JC、仮契約してしまう。
今回はまだ残酷描写などはないです。
15歳未満の方も、今回の話は普通に読めると思います。(処女作の上後々残酷描写が入りそうなので一応R15かけておきました)
鈴蘭女学園の中等部一年生、三田ひまりはある一つの悩みを抱えていた。それは…
「お金がなーい…」
金欠だ。私は冬休みを前にして残金五百円、貯金0という破滅的なお財布事情をしている。家はそこそこ経済力はある方で、私を私立に行かせてくれるくらいには余裕のある家だ。もちろんしっかりお小遣いもくれる。しかし、私立生であるが故にみんな家が遠いのだ。別に友達の家に遊びに行こうとしているわけではないのだが、待ち合わせ場所というものがこれまた遠い。遠ければ遠いほど電車賃は増える。その分お財布が寂しくなる。しかしせっかくの中学校生活、思う存分に楽しもうと日々減り続ける残高を無視して遊び歩いていたらこんなことになってしまった。最近は物価も高く、食事も最低五百円は持っていかれてしまう。それに加えてカラオケだの映画だのカフェだの買い物だの行っていたらあっという間にお金は底を尽きてしまった。
「うぅ〜…今月ももっと遊びたいのに〜…!!」
「お、お金がないなら仕方ないよ…ほら、私たち内部進学できるし…来年も遊べるよ」
私の親友、水野琴羽がそう私を宥める。しかし、琴羽はSS学園というとても有名な進学校への受験に失敗してここに来ていたはず。となると、琴羽はきっと高校は内部進学ではなく外部受験だろう。
「でも琴羽、SS学園入りたいんでしょ?だったら中二からは勉強しなくちゃ…となると今年しかゆっくりは遊べない…!よし…絶対にお小遣い手に入れてやる…!」
お母さんになんと言ってお小遣いを貰おうか。そんなことを考えながら帰り道を歩いていると、目の前をふわふわとした綿が横切った。
(何あれ…ケセランパサラン?)
十二月の今日は、いつもより風の強い日だった。だから、どこかの植物か何かから飛ばされてきたんだろう。
気に留めるほどでもない。
頭ではそう理解していた。
けれど、夕陽に照らされたその白い綿が
とても綺麗で魅力的に見えて。
私は、手を伸ばして__その綿を、掴んだ。
「え、なにこれ…」
なんだか生き物を触っているような感触に思わず声を溢すと、琴羽もその綿を不思議そうに見つめ
「植物の綿とかじゃないの?」
「…いや、違う気がする…」
初等部の頃育てていたひよこによく似た感触。生き物の体を鷲掴みにしている時の感触。
(これ…生き物なの??)
そう考えていると、
「イタタタ…ちょっと乱雑すぎないか?」
と綿が喋りだした。
「しゃべ…は?!ちょ無理無理無理!!琴羽なんとかして!!」
「えっ、そ、そんなこと言ったって…」
突然のことに二人してパニックになっていると、綿はふわりと飛び上がって
「落ち着きなよ。僕はホプスネス。君たちに悪影響は与えないと約束しよう。」
と言った。確かに悪影響を与えられそうな見た目はしていない。正面から見るとクリクリした小さい黒い目があるだけで、それ以外はただの綿と言っても過言ではないだろう。むしろ幼女アニメに出てくるようなマスコットの方がまともに戦えそうである。
「じゃ、じゃあどうして私たちに話しかけたの?さっきひまりちゃんが手を離したときにさっさと逃げちゃえばよかったのに…」
確かに私たちは他の生徒より比較的遅い時間に帰っていたため、あたりには人はいない。その上近くに小さいとはいえ生徒立ち入り禁止の雑木林があるのだからそこへ入ってしまえばよかったはずだ。
「さすがは名門校通いのお嬢様。頭が切れるね。そう、僕は君たちに折り入って話があってきたんだ。__世界を救う魔法少女になってみる気はないかな?」
「世界を…救う?」
「ふ、ふざけてるの…?そんなお伽話、信じるわけないじゃない…それに、たとえあったとしても裏があるに決まってる…!」
琴羽は警戒したようにそう言った。
(確かに…そんないい話、あるわけないよね…)
「まあそう思うのも無理はないよね。実際最近多いんでしょ、こういういい条件の極悪バイト。だから一応資料を作っておいたんだ」
そう言ってホプスネスはどこからともなくパンフレットを取り出して、私たちに見せてきた。
そこには
