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the game  作者: moshiro
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1.スクラントン球場・3連戦 (マイナー)

 サインミスを犯したタカヒロは、試合後のミーティングで、監督から次戦のレギュラーはく奪を告げられた。

 輪の外からミーティングを見つめている保護者たちが、うちわで顔や身体を仰ぐ音が響く。タカヒロは上唇をぎゅっとすぼめて、監督の言葉に返事をしない。スタンドに駆けつけた人たち全員に配られたうちわには、燃え盛るような赤い背景と『必勝!! 市高!!』という太文字がプリントされている。

「いいか? タカヒロ。あのプレーはな……」

 先ほど行われた試合で俺たちのチームは勝ち、甲子園出場をかけた決勝戦へ進むことが出来たというのに。監督の言葉には、かすかな怒りさえ滲んでいた。すぐ傍で俺たちの両親が見ていなければ、タカヒロの顔面には監督の平手打ちがとんでいただろう。パチンコ玉のように並んだ五厘刈りの頭に、スズを溶かすような7月の陽光が容赦なく照り付ける。監督の言葉にうつむくタカヒロの頭にも特大の雫が浮かび、頬から顎にかけて滴り落ちていく。俺の視線は、彼が腰ベルト付近で強く握りしめ、くしゃくしゃに潰された帽子にとまった。

「聞いてるのか! この……」

 タカヒロに掴みかかった監督の言葉は、球場内から聞こえてくる歓声と、ブラスバンドの爆音でかき消される。監督は、普段の練習では部員たちに向かって怒鳴り散らし、鉄拳制裁も辞さないヒトだったが。まさか、保護者の前でもやるとは思わなかった。

「監督……」

 後ろで控えていた部長に、校章が縫い付けられた半そでを掴まれる。監督は、右手は握りしめて顎の下に、左手はタカヒロの胸倉をねじりあげたまま凍りつく。うちわであおいでいた保護者たちの動きが止まり、応援に駆け付けた生徒や、ミーティングに参加している部員たちにも動揺が広がる。「監督!」部長の手で、二人の身体が引きはがされる。離れた拍子によろめいたタカヒロの『背番号8』の背中が、後ろに立っていた俺の身体にぶつかる。

「このヤロウ……」

 タカヒロは肘で俺の胸をつくようにして離れる時、監督に向かって確かにそう呟いた。

俺は驚いた。『背番号8』を覆うようについた泥と、汗のにおいが、俺の鼻の奥をふんわりとついた。

「主将!」

 監督に怒鳴られると、俺はほとんど反射的に「気を付け! 礼!」と叫ぶ。


 シャッス! (お願いします! )

 いいか! お前たち……。


 監督は何事も無かったように、試合後のミーティングを続ける。

「お前たちはよくやった。この勝利は大きい。だが、決して浮かれるな」

「はい!!」

 監督の言葉に、16コ並んだ坊主頭が今にも食らいつかんばかりの勢いで叫ぶ。

「次で勝たなきゃ意味がないんだ。分かるな?」

「はい!!」

 一位じゃなければ、二位も最下位も一緒だ。放課後の練習中、監督からペンやメガホンやストップウオッチやバインダーと一緒に何度も、何度も俺たちが投げつけられてきた言葉だ。しかし、選手たちの中には、もう顔を赤らめて感極まってしまった奴の姿も見える。

「次で勝たなきゃ、意味がない!」

「はい!!」

「コウシエンに行かなきゃ、意味がない!」

「はい!!」

 監督が「コウシエン」という言葉を口にした時、誰かが鼻をすすりあげる。勇ましい返事をかえすたびに、球児たちの身体から汗の粒がはじけ飛び、ユニフォームの肩が大きく、上下に揺れる。ミーティングの輪の一番後ろに立っている俺には、彼らのそういう姿がよく見えた。

 目を赤くした監督がまた吠える。

「甲子園に行かなきゃ、意味がない!」

 球児たちの肩が大きく、揺れる。

「はい!!」

 舌打ちの音がした。みんなが一斉に振り返る。俺は、針金のようなモノで身体を締め付けられたような痛みを感じた。みんなの視線を浴びてもタカヒロの背中はピクリとも動かない。「背番号8」のゼッケンの角に乾いた泥がこびりつき、糸がほつれかかっている。

俺はずっと気づいていた。監督の言葉に、タカヒロの肩だけが、ピクリとも動いていなかった。


1.スクラントン球場・3連戦 (マイナー)

 アメリカ東部時間21時38分。ペンシルベニア州、スクラントン球場。

 球団マスコットの着ぐるみが、スキップをするように球場の内野席通路を闊歩する。額から柔らかいツノのようなモノを生やした深海魚のキャラクター。打席に立ったマイクが思い切りスウィングした勢いでバランスを崩し、振り切ったバットのヘッドが後ろの地面に突き刺さる。鉛玉のように発射されたボールはぐんぐん伸びていき、外野フェンスに描かれたクラッカーのようなキャラクターの飛び出した目ん玉に直撃する。1塁ランナーがいっきにホームまで生還し、9回裏でスコアは5対5。体勢を崩してスタートが遅れたマイクは、二塁ベースに頭から滑り込んでギリギリ「セーフ」になる。

ネクストバッターズサークルで待機していた俺は、冷え始めた球場の空気を吸い、吐き出す。3日前までプレーしていたアリゾナの球場に比べると、ここの空気は少し肌寒く感じられる。2アウト、ランナー2塁。一打サヨナラのチャンスに、深海魚のキャラクターが肩に担いだ大旗を振り回して、ファンや選手たちを煽る。

『ナンバー・シックスティーエイト。カノン・キベ! 』

 球場DJが、俺の『カノン』というファーストネームをアナウンスする時、真ん中の『ノ』の部分にアクセントを置く。例えば『ヘルナンデス』とか『カノ』とか中南米系に多い名前は、文字の中盤から後半にかけてアクセントを置くことが多い。チームメイトの一人がベンチから吹いた指笛の音が、がらんとした球場全体に異様に大きく響き渡る。棒の先端からカラフルな綿あめの袋を提げた売り子が、人気のないスタンドの階段を、ゆっくりと昇っていく。いつものことではあるのだが、打席に向かいながら俺は思わず笑ってしまう。ここよりは、甲子園予選のスタンドのほうがよっぽどマシだったな。クラスメイトの声援と、ブラスバンドの演奏を背にプレーしていた頃の俺は、まさか、アメリカのマイナー球場が日本の地方球場よりも寂れているなんて想像もしなかっただろう。

 右打席に入る時、俺は帽子のつばを摘まんでアンパイアと、相手キャッチャーにも挨拶をする。アンパイアは「ハウアーユー?(調子はどうだい?)」とこたえてくれたが、キャッチャーには無視された。キャッチャーミットのウェブの部分を、サイン用の黄色いマニキュアをつけた指で何度も潰している。俺は前のバッターのマイクが右足で掘り返して作った穴に土をかけて埋め、平らになった土をまたスパイクの歯を使って掘り返し、マイクのものよりも浅い、自分専用の窪みを打席の中に作る。ゆっくりと、相手バッテリーを焦らすように打席の土を埋め、掘り返し、ならす。マウンド上ではピッチャーが汗で黒光りした腕で額を拭い、キャッチャーがたまらず腰を上げアンパイアが「タイムアウト」を宣告する。

