準備できた!
キッチン〜
スーが待ち構えてくれてる。
「ただいま、戻りました」
「お帰りなさい、スー。ありがとう!」
どれどれ。買ってきたものを拝見。
「メモの品は全部ありました」
「よかったぁ」
テーブルに出される、小さい骨付き肉の入ったパック、ツナ缶、キッシュ用の野菜、ベーコン。
「ジパングのお店でオニギリに使える材料も買ってきました。フリカケとノリというものです」
フリカケ! ノリ!
「フリカケは色んな種類のパックを、ノリは個包装のパックを買ってまいりました。お試しようの小さいものを」
「試食してみましょう!」
お茶碗一杯ぶんに丁度いい量の袋が沢山。
適当に一つ取って――オカカ!
指でちょっと摘んでパクッ。
「ん〜〜、おいしいですわ」
さっそく、ビブラートを効かせるほどに。
「おいしいわね」
お母様も!
「サケ味というのも、おいしいですよ」
「色も綺麗です」
メゾとスーも!
「ノリというのも、パリパリしていて、味も良いですわね」
先生も!
「あら――ですが、歯に少々くっつきますわね。気をつけていただきませんと」
そうそう、歯に海苔は恥ずかしいですわよね。
「さすが、先生ですわ。すぐ、そこに気づくなんて」
「ほほ、歯につかない食べ方と歯についてしまった時の綺麗な取り方も考えませんとね」
頼もしい先生に任せよう――
私もノリをいただこ。パリパリ。
「おいしいですわ――フリカケはオニギリに振りかけて、ノリはこのまま持って行きますわ。王子様に食べていただいて、私は歯につくといけないから遠慮しておきます」
みんな、それが良いとうなずいた。
おいしさより、綺麗な食べ方。
時にはそっちを優先しないとね。王子様と食べるんだから!
いや、王子様の前なら食べ方はあんまり気にしてないけど。さすがに歯に海苔はね……決まったところで、
「どれから作りましょうか?」
「そうですね」
メゾの意見を聞こう。
「キッシュを先に作って焼いている間に、チキンボンボンを揚げましょうかねぇ。オニギリは簡単ですから最後にして、丁度全部同じ頃に出来上がると思いますよ」
長年料理をしてきたプロの流れね、任せよう。
「そうしましょう!」
手を洗って、お弁当作り開始!
まずは、キッシュの具。ナッパ、タマネギ、ベーコンを食べやすい大きさに切っていく。スーと一緒にメゾを手伝う形で。ボールにタマゴ、生クリーム、チーズ、シオコショウを混ぜていくのを見て学ぼう。
「タルト生地は一晩寝かせて作らないといけませんから、それは明日の王子様用にして、今日は買ってきたものを使いましょう」
メゾがさっさと完成されたタルト生地を出してくれた。助かる。
全ての具材を生地に流し込んだら、オーブンへ。
「手際がよろしいわねぇ」
「ほんと、ウタカタリーナ様もプロのようですわ」
イスに座って見守る、お母様と先生のお褒めの言葉!
笑顔を返しておこう、フフッ!
「さて、チキンボンボンを作りましょうかね」
待ってました! これは、見学しよう。
骨付き肉に包丁で切り込みを入れて、お肉をめくって骨を出して……骨の先に丸く肉がついた形状になった!
「チューリップの形に似てますでしょ?」
「そうかしら?」
メゾが摘むチキンをよく見直す。言われて見れば……
「私はチキンボンボンと呼んでますがね、チューリップチキンとも呼ばれていますよ」
「へぇ。私もチキンボンボンと呼びますわ!」
お城ではチューリップチキンと呼ぶかもしれないけど、綺麗だから!
「次は、これに調味料をまぶしていきますよ……お嬢様も王子様も、もう子供ではありませんし、スパイスもまぶしましょうかね」
「そうして頂戴!」
赤いスパイスを少々、シオコショウ、よく揉んで、小麦粉をつけて油で揚げる!
「油が跳ねますから、離れていてください」
「うん、メゾも気をつけて」
少し後ろから見ていよう――カラカラとテンションを上げてくれる軽快な音!
「――さぁ、揚がりましたよ」
「わぁっ、おいしそう!」
「ふふっ」
優しく笑うメゾが皿に並べるチキンボンボンをスーと見守る――
こういうのも料理の楽しみよね。
さて、こんがり揚がったチキンボンボン!
「ありがとう、メゾ! 味見していい?」
「お願いしますよ」
フーフー、ガブッ
「ん〜〜っ、おいしい!」
カリッとした皮、じゅわっとした肉汁の中から少し辛味のあるスパイスの味、プリプリの肉、骨までしゃぶりたくなる!