・なんでも願いを一つ叶える代わりにリスクもかかる
・でも魔法少女として活動している間の身バレやネットでの晒し上げに遭う可能性は0
・もしも信用できないなら仮契約で先輩魔法少女と一緒に戦ってみたり観戦してみてもいい
・仮に精神負担があるようなら休んでもいい
・魔法少女同士で相談などができる公式サイトもあるし、そこで経験者と一緒に活動するのもあり
・ただし、一回本契約すると契約停止はできないので止めるなら仮契約中にすること
・魔法少女になると、身体能力などが高くなるため体育の成績上昇が見込める
といったことが書かれていた。
「随分本格的だね…でもどうして身バレしないの?」
「ん?あぁ…魔法少女に変身している間は特殊な魔法で次元をずらしているからね。触れない限りは魔法は解けないよ。ほら、君たちの後ろを通ってる学生にも気づかれてないだろ?」
そう言われて後ろを振り返ると、高等部の生徒が確かに歩いているがこっちには全く気づいていない。
「向こうが気づいていないだけなんじゃ…」
「じゃあ話しかけてみればいい。肩に糸屑がついていたとでも言って。実際ついてるし。」
すんなりとそう言ったホプスネスに、琴羽は言葉を詰まらせる。確かに高等部生の肩にはベージュ色の糸屑がついている。
(琴羽は内気だから話かけづらいんだ…よし、私が…)
「あの!先輩、肩に糸屑が…!」
しかし高等部生は全く反応しない。
(気づいてないのかな…?)
「すみません先輩!」
結局前に回り込んで大声で言っても先輩は見向きもしなかった。
「じゃあ今度は普通の音量で、肩に触って言ってごらんよ」
ホプスネスがそう言うので、「すみません先輩」と言いながら肩に触れてみると
「どうしたの?」
とさっきまでのが嘘かのようにすんなりと返答してくれた。
「あ、えっと…肩に糸屑が…」
「え?あ、本当だ…ありがとう」
「いえ…」
信じられないような出来事にあっけらかんとしていると、
「どうだい?本当だったろう?」
とホプスネスが言った。
(確かに本当に認識されなかったみたい…じゃあ、願いを何でも叶えてくれるっていうのも本当…?じゃあ、夢にまでみた金欠に困らない生活ができるんじゃ…?)
「リ、リスクっていうのは?」
少し興味が湧いてきて、そう質問すると
「ああ。魔法少女になると戦闘が発生するからね。その時に怪我をするリスクさ。」
とホプスネスは答えた。
「…か、仮契約…してみたいかも…」
「ちょ、ひまりちゃん?!」
「仮契約は、一時的に叶えられる願い…お金や物なんかが欲しいっていうような願いのみ叶えることが可能で、期間は最大一ヶ月。もちろんサポートつき。いつでも契約破棄できるし、必要なら魔法少女だった頃の記憶を消すこともできるよ。もし本契約するなら、多少なら願いを変えられるよ。例えば、お金とかだったら仮契約中は期間中に何円、とかにしておいて本契約の時に月々何円に変えることもできるよ。どうする?」
(私が今欲しいのはお金…なら、仮契約でもどうにかなる…!)
「じゃ、じゃあ…仮契約する!願いは、今すぐ三万円貰う!」
そう宣言すると、ポンっという音と共にスマホ?と現金三万円が現れた。
「このスマホは…?」
「それはステッキ。魔法少女に変身する時に使うものでもあって、攻撃手段でもある。魔法少女に変身できる条件は半径二十メートル以内にそのステッキがあり、尚且つ変身したいと頭の中で思うこと。攻撃方法は、そのスマホを開けばわかるよ」
ホプスネスに言われた通り、スマホを起動するとホーム画面が表示され、マップアプリのようなものが点滅していた。それをタップすると、マップが現れ、星型のマークと、赤いバツ印が表示された。
「これは…?」
「それは索敵モード。ステッキのある位置が星型のマークで、逆に敵__ベロニカが赤いバツ印だよ」
「攻撃はどうやってやるの?」
「一回ホーム画面に戻って。カメラアプリみたいなのがあるだろう?それで写真を撮って、編集ボタンでトリミングカットをすれば、現実世界でも同じようにスパッと切れるのさ。」
試しにそばにある枝を写真に撮り、トリミングカットすると確かに真っ二つになっている。
「まあ後は経験者に教えて貰えばいいさ。明日から君は魔法少女見習いだよ。」