マウンドに駆け上がってきたキャッチャーに、中南米系のピッチャーは浅黒い顔の皮膚全体を動かすようにして何かをまくし立て、ピンチの場面で「タイムアウト」を要求した相手バッテリーに、俺のチームメイトがまた指笛を吹いて挑発する。

「ヘイ! ワッツ・アップ!?  チャイニーズ!!」

 敵チームのベンチからも、両目の端を引っ張る差別的なジェスチャーとともにヤジが俺に向かって投げつけられる。しかし、今度はこちらのチームメイトは誰も反論しなかった。みんな虚ろな目をして黙っている。ピンク色のデカいガムを一定のリズムで、いつまでもくちゃくちゃと噛み続けている者。ベンチの柵を抱え込むようにして寝落ちしている者。投球時に割れたかもしれないと爪の先を気にしている降板後のピッチャー。このチームでは一番ベテランにあたるボーンは、レガースやプロテクターをつけた格好のままベンチでふんぞり返り、俺に対する侮辱的な挑発にもヘラヘラとした笑みを浮かべている。

 マウンド上ではバッテリーがほとんど口論のような感じで言い合っている間、俺はグランド後方に映ったスクリーンの数字をぼんやり見つめている。角がうすぼけたスクリーンに映っている『AV.387』という数字が俺の打率で、『ERA10.89』という数字が相手ピッチャーの防御率だった。二人の名前の下にドット絵のような二体のキャラクターが現れ、右から左へ流れていく。イギリス発祥の料理をもじって『フィッシュアンドチップス』という愛称が付けられた深海魚とクラッカーのキャラクターが追いかけっこをしている映像だった。深海魚のキャラクターが、クラッカーのキャラクターに追いつくと大旗を使って何度も殴りつけ、クラッカーは特徴的な大きな目玉だけを残して無残に砕かれてしまう。口元をグラブで覆い隠しながら相手ピッチャーは、そのクラッカー・キャラクターのように目ん玉をこれでもかというくらい剥き出しにして何かをまくし立て、マウンドに上がった白人のキャッチャーも負けじと言い返している。話が長すぎるので「タイムアウト終了」を告げるために、アンパイアが打席からゆっくりとマウンドへ向かう。

「ファック! ディス、ボール! ビサイズ……」

 アンパイアがマウンドに上がっても、相手ピッチャーの興奮は収まらない。長すぎるタイムアウトに「ヘイヘイ! ハリー」と味方ベンチからもついにブーイングが飛び始める。

ピッチャーはスパイクの裏でマウンドの土を何度も踏みつけながら、手にしたボールをアンパイアの胸に押し付け交換を要求する。ボールとマウンドのどちらが気に入らなかったのか、それとも両方だったのか。分からないが、ミーティングの輪が解けるとピッチャーは左手にはめたグラブを口にくわえるようにしてキャッチャーのサインを確認し、ようやく投球モーションに入る。俺も重心を下げ、バットのヘッドを少し相手ピッチャーの方へ傾けるようにしてフォームを固める。相手ピッチャーの左足が上がった時、2塁ランナーのマイクがスタートを切った。

遅い! 2塁ベースよりキャッチャーからの距離が近い3塁ベースへの盗塁は、ピッチャーの左足が上がる直前にはもうスタートを切っていなければ間に合わない。マイクは、相手ピッチャーの膝が胸元まで上がり切ってからスタートを切っていた。

 ホームベースより手前でバウンドしたスライダーを、俺はわざと空振りする。さらに、空振りした勢いでバットのヘッドを思い切り放り後ろへ放り投げるような動作をする。そうすることで、相手キャッチャーの視界を遮り、送球モーションをさりげなく妨害する。フォロースルー後は、アンパイアに「守備妨害」をとられないよう打席の中で素早くしゃがみ込む。俺の妨害が効いたのか、キャッチャーの送球は、サードの選手が飛び上がってようやくキャッチできるほどの暴投になった。砂埃を巻き上げながら三塁ベースに滑り込んだマイクに、今シーズン49個目の盗塁が記録される。

「ヘイ、チャイニーズ! (おい、中国人!)」

 俺がグランドに落ちたマスクを拾って渡してやった時、相手キャッチャーはグランドに垂らした汚い唾と一緒に、俺に向かって吐き捨てた。

「次やったら殺すからな?」

「ホワッツ?」

 俺はマスク越しに蒼い目で睨みつけてくる相手に向かって、肩をすくめて見せる。

「ホワッツ、ドゥーユーミーン? (何を言っているか分からないよ)」

 俺の言葉に、相手はマスクと顎のあいだから「プッシュ」という音を立ててもう一つ汚い唾を吐き出す。俺たちの後ろから、アンパイアがマウンドを指さしてプレーが再開する。


 49個目の盗塁が決まって気分を良くしたのか、マイクは相手バッテリーを煽るように三塁ベースから大きくリードを取り、ピッチャーがサイン確認を止めて振り返ると、慌てた動作で三塁ベースに頭から滑り込む。立ち上がるとマイクはベルトを掴んでズボンの中に入った砂を落としながら、黒い肌に生える前歯をむき出して笑う。

2アウト、ランナー三塁。いくらなんでも、この場面でホームスチールは無いだろうと、俺だけでなくこの球場にいる誰もが思っているに違いない。それなのに『防御率10.89』の相手ピッチャーは、三塁ベースから揺さぶりをかけるマイクの姿をじっと睨みつけてその動きを十分にけん制する。ランナーの動きを警戒しすぎたのだろう、肝心の投球モーションは、逆の一塁ベース方向へ流れてしまい、伸び切った右手の指から放たれたボールは、とんでもない方角へすっ飛んでいく。俺は右打席で突っ立ったまま、左打席の土を巻き上げすっ飛んでいくボールの行方を悠然と見送る。キャッチャーは、自分の身体でボールを止めにいくにはあまりにボールが遠すぎるので、咄嗟に左手にはめたミットを裏返し、逆シングルでの捕球を試みるが、おそらく届かないだろう。ボールが打席後方のグランドを転々とする間に、マイクがホームベースに滑り込み、6対5でチームは逆転、サヨナラ勝ち。この球場にいる誰もが、そう思った。

 キャッチャーの金色の毛が生えた腕が目一杯伸び、ウェブの先にボールが引っ掛かり、止まる。後逸じゃない! 俺は左手を三塁ベース方向へ払うように大きく振ってマイクに「ストップ!」をかける。だが、間に合わなかった。マイクはもうキャッチャーが『後逸した!』と決めつけて、三塁ベースから勢いよくスタートを切ってしまっていた。ストップした時にはもうマイクの190センチを優に超える巨体は、三塁ベースとホームベースのちょうど中間くらいの地点まで来てしまっていた。

