三
ここから女の子sideです
「ほら、食べなさい」
私の目の前には今までのはいったいなんだったのかと言いたいくらい優しげに笑いかける母さんがいた。
いや、わかってる。
今までの私に対しての態度は、致し方なかったことなのだと。母さんは母さんなりに苦しんでいたのだと。
でも、急に態度を変えられても困る。
この先起こることを、嫌でも想像できてしまうから。
「……え?」
前世の頃は平和だったなぁー。とか、
ご飯、いっぱい食べたいなぁー。とか、
ずっと思っていた。
……いや、思ってたよ?
でも、こう……ね?
こうも急に親切にされるとね?
そりぁ、不審に思うもんでしょう?
というか、これから「ああ、多分こうなるんだろうな」ってのは予想できてしまうわけじゃない?
だってさ、急に豪華なご飯と綺麗な服を着させられてさ??
いつも殴られてたから(お腹殴られた後とかは特に)痛くてご飯なんて食べられたもんじゃないし、礼儀作法にも厳しくって少し間違えただけでひどいときは火箸が飛んでくるし。
しかもまともなご飯は貰えていなかった。
食べカスか?
ってくらいの。
ゴミ屑みたいな?
まぁ、ゴミ屑なんだけど。
しかもめ―――っちゃちょっと。
これに礼儀作法気を付けながら食べろっての?って思うくらい。
流石に成長期の体にはこんな量じゃ少ないから、自分で狩りに行って取ってきたりもしたんだけどね。
狩りは三歳になったかなってないかくらいの時、山の麓に住んでる熊の獣人のおじちゃんがいて、その人に教えてもらってからよく狩りに行っていた。
獣人は人間より体の成長が幾分か早いようで、ウサギなどの小さい生き物ならば三歳でも十分狩ることができた。
流石白狼というべきか狩りの技術はぐんぐん伸びてきて最近じゃ熊もたまに取ったりしている。
狩りは暇つぶしになるし、食い扶持を持てるからよく行ってるんだ。
そうしてると殴られたりしないから、ってのもあるんだけどね。
それで、自分で狩ってきたのを食べたりしてた。
頑張って調理はするけどめんどくさいときは生でいくよ、めんどくさいからね(大事なことだから二回言いました)。
たまにおじちゃんにも分けてあげたり。
熊とかだとおっきくて分けに言ったなぁ。
まぁ、おじちゃんの顔は引きつってたけど(同じ熊だとかそういうことを気にしてなのかな?だったら悪いことしちゃったかなぁ……)。
で、服もいつもボロ雑巾みたいなのを着てた。
冬は熊のおじちゃんに猪の毛皮をもらって何とかしのいだり(まだ自分で鞣すのは難しかったから)。
あ、何故か母さんが襟巻を一枚くれたことはある。
一歳半くらいの時かな、私の家というか部屋は、その日からボロボロの納屋になったの。
襟巻はその時にもらったやつ。
大人が使うような大きいサイズだった。
ま、あれは正直言ってありがたかった。ここらの冬は特に冷えるから。
けど、もらえたのはそれだけ。
だから余計怪しいなぁ……? ってさ? 思うでしょ?
そして悪い予感は的中してしまうもので。
母さんにあるところへ連れて行かれた。
そこは、
―――子供を売るところだった。
別に驚かなかった。
というか妓楼に売られなかったのが不思議っていうか。
さすがの白狼族だね……
高く売られた。
ちなみに現天皇と血が繋がっていることは誰にも言っていない。
……言ったら殴られるし。
母さんは現天皇に見つかるのを酷く恐れている。
……まぁ、私が皇位継承権を持って生まれちゃったからなぁ……
後継者争いにでも巻き込まれたらたまったもんじゃないもの。
妓楼に売られなかったのは妓楼には高貴な方――つまり公家とかね――もよく来るからもしかしたらバレてしまうかも……ということからだった。
私にとっては好都合だ。
妓楼なんて真っ平だし。
母さんは普通に売ったら買うのは公家とかだろうし、私がやんごとないお方の子供とバレることは少ないし、お金も手に入り一石二鳥と思ったらしい。
が、
一つ、母さんに誤算があった。
まぁ、誤算というか、前代未聞の出来事だったので誰もこんなことを予想していなかっただろう。
私ですらこんなことちっとも予想してなかったのだから。
そう、
まさか、
私を買ってくれたのは、
王太子殿下・太陰様
だった ――――
――――だなんて、ね