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第8話

保健室の一連の謎が少しずつ解けてきたかと思えば、新たな謎が影を伸ばしてくる。今度は静かな学び舎の一角――図書室。知識の集まるその場所には、知識では説明のつかない“何か”が潜んでいるらしい。さくらたちは勇気を出して扉を開く。


「図書室に潜むもの」


夕暮れの図書室。窓から差し込む橙の光が、棚に並ぶ古い本を赤銅色に染めていた。


「……誰もいないよね?」

恵が小声でつぶやく。


「うん。でも……空気が変だ」

翔太は肩をすくめた。


図書室は普段から静かだが、このときばかりは音という音が吸い込まれたように消えていた。ページをめくる音も、時計の針も、何も聞こえない。


花音羽がそっと一冊の本を手に取った瞬間――。

「……え?」

開かれたページに、びっしりと鉛筆で書かれた文字が浮かび上がってきた。


『保健室を探すな』


「これ……誰が……?」

たけるの顔が青ざめる。


そのとき、棚の奥から「ぱたん」と本が勝手に落ちた。

皆が息を呑む。翔太が勇気を振り絞って近づくと、そこには分厚い古書。背表紙にはかすれた金文字でこう刻まれていた。


『閉ざされた扉』


恵がその本を開こうと手を伸ばした瞬間、図書室のドアが「ギィィィ……」と軋み、誰もいないはずの廊下から冷たい風が流れ込んできた。


「や、やばい! 閉めろ!」

翔太の叫びと同時にドアがバタンと閉まり、全員が図書室に閉じ込められた。


その静寂の中――壁の時計がひとりでに動き出した。針は逆回転を始め、音のない世界で「カチカチカチ……」と不気味に時を戻していった。


リュウの前に立ちはだかるのは、学院随一の実力者にして誇り高きライバル――バン。

 会場の空気は張り詰め、見守る生徒や教師たちの視線が二人を釘付けにしていた。


 「リュウ……お前を倒すために、俺はこの“星の果実”を狙ってきたんだ。中途半端な覚悟じゃ、ここで立ってることすら許されない」

 バンの声には火花のような強さが宿る。

 だがリュウも怯まない。鍋を握り、深呼吸して答えた。


 「バン……俺も同じだ。あの時からずっと、負けられないって思ってきた。ひびきを守るために……そして俺の料理で、誰かの心を照らすために!」


 その言葉にひびきが目を見開く。彼女の胸には、言葉にできない想いが込み上げていた。


 審判役の教師が手を挙げる。

 「第七試合、決勝戦――始め!」


 その瞬間、二人の手元で一斉に炎と魔力が立ち昇った。

 リュウは青白い炎を操り、果実の香りを最大限に引き出す。

 バンは逆に紅蓮の炎を放ち、果実を豪快に焼き上げながら、香ばしさを武器に変えていく。


 「……来いよ、リュウ!」

 「負けない、バン!」


 観客席は息を呑み、厨房は嵐のように熱気を帯びていった。


 リュウは秘伝のスパイスを少量だけ振りかけ、星の果実の甘みを一層際立たせる。

 一方バンは肉と組み合わせ、豪快で力強い一皿へと仕上げていく。

 二人の料理はまるで互いの生き方を映し出すかのようだった。


 ――そして。

 皿が並んだ瞬間、会場全体に星のような香りが満ちていった。


闇の校舎に潜む気配は、次第に形を得ていった。

廊下の奥、教室の扉がひとつ、きしむように開く。そこから漏れた光は蛍光灯の白ではなく、どこか青白い燐光のようなものだった。


「……誰かいる」

翔太がかすれ声でつぶやく。


さくらは一歩前に出た。胸の奥で鼓動が早鐘を打っていたが、引き返すことはできない。

「行こう、みんなで。今度こそ、この学校に巣くっている“謎”の正体をつかむんだ」


五人はうなずき、光の漏れる教室に踏み込んだ。


中には机が円形に並べられていた。中央には古びたトランプが山のように積まれており、その上には一枚だけ裏返されたカード。

「……また、トランプ?」と花音羽が不安そうにささやく。


机に座るようにして現れたのは、白い仮面をつけた人物だった。性別も年齢もわからない。

仮面の人物は、低く抑揚のない声で言う。

「次の謎を解けなければ――君たちの絆は、ここで断たれる」


その瞬間、机の周囲に赤い紐のようなものが現れ、五人の手首に絡みついた。動けば痛みが走る。

「やばい……本物だ」恵がうめく。


仮面の人物は一枚のカードをめくり、テーブルに置いた。

それはハートの“8”。


「問題はひとつ。この数字の意味を解き明かせ」


静寂が落ちる。

翔太が眉をひそめ、頭の中で組み合わせを考える。

恵は赤い紐を慎重に引きながら、「8……∞(無限大)にも見えるけど、それだけじゃない」とつぶやく。

さくらは胸に手を当て、ひらめきを探していた。


花音羽は震えながらも机の上の山札を見つめる。

「8って……私たちが“第8話”までたどり着いたことと関係あるの?」


その言葉にタケルが大きくうなずいた。

「そうだ! この謎は俺たちの“物語”とつながってるんだ。8は……次に進むための鍵だ!」


だが、その意味をどう証明するのか。

答えを誤れば、赤い紐は彼らを締め上げるだろう。


仮面の人物が、再びカードの山に手を伸ばした――。

保健室の謎に迫ろうとするさくらたちを待ち受けていたのは、図書室に潜む“もう一つの恐怖”でした。彼らを閉じ込めた時間逆行の時計、その意味とは一体……? 次回は閉ざされた図書室での攻防が描かれます。

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