 大きく離塁したマイクは、俺のサインに気づくと泣きそうな表情で三塁ベース方向へ巨体を翻す。まるで猟銃を向けられて尻尾をまく猛獣のようだ。俺からは見えないが、何とか捕球したキャッチャーは、マイクをアウトにするために送球モーションに入っただろう。3アウトチェンジで、ここから延長に入ったら試合時間は午後10時を超え、睡眠不足で明日行われる予定のデイゲームにも響くだろう。視界の隅で、敵ベンチにいる選手が頭を抱えたのが見える。俺はとっさに、ユニフォームの胸を逸らすように一歩だけ後ずさりする。後ろに傾いた身体を、右足のスパイクの裏で踏ん張って支える。その時、頭の後ろで固いもの同士がぶつかり合う『コン』という乾いた音が響き、グリップを握った手のひらに弱い電流がながれたような衝撃が走る。びっくりして、俺は振り返った。バットに当たり、一塁ベンチ方向へ跳ね返った白いボールを、キャッチャーはもう顔から転びそうな勢いで追いかけている。

「カモン! 」

 思い切り叫びながら今度は二、三歩後ずさりし、マイクがホームベースに滑り込むための走路をあける。マイクの巨体が顔からホームベースに滑り込んだ時、遅れてカバーに入った相手ピッチャーのつま先がマイクの脇腹の辺りに引っかかって顔から崩れ落ち、手足の長い身体が俺の目の前で一回転する。一連のプレーを見届けたアンパイアが、両腕を翼のように広げて「セーフ!」を宣告する。ゲームは6対5で、サヨナラ勝ち。ワンテンポ遅れて一塁ベンチ方向からキャッチャーが放ったボールが大暴投になり、俺やアンパイアの遥か頭上の空気を切り裂いて、反対の三塁側ベンチに飛び込む。味方の思わぬ急襲に、ベンチに控えていた選手や監督たちは慌てて頭を抱え、誰かが上の歯で、下唇を弾くようにして「ファック!」と叫ぶ。マイクはホームベース周辺の土を拳で何度も殴りつけるようにして喜びを爆発させる。俺がマイクに手を貸して、起き上がらせようとした時だった。頬のすぐ先を、黒い何かが物凄いスピードで横切っていった。

「チャイニーズ……!」

 眼前の空気を、黄色いマニキュアをつけた指が思い切り引っ掻く。憎しみに赤く染まった白人の顔面が、俺の目と鼻の先に迫っていた。

「マザーファッッッカー! (テメエ!)」

 相手キャッチャーは俺に殴りかかる寸前のところで、駆け付けたチームメイトたちに取り押さえられる。俺の後ろには、そいつが俺に向かって投げつけてきた素振り用のマスコットバットが転がっていた。

鳥肌が、細波のように俺の腕から胸を伝い、全身へと広がっていく。

「テメエ、次やったら殺すと言っただろう!?」

 羽交い絞めにされ、それでも相手キャッチャーはずれたマスクの隙間から大きな唾を飛ばしながら叫び続ける。

「妨害だ!」

 ピッチャーは長い指でホームベースを突くように指さしながら、アンパイアに俺の「守備妨害」をアピールしている。俺がキャッチャーの送球を妨害するために、わざと打席から一歩下がったと言いたいのだろう。俺のバットに当たったボールが後方のグランドを転々としている間に、マイクがホームベースに滑り込んで勝負は決した。しかし、アンパイアが首を横に振ると、そいつはグラブを足元の地面に思い切りたたきつける。さらに、スパイクの裏で何度も踏みつけられたグラブは、ウェブと中心部分を繋ぐヒモがちぎれ、路上で轢かれた小動物のようにひしゃげた。


 ベンチから迎えに来たチームメイトたちと軽くタッチを交わす時、俺はまだホームベース上でうずくまっている相手ピッチャーの姿に視線を落とす。のろのろとした動きで近づいてきた相手チームの選手が、その背中を面倒くさそうにつついたが、うずくまったままそいつは微動だにしなかった。

「お前、守備妨害をしたのか?」

 チームメイトの一人が俺とタッチを交わした時、にやにやとした表情で言った。

「ホワッツ?」

 まだ後ろにいるピッチャーとアンパイアにバレないよう、俺も口元にだけ笑みを浮かべて言った。

「ホワッツ、ドゥーユーミーン? (お前が何を言っているか分からないな)」

 

 チームメイトはみんなベンチから出てきて、俺とマイクをタッチで迎え祝福したが、ボーンだけがベンチにふんぞり返ったまま立ち上がろうとしなかった。

 俺が帽子を外して目の前を通り過ぎようとした時、ボーンは「ヘイ、キム!」と俺を呼び止める。

「イエッサー、ホワット・イズ・イット? (はい、何でしょうか? )」

 俺の「キベ」というラストネームは珍しいので、韓国系に多い「キム」というあだ名で呼ばれることが多かった。ファーストネームの「カノン」も言いづらいので、中南米系に多い「カノ」とよく発音される。同じチームに日系人がいると、そいつと勘違いされて名前を呼ばれることさえある。彼らにとっては、マイナーリーグの世界ではまだまだ少ない東アジア系人種の顔の違いを見分けることは難しい。

「あの1球目」

 ボーンの灰色の瞳が、俺をじっと見上げる。

「見逃せばボールだったのに。わざと空振りするなんて、随分余裕があるじゃないか。え?」

 そう言いながらボーンは、スパイクの側面で俺のふくらはぎの辺りを軽く蹴ってくる。

「マイナー首位打者の余裕ってやつか?」

俺は息をのむ。西洋系人種の瞳には、アジア系には無い相手を吸い込んでしまうような深みがあった。

「違います」

 俺は首を振る。あのとき俺は、スタートが遅れたマイクの盗塁を助けるために、わざと空振りしてキャッチャーの送球を妨害した。あのようなプレーは、日本で野球をプレーしたことがある者ならごく当たり前のプレーだった。俺は丁寧な言葉を選びながら、ボーンにそういうことを説明しようとした。

「そして、49個目の盗塁がマイクに記録された」

 しかし、ボーンは俺の説明を途中で遮る。そして、俺のみぞおちの辺りを、太い人差し指で思い切りつく。

「お前のシーズン盗塁数と同じだ。キム、お前はマイクに追いつかれたんだ」

 ボーンにみぞおちを突かれて、息が詰まって俺は軽く咳き込む。

「ボーン、俺は……」

「お前は奉仕がしたいのか? 」

 今度は指をグーにして胸を思い切り突かれ、俺は勢いで後ろによろける。ベテランのボーンにいびられる俺の姿を、横でバットやグラブを片付けながらクロフォードという名の白人のチームメイトがにやにやとした表情で見つめてくる。

「ヘイ、キム! 奉仕がしたいなら『球場』ではなく『教会』へ行け。炊き出しとか、患者の尿瓶洗いとか、奉仕し放題だぞ! 俺が良い神父を知ってるから、今度紹介してやるぜ?」

 すると、横からクロフォードが「幼女に手を出すようなクソ神父だがな!」と言って笑う。しかし、ボーンに睨まれると、クロフォードは急に笑顔を引っ込めてその場から立ち去ろうとする。

