表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話

星の果実を手に入れたリュウたちは、魔法料理学院へと戻った。

だが、次なる試練はすぐに訪れる。学院創始者の孫娘――天才料理魔術師「エリカ・ソウシハン」が現れたのだ。

プライドと才能を武器にした彼女がリュウに突きつけたのは、“卵料理による一騎打ち”――

使うは、極限まで魔力を込めて育てられた《伝説の卵》。

絶対の自信を持つリュウ、そしてエリカ。どちらの皿が“命を輝かせる一品”となるのか――!

魔法料理学院。

いつもはにぎやかな厨房が、今日は妙に静かだった。いや、“張りつめた”というべきかもしれない。


星の果実を森から持ち帰り、一躍注目の存在となったリュウ・カゼハヤ。

そんな彼の前に現れたのは、金の巻き髪と凛とした瞳を持つ少女――


「エリカ・ソウシハン。学院創始者の孫娘であり、次代を継ぐ者よ。」


彼女の名に、学院中が騒然となった。

魔法料理界にその名を知らぬ者はいない“始祖の家系”の者。

そのエリカが、リュウに対して言い放った。


「あなたの実力を、私の目で確かめさせて。料理で、勝負しなさい」


その瞬間、すべてが静止した。

そして数秒後、リュウはにやりと笑って言い返した。


「いいぜ。望むところだ。ルールは?」


エリカが差し出したのは、白く発光する神秘的な卵だった。

透明な殻に、まるで銀河を閉じ込めたかのような模様が揺れる。


「これが“始源卵オリジンエッグ”。

千年に一度、純魔素の風穴で生まれる、最上級の魔法食材よ。

この卵を、あなたと私で、それぞれの技術で料理するの。」


「“卵料理”対決ってわけか。面白い」


魔法包丁の柄に手をかけるリュウ。

その目には、もはや恐れも迷いもなかった。



調理開始――“命を削る30分”


「対決開始!」

審査官の宣言と同時に、魔力が爆ぜた。


リュウは火魔法を片手に、卵の殻を静かに割る。

オリジンエッグの中身が滑り出ると、鍋の中に魔素の火花が舞い上がった。


「すげぇ……熱を弾いてる。普通の火じゃ火が通らねぇ!」


リュウは思考を切り替える。

火力ではない。“熱の流れ”そのものを制御しなければ、卵の命は開かない。


「……なら、魔法料理流――“陽炎かげろう焼き”でいく!」


炎の揺らぎを空中に封じる魔法陣を三重に展開。

火を使わず、“熱の波”だけで卵を加熱する。


「料理というより、芸術だな……」


一方のエリカは、水と風の魔法を巧みに操り、卵の魔力を冷却しながら、絶妙な温度差を層として重ねていた。

鍋に触れない。火も使わない。空気と水の魔法だけで、蒸し焼きにしている。


「“重ねる魔法”……この感覚、やっぱり天才だな」

リュウが舌を巻く。


だが、彼は止まらない。

オリジンエッグに、星の果実の果汁をほんの一滴加え、甘酸っぱい香りを卵に染み込ませていく。


その時、彼の脳裏に響の声がよぎった。


――「リュウ、料理ってね、“誰かに届く”ものなの。技術や派手さじゃなくて、心に残る味が一番、強いよ。」


リュウは思い出す。

母の手料理。

孤児だった自分に笑顔で差し出してくれた、卵焼きのあたたかさ。


「……届ける、か。」


リュウの手が止まった。

その指先が震える。


「俺は……勝つためだけに作るんじゃない。あの味を……もう一度、誰かに届けたいんだ!」


炎が爆ぜる。


オリジンエッグが、まるで応えるように膨らみ、淡い光を放ち始めた。


「……完成だッ!!」


彼の皿に置かれたのは――


陽炎かげろうのオムレツ ~星の雫ソース添え~」


一見、ただのオムレツ。

だが、皿の上に置かれたそれは、熱によって空気が揺らぎ、まるで“見えない炎”に包まれているようだった。

ソースからは星の果実の果汁の香り。甘く切ない香気が漂う。


エリカもまた、静かに皿を差し出す。


七重奏しちじゅうそうの魔力蒸し卵 ~氷と風の宝珠仕立て~」


七層に分かれた卵の層。

一口食べるたびに、温度、舌触り、味が変化する構成――まさに芸術。


審査官が一口、また一口とそれぞれの皿を食べ比べる。


静かな沈黙。

重苦しい空気の中、審査官がそっと告げた。


「どちらも……間違いなく超一流。だが、今回の勝者は――」


緊張が、限界まで張り詰める。


「リュウ・カゼハヤ。」


エリカが、微かに目を見開いた。

そして数秒後、彼女は小さく笑う。


「……あなた、なかなか面白いじゃない。料理に“心”がある。」


リュウは包丁を置き、深く一礼した。


「ありがとう、エリカ。あんたも、最高の料理だった。」


バンと響が後ろで静かに拍手を送る。


勝負が終わっても、味は残る。

そして心に残る味こそ、本当の“勝者”だと、皆が理解していた。

今回は“魔法料理人としての真価”が問われる勝負回でした。

リュウの料理は、技術だけでなく“思い出”と“願い”が込められた一皿。

エリカの料理は、“精密さと完璧さ”を突き詰めたアート。


次回は、星の果実を本格的に調理するエピソードへ。

そしてリュウの過去にも少しずつ触れていきます。

どうぞ、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの応援が、リュウたちの冒険の力になります
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