晩餐会の料理で応援!
宰相様を完全に味方した私と王子様は――
「キッチンへ行こうか」
「はいっ」
自然と足が向かっていた。
私達の聖域へ――!
キッチン〜
静か……
コックさん達は奥のテーブルで昼食後の雰囲気。
まったりした空気が流れてる、平和ですわ。
コック長が来た。
「殿下、ウタカタリーナ様、ピクニックはいかがでしたか?」
「楽しかったですわ」
「楽しかったよ」
私と王子様は笑顔でハモった。
「デザートのパフェも」
コック長も手伝ってくれたのよね、お礼言っとこ。
「美味しかったですわ。中から金塊が出てきて、とても……」
もう一度、得意げな王子様。
もう一度、驚いとこ。
「ビックリしましたわ〜」
「そうでしょう」
コック長、うなずいてる。
「殿下のアイデアにはいつも驚きがございます」
「ですわね〜」
うなずきあう私とコック長。
「ハハッ、いつでもアイデアを出すよ。いつでも言って!」
最高潮だ、王子様。
「では、さっそくですが」
「えっ? もう?」
驚いて半歩ひるんだ。
ここは異世界ですわよ。
いきなり、望み通りの展開あるあるですわよね。
それで?
「どんなアイデアがいるのですか?」
私もよく聞いとこう。
「はい。今晩おいでになるオペラ団に振る舞う晩餐会のメニューでございまして」
晩餐会のメニュー!
「それか。私達も何か作りたいね」
「はい! 欠席するからせめて……」
「そうだね! 欠席するからせめて美味しい物を用意してもてなそう」
私と王子様、苦笑い!
「どんなメニューがいいかな?」
「うーん……」
晩餐会と言われても、でたことないし。
コック長に助言を求めて視線を送りましょう。
「メインは一応考えておりまして、オペラを歌うために活力のつく肉料理、仔牛の赤ワイン煮込みでございます」
赤ワイン煮込み……何か見たことあるかも……赤ワインの、
「ソースはハート型にかけてください」
無意識に言っていた。
手が勝手にハートを作ってる――!
「かしこまりました」
王子様がニヤついてる。
「気に入ってるね」
「オ、オペラへの情熱の形ですから!」
いっそ、定番にしよう!
なんでもハート型にソースかけよう!
私の料理と一目でわかりそうですわね。
フフッ。決定したところで、
「他のメニューは?」
「喉に良いハーブのサラダも出す予定です」
「いいね。オペラを歌うために良い料理か、他に何かあるかな?」
王子様と一緒に首をひねってと。
「スープのアイデアをいただければ」
スープ……
「スープか」
王子様が閃いたみたい!
「タマゴスープかな!」
玉子スープ!
「いいですね! ふわふわのたまごで」
「喉と胃に優しそうだね! だけど……」
ん?
「晩餐会の料理にタマゴスープはおかしいかな? 簡単すぎるし」
そうですわね……
王子様のアイデアにしては庶民的。
そこが、この王子様の良いとこなんだけど。
「心配でしたら」
コック長!
「スープ皿を黄金のものにいたしましょう。タマゴの黄色が映えて美しいスープになります」
黄金のスープ皿!?
高いから買わなかった黄金の小鉢が頭をよぎった――
城にはそれを超えるものがあったのね……なら、小鉢も買ってよくない? とか思っちゃダメよ。
「城の料理らしい解決策だね」
「ですわねぇ」
ですが、倹約令嬢を貫きますわよ!
「それで頼むよ!」
「かしこまりました。そこにタマネギと……トーフも入れましょう。さらに優しくなるはずです」
「いいね!」
「いいですね!」
決まった!
「デザートもアイデアをいただけると」
デザート……
「一応、アイスを用意しているのですが」
アイス!
「こちらに――」
コック長についてキッチンの奥にいくと。
アイス屋さんみたいなアイスのケースが!
何種類かアイスが入ってる。
バニラとベリーとチョコミントかしら。
「喉に良いものですとハーブと紅茶のアイスがございますが、ハーブがサラダとダブってしまいますな」
コック長、悩んでる。
「何か他にないかな?」
王子様が期待の笑顔をこっちに向けた。
「そうですね……」
デザートでは私がアイデアを発揮したいけど。
「喉に良いものですか……」
そうだ!
