また、王子様ざまぁ!?
「あ、あ……」
あのって声かけたいのに、声が出ない。
王子様が異変に気づいて、こっち見た。
「どうしたの?」
「あの」
王子様に向かっては普通に声でた――
「ほら、この妖精たち。令嬢たちです」
「うん?」
よくよく見直してる。
気づいたみたい。
あ、あ……って顔してる。
「あなた、たちは……ソプラノーラさんと一緒にいたね?」
とりまき令嬢たちは揃ってうなずいた。
悲しげに……
デスピーナ様も悲しげにこちらを見た。
「この令嬢たちはソプラノーラ様をとりまき、一緒にオペラの舞台に立っていました。ですが、ソプラノーラ様が隣国に行ってしまわれたため……」
さすがに、隣国までついて行って。
とりまきはできなかったのね。
取り残された地で、妖精をやってたんだ。
そりゃ元気もなくなるわ――って、他人事みたいに思っちゃいけない。私と王子様のせいじゃん!
王子様……どうします?
深刻な視線を交わしてから、私たちは令嬢たちに向き直った。
「すまなかった」
王子様が言った。私も続こう。
「ごめんなさい」
悲しげなまま動かない令嬢たち。
「つらい思いをさせてしまったね。私と」
王子様がチラッとこっち見た。
「のこと恨んでいるかな?」
私の名前は出さないでくれた……
恨みを一心に引き受けようとしてくれてるのがわかる――けど。
私たちに、ざまぁしたいですか?
はっきりさせたい!
覚悟の眼差しを向けると、令嬢たちは何か言いたげにデスピーナ様を見た。
しゃべれないのかな? とりまき令嬢って。
「ご心配いりませんわ」
デスピーナ様が代わりにしゃべった。
「この令嬢たちはソプラノーラ様をとりまいていない限り、何もできません」
そうなんだ。って顔を王子様もした。
無害な令嬢たちになんだ――
羽をもがれた妖精が、ただの小さい人になるみたいに。
とりまく令嬢を失ったら、ただの令嬢なんだ。
「ソプラノーラ様に会える日を待ちながら、オペラの舞台に出ているだけの令嬢たちですわ」
ズキンッてきた。
みんな、ソプラノーラ様に会いたいんだね。
つらそうな顔してる……
「ごめん、なさい」
心から謝罪します。引き離してしまったこと。
「謝らないでください」
とりまき令嬢の一人がしゃべった!
「セレナード殿下のことも、ウタカタリーナ様のことも恨んでいません」
「恨んでいません」
他の令嬢も声を揃えた。
うるうるした瞳で訴えてくる。
信じよう。
ざまぁする気はないんだ――
「信じてくださいませ」
デスピーナ様も訴えてきた。
「恨むことなどできませんわ。なぜなら」
「なぜなら?」
私と王子様は声を揃えて首をかしげた。
「ソプラノーラ様は自らの意思で隣国に行ったのですもの」
それは、そうだよね……?
「殿下とウタカタリーナ様が親しくなりパーティでの出来事が起こる以前から、ソプラノーラ様とテノールード殿下は想い合っていたのですから仕方ないですわよね」
「ええ!?」
私と王子様は声を揃えて驚愕した!
仕方ないですわよねって、そんな。
さすが冷徹宰相様の妹って感じのセリフだけども。
なになに? 私たちが裏切り行為をしたと思っていたら、ソプラノーラ様が先に裏切ってた!?
いや、私はダメージないけど。
王子様は膝ガクガクッってなってる。支えなきゃ!
「しっかり!」
「あ、あぁ」
また、ざまぁ食らってしまったな。王子様。
回避しようとして食らってしまったの?
