第11話「風の声を聴く者たち」
「卵の中に……入るってどういうことだよ!?」
戸惑うグレイスに対し、ルミナは淡々と告げる。
「これは“記憶調理”――神獣が抱く記憶の迷宮に入り、その“味”を理解する試練」
《空喰いの竜卵》の周囲に結界が張られ、ユウトだけがその中へと入る。
包丁を媒介に精神を卵へ重ね、彼は“空の記憶”へと意識をダイブさせる。
目を開けると、そこは「空しかない世界」だった。
雲も地平もない真っ白な世界に、ただ一人、小さな竜の子供が浮かんでいた。
「あなた……食べに来たの?」
竜は幼い声で言う。だがその眼には、無限の空を喰らい続けた“孤独”が宿っていた。
「誰も……ぼくに味を教えてくれなかったんだ……」
神獣・空喰いの竜は、本来“空を味わう”ことで世界の呼吸を調律する存在だった。
しかし、空を“味わう方法”を忘れ、やがてただ“喰らう”存在に変わってしまったという。
ユウトは彼に言う。
「なら、俺が“味”を教えてやる。料理人のやり方でな」
しかしその直後、竜は暴走を始める。
空の記憶が暴風と化し、ユウトを飲み込もうとする。
ユウトは《風聞のナイフ》を精神世界で召喚。
空気中の“音”と“香り”を刃に変える調理技で、記憶の暴風を切り裂いていく。
戦いの中でユウトは、小さな風の泡を見つける。
そこには、竜が最初に空を食べた日の記憶があった。
「風って……おいしいなぁ……」
その純粋な声に、ユウトの手が止まる。
「そうだ。お前は“喰う”んじゃなくて、“味わいたかった”んだな……」
ユウトは精神の中で一皿を作り上げる。
それは――
《空のスフレ・メレンゲ仕立て》
空の香り、風の流れ、記憶の優しさをふんわりと閉じ込めた、究極の軽量料理。
一口食べた竜は、涙を流して言う。
「これが……空の、味……」
竜の姿は光となり、卵の形に戻って眠りにつく。
目覚めたユウトを待っていたのは、仲間たちの歓声と、調律された空。
「空が……澄んでる。呼吸が、気持ちいい……」
こうして、第一の神獣封印《空の竜》の調理試練は、成功を迎えた。
だがその陰で、アルカスはつぶやく。
「1体目……君はやはり“神の選定者”か。ならば次は――**死を司る神獣“屍王グラドロス”**を目覚めさせよう」