「あれは冤罪だ!」

 ボーンの顔が、スキンヘッドのてっぺんまで薄赤く染まる。向こうの壁を貫かんばかりの怒声に、クロフォードの白い顔の片側が、強風にでも吹かれたように歪む。

「裁判は不起訴だったんだよ。それなのにテメエ、俺の父親を馬鹿にするのか?」

 ボーンに詰め寄られると、クロフォードは顔の皮膚を歪め「ノー!」「ソーリー! ソーリー……」と声を裏返して何度も叫んでいる。一昨日、トレードでこのチームにやってきた時、俺は案内役の球団職員から「ボーンには気を付けろよ」と忠告されていたことを思い出した。

「テメエまで俺の父親を性犯罪者よばわりするのか!?」

 肩を掴まれ激しく揺さぶられると、クロフォードの長い金髪がなびいて整髪料のにおいがスッと鼻を突く。「ソーリーって言ってるじゃないか!」とクロフォードは逆切れして怒鳴り返したが、もう耳の端まで赤く染まったボーンの怒りは収まらない。

「ミスター・ボーン!」

 俺は意を決して声を上げる。ボーンはクロフォードの胸倉を捻じりあげたまま、深い灰色の瞳がじろっと俺を見上げる。

「昔、俺の仲間がミスをして、チームが負けそうになったことがあるんだ」

 高三の夏。甲子園予選、準決勝。あの時もスコアは5対5で、ランナーは一塁。9回裏で、アウトカウントは「0アウト」だった。監督は意表をついて一塁ランナーに「盗塁」のサインを出し、バッターのタカヒロには「待て」のサインを出していた。タカヒロはボールを見逃さなければならなかった。しかし、彼は初球を思い切りスウィングした。あのときタカヒロはサインを見間違えたのか、それとも、わざとやったのかは分からない。タカヒロが放った鋭い打球はノーバウンドで相手ショートのグラブに収まり、「盗塁」のサインで一塁ベースから大きく飛び出していたランナーもアウトになった。

「その仲間は試合後のミーティングで、監督からめちゃくちゃに怒られたんだ」

「それじゃあ、キム」

 ようやく解放されたクロフォードは、吐き捨てたガムやドリンクのシミだらけの地面に落ちた道具を慌てて拾い集める。俺を見つめるボーンの口元には、薄ら笑いが浮かんでいる。

「お前は、監督から怒られたくないんだな?」

 違う! 

「ならお前は、やっぱり『球場』より『教会』の方が向いている」

 ボーンは自分の額と肩とみぞおちに指で素早く触れ、キリストが架けられた十字を切って見せる。

「ライバルに後れを取ったら『球場』では速攻でクビだが、『教会』の神は許してくださる。ヘイ、キム! 自分が犯した過ちを悔い、汝を愛せよ」

 捨て台詞を吐き去って行くボーンの大きな背中を、俺はじっと睨み続ける。

「バカだよ、お前」

クロフォードは泣きそうな表情でバットとグラブを胸に抱えたまま、シミだらけの床に向かってそう吐き捨てた。


 ベンチから最後に引き上げてくると、クラブハウスではすでにチームメイトたちがそれぞれの群れを作ってくつろいでいた。ほとんどの奴がユニフォームを脱いで半裸か、パンツ一丁の格好をしていて、トランプをしたり、スマホゲームをしたり、凝った手足を指で揉んでマッサージしたりしている。彼らは人種もさまざまで、大抵は同じ肌の色をもった者同士で群れている。同じチームでプレーしているのに、俺たちは喋る言葉も、身体に刻んだタトゥーの意味も、好みの食べ物も全く異なる。試合後のクラブハウスで黒人グループの連中がヒップホップ音楽を爆音でかけて踊り狂い、そこに居合わせた白人グループの連中がブチギレて喧嘩に発展したこともあった。ただ一つ、試合後の彼らに共通しているのは、みんな片手にハンバーガーの包みを持っていることくらいだった。

 狭いクラブハウスの中央に置かれたテーブルには、大量のハンバーガーが積み上げられていたであろう取っ手付きの盆が載せられている。盆の縁には「一人2個ずつあります!」と殴り書きされた紙の切れ端が張り付けてある。

 腹の突き出た黒人の球団職員が、モップのようなのを片手に後ろの廊下を通り過ぎていく。しかし、俺は彼に「俺の分がないじゃないか!」と詰め寄る気にはなれなかった。

野球のポジションだけではなく、マイナーリーグ(ココ)では球団から支給される少ない食料や、1日15ドルのミールマネーでさえ仲間同士で奪い合うのが日常茶飯事だった。ボーンの言う通りだ。ここは教会じゃない。ここがもしマイナーリーグのクラブハウスでなくスラム街の路上で、キリスト教団体が開く炊き出しの会場だったら、俺はたとえどんなに遅くベンチから引き上げてきても、温かい食事にありつけただろう。

「キム! キム!」

 ケチャップくさい息とともに俺はユニフォームの袖を引っ張られる。先ほどの試合で俺が盗塁を助けたマイクは、外側は黒、内側はペールオレンジの指で自分の前の床に敷いたタオルを指さす。そこに座れ、という意味らしい。「フィッシュアンドチップス」のキャラクターの顔がひどい皺になっていて、座ろうとする俺を睨んでいるように見えた。

俺がタオルに腰を下ろすと、マイクは内側がペールオレンジの手のひらを差し出してくる。

「僕はマイクだ」

俺と握手を交わす時、マイクは長いまつ毛を瞬き、俺の表情をじっと見つめた。表と裏で色が違う黒人の手のひらは、じっとりと湿っているように感じられる。いや、いま湿っているのは俺のてのひらの方かもしれない。マイクは、俺が人種差別をするようなクソヤロウかどうか見極めているのだ。気味悪がって手を引いたり、ちょっとでも表情を歪めたら、俺はコイツにぶん殴られるかもしれない。

俺はマイクの手のひらを、強く握り返す。

「俺はキベっていうんだ! よろしく」

すると、マイクの厚い下唇がめくれ、ピンク色の肌が露になる。そして、左手に掴んでいたこぶし大のハンバーガーの包みを俺に差し出してくる。

「お礼だよ」

「え?」

「さっきのゲーム、君はわざと空振りして、僕の盗塁を助けてくれた。スタートが遅かったから、君がキャッチャーの邪魔をしてくれなければ僕はアウトになっていただろう」

 喋りながらマイクは赤い包装を剥いて自分のハンバーガーにかじりつく。

「サンキュ……」

俺は礼を言い、にっと笑ったマイクと拳を合わせる。随分久しぶりに、俺は他人のやさしさに触れられたような気がする。

しかし、拳を合わせた拍子に、マイクのポケットからもう二つのハンバーガーの包みが転がり落ちる。「ウップス……」マイクは慌ててハンバーガーの包みをかき集めてポケットにくしゃくしゃにしまい、俺は、視線を逸らせて見えなかったフリをする。

