確信と確約!
見つめあう私と王子様を、ガッツリ見られてしまった――
デスピーナ様とルバート様がニヤついている、気がしますわ。
「ウタカタリーナ様……」
とりまき令嬢たちも、おずおず〜といった感じで前に出てきた。
「私たちの妖精にも、ご指導いただけませんか?」
妖精に!?
私を心底、怖がらせた妖精たちに言うことなんて……
「いいえぇ! 何も言うことはありませんわ。素晴らしい妖精たちですわ! ですよね、王子様?」
「うんうん」
高速でうなずいてる。怖かったもんね。
「大迫力だったよ!」
「ほんとですわね」
ソプラノーラ様の、とりまきだから?
「皆様のなんというか、ハミング! さすがの素晴らしさでしたわ〜!」
うまいこと言えてるのかわからないけど、伝われ!
「ありがとうございます〜殿下、ウタカタリーナ様」
声を揃えてくれた。伝わったか……
ふぅ。
ほっとする暇もなく、リリック様が出てきた!
他にも数人の男性、当然のごとくイケメン集団。はつらつとした感じのイケメンからアラフォーかしら? 渋イケメンまで……
「殿下、私たちにも、ご指導をお願いいたします」
「リリック先生と、君達は、船乗りだったね」
そうそう、イケメンとかじゃなくて。
確か、パンフレットには若々しい繊細なテノールに繊細さと深みを併せ持つバリトンに深みのあるバスの歌声が船旅の陽気さと過酷さを織りなすとあったような。まさに、その通りだった。
他に褒め方なんて見つからない。
「みんな、素晴らしいよ。教えることはないかな」
王子様も納得のですわね。
「聞いてると本当に船に乗ってるような気分になれたよ。ほんと、楽しかったし。嵐の場面は本当に嵐に遭ってるみたいだったし」
うんうん。
「思わず、負けないでって応援していましたわ!」
「そうだね!」
私と王子様の盛り上がりを目の当たりにして、皆様納得のご様子。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに、お辞儀して引き下がってくれた。
「私は、アルケミスの親友としていかがでしたか!?」
リリック様が食い下がってきた!
申し分ないですわぁ!!
と言いたいところだけど。
また、王子様が "そうだね……" って冷たい反応したら困るし。いや、空気読める王子様だとは思うけど。それだと後が怖い気もするし。
王子様の反応を見よう! チラッ
「いやぁ」
愛想笑い? してる。
「ウタカタリーナの先生になるはずだった人に言うことなんてないよ」
言い方にトゲがあるような無いような……
リリック様も困惑の表情ですわ。
「さすが、先生するだけはあるな〜って思ったよ。ほんと。信じて?」
信じて? が、私へも向けられているような。
よし、私は信じた!
リリック様も信じさせてあげなきゃ。
「私もそう思いますわ。信じてください!」
たじろいだ。
笑顔の圧をかけてみよう!
「――わかりました。信じます」
礼をして引き下がってくれた!
よかった。笑顔を見合わせる私と王子様。
それもつかの間、王子様は皆様のほうに向き直った。
「みんなも信じてくれ! 一人一人が素晴らしい演技をしてるから!」
いつかのパーティーを思わせる演説。
さすが、王子様ですわ。
元孤独な社畜とは思えない……これが、王子様のチートスキルなのかも。演説スキル? 応援スキル?
皆様も惹きつけられて目が離せない様子。
一人一人か……私も皆様を見回して目に焼き付けておこう。
「今観せてもらった前半だけでなく、舞台で観た後半も、ね?」
王子様が笑顔を向けてきた。
私にも応援スキルがあるかわからないけどっ。
「そうですわ! アルケミスとオペラッタが結ばれた場面は言うに及ばす、その後の、お城を建設する場面なんかも楽しくて!」
「そうそう!」
王子様寝てたよね?
やっぱり。
苦笑いが面白可愛いですわ。話しを進めてあげよう!
「それから、フィナーレなんて!」
「そう! フィナーレの凄さ!」
話が進んで息を吹き返した。
「圧巻だったよ! 思わず、オペラしたくなるくらいだった!」
あの、料理にしか興味ない王子様が!
これは凄いことですわよ!?
「オペラ、なさらないのですか?」
ルバート様が切り込んできた!
「あっ、いやぁ……」
やべっ……って苦笑い、こっち向けてきた!
苦笑いを返すしかできませんわ……
王子様は自分でなんとかするようで、ルバート様に向き直った。
「オペラは君に任せるよ! ルバート君!!」
ビシッと指を突きつけて堂々の宣言!
これは――私も!
目配せだけにして。
デスピーナ様にお任せします!!
