お金の問題、正解ルートは?
「王子様! 宰相様!」
はじける笑顔で迎えると、王子様もはじける笑顔で来てくれた! 宰相様はいつもの冷徹な顔で!
「お待たせ! 父上に伝えてきたよ」
「国王様はなんて?」
「好きなようにしなさいと言ってくれた。ジパングに話してくれるって」
「そうですか。よかった!」
喜ぶ私と王子様の間に、宰相様がズイッと来た。
「陛下は、セリアー王国との今後を殿下に託そうとなさっておられます。殿下のやり方でテノールード王子と親密になってほしいと。そのために、殿下のやり方は全て尊重するとおっしゃっておられます」
「そうなんですね……」
オペラーラ王国とセリアー王国のこれからを子世代に託そうとしているんだ――
王子様の表情が固くなってる。見たこともない石のような固さ。
「少し……プレッシャーだけど」
少しどころじゃなさそう。だけど?
「私のやり方で、やってみるよ!」
いつもの、頼もしい笑顔だ!
「王子様! 私も……!」
思わず、名乗りを上げていた。
王子様の輝く瞳が、こっちを見た!
「もちろん、ウタカタリーナも一緒に! 頼むよ!」
「はい!」
私達は信頼の眼差しを交わすことができた。
見つめあう瞳から伝わってくる――
私と王子様はいつまでも一緒。そう、王子様が王様になってからも……ということは。
私は王妃様ということでいいですかぁ!?
「お二人なら必ずや、上手く成し遂げられることでしょう」
祝福するような、宰相様の断言。
その瞳が私に向いた。
「ウタカタリーナ様は素晴らしい王妃様になられることでしょう」
やっぱりぃ!? ですよねぇ、うんうん!
「テラー! 何言ってるんだ!?」
王子様にまた、笑い飛ばされた!
しかし、まんざらでもない笑顔!!
「ほら、大げさなこと言ってないで。買い物に行くから、お金!」
私より、お金!?
ま、大事だけど。
宰相様が財布を出した。どれどれ……
黒革の長財布に――札束が!!
お、王族の財布なら当然よね。ほほほ。
「100万ルン入れてございます」
ひゃくまん!?
ルン!? ルンルン気分の? じゃないよね……円のことよね。
「町で買い物なさることも想定して、硬貨も入れております。こちらが、ルンの取り扱い説明書でございます」
宰相様がメモ用紙を出した。
「助かるよ!」
「助かりますわね!」
王子様が財布とメモを受け取った。
「馬車の中で使い方を覚えよう」
「はい!」
これで、安心ね。
「わからない時は、御者にお任せください」
「そうするよ!」
「お金が足りない場合は、取り置きしておくように店にお伝えください。私が後から買いに向かいますので」
それなら、安心ね。
「大丈夫だよ、テラー!」
そうそう、そんな心配そうな顔しなくても。
「そんな顔しないで!」
え、王子様……
そのセリフと笑顔、男の人にも言って見せるんだ。
私だけにしてほしかったな……
だけど、確かに、宰相様は "そんな顔しないで!" と言いたくなるような顔してる。
どしたの?
「財布の中にあるお金だけで買い物するからさ!」
宣言すると、王子様はこっち見た。
「実はね、私がオペラのパトロンになると父上に話した後、テラーとオペラに使うお金、国の財政の話もしたんだ」
「国の財政の話ですか……」
いきなり、重要な話が始まる――
「うん、実はね、父上がオペラに国のお金を注ぎ込み過ぎているんだ。採算の取れない場所に劇場を建てようとしたりして」
「そうなんですね」
オペラ劇場、採算とか考えて建てられてるのね。
王様だからって、ポンポン劇場建てられないんだ。
「父上も母上もオペラ大好きだから、気持ちはわかるんだけどね」
「大好きなんですね」
オペラ大国の王様と王妃様だもんね。
私達と違って生粋の異世界人、かしら……
「そういう訳だから、テラーが私から父上に使いすぎないように言ってほしいと頼んできたんだ。私が関わることでオペラに使うお金のバランスが取れるようになればって願ってるんだ」
「お願いいたします、殿下」
宰相様は胸に手を当てて、お辞儀した。
「もちろん、そうすると答えたよ」
王子様はもう一度承諾して、宰相様に笑いかけた。
私も笑いかけよう!
