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disられる料理

 隣国の王子様歓迎パーティー〜


 私は我慢できずに来てしまった。

 王子様も体調を回復されて隣国の王子をもてなした。

 けれど、途中退場されて自室に引き取られてしまった。


 私は、ひっそり後を追い部屋に入れてもらった。

 薄暗い部屋のベッドに座り込み、王子様はうなだれてしまっている。


「これが、ざまぁってやつか」

「ええ、伝統の初級ざまぁでしたね。油断してはいけません、後から凄いのがくるかもしれませんから」

「まだくるのか。彼女には君は料理作りのパートナーで、それ以外のなんでもないと話したんだが」


 ズキンッ


「わかってもらえなかったか。それにしても……読者目線では笑ってられたけど、いざ、ざまぁされてみると辛いな」

「王子様……」


 自分よりハイスペ王子に婚約者を奪われたら落ち込むよね。

 私は王子様のほうがカッコいいと思うけど。

 人間やっぱり中身ですわ。


 ――パーティー会場で隣国の王子は婚約者令嬢の表情が暗いことに気づき、


「どうしたんですか?」


 と聞くと婚約者令嬢は途端に泣き出した。


 私のドレスを憎々しげに睨んでいた人とは思えない。いや、我慢の限界だったんだろう。悲しみのブルーに対し怒りのレッドドレスを身にまとった婚約者令嬢は隣国の王子に全てを話した。


「婚約者の私がいながら、殿下はあの令嬢と親密になっているのです!」


 私は盛大に指を差された。

 そばにいる取り巻き令嬢たちからも。

 これが、ざまぁ劇のはじまり? 怖い……


「二人はキッチンにこもっては腐った豆料理を作り、そこを聖域と呼んで私を追い出したのです!」


 隣国の王子はキッチン?と少し眉をひそめたが、


「愚かな」


 怒りに満ちた顔を "は、はじまった。ざまぁ劇が" と言いたげに焦り硬直している王子様に向けた。


「この方の素晴らしさに気づけず、他の令嬢にたぶらかされるとは……キッチンにこもって腐った豆料理を作っている、か。それを食べて頭がおかしくなったに違いない。その令嬢がなにか怪しい薬でも入れているのかもな?」


 隣国の王子は私にも冷たい瞳を向けると、


「この会場の料理にも薬が盛ってあるかもしれんな。まぁ、私の口には合わないので食べてないがね。どの料理も見た目からして質素で平民のもののようで――!」


 隣国の王子は盛大に両手を広げて、両サイドのテーブルを指し示した。よく通る良い声でdisられてますわ。


 確かに、前世平民の王子様が好みのまま作らせた料理ばかりだけど。


「食べもせずに何がわかるというの……?」

「ん? なにか言ったか?」


 ――声が小さいですわよ――


 えっ?


 ――そんな声では、心に響きませんわ!!――


 覚醒!!


「食べもせずに何がわかるというのです!!?」


 過去最大の声が出せた。

 礼を言いますわ、婚約者令嬢。


「なんだと?」


 私の反論に隣国の王子だけでなく会場中が注目している。全ての人の心に響かせる!


「料理のおいしさは、食べてみなければわかりません!」


 私は優雅にテーブルに近づき、スプーンとフォークと取り皿を見せつけて笑顔! 

 大皿に山盛りの改良が進んだ肉じゃがっぽいのを掬い、パクっとほおばったら――


 目を見開いてキラキラ! 満面の笑み!


「ん〜〜〜〜!! おいしいですわあぁぁぁ!! この唐揚げっぽいのもっ、この卵焼きっぽいのもっ、ん~~〜〜!!」


 大げさにスプーンを動かし、次々笑顔でほおばる。

 我ながら躍動感にあふれた食レポ。

 会場中が私と料理に夢中になっている!


「このテリーヌもっ」

「それは食べたよ、おいしかった」


 テリーヌは食べたですって?

 元からある異世界ヨーロッパ風なオシャレ料理だからか――負けない!


「デザートもですわ! この3色だんごっぽいのもっ、このどら焼きっぽいのもっ、このマカロンもっ」

「マカロンは食べましたわ。おいしかったです」


 婚約者令嬢まで!


「おいしかったですわ」

「おいしかったですわ」

「おいしかったですわ」

「おいしかったですわ」


 取り巻き令嬢たちも!

 劣勢……! 負けない!!


「極めつけは、このカレー! おいしすぎて気絶しそうですわあぁぁ――!!」

「気絶してどうするんだ!!」

「はっ!? 王子様! 私は!!」


 のけぞる体をガっと支えられて、私は我に返った。


「つい、前世の食レポに毒されて我を忘れてしまいましたわ……はっ!」


 毒されるなんて、まずい表現をしてしまった。

 案の定。私の食レポに圧倒されていた隣国の王子は勝機を得たりと言いたげに笑った。


「ふふ、やはり毒されるところだったな! 危ないところだった――」


 笑顔に冷や汗がにじんでいる。

 もう一歩だったのに!

 私の睨みなどもうなんの力もなかった。

 隣国の王子は料理に見向きもしなくなり、


「あなたに、この国の料理も王子もふさわしくない。私と婚約してください」


 と微笑んで言い放ち、婚約者令嬢を連れて出ていった。

 取り巻き令嬢たちもついて行った。


 王子様は何も言わず見送った後、


「皆、料理を食べても毒されたりなどしない! 信じてくれ!!」


 それだけは盛大に言ってくれて、笑顔で料理をほおばってみせてから退場された。

 みんな、隣国の王子の言うことより、体を張って証明してくれた王子様を信じて安心してくれた。

 私に向かって、私の食べ方を真似して見せてくれた貴族オジサマもいた。心に響いたんだ!


 救いはあった、けど――


 隣国の王子、許せない。

 私たちの料理を食べたら頭がおかしくなるだのなんだの……でも、隣国の王子相手に私ができることなんてもうなにも……

 せめて、王子様を元気づけてあげたい。

 おいしい料理を食べてもらって。何にしよう。


「そうだ、王子様。カツ丼を食べて元気だしてください!」

「カツ丼?」

「ええ。カツ丼を作りましょう! それを食べて隣国の王子と婚約者令嬢に、いいえ、悪役令嬢に、カツ丼!」

「そうだな、カツ丼を作って食べよう! ざまぁなんかに負けないぞっ、カツ丼!」

「カツ丼!!」

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