「食べないのかい? それ」

 俺が手の中で転がしていたハンバーガーの包みにマイクが触れようとするので、俺はとっさに手を引く。

「せっかくくれたんだから、食うよ」

俺は赤い包装を半分だけ剥いて、すっかり冷めて湿ったバンズの生地を噛みしめる。チーズとレタスを一枚ずつ挟み、上からケチャップをかけただけのハンバーガー。味は、ほとんどケチャップの味しかしない。

 マイクは不貞腐れたように厚い唇を尖らせる。

「正直に言うと、僕には君のあのプレーが理解できないんだ」

 そう言ってマイクは広くて、分厚い肩をすくめる。190センチを優に超えるマイクの身体はデカくて、野球選手というよりも檻のようなリングで戦うUFC選手のようだ。まくった半そでから露になった肩の筋肉は、俺の顔のデカさくらいあるように見える。

「君はわざと空振りをして、僕の盗塁をアシストした。結果的にチームは勝ったけど、僕は君のシーズン盗塁数に追いついたわけだ」

 さっきボーンにも同じことを言われた。俺とマイクのシーズン盗塁数は49個で、マイナーリーグ同率首位になった。

「何が言いたいんだよ、マイク」

 マイクは俺をじっと見つめる。めくれた唇の、黒からピンクに変わる境目の部分にバンズとレタスの欠片がついている。

「僕たちはチームメイトだけど、メジャーを争うライバルでもあるわけだろう?」

「ああ……」

「小さい頃から僕は、父さんによく野球を教わったんだ。若い頃の父さんも、メジャーリーグを目指して戦った野球選手だったんだ」

 マイクは、かつてメジャーリーグを目指した父親のプレーを「ファイト」という単語で表現した。

「練習をする時、父さんは必ず僕にこう言い聞かせたんだ。『ヘイ、マイク! グランドのどこにいても、自分が主役だと思え!』ってね」

 マイクは「ちょうだい」のポーズのように、顎の下でそろえた両手のひらを振って見せる。彼の後ろに、駆けポーカーをしている白人グループの姿が見える。俺は誰にもとられまいと、マイクからもらった冷たいハンバーガーを半分くらい一気に口の中に押し込む。

マイクは、長いまつ毛を瞬く。

「これまで一緒にプレーしたチームメイトで、僕は打席の中でわざと空振りをする奴なんて一人も見たことがないんだ」

後ろでボーンが「ロイヤル・フラッシュだ!」と叫んで、宅配ピザの空き箱をひっくり返して作ったテーブルに5枚のトランプを叩きつける。俺はさっき、ボーンが後頭部を掻くフリをして、ユニフォームの襟元に仕込んだ「クイーン」と、手元のゴミ手をすり替える瞬間を目撃していた。

「不思議なんだよ、キム。君がどうして、わざと空振りをしたのかが」

 チームが勝つためだよ。俺がまだ高校野球をやっていた頃なら、即座にそうこたえただろう。

「ホームランバッターに空振りはつきものさ」

 俺は、マイクが手首に巻いた「ナンバー18」がプリントされたバンドを指さす。

「アスレチックスのヒメネスは、ホームラン王と三振王を同時に獲得したシーズンがあったのを知らないのか?」

 俺がキューバの至宝・ヒメネスの名前を出すと、マイクの相好が崩れる。「18」はマイクの背番号であり、メジャーリーグを代表するキューバ系アメリカ人プレイヤー・ヒメネスの背番号でもあった。マイクが尻に敷いたタオルには、ヒメネスの美しい十字のようなフォロースルーのシルエットがプリントされている。

「キム! 君はチャイニーズ(中国人)だったろ?」

「ノー、マイク。俺はジャパニーズ(日本人)だ」

 俺はきっぱりと否定する。無数の人種が入り乱れるアメリカ(この国)では、違うことや嫌なことははっきり「ノー!」と言わなければ馬鹿にされ、どこまでも貶められる。マイクは怯えた様に大きな顔と、長い十本の指を振りながら「ソーリー! 悪気はなかったんだ」と俺に謝る。

「日本人選手と言えば、僕はサンディエゴ・パドレスのハソン・キムが好きなんだ!」

 キム・ハソンは、韓国人メジャーリーガーだ。「でも、パドレスの選手の中では、僕はタティス・ジュニアが一番のお気に入りなんだけどね!」しかし、今度は俺が口を挟む間もなかった。マイクは分厚い唇の端から唾と、バンズとレタスの切れ端を飛ばしながらまくし立てる。

「君も知ってるだろうけど、タティスのショートの守備はマジで凄いんだ!」

 興奮したマイクが「ファッキン・グッド!」と叫んだ時、後ろで賭けポーカーをしていたボーンら白人連中がこちらを振り返る。

「もう全身バネって感じで、肩のケガさえなければ彼はずっとショートでプレーするはずだったのに。彼がアウト・フィールダーにコンバートされて、補欠だったハソン・キムが代わりにショートのレギュラーになった時は、ハッキリ言ってショックだったよ」

 白人グループの何人かが、こちらをにやにやとした表情で見つめている。その中には、さっきボーンに恫喝されて震えていた金色長髪のクロフォードの姿もあった。

「もっとタティスのプレーが見たいと思ったし、ハソン・キムのように身体が小さいプレイヤーがメジャーリーグの世界で通用するなんてとても思えなかった」

 でも、初めてハソン・キムのプレーを見たときには驚いたよ! まるでチーターのようにジャンプしてライナーをキャッチし、サード側に身体が流れたままバズーカのような送球をファーストミットに突き刺して見せた! 最初は彼のプレーに疑問を持っていたファンたちもすぐに彼の魅力に気づいて、虜になってしまったんだよ。そして、みんなスタンドの椅子から立ち上がるとこう叫んだんだ。『ハッソン・キム!』ってね!」

 マイクは立ち上がるとこぶしを突き上げてジャンプし、パドレスファンたちがやる応援のチャントを繰り返す。

「ハッソン・キム! ハッソン・キム!」

 マイクはさらに突き上げた拳を頭上で回しながら「ハッソン・キム!」と叫んで、拳を振り上げ、ジャンプするチャントを繰り返す。後ろからボーンと、その子分たちが興奮したマイクを睨んでいる。

「そう言えば、キム。君の発音も、彼の名前とよく似ているね!」

「マイク。俺の名前はキムじゃ……」

「カッノン・キム!!」

 その時、クロフォードが床にトランプを叩きつけて立ち上がる。

「ヘイ、マイク! それはテメエが属する部族の舞なのか?」

 そう言ってクロフォードは、マサイ族がやる歓迎の舞のように、右手には槍に見立てたバットを持ち、床から跳ねる度に「フォー! フォー!」と叫んで、周りで見ていた白人連中だけでなく、遠巻きから様子を伺っていた中南米系のチームメイトたちまで腹を抱えて笑い転げる。

 マイクの表情から、笑みが消える。

「踊りたいなら『球場』ではなく『ストリート』へ行けよ! マイク」

 スキンヘッドからタオルをさげたボーンが、にやにやとした笑みで言う。「ノー! キャプテン」クロフォードは、加勢したボーンの言葉を嬉しそうに否定する。彼はボーンのことを「キャプテン」と呼んだ。

