料理ルートをつらぬく!
平和の戻った城〜
今日も城のキッチンに来ている。
王子様はオペラしようとは言ってこない。
オペラなんて存在しないかのように。
今日は味噌汁を作る日。
味噌汁は王子様とお近づきになる、きっかけになった料理。
特別な記念日になる――
はずだけど、慌ただしい足音が近づいてくる。
王子様が飛び込んできた!
「大変だ! ウタカタリーナ!」
「王子様! どうなさったんですか!?」
まさか、オペラについてなにか?
「隣国の王子たちを城に招くことになったんだ!」
「隣国の王子たちを!?」
オペラしに来るの?
「ああ。あの戦い以来、国交は断絶していたが、父上と隣国の王子の父上が話し合って関係を修復することに決まった。元々は長い間友好関係にあった国同士だからね、話は早かったようだ」
「そうですか……」
関係が修復できるならいいけど。
王子様の表情は深刻そう。
「父上同士は仲が悪くなさそうだけどね。いずれ、王になる私とテノールード王子は……ここで関係が修復できなければ、外交問題を抱えることになってしまうよ」
「外交問題……テノールード王子と関係修復……ソプラノーラ様も来ますよね」
「ああ」
私たちの料理を散々disって、戦争までした二人と関係修復を。
しなければ!
どうやってって……オペラは置いといて。
そう、料理で! 料理ルートをつらぬく!!
私たちが平和に料理を続けるためにも!
それに、
「私たちの料理を認めてもらう、いい機会です! もてなし料理を作りましょう!!」
王子様は驚きに目を見開いたけれど、すぐに瞳の輝きが力強くなり微笑んでくれた。
「もてなし料理か、おれたちでつくろう! おれたちだからこそ、できることだね!」
「はい!」
「一緒に、おいしいものを食べると仲良くなれるというし。平和的な関係修復法だ。料理を認めさせた暁には同盟国の約束をとりつけるか、チートもないし二度と戦いたくないからね」
「チートなしで戦うのは、やっぱり厳しいんですね」
「それに、やっぱり怖いからね」
王子様には二度と戦ってほしくない。
「二度と戦わなくていいように、おいしい料理を作りましょう!」
「よし、さっそくとりかかろう!」
私たちはいつも通り、エプロンをつけて手を洗った。
「まずはメニューだね。何がいいかな? 城で客をもてなす時は異世界風というか西洋風のフルコースを出すんだけど、日本食を認めてもらいたいからなぁ」
「そうですね……さばの味噌煮とか」
「さばの味噌煮?」
「単純に食べたくなったのもあります」
「食べたいなぁ。よし、作ろう!」
「はい!」
やった、さばの味噌煮が食べられるぞ!
「サバはあるのかな?」
「名前はありませんが、サバそっくりな魚がいます。塩焼きを食べましたが、脂がのっていてサバそっくりでおいしいですよ。それを食べて味噌煮にしたいと思っていたんですよ」
「それなら、その魚をサバと名付け、味噌煮とともに国中に広めようか」
「はいっ」
なんて、壮大な展開。期待!
「サバを使って一度作ってみてうまくいったら、この城のもてなし風にアレンジしてみようか? 歓迎パーティーの時に隣国の王子が料理を食べてくれなかったのは、見た目が悪いせいだったからね……」
「王子様も気にしてたんですね」
「うん……」
王子様、ショボンとして……可哀想。
隣国の王子のdisり、今思い出してもムカムカする!
絶対に見返してやりますわ!
怒りパワーが伝わったのか――
王子様もリベンジに燃える力強い瞳を向けてきた!
「料理は全部シャレた感じに盛って、名前もサバノミソニソース添え、みたいな感じにしてみよう!」
「いいですね!」
料理ルートの道筋が見えてきて、笑顔を交わせた!
この調子で次々、メニューを考えよう!
「メインのさばの味噌煮と――それから、前菜もいりますね」
「前菜か。ほうれん草のおひたし、とか?」
「ほうれん草っぽい葉っぱもありますよ!」
「よし、作ってみよう!」
「前菜の皿は、小鉢みたいな小さいオシャレな物にしたらどうでしょう? ソプラノーラ様もいますし、少しずつ上品な感じに盛り付けましょう」
「そうしよう」
いつの間にか、笑顔で話せてる。楽しい!
「デザートもいりますね?」
「何がいいかな?」
「プリン」
「プリン食べたいなぁ。作れる?」
「前世で、ぷるぷるした食べ物にハマった時期があったんですよ。その時にプリンを作った記憶が鮮明に残ってますから大丈夫です」
「よかった。プリンを作ろう!」
「はい! ソプラノーラ様に食べていただくなら、プリン・ア・ラ・モードのほうがいいですね。ゴージャスですから」
私もそっちを食べたい。
「そうだね! メニューは決まってきたね。前菜はほうれん草のおひたし、メインはさばの味噌煮、後はスープとライスかパンか。ここはライスだな。ライスといえばカレーライスだけど味噌煮には合わないね」
「そうですねぇ。ライスはそのまま出しましょう、さばの味噌煮に合いますから」
「そうだね。味噌煮で米を食べたいなぁ」
「食べたいですねぇ。それから、スープですが」
「うん?」
ちょっと、キラキラした上目遣いをしてしまった。
王子様も気がついたみたい。
「今日は、味噌汁を作る日でしたよね?」
「そうだったね、味噌汁も作ろう! おれも楽しみにしてたんだ……」
「王子様……」
私たちの想いは通じ合ってる――
こうして、見つめあっていても誰にも引き裂かれない。このまま……
いや、まだ、悪役令嬢達の問題は片付いてない。
今は料理作りを続けよう。
少なからず悲しくて目線をさげると、王子様もぎこちなく視線をそらせたのがみえた。