは、俺は腹を括って三塁ランコーとして影からチームを支える主将でいようと思ったんだ。だけど、どいつもこいつも下手くそばっかりでさ。お前も感づいてるだろ?センバツもあそこまで上がれたのは正直小前一人だけの力だってこと。それなのに、自分に力があると思い込んで影でサボる事ばっかり覚えやがって」
はじめは黙って飯島の言葉に耳を傾ける。
飯島は続けた。
飯島「だから、お前と武市の存在は本当に大きかった。中学であれだけ騒がれても傲る事なく上手くなることと勝つことに対しては誰よりも飢えてる。自然と俺もお前達とプレーしたいって思えて、ダメ元でリハビリなんかもしてさ。結局握力は戻らなかったけど、お前のグラブ捌きを見て、本当のグラブの使い方を覚えさせてもらったよ。俺が再びプレー出来るようになったのはお前のおかげだ。感謝してる」
深々と頭を下げる飯島。
はじめ「飯島さん…話長いっすよ。それと、センバツの結果は小前さんだけの力じゃないですよ。飯島さんがチームをまとめ続けたから決勝まで行けたんだって今だから分かります。けど優勝できなかった、だからこの大会は一緒に優勝しましょう」
飯島「あぁ」
はじめ「じゃあ、俺疲れてるんで帰りますね。お疲れっす」
はじめは足早に帰宅した。
そしてはじめと慎太郎の1年夏の大会が幕を開けようとしていたのだった。
そして迎えた夏の県予選。
順調に予選を勝ち進め、迎えた準々決勝。
まだはじめの登板はなかったが、ここまで全試合1番ショートとしてフル出場。
打率.700、5本塁打という数字が、はじめの活躍度合いを示している。
慎太郎は5番キャッチャーとして、チーム最多の7本塁打を記録する打撃と、守備では巧みな配球とトリッキーなプレーでチームを勢いづかせた。
その慎太郎の巧みなリードに投げ込む投手は小前。ここまで全試合を1人で投げ抜いていた。
そして、飯島は2番セカンドとしてチーム打撃に徹底。バントや野手の間を狙う手堅いバッティングでチームを支えてきた。
川瀬は4番として、本塁打はないが、全試合で3本ずつ二塁打を放つ。
谷原は9番ファーストとして、堅実な守備と全試合で出塁して1番のはじめに繋ぐ打撃を徹底した。
藤田は7番ながら、出塁すると高い走塁技術を魅せた。
松羽は3番として、川瀬、慎太郎に負けない打撃を魅せた。
田中は6番センターで全試合で安打を放つなど、チーム1番の成長株として期待に応えた。
それぞれが躍動し、ここまでの全試合を同じメンバーで戦い、全試合5回コールドゲームで勝ち進める。
ところが、この試合はプレイボールから波乱の幕開けとなる。
小前「…やべぇ………」
小前は小声で呟き、1球目にチェンジアップを投げる。
“カーーーンッ!”
小前、慎太郎「!!」
打球はセンターを守る田中の頭上を越え、そのままスタンドまで飛んでいった。
実は試合前のキャッチボールの時点で異変を感じた慎太郎。
慎太郎「小前さん、今日はやめといたほうがいいですよ」
小前「気使わせて悪いね。けど準々決勝ぐらいの相手ならこれぐらいで十分抑えられる。だから投げさせてくれよ」
小前を止められなかった慎太郎は、何とか小前に負担なく投げさせる配球はないか、と考えを巡らす。
異変を感じたはじめがマウンドに駆け寄り声をかける。
はじめ「小前さん、あんたまさか何処か痛めてるんじゃ」
小前「うるさい!戻れ!」
はじめ「小前さん…」
小前「“こんなウォーミングアップも出来てねぇ状態で沖田は投げさせられない!なんとかこの回だけでも粘ってやらないと……”」
そこから3連続単打を浴び、さらに3連続押し出しと、かなりの乱調になる。
小前「はぁ、はぁ、はぁ…(く、クソっ!力が…入らねぇ!)」
小前は冷や汗を流し冷静さを失い、半ばやけくそになっていた。
そして迎えた8番打者との対決の初球、マウンドからブチっと鈍い音が響き渡る。
小前「!……くそ……」
“ドサッ!”