「ハチミツ! 喉に良いですよね?」
「いいね!」
「ハチミツでしたら、喉に良いハーブから集めたハチミツがございます」
さすが、オペラーラ王国。
ミツバチに喉に良いハーブから蜜を集めてもらうなんて。徹底してますわね。
「よかったですわ。それじゃあハチミツアイス――」
といえば、
「生姜も! 生姜とハチミツのアイスはどうでしょうか!?」
「のど飴舐めた記憶があるなぁ。アイスもいいかもね!」
「はい!」
決まった!
ショウガとハチミツのアイス。
「コック長、どうかな? ショウガアイス」
満足げな笑顔をみせてくれた!
「素晴らしいアイデアですな。材料を持って参りましょう」
コック長はすぐに去っていき戻ってきた。
テーブルにはショウガ、ハチミツ、ボール、アイスグラス。
「バニラアイスにショウガを混ぜてみましょうか」
コック長が手にしたのは、アイスを丸く掬うやつ!
「それは!?」
「これはディッシャーといいます」
ディッシャー!
「ウタカタリーナ様がなさいますか?」
「はいっ、ぜひ――!」
コック長からディッシャーを受け取って。
優しい笑顔の王子様に見守られながら――
バニラアイスを丸く取ってボールに盛る!
アイス屋さんになったみたい楽しい!
とりあえず、三人分盛ってと。
「すりおろしたショウガを加えてまいりましょう」
コック長が手際よくアイスとショウガを混ぜて。
いい感じのとこで。
私と王子様がスプーンでちょっと味見してみる。
「うん……!」
バニラアイスの甘みの後にショウガのスッとする風味が喉にくる!!
「美味しいです!」
王子様は?
「うんっ、美味しいね!」
よかった!
コック長も?
「これだけでも充分美味しいですな。ハチミツは添える程度にかけましょう」
繊細な手つきで盛り付けがされていく。
アイスグラスにショウガアイスを丸く盛って。
スプーンからハチミツが金の糸のように垂れて網目状にかけられてく。
「完成しました」
「"ショウガアイス、ハチミツ添え" だね!」
「綺麗です! 美味しそう!」
もう一度、味見。
バニラのまろやかな甘みとショウガの爽快感とハチミツの強烈な甘さの三重奏! 全てが――
「喉に良いアイスですね!」
「できたね!」
私達は達成感あふれる笑顔を交わせた!
「よいアイデアをいただけて大変助かりました」
コック長も嬉しそう、よかったですわ。
「食後にはハーブティーをご用意しております。殿下とウタカタリーナ様もいかがでしょうか?」
ピクニックの後にお茶がほしかったとこ!
一仕事終えた後でもあるし。
「いいですねぇ」
「いただこうか」
イスに座って待っていると。
透明なティーカップが目の前に置かれた。
セットの透明なティーポットには黄金色のハーブティー。
「マシュマロウというハーブティーでございます」
マシュマロウ?
「マシュマロ?」
「はい。マシュマロの材料にもなっております」
「へぇ」
王子様と一緒に興味津々で見ている中――
ポットの中で葉っぱが舞いハーブティーがカップに注がれてく。
「いただきます……」
フーフー、ゴクリ。
とろみのあるティー。これがマシュマロ成分かしら?
甘いような、優しいハーブティー。
「とろっとしてて、喉に良さそうだね」
「ですねぇ」
王子様の笑顔がプラスされると。
とろけそうですわ、マシュマロウ!
「ウタカタリーナ様には、こちらも喜んでいただけるかと」
「え?」
コック長が別のポットを出した。
青いハーブティーが入ってる……
「こちらもマシュマロウですがマロウブルーといいまして」
透明なカップに注がれてく。
「綺麗ですわぁ」
「凄い色だね」
確かに凄い。かき氷のブルーハワイみたいな。
「さらに、こちらに」
コック長がフォークに差してるのは。
輪切りのレモン。
マロウブルーに入れた――
「色が! 青から紫に変わっていきますわ〜!?」
「凄いね!?」
「もうしばらくお待ち下さい」
待っていると。
ピンクに変わった! マロウブルーからマロウピンクのハーブティーに!
「わぁっ、綺麗ですわ〜! 魔法みたい……」
「異世界の飲み物って感じだね」
王子様も思わず呟いた。
「こちらを、晩餐会にもお出ししてください」
「かしこまりました」
これで、完璧な晩餐会料理ができましたわね。
「もてなし料理の後にも出そうか」
「そうしましょう!」
私と王子様の異世界料理の後に――
ぴったりですわ。
「まずは、オペラ団の人達に喜んでもらえるといいね」
「はいっ」
飛び入り参加でのアイデア料理だけど。
力を授けられたはず! 心から応援していますわ!