デスピーナ様は心得たという感じで、静かにうなずいてくれた。一度この話をしておいたから、話が早い。
そんな話初めて聞かされたルバート様は、めっちゃ動揺してる。
「わ、私でよろしいのですか?」
胸に片手を当てて。衝撃? にふらついてる。
「もちろん! なんだっけ、アレ」
「プリモ・ウォーモです」
王子様の問いかけに秒で答えた宰相様、さすが。
「そう! 君はプリモ・ウォーモだ。任せられるのは君しかいない。頼むよ?」
王子様という優位の者だけか見せる、ちょっと上からな笑み……!
舞台下からなのに威力は抜群みたい。
ルバート様が片膝をついた!
「光栄です。殿下」
それ以上、言葉にできないみたい。震えてる。
王子様の満足そうな笑み。
「応援してるよ! みんなのことも!」
皆様も、うやうやしく膝を折った。
これが王子様パワー!!
さすがですわ。私も膝をつきたくなった!
でも、ここは――
王子様の向けてきた笑顔に笑顔で応えよう。
なんだか特別な存在――そう!
ヒロインっぽい!!
「――殿下」
宰相様が冷徹なまま話しかけてきた! さすが……
デスピーナ様も落ち着いてるし、おかしくもないか。妹が泣いてたら泣いてたんだろう。
「素晴らしい応援演説をありがとうございました」
応援演説。そっか、応援演説スキル?
「ありがとう、うまくできたね」
王子様は無自覚なようで、ほっとしてる。
チートスキルじゃなくて、スペックってやつなのかしら?
あぁ、王子様に影響されてチートスキルチートスキル気にしてしまってるわ。よくわからんし、この辺にしておこう。
「では、そろそろ帰城ということでよろしいでしょうか? 昼も近いですので」
「そうだね、いいかな?」
後半も観たかったけど、本番を楽しみにしておこう。
「そうですね」
「じゃあ、帰ろう」
王子様の決定を受けて、宰相様が舞台のほうに歩み出た。
「では、皆様。殿下とウタカタリーナ様はここで、お帰りでございます」
皆様、残念そう。
「また、お越しくださいませ!」
「お待ちしております!」
あたたかい言葉に見送られて、
「また、来るよ! 劇場にも!」
王子様が笑顔で確約して、退出。
スタジオロビー〜
ふぅ――
素晴らしい訪問になった。リリック様にも会えて綺麗に別れられたし、とりまき令嬢たちとも和解できたし。王子様も言ってたけど、来てよかった!
「殿下、ウタカタリーナ様、今日はお越しくださり本当にありがとうございました」
見送りに来てくれた、デスピーナ様の笑顔!
「皆が、やる気に満ちあふれることができました」
ルバート様も笑顔!
「これで、セリアー王国の方々にも胸を張って舞台をお観せすることができます!」
私と王子様は力強く、うなずいてみせた!
「君達ならできると確信してる!」
うんうん!
「全力でサポートするから必要なことは何でも言って!」
「ありがとうございます!」
王子様はパトロンとして、ルバート様と熱く固い握手を交わした。
「サポートといえば、これを」
熱さに影響されない冷徹さで、宰相様が近づいてきた。
手には紙切れ?
あれは……
「殿下とウタカタリーナ様からいただいた、薬膳スープのレシピです」
それそれ!
「病み上がりのデスピーナのためにいただいたものですが」
「まぁっ――」
デスピーナ様が感激の笑顔をみせた。
「皆様の健康維持にもよいでしょう。殿下、ルバート様達にもよろしいですか?」
「もちろんいいよ、ね?」
「はい! 喉やお体を大事になさってください!」
ミルク粥より、おいしい! 確約しますわよ!
「お菓子だけでなく薬膳スープまで。お心遣い本当にありがとうございます。必ずや、舞台を成功させてお返しいたしますわ」
デスピーナ様が力強く確約してくれた。
ルバート様も力強く、うなずいている。
二人に、皆様に任せよう――
信頼に満ちた笑顔を交わす私たち。
「では、後はデスピーナと皆様に任せましょう」
時を見計らった、宰相様の掛け声。
「そうだね、帰ろうか」
「はい」
帰ろう――
「あのう」
帰るのを見計らったように、受付の人が来た!
「せび、こちらをお持ち帰りください」
山積みの本を差し出してきた。
「こちらは上演中の舞台をご紹介する冊子に、オペラ歌手名鑑とオペラに携わる者達をご紹介する冊子に、オペラへの道という歴史紹介と用語集となっております」
これは有り難い!
「私にも、いただけますか?」
「すぐに、お持ちいたします――」
私の分も、宰相様が受け取ってくれた。
山積みが凄くて重そうだけど。頼みますわ。
さぁ、これで何もかも済んだ――
「これで、オペラへの見識を深めるよ」
王子様と厳かに、うなずきあって。
「それじゃあ、また!」
「失礼いたします!」
皆様に笑顔で手を振られるなか。
ありがとうまたねですわ! オペラスタジオ――!




