第5話
星の果実を手に入れたリュウたちは、魔法料理学院へと戻った。
だが、次なる試練はすぐに訪れる。学院創始者の孫娘――天才料理魔術師「エリカ・ソウシハン」が現れたのだ。
プライドと才能を武器にした彼女がリュウに突きつけたのは、“卵料理による一騎打ち”――
使うは、極限まで魔力を込めて育てられた《伝説の卵》。
絶対の自信を持つリュウ、そしてエリカ。どちらの皿が“命を輝かせる一品”となるのか――!
魔法料理学院。
いつもはにぎやかな厨房が、今日は妙に静かだった。いや、“張りつめた”というべきかもしれない。
星の果実を森から持ち帰り、一躍注目の存在となったリュウ・カゼハヤ。
そんな彼の前に現れたのは、金の巻き髪と凛とした瞳を持つ少女――
「エリカ・ソウシハン。学院創始者の孫娘であり、次代を継ぐ者よ。」
彼女の名に、学院中が騒然となった。
魔法料理界にその名を知らぬ者はいない“始祖の家系”の者。
そのエリカが、リュウに対して言い放った。
「あなたの実力を、私の目で確かめさせて。料理で、勝負しなさい」
その瞬間、すべてが静止した。
そして数秒後、リュウはにやりと笑って言い返した。
「いいぜ。望むところだ。ルールは?」
エリカが差し出したのは、白く発光する神秘的な卵だった。
透明な殻に、まるで銀河を閉じ込めたかのような模様が揺れる。
「これが“始源卵”。
千年に一度、純魔素の風穴で生まれる、最上級の魔法食材よ。
この卵を、あなたと私で、それぞれの技術で料理するの。」
「“卵料理”対決ってわけか。面白い」
魔法包丁の柄に手をかけるリュウ。
その目には、もはや恐れも迷いもなかった。
⸻
調理開始――“命を削る30分”
「対決開始!」
審査官の宣言と同時に、魔力が爆ぜた。
リュウは火魔法を片手に、卵の殻を静かに割る。
オリジンエッグの中身が滑り出ると、鍋の中に魔素の火花が舞い上がった。
「すげぇ……熱を弾いてる。普通の火じゃ火が通らねぇ!」
リュウは思考を切り替える。
火力ではない。“熱の流れ”そのものを制御しなければ、卵の命は開かない。
「……なら、魔法料理流――“陽炎焼き”でいく!」
炎の揺らぎを空中に封じる魔法陣を三重に展開。
火を使わず、“熱の波”だけで卵を加熱する。
「料理というより、芸術だな……」
一方のエリカは、水と風の魔法を巧みに操り、卵の魔力を冷却しながら、絶妙な温度差を層として重ねていた。
鍋に触れない。火も使わない。空気と水の魔法だけで、蒸し焼きにしている。
「“重ねる魔法”……この感覚、やっぱり天才だな」
リュウが舌を巻く。
だが、彼は止まらない。
オリジンエッグに、星の果実の果汁をほんの一滴加え、甘酸っぱい香りを卵に染み込ませていく。
その時、彼の脳裏に響の声がよぎった。
――「リュウ、料理ってね、“誰かに届く”ものなの。技術や派手さじゃなくて、心に残る味が一番、強いよ。」
リュウは思い出す。
母の手料理。
孤児だった自分に笑顔で差し出してくれた、卵焼きのあたたかさ。
「……届ける、か。」
リュウの手が止まった。
その指先が震える。
「俺は……勝つためだけに作るんじゃない。あの味を……もう一度、誰かに届けたいんだ!」
炎が爆ぜる。
オリジンエッグが、まるで応えるように膨らみ、淡い光を放ち始めた。
「……完成だッ!!」
彼の皿に置かれたのは――
「陽炎のオムレツ ~星の雫ソース添え~」
一見、ただのオムレツ。
だが、皿の上に置かれたそれは、熱によって空気が揺らぎ、まるで“見えない炎”に包まれているようだった。
ソースからは星の果実の果汁の香り。甘く切ない香気が漂う。
エリカもまた、静かに皿を差し出す。
「七重奏の魔力蒸し卵 ~氷と風の宝珠仕立て~」
七層に分かれた卵の層。
一口食べるたびに、温度、舌触り、味が変化する構成――まさに芸術。
審査官が一口、また一口とそれぞれの皿を食べ比べる。
静かな沈黙。
重苦しい空気の中、審査官がそっと告げた。
「どちらも……間違いなく超一流。だが、今回の勝者は――」
緊張が、限界まで張り詰める。
「リュウ・カゼハヤ。」
エリカが、微かに目を見開いた。
そして数秒後、彼女は小さく笑う。
「……あなた、なかなか面白いじゃない。料理に“心”がある。」
リュウは包丁を置き、深く一礼した。
「ありがとう、エリカ。あんたも、最高の料理だった。」
バンと響が後ろで静かに拍手を送る。
勝負が終わっても、味は残る。
そして心に残る味こそ、本当の“勝者”だと、皆が理解していた。
今回は“魔法料理人としての真価”が問われる勝負回でした。
リュウの料理は、技術だけでなく“思い出”と“願い”が込められた一皿。
エリカの料理は、“精密さと完璧さ”を突き詰めたアート。
次回は、星の果実を本格的に調理するエピソードへ。
そしてリュウの過去にも少しずつ触れていきます。
どうぞ、お楽しみに!