実は県予選が始まってすぐに、小前は左肘に痛みを感じていたのだ。
ただこのチームのエースとしてのプライドが小前をマウンドに立たせ続けていたのであった。
力なくマウンドに倒れ、苦悶の表情を浮かべる小前。
飯島、川瀬「小前!」
慎太郎「あっ!!小前さん!!すみません、タイムをお願いします!!」
チームメイトたちがマウンドに駆け寄る。
そしてベンチ選手に担がれながら、小前はマウンドを去るのだった……
小前はベンチの選手たちに担がれながら、悔し涙を流していた。
小前「くそ……ちくしょう……」
赤木監督「小前…すまない。お前に無理をさせてしまったんだな…全ては俺の責任だ」
小前「くっ……」
小前はベンチ外の選手同伴で病院に運ばれていった。
赤木監督「さて、どうする…ん?」
赤木監督はベンチにはじめの内野用グラブがあるのに気が付く。
そしてはじめは投手用のグラブを手にマウンドに向かっていた。
赤木監督「沖田!誰が投げろと言った!」
するとはじめは間髪入れずに反論する。
はじめ「うるせぇ!!俺しかいねぇだろうが!ベンチの奴ら見てみろ!小前さんのあの様子を見て肩を作ってたヤツは誰もいねぇじゃねぇか!だいたい、なんで手遅れになるまで小前さんに無理させてんだよ!?ベンチで何見てやがったんだ!!偉そうに指図する暇があるなら、さっさと俺に投げさせろ!!」
赤木監督「!!沖田…お前……」
はじめの鬼気迫る様子に驚いた赤木監督は、直ぐに審判に交代を告げる。
“難舞高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャーの小前くんに変わり、永倉くんが入り、ショート。ショートの沖田くんが、ピッチャー。1番ピッチャー沖田くん。8番ショート永倉くん。以上に代わります”
はじめが2番手としてショートからマウンドに上がる。
南部川監督「ここで、剛腕沖田か…中学で全国優勝したとはいえ、この流れは絶対に止められん!」
はじめの剛腕ぶりは、登板が無くとも相手の南部川学園にも知られていた。
緊急登板となったはじめの投球練習中、慎太郎は少し不安な気持ちになる。
慎太郎「やっぱり、真っすぐ走らないか。これは俺がしっかりしなきゃ、打ち込まれる…俺が小前さんを止めれていれば……はじめに最初から先発を任されたら、こんな事にはならなかった。全て俺の責任だ……」
試合が再開され、慎太郎はサインを出すが、はじめはことごとく首を振る。
慎太郎「ん?なんだ…?」
そしてはじめは、アイコンタクトを送る。
はじめ「“こっち来い”」
慎太郎「た、タイムお願いします!」
マウンド上で二人は会話する。
慎太郎「なんだよ」
はじめ「…何半分負けたみたいな面してんだよ」
慎太郎「は?」
はじめ「まぁ仕方ねぇか。お前も気づいただろ?今の俺の真っすぐは使えないって。だから今日は変化球しか投げない」
慎太郎「はぁ?そんなんで抑えれるわけないだろ?」
はじめ「だったら俺がリードする!俺がどんなピッチングするのか、体で覚えろ!」
慎太郎「はじめ」
はじめ「……絶対負けねぇ!意地でも勝ってやる…」
審判「おい早く戻りなさい」
慎太郎「はい!、、、どうなっても知らねぇからな」
はじめ「”5点取られてノーアウトランナー2塁3塁。相手は8番。カウント1ボールか。ここはスクイズもあり得る。だったらスクイズさせてやるよ!”」
はじめが投げた初球は鋭く曲がり落ちるシンカー。
相手ははじめの読み通りにスクイズをしてきたが、空振り。
はじめ「慎太郎!サードだ!!」
慎太郎「!!」
はじめの声で飛び出した三塁ランナーに気付いた慎太郎は三塁ベース付近でランナーをアウトにした。
はじめ「“1アウト三塁か……次は…”」
はじめはセットポジションに入ると、サードの川瀬にアイコンタクトを試みる。
はじめ「“牽制いきます…”」
川瀬「“!?な、なんだ?もしかして……”」
“シュルル!!”
三塁ランナー「な!」
“パチ!”
“パンッ!!”
審判「アウト!!」
巧みなけん制でランナーを刺して、あっという間に2アウトランナーなしになった。
慎太郎「ま、まじかよ…」
呆気にとられる慎太郎。
はじめはそんな慎太郎に視線を向け、ニヤついた。
はじめ「フッ……“諦らめるのはまだ早ぇよ。俺が真っすぐだけしか投げられない脳筋じゃないって事はテメェが一番分かってんだろ?”」
慎太郎「!!はじめ……“そうだ、お前は真っ直ぐだけのピッチャーじゃない!!悪かったな、相棒”」
そしてはじめは、1ボール1ストライクから、速いカーブを投じ、それにタイミングを外されたバッターは、辛うじてバットに当てるも、ピッチャーゴロだった。
これには南部川学園の監督も開いた口がふさがらなかった。
南部川監督「一瞬で、一瞬でやられた……」
そこからはじめは全球変化球という、ある種大胆なピッチングを披露。
意表を突く投球で南部川学園の打線を完全にシャットアウトする。
そして、はじめはこの試合でも打ちまくっていた。
なんとこんな大ピンチの試合でサイクル安打を記録する。
慎太郎は2本塁打、飯島は2安打2犠打、川瀬が最終回にサヨナラ2ラン本塁打を放つという、それぞれが役割を果たして掴み取った特別な勝利となった。
しかし、それと引き換えに難舞高校は“エース”を失った………




