二
時は流れあの戦争から約一万一八六〇年ほどたった頃のこと。
こっちの時代に合わせると一八六〇年頃……だろうか。
京のはずれの田舎に生まれた子がいた。
母親は白狼族。
白狼族は珍しい種族でしかも完璧な種族なため公家の中でも序列はいつも一位なのだ。
父親は……龍族、つまり、今の天皇だ。
一緒に住んではいないが。
こんな完璧な親から生まれた子。
白狼族は皆美男美女ばかりだと言う。
それは龍族も同じく……
なので当然この子も美人じゃないわけがなく、
透き通るような白い肌に初雪のような真っ白で柔らかそうな髪の毛。
そして一際目をひく綺麗な瞳。
普段は魔法で色を変えているためわかりにくいが本当の瞳の色は左目が天色※……つまり晴天の空の色で、右目が金色なのである。
金色ノ瞳は龍一族の証。
なのでこの瞳は誰にも見せないよう母親に厳しく言い付けられていた。
そのため魔法で白狼族の瞳の色である天色にして隠した。
しかし、何故こんなところに隠れるように住んでいるのか……?
色々と疑問である。
そして女の子は母親から虐待を受けていた。
いつも見えないところばかりに殴ったり、蹴ったり。
綺麗なはずの肌や髪はボロボロで、
普通だったら綺麗で透き通るようであろうその瞳は濁っていて何も映していなかった。
しかもろくにご飯も与えられない。
なので当然ガリガリだ。
いつしか感情を殺すようになり、
喜怒哀楽の”楽“以外の感情がなくなっていった。
五歳の誕生日の時、母親が急に優しくしてきたので気味が悪かった。
今まで虐待してきたのにも訳があると知ってはいるが感情というものがなかなか追いつかないのも事実で。
流石に笑顔を向けることなどできなかった。
そんなもので騙される子ではないからだ。
……騙された"フリ"はしたが。
そう、女の子は前世の記憶があったのだ。
20××年生まれ……そう、火の戦争が起こる前の時の記憶だ。
稀にそういう子が生まれることがある。
特に獣人がこの地球に誕生した時は結構前世の記憶が残っているものが多かったという。
最近は前世の記憶があるものはほとんどいない。
いたとしても戦争が起こる前の記憶を持っているのは珍しい。
ただ、
この女の子は前世の名前とか知識とかはあるが、家族の顔や思い出をまったくと言って思い出せないでいた。
ただ、優しかったというのは覚えている。
殴られた覚えがあまりないことは確かだ(兄妹喧嘩したときに殴られたことはある)。
この時代に生まれた時、最初はよくある異世界転生ものかと思ったのだがどうにもおかしい。
どちらかというと和風ファンタジーに近いだろうか。
妙に既視感があったのだ。
……だが、やはり少しおかしい。
人間が存在していた時代では幕末と同時期くらいなのだが、ここは、明治〜大正あたりのようにも見える。
近代化が少し早い……というか。
そして平和ボケしていた女の子は母親に初めて殴られたとき疑問でしかなかった。
……そして、心が壊れるのも早かった。
精神年齢が体に引っ張られていたのもあるのだろうが……
何よりこんなこと前世では一度もなかったから怖くて、
でも相談できる人が一人もいなくて心細かったのが一番の原因だろう。
※天色とは、晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色のこと。別名は
『真空色 』
(伝統色のいろはさんより引用させてもらいました)