「宰相様、王子様が関われば大丈夫ですわ!」
この王子様なら、オペラに入れ込んで財政破綻させるとか絶対ないでしょうから。
宰相様、心の声が聞こえたようにうなずいている。
「オペラに使う予算は殿下に決定していただきたいと思っております」
うんうん。
「父上に任せて国のお金を使いすぎて、国が破産したら困るからね」
王子様は困ったような笑顔を私に見せた。
国が破産――
そんなことになったら、国民が暴動を? 怖い。
食い止めなきゃ!
「そうですね!」
「オペラのために、国のお金をバランスよく使っていこう!」
「はい!」
私と王子様は誓いあった。
パトロンとしての使命感を新たに感じながら――!
宰相様が感涙している。
「そういう訳だから――」
宰相様の姿を見てから、王子様は神妙な顔をこっちに向けた。
「料理に、お金を使いすぎることもしないようにしなくちゃね?」
いいかな? と聞きたげに王子様は笑いかけてきた。
金の心配をさせないスパダリの溺愛を実感したところに――予想外だけど。
節約ルートの出現は。
だけど――
ここで理解力を見せなきゃね!
贅沢できないなんて! 絶対嫌ですわ!
とか、わがまま言ったら……
この令嬢は未来の王妃に相応しくありませんね――って宰相様に判断されて。
君と料理を続ける気持ちがなくなったよ、さようなら――とか王子様には言われて。
貧乏男爵家の質素な食生活に逆戻り!
なんて貧乏くさい、ざまぁ……怖い。
心が寒くなる、温かいものが食べたくなる。
王子様とニコニコ笑って、食べるためには!
「はい! お金を使いすぎないように気をつけましょう!」
安心させる、とびっきりの笑顔!
これが、ヒロインの回答。
ま、転生者なら誰でもわかるよね。簡単だった。
「そうだね! 気をつけよう!」
やはり、正解!
王子様もとびっきりの笑顔をくれた。
ふぅ。
ヒロインというのも大変だわ……
王子様と一緒に、お金の心配しなきゃいけないなんて。
「テラーも心配してるだろうし」
「そうですね……!」
宰相様もそれでさっき心配顔を……わかりますわ。
「料理って意外に、お金かかりますものね」
「城に届く食材は高級食材や厳選食材だったりするから尚更ね。それに、食器まで揃えようとしたら凄くかかるだろうね」
「食器も、王族御用達の高級店で買うんですものね」
気をつけなきゃ!
自制せずに贅沢三昧したら――国民がやはり暴動を。
国の金を使って好きなだけ食って豚のように太った王子と令嬢を処刑しろ――!!
なんてことになって、ギロチン台送りに? 怖い!
太らないようにも気をつけなきゃ!
今はどう!?
まだ、大丈夫、貧乏男爵令嬢で痩せてたおかげで、そこに肉がついてきて良い感じのスリムボディだわ。
王子様も。ずっと良いもの食べてるでしょうに、太らない体質なのかしら? いいなぁ……
この体型を維持するためにも、
「食費にも気をつけましょう。節約料理を作ったり、健康的な粗食をしたりして。食器も王子様の言うように、町の普通のお店で買ったりして」
「そうだね! 料理に使うお金もバランスを取ろう!」
「はい!」
私と王子様は再び、誓いあった!
前世で節約料理と粗食に親しんでいてよかった。
それほど、苦に感じない。
異世界節約料理を作るのもいいじゃない!
「ありがとうございます。殿下、ウタカタリーナ様」
宰相様は指先で涙を拭くと、微笑んでくれた。
涙でキラめく瞳の、イケメンの微笑み!
胸に来るわぁ……
節約ルート、正解だった。宰相様のために、国民のためにも!
「お二人の考えを聞くことができ、安心いたしました」
「心配しないで。私とウタカタリーナなら上手くやるよ! ね!?」
「はい!」
前世社畜の王子様となら!? 心配ない!!
「心配ないと申しますと、今回の買い物も。かかる費用の心配は無用でございます」
「えっ?」
王子様と同時に驚いた、
めっちゃ心配そうな顔してたやん、宰相様。
「心配ないのですか?」
「はい。先程はつい、顔に憂いを走らせてしまいましたが」
つい、か。それなら仕方ない。
宰相様はいつもの冷徹な顔に戻ってる。
「今回の買い物は、セリアー王国の王族を招くパーティーで使用する重要な食器の買い物ですので。金額は気にせず、殿下とウタカタリーナ様の納得のいくものをお買い求めください」
そう言われてみれば――好きだから散財とは違う。
「そうだね。そうするよ」
うんうん、そうしましょう。
「料理にかかる費用は、オペラ劇場を建てる費用ほどではありませんし」
そう言われれば――それもそうだ。
豪華料理といっても、テーブルにのる規模だし。
城みたいな劇場建てる時のような心配はいらないか。
「セリアー王国歓迎のための予算もまだ余裕がありますので」
「なら、心配せずに買い物しようか」
王子様が肩の力を抜いて、こっち見た。
「ウタカタリーナ、遠慮なく好きなのを選んで!」
「はい!」
喜んでそうしましょう!
