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毒物混入未遂事件

「殿下! 大変です!!」


 兵士たちが慌てて来た。


「どうしたんだ!?」

「殿下の元婚約者が城に侵入しました! こちらです!!」



 場所はキッチン!

 壁に追い詰められた悪役令嬢、堂々と綺麗なドレスを身に着けて、小瓶を持ってる――


「あら、王子様。ごきげんよう」


 この状況でなんて不敵な笑み。

 こっち睨んだ! 怖い……


「まだ、腐敗臭のする令嬢と一緒でしたの?」


 腐敗臭!? 納豆の匂いのことかな? 

 くんくん、カツ丼の匂いがするような……


「あの時――痺れ薬ではなく、毒を入れておけばよかったわね!」

「やっぱり、あなたが痺れ薬を……!」

「ふふっ――」


 悪役令嬢、小瓶を口に!?


「まさか、毒!?」


 私と王子様が料理してるから、ざまぁするとなるとスタンダードに毒物混入を選んだんだ。けれど、侵入に失敗して自ら毒を飲む羽目に……!


「あなたたちの聖域なんか汚してやりますわ! 私は浄化されたりしない!!」


 最初からそのために毒を?


「やめるんだ!!」

「王子様!?」


 悪役令嬢に飛びついて、瓶を奪おうと――

 もつれあって取り合いになってる!

 王子様っ、まさかの劣勢!!


 毒を飲まされそうになってるっ、


「お飲みなさい! 浮気者王子!!」

「んー! んー!!」


 口を閉じて必死に抵抗してるけど、悪役令嬢に馬乗りに押さえつけられていつ飲まされるか……

 助けに入りたいけど、タイミングがわからないというか。兵士たちも手をこまねいてる。

 私が入ったら2対1なんて卑怯とか言われそうだし今入ったら私も飲まされそうになるかも。

 このまま、見守ろう……

 ごめんなさい、王子様。身の保身に走ります。


 負けないで!!



 王子様が押し返して瓶を奪い取った……

 ふぅ、よかった。

 いつ間に入ろうかと最後まで迷った。

 王子様が助けを求めていたら身を投げ出す覚悟はあった!

 出る幕がなかっただけ!!


「君がこうなったのは、おれのせいだ。君だけは死なせない」


 王子様は悪役令嬢を抱きしめている。

 見守るしかない。

 身の保身に走った私に、今さら出る幕なんか無いのですわ。


「今さら、私にできることはない……隣国の王子と幸せになってほしい」

「……ふっ、そうですわ。私がこうなったのは……あなたたちのせい」


 悪役令嬢の目から涙が。

 また泣かせてしまった。弱気で罪のないヒロインな私さえ泣いたことないのに。もらい泣きしたいのに泣けない。

 異世界恋愛ざまぁ読みすぎで変な耐性ついてしまってるんだ……


 戸惑う私と神妙な王子様に、


「あなたたちなんて、あなたたちの料理なんて決して認めませんわ!」


 そう言い残した悪役令嬢は兵士に連れられて行った。


 王子様と一緒にざまぁされる、やられ役モブ令嬢にならずに済んだ……


「丁重に扱ってくれ。すぐに、隣国に連絡をして迎えを寄越すように言ってくれ」


 王子様の命令で兵士たちが動き出した。




 夕暮れ城の玄関〜


 隣国の馬車が迎えに来て、悪役令嬢は帰っていった。全ては密やかに行われた。

 パーティーの後、隣国の王子と国を出た時は逃避行だ駆け落ちだと騒がれていたけど。私よりヒロインっぽい。

 王子様からの婚約破棄が原因ではないので王子様は悪役に見られず被害者で済んでいた。

 私はカツ丼作りもかねて王子様のそばに避難していたので私に対する周りの反応は知らない。令嬢や貴婦人たちからは色々思われてるだろうなぁ。人の噂も七十五日だ。早く過ぎて。

 そして、今回悪役令嬢が去る際に王子様との婚約は正式に解消された。


 悪役令嬢は隣国の王子と婚約するんだろう。


 私が王子様と婚約するヒロイン……


 ヒロインになるよね? 


 なっていいよね??


 隣に立つ、凛々しい王子様の。 


「終わったな。ざまぁされずに済んだ。悪役令嬢の最後のあがきには恐怖を感じたけど……」

「感じていたのは恐怖だけじゃなかった、ですよね?」

「……うん。申し訳なさも後悔もあった」


 やっぱり、後悔も。婚約者だったんだもんね。

 私の複雑な顔に気づいたのか、どうなのか、王子様はニッと妙に明るく笑った。


「でも、彼女には最初からビビってたよ。こんな美人でちょっと性格厳しそうな令嬢が、おれの婚約者!?ってね。ビビって距離を取ってたせいでこうなったんだ。反省しても、もうどうにもならないから隣国の王子に任せた。心から幸せになってほしいよ」

「はい……」


 幸せになってほしいけど。


「もう、ざまぁしに来ないでくれればいいな」

「はい」


 それです。

 深刻さを振り払うように、王子様は力強く笑った。


「たとえ来たとしても、おれたちの聖域は汚れたりしない。これからも一緒に料理を作っていこう」


 微笑む王子様、頼もしい!


「はいっ」

「本物の聖域にしたいから、聖女を呼ぼうか」

「いけません! 聖女を呼ぶなんて新たな、ざまぁを呼ぶようなものですよ!」

「そうか。聖女も、ざまぁしてくるんだな。怖いね」

「料理だけに集中しましょう」

「そうしよう。次は味噌汁を作ろうか?」

「はいっ」

「王子様」

「どうした? コック」

「戦勝祝いのパーティー料理も作らせていただけますか?」

「ありがとう。楽しみにしているよ」


 戦勝祝いのパーティーか。


 敵から国を守ってくれたし、王子様はまさにヒーロー


 私はカツ丼作って応援なんて。

 モブ令嬢っぽくはあるけどなんか決まらない。

 本当にヒロインになれる?

 王子様……

 私の視線が強すぎて、こっち向いた!?


「戦勝祝いのパーティー来てくれるね?」

「はい」



 戦勝祝いパーティーで私は、カツ丼(スタミナ料理)を作って王子様たちの後方支援をした功績を称えられ勲章を授与された。

 王様も王妃様も、私と王子様が一緒に料理していることをご存知だった。


「これからも、王子と料理作りを続けてくれ」


 言われたのはそれだけ、だけど。

 お二人の含み笑いには、それ以上のものが読み取れた。

 王子様も照れたように笑っていた。


 ご両親公認ヒロインでよろしくて!?

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