こんな、ざまぁが待ってるかも! とか想像して心の準備してたりしないのかなぁ? 激励の言葉考えたり王子様の仕事が忙しかったのかもね。
なんにしても、おいたわしい――
「誤解なさらないでください!」
デスピーナ様が慌てて両手を振った。
とりまき令嬢たちも慌てて両手をパタパタさせてる。
「決して」
デスピーナ様は声をひそめた。
「不貞をはたらいていたわけではありません。ソプラノーラ様とテノールード殿下はオペラの舞台を通して交流なさっておりました。そこでの精神的な想いのやりとりのことですわ」
なるほど、オペラの舞台を通して――
オペラーラ王国とセリアー王国はオペラ巡業を通して仲を深めていた。
ソプラノーラ様とテノールード王子様も一緒にオペラ観たり舞台したりして精神的な愛を育んだのかな……王子様とはできないことだわ。
「お二人がプリマドンナとプリモ・ウォーモとして共にした舞台など観れば一目瞭然でしたわ。特に引き裂かれる悲恋を演じる、お二人の歌声は真に迫っていて涙を誘いました……」
思い出したのか、デスピーナ様は指先で目元をぬぐった。
とりまき令嬢たちも……
「ソプラノーラ様はテノールード殿下とは結ばれずセレナード殿下と結婚なさると覚悟していたのです。それが、どんな形であれ一緒になれた。私たちは喜んで見送りました……セレナード殿下には申し訳ありませんけれど」
デスピーナ様は申し訳なさそうに視線を下にした。
とりまき令嬢たちも……
王子様は?
「そうだったんだ……知らなかったな。ハハハ」
かろうじて、笑って受け止めてる。
私にも笑いかけてきた。愛想笑い返しとこ。ホホ。
王子様は笑ったまま、力ない視線を宰相様に向けた。
「テラー、知ってた?」
「いえ、申し訳ございません」
さすが、冷徹宰相様は笑ってないけど若干困惑してる。
「お兄様は、そういうことには疎いですから」
そんな感じするね。女性を見る基準が妹だもんね。
ソプラノーラ様はデスピーナ様に似てないし。プロフィールとか来歴しか知らなさそう。
「お恥ずかしながら、その通りで」
宰相様は恥ずかしくはなさそうに答えた。
「ソプラノーラ様のことは公爵家のご令嬢でプリマドンナであることしか把握しておりませんでした」
やっぱり。
「もちろん、殿下の婚約者となる際に相応しい方であるか身辺調査いたしましたし、ソプラノーラ様とテノールード殿下が恋人同士を演じる悲恋劇も観ました。心にくる良い舞台だとは思いましたが」
観てたんだ。目がうるんでらぁ。
「精神的な繋がりまでは、気づくことができませんでした」
「だよね。無理もない。気にしないで」
王子様はうんうんとうなずいた。
「デスピーナさんも、とりまきさん達も気にしないで。私もソプラノーラさんとテノールード王子のことは祝福しているから。そのことはソプラノーラさんにはもう伝えてあるんだ」
「そうでしたか……」
みんな、安心したみたい。
王子様がブチギレなくてよかったよね。
先に心の決着つけることができといてよかった。
ソプラノーラ様、いつぞやはキッチンに侵入してくれてありがとう……
「そういうわけだから!」
王子様は気を取り直した元気な笑顔をみせた!
「私のことは気にしないで舞台に集中してほしい! ソプラノーラさんが観る舞台だ、うまくいくといいね」
「はい。ありがとうございます」
デスピーナ様と令嬢たちも声を揃えて笑顔をみせた!
「ソプラノーラさんにも会えるといいね」
王子様の優しい、お言葉。
「会えるように取り計らおうか」
「お願いいたします!」
とりまき令嬢たちが嬉しそうに笑った。
「テラー頼めるかな?」
「かしこまりました」
王子様と宰相様の迅速な取り計らい。惚れるわ。
とりまき令嬢たちも、ぽーっと見惚れてる。
王子様には惚れないでね?
宰相様に惚れて。少し難アリだけど。
「ありがとうございます」
デスピーナ様と令嬢たちが、お辞儀した。
王子様は笑って、
「これくらいしかできないけど」
答えてから、こっち見た。
「来てよかったよ。ついてきてくれてありがとう」
スッキリして、ほっと肩の力が抜けたみたい。
支えることしかできなかったけど。
笑顔返しとこう。
笑いあう私と王子様を見て、とりまき令嬢たちが顔を見合わせてからこっちを見た。
また、深刻な顔つきしてる――
「ウタカタリーナ様、ごめんなさい」
何の謝罪!?
