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第1話 始まりはいつも食事から………

“がっがっがっ、、、ごくっ”


“ん、ん、ん、、、、”


箸が茶碗を打つ音色と、お茶を飲む音が食卓に響き渡る。


はじめ「お母さん、おかわりー!」


いおこ「はいはい、あんたは本当によく食べるね」


母親がご飯のおかわりをよそってくれている間に、父親の席にあるおかずにも目を奪われる1人の肥満児がいた。


いおこ「はいどうぞ、ってあんた!ここに置いてあったおかずは?」


はじめ「美味しーーー」


いおこ「あんたそれはお父さんのでしょうがーーー!」


彼の名は沖田一。この物語の主人公だ。


彼は食べて、食べて、食べまくっていた。


彼の胃袋が落ち着かせるには、かなりの食料が必要だ。


いおこ「はぁ、また作らなきゃ」


宗一郎「ただいま」


程なくして父親が帰宅する。


いおこ「おかえりなさい」


宗一郎「お、はじめ、まだ食ってたのか。こりゃ将来が楽しみだ」


いおこ「楽しみだ、じゃないよ。本当に」


宗一郎「あれ、飯まだ時間かかりそうなのか」


いおこ「はじめが全部食べちゃったのよ!、、、はじめ!いい加減に、食べるのやめてちょうだーーーい」


いおこは、はじめの食欲に悲鳴を上げつつも、どんどん料理を振る舞い、はじめが幸せそうに食べる顔がとっても嬉しい様子。


食べ疲れたはじめの寝顔を見つめるいおこと宗一郎。


いおこ「はじめの食べっぷりには苦労させられるけど、可愛いからついに何でも食べさせちゃうんだよねー」


宗一郎「はっはっは、これは食べ盛りにはもっと苦労しそうだな。ところで、はじめは友達の一人でも出来そうなのか?」


いおこ「いいえ、だってヒーローやアニメなんて、この子にとってはどーでもいいんだから」


宗一郎「んー、食うのは良いんだけどな」 


いおこ「おもちゃにだって見向きもしないんだよ。この子の頭の中には食べる事しか無いって感じ」


はじめの食べる事への執着心は常軌を逸していた。


ところがそんなはじめにも、苦手な食べ物があった。


ある日はじめを連れて買い物に行った時の事。


いおこ「あ!はじめアイスクリーム食べる?」


はじめ「いらない」


いおこ「あら珍しい。はじめはアイスクリーム嫌いなの?」


はじめ「うん。美味しいけど、食べると頭痛くなるんだ。あとチョコレートと飴も硬くて歯が痛くなるから食べたくない」


そう、はじめはアイスクリームやチョコレート、飴玉が苦手。


いおこ「子供なのに変わってるわね」


はじめは幼稚園でも、食べる事ばかり考えていた。楽しみはお弁当の時間のみ。


はじめ「ハンバーグに、お魚に、レタスに、ピーマン、トマトに、ご飯!もやしも入ってる!!おいしーーー」


幼稚園の先生「はじめくんは本当に食べる事が好きなんだね。お友達とは遊ばないの」


はじめ「お友達って美味しくないし、つまんないもん」


はじめは幼稚園でも誰とも遊ぶこと無く、お弁当を食べ終えると、その日の夕飯の事ばかり考えていた。


そんな毎日を過ごしていたある日の夕飯時、はじめの人生を大きく変える出来事が起こる。


いつものように、目の前のご飯を幸せそうに食べてたはじめ。


テレビで音楽番組を見ながら宗一郎といおこが何やら話をしていた。


宗一郎「最近の音楽はやかましいな。見た目も派手で目まで痛い」


いおこ「それは偏見ってヤツね」


“さぁ、次はHDです。オリコンでも上位にランクインした新曲を披露してくれます。それではお聞きください、HDで「懺悔」”