「まぁっ、ウタカタリーナ様! いけません。そんな大きなお口で、かぶりついてむさぼるように食べては」
先生のお叱かり! 居るの忘れてた。
「ごめんなさい!」
つい、ガブッといって豪快に食いちぎってしまった。
骨をしゃぶらなくてよかったですわ。
「後ほど、お上品な食べ方をレッスンしましょう」
「お願いいたします!」
その前に手を綺麗にして、片付けて。
「オニギリを作りましょうかね」
「ツナマヨを作りますわ! ツナ缶を開けて、余分な油を捨てて、マヨネーズと混ぜるたけ!」
おいしくて簡単! みんなも口々に言ってる!
小皿には他にも、ほぐした焼きサバ、サーモン、ウメボシ。
「サバにしようかな」
愛着が湧いてる。
真ん中に少しのせてゴハンで包んで、シオを軽く振ったら、力加減に気をつけて心を込めて握る! ギュッギュッ 軽快にポンと跳ね上げて手の中で回転させては、ギュッ!
「まぁ、お嬢様、お上手に握りますね」
「綺麗な三角です」
メゾとスーの驚きの目が綺麗な三角オニギリに!
つい、気合いのままに握ってしまった。
初めてのはずなのに、握り慣れてるなんて……って、おかしく思われてる!?
笑って誤魔化そ。
「ほほほ、三角にしてみたら可愛いかなって」
「可愛いですよ」
「可愛いです」
「ありがとう! メゾとスーも上手ですわ! 丸いのも可愛いですわね」
オニギリはそれぞれ、個性が出るよね!
二人が作ったのも持って行こうかな?
――いや、待て。
スーの握ったのを王子様が食べて――これは! 私の食べたかったオニギリだ! これを握った人に会わせてくれ!――なんてことになったら。
私のオニギリが地に落ちてしまう……今まで積み重ねてきた全ても。それだけの力がオニギリにはある!
それに、オニギリで王子様を奪われるなんて。
前世日本人として一番屈辱の、ざまぁ! 回避回避。
私が握ったのだけ持って行こう!
「明日は、私が全部握るからね」
かしこまりましたと、二人とも何の疑問もなさそうに言ってくれた。よし――
ん? チンッて音がした。
「キッシュが焼けましたよ」
「本当、丁度よかったですわ。さすが、メゾね」
「ほほほ」
私とは違い、余裕の笑いをこぼすとメゾはオーブンを開けた。
こんがり焼けたキッシュが出てきた!
焦げたチーズの香り。
ナッパの緑とベーコンのピンク。
色どりも綺麗、切ってみるとケーキみたいでお洒落。
出来上がった料理全て、お皿に盛ってテーブルへ!
「では、レッスンを始めましょう。ウタカタリーナ様。これらは、どちらでいただく予定かしら?」
「お城の庭園のテーブルとイスで」
「お外ですわね。外ですと開放感があって、つい、お行儀を忘れがちになります。お気をつけなさい」
「はい!」
完全に忘れる前に、注意してもらえてよかった。
レッスンも受けて――お口を小さく開けてのオニギリとキッシュの食べ方、チキンボンボンの優雅なつまみ方、控えめな肉の食いちぎり方、お上品なお弁当の食べ方をマスターした!
これで、明日を待つだけ。
先生も帰ったし、お片付けも済んだし。
部屋に戻ろうかな……テーブルに何か。
「ジパングの料理本ね」
「あぁ、今回は要りませんでしたね」
メゾが取ってくれた。
ちょっと、見てみよう。
ジパングの調味料の紹介、シオ、サトウ、ショウユ、ミソ、ミリン――
定番おかずのページ、ミソシルだ!
そりゃあ、あるよね。日本をモチーフにした国ジパングだもん――なにか、驚きとともに喜びさえ湧いてきた!
どれどれ、他には?
ダシマキタマゴ!
「お嬢様のタマゴヤキに似ておりますね」
一緒に見ていたメゾが痛いところを突いてきた!
「そ、そうですわねぇ……タマゴヤキにはジパングの要素も入ってますわね!」
そうとしか言いようがないですやん。
「ジパングの料理は最近広まっていますものねぇ」
「そうそう!」
納得してくれた。ふぅ。
もしかして、サバノミソニもあるかしら!?
恐る恐るページをめくり……
あっ、サカナノミソニがある。
魚。サバと固定はされてないけど――作り方は一緒だ。
どうしよう……ジパングのサカナノミソニと区別するためにサバノミソニに、この国風のアレンジ加えなきゃかしら?
もう、王子様が考案した料理として広まってるんだっけ。
王子様に本を見せなきゃ!
「この本、お城に持って行っていい?」
「ええ、もちろんですよ」
「ありがとう」
本を抱えて、部屋に戻ろう。
夕暮れの部屋〜
とりあえず、本をどこかに置こう。本棚に置くと忘れるかしら?
本棚――あるのは知ってたけど、どんな本があるのか見てなかった。どれどれ、オペラの本が沢山ある!
ま、当然か。ここの本も読んで勉強しよう。
料理の本も並べましょう――