「な、なんでしょうか?」
「ウタカタリーナ様がオペラスタジオに来ていた頃……」
来てたんだ。
「男爵令嬢のくせにとか」
めっちゃ声小さ。
「プリマドンナになれるわけないとか。ヒドイことを言ってしまいました。申し訳ありませんでした」
あぁ――
やっぱり、この令嬢たちが妬んでたんだ。
今みたいな感じでボソボソ陰口叩かれてたんかな?
そりゃオペラルート諦めてモブ令嬢にもなるわ。
でも、それは過去の話!
「もう、気にしないでください」
そんなこと言ってたんだ〜って。
もう、気にしないでいられるから。
「ほんとうに? 許してくれますか?」
心細そうな令嬢たち……
ソプラノーラ様がいなくなって無害というか無力になってるんだもんね。
わかるよ。私も王子様が一緒にいるから平気なんだもん。心配そうに見つめてくれてる――大丈夫です。
それに私は、ここぞとばかりに――
よくも、かつての私をいじめたわね!
今の私は無力な男爵令嬢じゃない!
王子様がいるし、厳しく断罪してもらいますわよ。
覚悟しなさい! ざまぁ!!
するような悪役令嬢じゃありません!
優しく許すヒロイン!!
力強く宣言しよう!
「大丈夫です! 心配しないでください!」
とりまき令嬢も王子様も、ほっとしてくれた。
一件落着か。
「ウタカタリーナ様、私からも謝罪いたします」
デスピーナ様がかしこまった。
公爵令嬢の謝罪は一味違って威圧感がありますわ。
かしこまって、許します。
「他の令嬢たちにも謝罪させなければいけませんね」
まだいるんかい。そういえば、
「デスピーナ様にも、とりまき令嬢がいらっしゃるのですか?」
「ええ。いますけども」
どおりで、とりまき令嬢の対応がうまい。
「みんな、別の舞台に出るために巡業に出ております」
「そうなんですか」
「ちなみに言っておきますが、この件につきましてソプラノーラ様は関係ありません。舞台に立つ者への対応は正々堂々とした方ですから」
裏で、とりまき令嬢たちを操ったりとかしてなかったか。
「わかります」
声が小さい! とか正々堂々叱ってきたし。
オペラに関しては陰湿なことや小細工する人じゃないんだ――
「コソコソと陰口はやめなさいとソプラノーラ様に言われました」
とりまき令嬢の証言。
「それで反省して慎みましたが、丁度その頃からウタカタリーナ様は来なくなってしまって……」
そうだったんだ。
とりまき令嬢を叱ってくれたとは。感謝します。
しかし、大きな声でオペラ調でdisるのはいいですわよ、だったりして。わかりませんわ。
ま、それも過去のこと。
「気にしないでください。今、私は王子様とお料理をしていて。毎日楽しいですから」
王子様と笑顔を交わせた。
オペラルートを吹っ切れた笑顔、見せられたと思う。
とりまき令嬢たちは、なんとか納得したように小さくうなずいた。
元気出させてあげたくなる、しゅんとした顔してる。
なにか、ないか……オペラ、巡業、ソプラノーラ様。
そうだ!
「私のことはもういいですから! ソプラノーラ様といつかまた、オペラを一緒にできるようになるといいですね!」
みんな、さっきより元気にうなずいてくれた!
次は――
みんなでまたオペラをするために、
「王子様」
「うん?」
「オペラーラ王国とセリアー王国がまた、オペラ巡業できるようにも取り計らっていただけませんか?」
できるだけ、うるうるした瞳で。お願い。
「オペラ巡業か。実はね」
優しい笑顔を返してくれた! 実は?
「今度のテノールード王子との会談で同盟国になれないかと提案するつもりなんだ。それがうまくいけば、巡業も復活できるはずだよ!」
「そうなんですか!?」
令嬢たちも驚いた。
「うまくいくといいですね!」
「そうだね!」
そうだ。他人事じゃなかった。
もてなし料理、成功させなきゃ!
「うまくいかせましょう!」
「ああ!」
王子様と決意を新たにできた!
「うまくいくよう、お祈りしております」
デスピーナ様が優しい笑顔をくれた。
「お祈りしております!」
とりまき令嬢たちも笑顔を揃えた!
うまくいって。
めでたし、めでたし、巡業開始にしなきゃ――!