するとテレビから聞こえる轟音に、はじめは反応した。


そして、ふとテレビを見たはじめに衝撃が走る。


激しくも刺激的な轟音、ど派手なパフォーマンスに、光り輝く見た目、、、、


はじめ「か、、、カッコいい」


はじめは箸を止め、食い入る様にテレビを見つめる。


すると、今度はそれに気付いた両親に衝撃が走る。


いおこ「ん?えぇーーーー!」


宗一郎「わぁ!びっくりしたぁ!なんだよ、急に大声出して!」


いおこ「はじめの、はじめの箸が、止まってる」


はじめを見る宗一郎。


宗一郎「えぇーーーー!!!」


はじめは完全に食べる事を忘れていた。


食べる事を忘れて、テレビの中にいるHDのパフォーマンスに見惚れていた。


中でもはじめを魅了したのは、ギターを担当するYU-TOだった。


YU-TOはHDの中でも一際異彩を放っており、何処か他のメンバーとは違っていた。


はじめ「カッコいい」


翌日、はじめは日曜日なのに早起きして、何やら作業をしてた。


その作業する音で、いおこは目が覚めた。


いおこ「ん、、、何の音?」


いおこがリビングに行くと、そこには夢中で段ボールを切り取り、何かを作るはじめがいた。


いおこ「おはよう、はじめ。朝から何作ってんの?」


はじめ「お母さんおはよう!すごいんだよ、これ!昨日のテレビに出てたカッコいい人が持ってたんだよ」


いおこ「昨日?カッコいい人がテレビに出てたの?」


いおこは何処か、はじめて食べる事以外に夢中になる我が子を微笑ましい気持ちで見守っていた。


作業が終わると、はじめは嬉しそうに出来上がった物を見せます。


はじめ「出来た!お母さん、できたよー!!」


朝食を作っていたいおこの元に走ってきたはじめ。


いおこ「んー?え!これはじめが作ったの!?」


はじめ「昨日カッコいい人が持ってたんだよ、これ!」


いおこは、はじめが作った物のあまりの完成度に驚いた。


はじめ「おとーさーん!起きて!起きてよ!凄いの作ったんだよ!!」


宗一郎「ん、何?はじめ???どうしたんだよ、日曜日だぞ今日は」


はじめ「お父さん、見て!これ!凄いんだよ!」


宗一郎「ん?え!?これお前が作ったのか?」


はじめ「そうだよ!早起きして作ったんだよ!」


宗一郎はすぐにいおこの元へ行くと、いおこも戸惑った様子だった。


宗一郎「見たか?あれ」


いおこ「見た、、、凄い完成度だった」


宗一郎「まさか、あんなもん作ってしまうとは、、、」


いおこ「信じられない」


するとはじめが、2人の元へ走ってきた。


はじめ「ねぇねぇ!見てて!!!」


はじめがその作った物を使い、2人に見せたのは、激しいヘッドバンギングと激しいギターのパフォーマンスの真似だった。


そう、はじめが作っていたのはギターだった。


それから毎日、はじめは家でそのギターを使いYU-TOの真似をする。


それを微笑ましく見守る両親。


食べる事も忘れてはいないが、満腹の状態でやると、脇腹が痛くなるのを知ったはじめは、“やや満腹”に抑える努力をした。


しかし、テレビでよく見てみるとHDのメンバーはYU-TOも、YU-TO以外のメンバーが痩せているのにはじめは気付く。


はじめ「みんな細くてかっこいいなー。僕も大人になったら細くなれるのかなー?」


そんなふうに思っていると、はじめの中にある記憶が蘇る。


それはかつて何かのアニメで見た、食べられずに飢えて痩せていくキャラクターの様子が描かれるワンシーンだった。


はじめ「そうだ!食べなかったら細くなれるんだ!じゃあ食べるのやめた!!!」


翌日の朝、いつものように朝食が食卓に並ぶが、1つだけ変わっていたことがある。


はじめ「僕ご飯食べないよ」


いおこ「、、、は?」


はじめのご飯食べない発言を受けて、一瞬思考が停止するいおこ。


宗一郎「ご飯食べないだって?お腹でも痛いのか?」


はじめ「痛くないよ。食べないんだよ」


すると血相を変えたいおこが急いで外出の準備をし始める。


宗一郎「おい、どうしたんだ?そんなに慌てて」


いおこ「こんなの慌てずにいれるわけないでしょ!病院行くわよ、はじめ!急いで!!!」


はじめ「え?でも僕幼稚園が」


いおこ「幼稚園は行かなくていいから、今は病院行くの!!早くしなさい!!!」


はじめ「えぇ?お母さん怖いよ」


いおこ「ぐずぐずしない!怖くてもいい!自分で準備できないなら、そのままいくよ!」


はじめを無理矢理車に乗せて、七山病院へ行くいおこ。


医者「ん~。別にどこも悪くなさそうなんですがね?」


いおこ「そんなはずありません!あんなに、あんなに食べる事しか考えられなかった子がいきなり食べなくなったんですよ?」


医者「そうは言うけど、数値は何も問題ないんです。何か精神的な事ではありませんか?」


いおこ「精神的な事?」


医者「えぇ。例えば好きな子ができたとか、お友達に何か言われたとか」


いおこ「お友達?」


はじめを見つめるいおこ。


いおこ「ねぇ、はじめ。幼稚園で誰かに何か言われたりした?」


はじめ「え?みんなによく食べるねって言われるけど、先生には残さずに食べて偉いねって言われるよ」


いおこ「そう。はじめ、ご飯食べたくないの?」


はじめ「僕食べるの大好き。お腹空いてるけど、食べたくないの」


医者「なんで食べたくないんだい?」


はじめ「僕ね細くなるの。食べなかったら細くなれるんだよ」


嬉しそうに話すはじめに、医者が話しだす。


医者「あのね、はじめくん。食べるのが大好きならいっぱい食べないと。大人にはなれないんだよ。病気になってね、死んじゃうかもしれないんだよ。お母さんだって心配してる」


