第8話「涙のスープと“喋る食材”」
グランフェスト第2戦のテーマは──
『感情を宿す料理』
審査基準は“味”だけではない。“食べた者の心を動かす一皿”を創ること。
そして、今回与えられた食材はなんと──**「喋る野菜」**だった。
それは、神の大地にのみ自生する幻の植物──《エモルート》
この野菜は、過去に出会った“人間の記憶”や“想い”を吸収して育ち、刈り取るときにそれを“言葉”として語り出す。
ユウトが手に取った一本のエモルートは、こう呟いた。
「……ママ……お腹すいた……でも……我慢するから……笑って……」
その声にユウトは動けなくなる。
それは、自分が子どもの頃に母に言った言葉だった。
過労死した前世の記憶が、胸に去来する。
「料理って……想いを込めるものだったよな……。だったら──」
ユウトは決意する。**“記憶に寄り添う料理”**を創ろうと。
厨房では参加者たちが、派手な魔法や技巧を駆使して魅せる中、ユウトの料理は静かだった。
彼が創ったのは──**“優しさで煮込んだ、記憶のコンソメスープ”**
エモルートを芯に、弱火で三時間以上煮込み、記憶の波動を壊さず香りに変える。
具材には“安心”と“ぬくもり”を象徴する素材を厳選し、“魔力を抑える塩”を使用している。
「これは……なんだ……。母の……味……?」
審査員たちは一口で、涙を流す。
騎士団長は「これは、俺の母が作ってくれた、最後のスープだ……」と呟き、
王女ですら目を潤ませながら言った。
「料理に、こんな力があるなんて……」
結果、ユウトは“審査員感動点”により2戦目も勝利。
だが戦いの後、ユウトの手が震えていた。
「俺は……料理をするたびに、前の世界を思い出してる……。けど、今の世界に……ちゃんと生きてるのかな……」
その背中を、ルミナがそっと抱きしめる。
「料理で誰かを救ってる。……だから、ここにいるってこと、忘れないで」
静かな涙と温かなスープが、王都の夜を包み込んだ。
そして、大会を裏から操る“神の厨房を継ぐ者”アルカスが動き出す。
「“魂に触れる料理”を創る者……“ソウルブレード”の継承者にふさわしい……だが、甘い。甘すぎる」
アルカスの命で、“神の獣を呼ぶ儀式”が始まろうとしていた──。
◆エモルート(Emoroot)
・通称:記憶を宿す喋る野菜(A Talking Memory Root)
・性別:無性(人格あり)
・年齢:不明(吸収した記憶で変化)
・出身:神の大地“エオルの丘”にのみ自生
・食材そのものが人格と記憶を持つ。調理前に語りかけてくる。
・育った環境や記憶によって“味”と“反応”が変化。
・一部の個体は悲しい記憶に支配されており、調理に精神耐性が求められる。
・“調理難度”:SSランク
感情を乱すと苦くなり、雑に扱うと味を失う。
優しさと記憶を込めた調理法でのみ、至高の味になる。