「コイツには『ストリート』よりも『アフリカン・コンティネント(アフリカ大陸)』の方がお似合いだぜ」

「ホワッツ!?」

 分厚い肩を怒らせたマイクが一歩、前に出る。

「おい、何か言ったか? クロフォード」

「耳アカたまり過ぎて聞こえなかったか? マイク」

 自分の耳を指さしながらクロフォードも負けじと前に出る。

「お前にはグラウンドよりも、アフリカの大自然の方がお似合いだって、俺はそう言ったんだよ」

「クロフォード! どうやらお前は、顔面にこいつを食らいたいらしいな」

 そう言ってマイクは、顔のすぐ横で握りこぶしを作って見せる。二人の不穏な空気に、後ろで笑っていた白人のチームメイトたちの表情が凍りつき、中南米系のチームメイトたちはもう関係ないという風に視線を逸らせている。

「お前もこいつが欲しかったんじゃないのか?」

 クロフォードは、歪んで皺が寄ったマイクの顔の前で、中指をぴんと立てて見せる。

「お前は、自分の踊りを評価してほしかったんだろ?」

「は?」

「なら俺が評価してやるよ、マイク。バットだ!」

「アイシー! (なるほどね!)」

 今度はマイクが肩をすくめて馬鹿にし、クロフォードの表情が引きつる。二人の距離が、さらに近づく。

「いや、バッド(最悪)どころじゃない。マイク。お前はファック(クソ)だ! ニガー!」

「アイル・キリュー! (ぶっ殺してやる!)」

 俺はとっさに「やめろ! マイク!」と叫んで、後ろからマイクの身体にしがみつく。

「アベレージ・202」

「ホアッツ?」

 怒りに震えるマイクの耳元に俺は囁いた。いや、震えているのは、もしかしたら俺の方かもしれない。屈強な男たちの乱闘に巻き込まれたら、俺はただじゃすまない。

「彼の打率だ。マイク」

 俺の言葉に、マイクは再び前を向く。クロフォードも後ろからボーンに羽交い絞めにされて、二人はようやく引き離される。

「君の打率は今日の試合で.352まで上がった。盗塁数はマイナーリーグ首位だ。マイク。打率.202、盗塁2のクロフォードは君の敵じゃない」

 俺の言葉に、マイクは目を伏せ幼い子供のように頷く。向こうでもボーンが、まだ落ち着かないクロフォードの顔を指さしながら諭している。「あの二人の打率はまぐれだ」「どうせ落ちてくるだろう」ボーンのそんな言葉が聞こえてきて、マイクの筋肉がまたピクンと反応する。

「セプテンバー・コールアップが近づいているから、みんな少し気が立っているんだよ」

俺はマイクに、必死に言い聞かせる。9セプテンバーになるとメジャーリーグの出場枠が拡大され、それはマイナーリーグに所属する選手たちにとっては大きなチャンスになる。

「もう帰る時間だ! お前たち」

 ボーンの太い声が、マイナー球場の狭いクラブハウスに響き渡る。

「もうホテルに帰ってさっさと寝ろ! クロフォード。それにマイクと、キム! お前たちにとっても、明日が勝負の試合になるだろう」

「勝負?」

 ボーンは、明日行われる試合のことを「ザ・ゲイム」という言葉で表現した。ボーンは、プラスチック製のコップに集めた駆けポーカーの賞金を指でひっかいて掻きだすと、すべて自分のポケットにしまう。少ないミールマネーを賭けて参加していた選手の一人が、頭を抱えて「オマイガ……」と情けない声を漏らす。


 翌日。デイゲームのラインナップに、俺の名前は無かった。試合開始の2時間前くらいになると出場選手の名簿が張り出され、屈強なマイナーリーガーたちが思いつめた表情をしてぞろぞろとベンチ脇のスペースに集まってくる。屈強な男たちの身体にもみくちゃにされていなければ、俺はショックのあまり床に崩れ落ちていただろう。まだ全体のアップが始まっていないグラウンドから、鋭い打球音が聞こえてくる。俺の代わりに「3番・ライト」で先発出場することになったクロフォードが、鬼気迫る表情でグラウンドの壁に向かってティーバッティングを繰り返していた。


 試合が始まってからも、俺の頭の中には「ザ・ゲイム」というボーンの低い声がずっと木霊していた。その声は昔、俺が小さい頃にプレーしていた格闘ゲームの「ゲイム・オーバー」というアナウンス音と重なるような気がして、慌てて首を横に振る。

左打席に向かうクロフォードの後ろ姿を、俺はベンチの柵から身を乗り出すようにして見つめる。ボーンは今日の試合を「勝負だ」と言い、マイクは今日も「2番・センター」で先発出場している。しかし、先発メンバーから外された俺は、こうしてベンチから見つめることしか出来なかった。

 乾いた打球音が響く。左打席からクロフォードがバットで払うように打ったボールは、黄色いレフトポールの僅かに左側へ切れていく。三塁ベースの横で、アンパイアが両手を広げ「ファール」を宣告する。

 汗ばんだ指先で、俺はユニフォームの胸の部分を掴む。今日の試合で、クロフォードが鋭い打球を放ち、ライトの定位置からボールを追いかける度に、俺は胸を締め付けられるような痛みを感じた。昨シーズンの途中、監督から2A(3軍)への降格を告げられた時も、俺はショックのあまり監督室の床に崩れ落ちそうになった。特大ファールに悔しがるクロフォードに向かって、俺は口の中で「おしい……」と呟きながら、小さく手を叩く。

まだ高校野球をやっていた頃、下級生の頃からレギュラー選手だった俺は、試合に出られない選手たちにもベンチの一番前に立って声を上げ、拍手するよう指導していた。同級生のタカヒロは、3年生の春までずっとベンチか、スタンドにいるような選手だった。最後の夏、監督から与えられた「背番号8」は、彼が血のにじむような努力をしてようやく勝ち取ったものだった。

「嬉しいか? キム」

 いつものようにベンチの一番後ろでふんぞり返ったままボーンが声をかけてくる。また鋭い打球音がして、俺はグラウンドを振り返る。今度は三塁線の僅かに左側を打球が切れていき、アンパイアが「ファール」を宣告して、クロフォードはカウント0ボール・2ストライクと追い込まれる。

「ライバルの活躍を喜ぶなんて余裕だな。キム。それか、もう『教会』へ行く気になったのか?」

 ボーンはプロテクターの前で金色の毛に包まれた腕を組み、蔑んだ目で俺を見下ろす。ボーンはいつものようにプロテクターと、両足にはレガースまでつけ、身体の横には帽子と面が一体になったマスクを置いている。ボーンは昨日も、今日も先発メンバーから外れていた。ベンチにいるのにフル装備で待機しているのは、自分を先発メンバーから外した監督に対する彼なりの抗議のつもりなのだろう。

 3球目のスプリットを空振りし、三球三振したクロフォードはバットでグラウンドの土を叩いて悔しがる。

「ファッキン・アス!」

 隣で見ていたマイクが、唾でも飛ばすように吐き捨てる。

マイナーリーグのグラウンドには、日本では信じられないような汚い言葉が飛び交い、口触りのいいスラングがこの国には溢れている。クロフォードはヘルメットを外して金色の長髪をぐちゃぐちゃに掻きむしり、隣でマイクは前歯をむき出して「キス・マイ・アス! (ケツでも舐めやがれ!)」と笑っている。その時、俺の胸を襲う痛みは、少しだけ和らいだ。