いおこには少し心当たりがあった。


いおこ「先生!お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした!帰るよ、はじめ」


再びはじめを連れて帰宅するいおり。


そして帰宅するとはじめに問い詰める。


いおこ「はじめ、何のために細くなりたいの?」


はじめ「YU-TOみたいにカッコよくなりたいんだ!僕大人になったら、YU-TOと一緒にギターやるの!」


無邪気なはじめの答えに、いおこは大激怒した。


いおこ「ふざけるんじゃないわよ!あんたが食べないなんて言うから、どこか悪いんじゃないかって本気で心配したじゃないの!」


はじめ「え、お母さんなんで怒ってるの?僕何もしてないよ」


いおこに怒られてはじめは涙目になる。


いおこ「泣かないでよ!泣きたいのはこっちなんだから!どれだけ心配したと思ってるのよ!!!」


はじめ「、んっ、、わぁーん、、、お母さん怖いよ、、、、わぁーん」


いおこ「泣くな!」


いおこが一喝すると、驚いたはじめは一瞬だけ泣き止む。


はじめ「お母さんなんて、大嫌いだー」


はじめは一目散に寝室に籠もり、自作のギターを抱きしめながら泣いた。


そして、少しして我に返ったいおこは、つい取り乱して怒ってしまったことを後悔していた。


いおこ「私ったら、なんてひどい事を、、、」


いおこは後悔のあまり涙を流さずにいられなかった。


寝室で泣いていた、”フリ”をしていたはじめは、薄く扉を開けながら、いおこの様子を見ていた。


はじめ「なんで、お母さんが泣いてるの?僕が大嫌いって言ったから?もしかしたらお母さんは僕が嫌いで怒ってたんじゃないのかも、、、僕ひどい事言っちゃった」


はじめもお母さんを泣かせてしまった事を後悔していた。


そしてゆっくり寝室から出てきて、いおりの元へ戻ってきた。


はじめ「お母さん、大嫌いって言ってごめんなさい。僕お母さん大好きだから、泣かないで」


はじめの謝罪に、心を少し救われた気がしたいおこも涙を流しながらに謝罪する。


いおこ「お母さんも、怒ってごめんね。いい子。お母さんもはじめの事は大好きよ。だからもう、食べないなんて言わないで」


2人は仲直りした。だけどいおこは、YU-TOがはじめから食べる事を奪ったと思い、YU-TOを憎むようになった。


あれからテレビでHDやYU-TOが映ると意図的にチャンネルを変えるいおこ。


はじめも子供ながらにそれに気付いていた。


はじめ「お母さんは僕が嫌いなんじゃなくてHDが嫌いなんだ。じゃあお母さんの前でYU-TOやHDのお話はしちゃいけないな」


はじめはそれから自作のギターを押し入れの奥の方に隠して、いおこの目の前からHDやYU-TOを遠ざけようとした。


ところが、仲直りしたいおこに食べないなんて言わないと約束した為、少し困っていた。


はじめ「僕これじゃ細くなれないよ。どうしようかな~」


すると何やらテレビを見てる宗一郎といおこの様子が目に入る。


“さぁ、現在9回ウラ2アウトで打席には高卒ルーキーの清井和喜が代打として登場します”


宗一郎「お!ここで来たかルーキー!あぁ、なんで今の甘いヤツに手出さねぇの!」


“カウント1ストライク0ボールからの2球目、ピッチャー投げました。打ったー!打球は文句無し、ライトスタンドへ一直線!入りました!ホームランです!サヨナラ!!ルーキー清井が試合を決めました!”


宗一郎「かぁー!やっぱり違うね、ゴールデンルーキー!!!」


いおこ「凄いじゃないこの子!」


この両親の様子を見たはじめは閃いた。


はじめ「野球をやれば、お父さんもお母さんも喜ぶし、僕は細くなれるかもしれない。そしたら食べるのだって我慢しなくていいかもしれない!これだ!!僕は野球をやろう!」


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