二
嗚呼、嫌だなぁ……ホント……、最悪……っ
さっきから烝さんには泣き顔ばっかり見せてるや……
こんな、泣いて、ぐちゃぐちゃになった顔、なんて……見て欲しく、ないのに……
止め、なきゃ……
でも、喉の奥がひくっと震えて、どうしても止まらない。
涙と嗚咽が絡まって、息が詰まる。
「……ひっく、うぅ、……ん、っふ、く、はぁ……っ……はぁっ、んう、ぅ……っ、……ぐっ、……ごほっごほっ!!っ、ごほっ!!」
急に泣き止もうとしたせいで、喉に引っかかるように咳がこみ上げてきた。
胸が詰まって、苦しい。
「……時雨?無理に止めようとせんでええんやで?」
咳き込んだからか、生理的に涙が出てきて、優しく声を掛けてくれた烝さんの顔がぼんやりとしか見えない。
その時、
「……俺は、時雨のいろんな顔が見れてうれしいんやけど?」
とこそっと耳元で囁かれる。
「!?す、すすむ、さん……!?」
びっくりしすぎてさっきまでとどめなく溢れてきていた涙が引っ込んだ。
「……あ、止まってもうた。
もう少し、見ときたかったんやけどなぁ……
……時雨の、泣き顔。」
とやっぱり私の耳元でこっそり囁く。
「え、な、なに、言って……」
「時雨がかわええ、っちゅー話や。」
「か、かわっ!?」
ほんと、何言ってるのかな!?この人!
私のこと、好いてくれてる、……んじゃないか……って、勘違い、しちゃいそうになっちゃうじゃん……
「いやぁ、堪忍な、さっきの『ありがとう』が可愛すぎてちょっとかまいたくなってん。」
「な!……かわいく、ないですっ!!」
「だって自分、ごっつ真面目に言っとったから。
かわええなぁ、思うてもうて。」
(しかも、涙目で。……上目遣いで。
……俺以外の男なんかにそんな顔したらそいつ殺しとるとこやで。)
なんてことを言ったら時雨に本気で怒られそうだったので口に出すのはやめておいた山崎だった。
「〜〜〜っ!もう!何言ってるんですか!」
ほんと、お願いだから、そんなこと言わないで。
勘違い、しちゃうでしょ?
……まさか、烝さんが私に、本当に、そう思ってる……わけじゃ、ないよね……??
『期待するな。』
『勘違いするな。』
『お世辞に決まってる。』
私の心の中の、黒い感情がそう囁く。
……そうだ、よね、……お世辞、……だよ……ね……
分かってるよ。
だって、烝さんは私なんか、きっと本気で思ってるわけがない。
ほんのちょっと、可愛いって言っただけ……
それを、本気にするなんてこと、しちゃいけない。
烝さんにも、失礼だ。
だって、烝さんと私は、十六歳も歳の差があるんだから。
烝さんは、きっと妹のようにしか思ってないのだろう。