 1打席目の3球目を空振りしてから、クロフォードの動きが明らかにおかしくなった。守備では目測を誤ってボールを後ろに逸らし、ボールを中継するために駆け寄ったカットマンも無視して強引に放ったボールは大暴投になった。相手にランニングホームランを献上し、ベンチの中でも一番ホームベース寄りの位置に立っている監督は、腕組みをしたまま首を小さく横に振った。

 バッティングの方は、第二打席でも、第三打席でも空振り三振。そして、9回裏、スコアは0対1で、ランナーは1,2塁の場面。第四打席に向かおうとするクロフォードを、監督が呼び止めた。

「バントか? 監督」

 クロフォードの言葉を、監督は静かに首を横に振って否定する。

「じゃあ、ヒッティングだな!」

「ノー」

 監督の否定に、クロフォードの表情が一瞬、引きつる。

「交代だ。クロフォード」

「俺はまだやれるぜ!」

 監督の言葉を遮って打席に向かおうとするクロフォードを、後ろからコーチが二人がかりで慌てて引き留める。

「触るんじゃねえ! クソヤロウ」

クロフォードはバットを握った手を振り回して、掴もうとした2人の身体を振り払う。

「俺のポジションは渡さねえよ! 誰にも……」

 後ろでボーンが長い息を吐き、俺はクロフォードの姿をまともに見ることが出来なかった。なぜか、目の奥の方が熱くなるような感じがした。監督にユニフォームの肩を叩かれたクロフォードが、ベンチの床にがっくりと膝をつく。2塁ベースからいったんベンチに引き上げてきたマイクは、紙コップの水を口に含みながらグラウンドの方をじっと見つめ「あのピッチャーのボールはエグイな」とか「いや、僕ならやれる」とか、一人でぶつぶつと呟いている。クロフォードは黒いシミだらけの床に手足をつき、猫の威嚇のように食いしばった歯と歯の間から「シーッ、シーッ」という息だけの声を出している。俺は、マトモに見ることが出来なかった。

「俺の出番だな」

 いつの間にプロテクターやレガースを外していたボーンが、おもむろに立ち上がる。

「ノー! ボーン」

 監督の指先がこちらに向いた。ボーンの白い眉間にしわが寄り、憎しみのこもった目で俺を見つめる。

「カノン! 出番だ」


 俺の「奏音(かのん)」という名前は、中学校の音楽教師だった母親がつけた。母親は小さい頃の俺にバイオリンとかピアノを習わせたがったが、俺が選んだのは野球だった。

小学校の先生には名前だけで女の子と間違えられ、同級生たちからは「カノンちゃん!」と馬鹿にされた。それが嫌で、嫌で堪らなかった。クラスの中でも活発な男の子たちが所属する少年野球チームに入れば、俺はもう「女の子みたい!」なんて馬鹿にされることは無いと思ったのだ。

 練習を重ねるごとに身体には筋肉がついて、俺は打席から誰よりも遠くへボールを飛ばし、マウンドからは誰よりも早いボールを投げた。身体が大きくなり、野球が上手くなる度に、もう俺を「女の子じゃん! お前」なんて馬鹿にする奴はいなくなった。グラウンドで躍動する俺のプレーに、誰もが目を見張った。

 高三の夏、甲子園予選の決勝戦で、俺はヒットを四本放った。結局、チームは負けて甲子園出場の夢は果たせなかったが、たまたま相手チームの視察に訪れていたMLBスカウトの目に、俺の姿がとまった。


 ベンチにいるチームメイトの鋭い視線を感じながら、俺は打席に向かう。ここにも、俺を「女の子みたい!」なんて馬鹿にする奴はいない。日本に住んだことがない彼らには「カノン」という名前が「女の子みたいだ」という発想自体がない。中南米系に多い「カノ」という名前と、ほとんど変わらないとさえ思っている。

 ボーンはいつものようにベンチの壁に背中をもたれかけ、交代を告げられたクロフォードは口の前でてのひらを組み合わせ、祈るようにこちらを見つめている。彼は確かに、祈っている。俺の失敗を祈っている! 

 スパイクの裏で打席の土を払いながら俺は泣きそうになった。こんなにも他人から恨まれ、憎まれながら野球をするのは初めての経験だった。母親は、まだ小さい俺が音楽に興味を持つよう、家でよくピアノを演奏してくれた。「これが貴方の由来なのよ。カノン」そう言って母親が聞かせてくれた旋律は、似たような二つの音楽が互いを追いかけるように複雑に絡み合い、その永遠に続いていくかのような旋律は、確かに、まだ幼い俺の心を打った。小学校に上がって、クラスメイトに「女の子みたい!」と馬鹿にされなければ、俺はもしかしたら音楽の道に進んでいたかもしれない。

 1球目。俺は右手でバットの根元部分を握りバントの構えを見せる。マウンドから投じられたボールがホームベースに到達する直前で、バットを引く。アンパイアが「1ボール」を宣告し、ベースより後ろに守っていたファーストとサードの選手の反応が遅れ、困惑した表情を見合わせる。そのままバントしていれば「セーフティバント」が決まっていたかもしれない。アウトカウントは0だから、ここで送りバントは十分にあり得る場面だった。しかし、ベンチの隅で腕組みをしている監督からサインは出ていない。俺は、ヘルメットのつばに指で触れて、サインを了解した「フリ」をする。

 2球目もコースから外れ、カウントは2ボール・0ストライク。またバットを寝かせて見せると、ファーストとサードの選手が、今度は先ほどよりも早いタイミングでチャージをかけてくる。俺はまた監督の方を見る。サインは、ない。俺はまたヘルメットのつばに指で触れながら、バットの先端でホームベースの右端と左端をなぞる。

 3球目。今度は俺のバントを警戒したファーストとサードの選手が、投球と同時に思い切り前へダッシュしてきた。これを狙っていた。バントを警戒して前に来た野手は、内野を抜く打球への反応が難しくなる。今度は、俺はバットを立てたまま頭の後ろへテイクバックする。内野手のあいだを抜く低い打球をイメージして、俺はバットを頭の後ろへあまり引きすぎないよう意識する。俺が「バントする」と決めつけた相手ピッチャーの投球は、真ん中やや高めの甘いコースに迫ってくる。俺は、スウィングが大振りになり過ぎないよう意識する。力むとバットのヘッドが下がって、ボールの下っ面を叩いてポップフライになりやすい。レベル(水平)・スウィングを意識する。相手の内野手と内野手のあいだを抜く、低い打球を意識する。