「本当は、いつもそうさせてあげたいけど」
「王子様……」
やっぱり――
王子様が私のスパダリなんだ……
「ありがとうございます……その、お気持ちだけで充分ですわ」
本当だよ。見つめる瞳から伝われ――!
王子様のためなら、質素倹約を心がけるヒロインでいられる。
そんなヒロイン、今までなら理解できなかった。
せっかく、金持ち貴族に嫁げたりしてるのに――私は金に興味ありませんって態度示してヒーローの気持ちを手に入れるために心にもないことを大変ね――って横目に見てた。
私は絶対嫌、何も気にせず贅沢させてくれるスパダリと結婚できる令嬢に転生したいって思ってた。
でも、王子様となら――
「そちらも、ご心配いりません」
「えっ?」
心配ないの!? 宰相様!
思わず、飛びつきそうに見てしまった。
「ウタカタリーナ様のために、ご使用になられる予算にもまだ余裕がございます」
そんな予算あるんだ。
「私個人といたしましても、この費用に関しましては殿下のお心のままにお使いいただきたいと思っております。ウタカタリーナ様は殿下の大切な」
「テラー! わかったから、ありがとう!」
遮らなくても!
ですが、嬉しいですわ。
私が王子様の大切な令嬢として、国家予算にも組み込まれているなんて!!
これぞ、究極のスパダリの溺愛! 何度でも快感!
だめよ、ニヤついちゃ!
お金なんて気にしない、ヒロインの可憐な笑顔で。
「ありがとうございます。宰相様、王子様」
「礼はいらないよ。さぁ、行こうか」
王子様の笑顔は余裕に溢れていて頼もしい!
「行きましょう!」
「じゃあ、テラー。行ってくるよ!」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
馬車に乗り、宰相様に見送られて出発。
王子様と一緒にイスにもたれて、一息ついて。
「お金について決められて、よかったね」
「そうですね!」
思いを通じ合わせたら、王子様がメモを出した。
「この世界の、お金のことも覚えようか」
「はい!」
メモには――
赤銅硬貨一枚――1ルン
銅貨一枚――10ルン
銀貨一枚――100ルン
金貨一枚――500ルン
お札――1000ルン、5000ルン、10000ルン。
以下は使い方の例でございます。
1510ルン支払いが必要な場合。
1000ルン札一枚と500ルン硬貨一枚と10ルン硬貨一枚を財布からお出しになり店員にお支払いください。
細かい支払いを避けたい場合は全て10000ルン札でお支払いになり、おつりをお受け取りになる方法をお使いください。
「なるほど?」
王子様は呟きながら、財布の硬貨とお札を出してみた。
「ルンというのは円と同じで、5円と50円が無いだけで日本円と変わらないみたいだね」
「そうですね!」
「だけど、銀貨が100円の価値で金貨が500円の価値しかないのかな? ちょっと、前世の世界と価値観が違う気がするね」
「そうですね――」
金貨を持って見てみると――綺麗な金色だけど軽いし価値が安そう。
「本物でしょうか? 色分けに金色に塗ってるだけかも?」
「そんな気がするね! おもちゃのコインとか、そんな風にも見えるよね」
「ですねぇ」
お札も――
1000ルンには、お城の絵が印刷されてる。
5000ルンには、王都のオペラ劇場。
10000ルンには、オペラの妖精!
「こんなところにまで妖精が」
「可愛いね……」
ピンクの紙幣で可愛いけど……
10000ルンに印刷されてるなんて。存在感が怖い。
「あのオペラだけの存在じゃなく、国を象徴する……」
できるだけ、可愛い言い方をするなら。
「マスコット的な存在のようですね」
「そうだね」
一生、妖精と付き合っていくのを覚悟せねばなるまい。王子様も覚悟したみたい。
「――でも、まぁ、これがこの異世界で通用してるのは間違いないから」
王子様は自分を納得させるように言って、財布をスーツの内ポケットに仕舞った。
「後は、使ってみよう!」
「そうしましょう!」
後は、お金を使うだけ。
楽しみですわ! 万全の体制で食器店へ――!




