私と絵描きの男
ここは掃き溜めのような場所。
道端にゴミは散乱してるし、建物と建物の間には、沢山の人が、今にも死にそうな顔色でうずくまっている。
私には関係ないことだけど。
物心つく頃には、ここで残飯を漁りながら生きてきた。
綺麗で明るい場所には行かないようにしてる。だって、石を投げられたり、下手したら殺されそうになるから。
というわけで、今日もガサゴソとゴミを漁っていたら、よれよれの服を着た男に、話しかけられた。
「君の絵を描かせて欲しい。報酬は払うよ。どうかな?」
絵ってなんだろう。まあ、乱暴してくる様子はないみたいだし、好きにすればいい。
ゴミ山からシュタッと地面に着地し、伸びをした後、はいどうぞとその場に座った。
「描かせてくれるのかい? ありがとう」
手を伸ばして頭に触れようとしてきた男を威嚇する。
そこまで許した覚えはない。
「ああ、ごめん。もう触らないから、さっきの姿勢に戻って欲しいんだけど」
なんで言うこと聞かないといけないの? ここにいてあげてるだけで充分でしょ。
フンッと男から顔を逸らす。
「……まあいいか。しばらくそのままで居てくれよ?」
男が騒々しく動いている音が耳に入る。
少しすると、シャッシャッと何かをこする音だけが響き始め、眠くなってきた。
「できた。ほら、どうかな? 君の絵だよ」
うとうとと微睡んでいたから、男のその声に飛び起き、睨みつける。
驚かせないでよ。何? 終わったの? どうでもいいし、興味もないから、さようなら。
「待って、待って。これ、報酬だよ。また機会があれば、違う絵も描かせて欲しいな」
男が差し出してきた物は、私の好物だった。
残飯の中には、たまにしか入ってないのに!
まあ、お礼だけでも言っておこう。
「ニャー」
好物を口にくわえて、しっぽを揺らしながら、私は建物の陰に素早く移動した。
END