 踏ん張った右足に力を籠める。スウィングの後、フォロースルーまでバットから両手を離さない。コンパクトなスウィングで俺はボールを捉えたはずなのに、グリップから伝わる感触がない。ダッシュしてきた相手野手の動きが止まる。一瞬、グラウンドが静かになり、時が止まったような感じになる。グラウンド上のどこにもボールがない。俺は思わず後ろを振り返る。キャッチャーが構えたミットの中にもボールは、ない。一塁側ベンチにいるチームメイトたちの顔が、右の方へゆっくりと、ねじれていく。ボーンはバットを肩に担いだまま目をつむり、クロフォードは、頭からかけていたタオルで顔全体を覆った。

 ゴン、という無機質な音が、静まり返った球場全体に響き渡る。遅れて相手野手たちも後ろを振り返る。緑色の外野スタンドを、白いボールがコロコロと転がっていく。レフトポール際の席で観戦していた幼い男の子が、おぼつかない足取りでボールを追いかけている。母親らしき女性が慌ててその姿を追いかけ、代わりにボールを取ってあげる。

「おい、ジャップ!」

 後ろから日本人の蔑称を投げつけられ、俺は驚いて振り向く。

「いつまで自分の打球に見とれているつもりだ?」

 マスク越しにキャッチャーから睨まれ、アンパイアからも俺は「早くファーストベースへ迎え!」と注意される。ファーストベースと、サードベースの横にそれぞれ立ったアンパイアが、カウボーイのロープ芸のように、頭上で人差し指の先をくるくると回している。

「ホームランだよ! キム!」

 セカンドベースを回りながらマイクが叫ぶ。

「早く走れ! キム! ベースを踏み忘れるんじゃないぞ」

 三塁ベースを回るところでマイクは大げさにガッツポーズをして見せ、相手コーチが物凄い剣幕でその横顔を睨みつけている。3ランホームランで逆転、サヨナラ勝ち。俺がようやくダイヤモンドを駆け始めた時、相手野手たちはのろのろとした足取りで三塁側ベンチへ引き上げていく。ホームランを打たれたピッチャーだけが、まだ状況を飲み込めていないのか、グラブをはめたままマウンドに立ち尽くしている。


「キム!」

 試合が終わり、チームメイトと祝福のタッチを交わした後で、俺は例の如くボーンに呼び出される。目の前に立った俺を、ボーンは深い灰色の瞳でじっと睨みつけた。

「なぜすぐに走り出さなかった?」

 ボーンは、ホームランを打った後に俺がすぐさま一塁ベースへ走り出さなかったことを怒っていた。この国で野球は「紳士のスポーツ」であり、ホームランを打った後の大げさなリアクションは、打たれた相手に対する侮辱とみなされる。相手キャッチャーからはさっき「打球に見とれている!」と詰め寄られた。

「ウェル……(なんというか……)」

「お前は、死体に砂をかけるような行為をした!」

 ボーンの物凄い剣幕に、俺は頭で考えるよりも先に身体がピクンと反応した。

「お前が日本で一体どんな野球をしていたのか俺は知らないし、というかクソほどの興味もない。

 だが、ここはアメリカだ。そして、マイナーリーグ(ココ)で繰り広げられているのは、ただの野球じゃない。

 権利の奪い合い、であり、殺し合いでもある。

 キム! お前は、自分が殺した相手に唾を吐きかけるのか?」

 視界の中で、ボーンの白い指先が大きくなる。俺は、何も言い返すことが出来なかった。

俺が黙っていると、ボーンは一つ「フン」と鼻を鳴らし、呆れたように肩をすくめて見せる。

「もし俺がキャッチャーだったら、次のお前の打席ではこのサインを出すぜ」

 そう言ってボーンは右手の拳を下に向ける。そして、人差し指をピンと立ててから、左に払うように動かして見せる。指が動く先にいるのは、右打席に立ったバッター。そのサインは、相手バッターに「報復のデッドボールを当てろ!」という意味を持っていた。


 クラブハウスに入ると、先に戻っていたマイクが俺の今シーズン初ホームランをグータッチで祝福する。

「コングラチュレーション、キム!」

 俺は少し腰をかがめるようにしてマイクと拳を合わせる。マイクの190センチを超える巨体は、クラブハウスの中で一つだけ空になったロッカーに、胎児のように手足を折り曲げてすっぽりと収まっている。

「結構落ち着くんだよ、ここ」

 マイクは内側の壁を指で撫でながら笑う。

「お母さんのお腹の中みたいでさ!」

「腰痛めるぜ」

 俺はマイクの汗ばんだ手のひらを掴んで立たせる。明日の最終戦が終わったら、また長時間に及ぶ過酷なバス移動が待っているというのに。よくやるもんだと俺は思う。

「クロフォードは?」

 俺はロッカーの縁にわずかに残った紙の切れ端をじっと見つめる。名札として貼られていた紙のプレートは、持ち主を失って無残に破かれていた。紙は「CR」という頭の二文字だけを残して、ナナメに千切れている。

「さっき監督室に呼ばれていったよ」

 マイクは頬張ったハンバーガーの奥から、くぐもった声で言う。

「もう戻ってこないんじゃないかな」

 クラブハウスと薄暗い廊下をつなぐ扉が、少しだけ開いている。その扉の奥へ、球団職員に促されて監督室へ向かったクロフォードの後ろ姿が、目に浮かぶような気がする。

 俺も経験したことがあるから、分かる。選手が監督室に呼ばれる理由は二つしかない。

「トレードかな?」

 俺の言葉に、マイクは目を丸くする。後ろでは、いつものメンバーに中南米系の若手選手が一人加わって、駆けポーカーの卓を囲んでいる。

「クビに決まってるだろ?」

 マイクが肩を大きくすくめて「ファイアー」と言った時、そこにクロフォードに対する差別とか、憎しみのニュアンスは微塵も感じられなかった。むしろ、マイクは俺に対して驚いているように見えた。

「フォーカードだ」

ボーンがピザ箱の上で自分の手札を開いて見せ、クロフォードの代わりに入った中南米系のチームメイトが手札を頭上に放り投げて悔しがる。今日はイカサマをするまでもなく、ボーンの手札は最初から同じ絵柄が4枚そろっていた。他のメンバーは、昨日のゲームですべて金を使い果たしてしまったのか、ピザ箱の上に放られた賞品は、アメとかガムとか安い食べ物ばかりだった。ボーンは、賞品の中で最も高価なハンバーガーの包みを抱えて立ち上がる。

「生き残ったな、キム」

 そう言って、ボーンは俺にハンバーガーの赤い包みを差し出してくる。

「なあ、キム。監督室に呼び出されたあいつが『トレード』だろうが『ファイアー』だろうが、どっちだっていいんだよ。

キム。お前は生き残ったんだ。大事なのはそういうことだろう?」

 ボーンは俺の鼻先に、赤い包みを押し付けてくる。そこからは肉の香ばしい臭いも、バンズの温かみも感じられない。湿った包みを握りしめると、バンズを覆った冷たい脂と、ケチャップの味が口一杯に広がるような感じがした。

「あいつのために祈りたいなら、ここを出て『教会』へ行け! わかったか?」

 ボーンはいつもの憎まれ口を叩き、俺の肩の辺りを拳で強く突く。反動でよろけながらも俺は、やはり何も言い返せない。

 情けない俺の横顔を、マイクが不思議そうに目を瞬いて見つめている。


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