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料理は正解ルートじゃなかった

 戦勝祝いパーティーから帰宅〜


「あなたが勲章を授与されるなんて、夢みたいだわ!」


 馬車を降りて私を見た途端、お母様は泣き出した。


「本当だよ。まさか、こんな日が来るとは!」


 お父様も泣き出した。


 パーティー中、涙をこらえているのは気づいていたけど。こんなに号泣されると私も泣いてしまう。

 家の階級は男爵。こんな名誉に預かれることは滅多にないはずで。私も王子様とお近づきになれなかったら、どうしようっかなと思っていたから。


「それにしても……」


 リビングの猫足ソファに腰掛けて落ち着いてから、お母様は笑った。


「ウタカタリーナはオペラをするために、お城に行ってると思っていたわ」


 オペラ?


「まさか料理をしているとはね。王子様と一緒にできているなら、なんでもいいですけど」

「そうだね……先祖はオペラの才能を王様と王妃様に認められて男爵の称号をもらったから、ウタカタリーナにも期待していたが。料理でも結構なことだ。一応聞くが、オペラはしないのかい?」


 オ、オペ……


「オペラ!?」


 何それ? 

 オペラって……舞台で綺麗なドレスやスーツ来た人たちが凄い声で歌うやつ。異世界っぽい。


 しかし、自分がするとなると……


 何も言えないで、お父様の顔を見る。

 お父様の笑顔が困った笑いに変った。


「そんなに深刻に考えずともいいよ。お母様の言うように、王子様と一緒にできるなら料理でもいいんだから」

「そうですよね」


 ホッとした。

 深刻になっていた表情もやらわいでいく。

 けど、戸惑いは消えないどころか増してく。


「今夜も劇場でオペラがあるけど、ウタカタリーナは行くかい?」

「私は……ちょっと、休みますわ」


 オペラ観たら。

 私はオペラをするために転生したんだ! 覚醒!!

 みたいになるかもしれない。

 ちょっと待って……


「そうかい。では、お母様と二人で行ってくるよ」

「はい」


 休みたいけど、落ち着かない。


「なんだか興奮しちゃって、着替えたら町を歩いてきますわ」

「怪しい人に気をつけて歩くんですよ」

「はい」

「町もまだ戦勝ムードだ。楽しんできなさい」

「はい」


 部屋に戻って、地味なワンピースに着替えて外出。

 怪しい人に気をつけながら歩いて、お屋敷通りを抜けて町についた。

 道には花びらや紙吹雪が散乱している。店は戦勝セールを開催している。

 道行く人々はみんな笑顔で、興奮気味に歓声を上げたり色々話したりしている。


「王子様と戦った、テノールード王子はかなりの強さだったらしい」

「見た目も良いし、オペラは上手いし、剣の腕も立つ! そんな王子に打ち勝った我が国の王子様セレナード殿下にカンパーイ!!」

「オペラーラ王国に乾杯!」


 乾杯に巻き込まれた!


「セレナード様乾杯ですわ!」


 グラスワインを飲んだけれど、酔えそうもない。

 また独り、歩き出す。

 また、話し声が聞こえてくる。


「王子様の婚約者だったソプラノーラ嬢はどうなったんだろう? テノールード王子に連れられて行ったというが」

「負け王子と惨めに暮らすことになるのかしら」

「王子様から乗りかえた報いよ。ざまぁないわ」

「でも、二人共、オペラの才能はズバ抜けているそうよ。二人のオペラを観てみたいわねぇ」

「私も……」


 思わず呟いて通り過ぎる。


「戦ったとはいえ隣国だ。また、オペラ興行をやりあえるほど仲が戻ればいいが――」


 オペラ興行。それで仲良くしてきたんだ。

 私と王子様が料理ルートに行ったばかりに、こんな事態に……?



 オペラ劇場前公園〜


 ベンチが空いてるから、一休みしよう。

 公園の向こうには城のように立派な劇場が見える。

 オペラ劇場だったんだ……


 私の名前はウタカタリーナ。

 正解ルートでは歌って語って王子様にお近づきになったに違いない。

 オペラが出てくる異世界恋愛小説、読んだ覚えがない。ゲームもしたことがない。見知らぬ作品に転生してしまった。王子様も多分。

 王子様の名前はセレナード。うん、正解ルートでは私の家の窓辺で恋歌(セレナーデ)を歌ってくれたに違いない。

 私たちの聖域もキッチンじゃなくて劇場だったんだ。スケール大きくて神々しかったろうな。

 この国の名前はオペラーラ王国。

 料理していい国じゃない。

 悪役令嬢の名前はソプラノーラ。隣国の王子はテノールード。正解ルートなら私と王子様とオペラバトルでもしたに違いない。

 みんな声が綺麗だし、


「あ、あ〜〜〜っ」


 私も。

 悪役令嬢が "声が小さい"ですわよ" と叱ってきたけど、発声練習的な意味だったんだ……

 お母様も歌の先生を雇いましょうかって……

 歓迎パーティーで隣国王子と料理の批評バトルしたけど、大きな声出すの気持ちよかったな。ビブラートかけたりして。料理の良さを、みんなの心に届けたかった。

 覚醒もしたし――隙あらば覚醒する体みたい。

 戦いに行く王子様を応援する方法もカツ丼じゃなくて、歌で応援が正解ルートだったんだろう。

 私の歌を聞いた王子様が「――っ!」みたいな反応して "力がみなぎる。君は――" 私の笑顔アップみたいな素敵なシーンだったんだろうな。ま、カツ丼でも笑顔は合格だったと思うけど。

 私たちが正解ルートをいってれば、悪役令嬢も料理に毒を盛ろうなんてせずに済んだんだ。

 オペラルートでも、声の出せなくなる薬!とか盛ってきたかもしれないけどね。


 なんにしても。

 今さら歌いながら料理する気にはなれない。

 オペラしながら料理すれば解決なんだけど……

 一人の時は気分良いとするけど、人前では恥ずかしくてできんよ。

 しかし、異世界オペラ令嬢だったら斬新だし映えるだろうしアニメ化の可能性もあっただろうなぁ。

 ありふれた料理令嬢じゃ無理だ。

 作者さん、ごめんなさい。

 転生者ガチャ失敗ですね……

 このまま、料理を続けます。


 この事を聞いたら王子様はどう思うだろう?

 私からは話したくないから黙ってるけど。

 もしも、王子様からオペラもしようって言ってきたらしましょうかしらぁ……

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