パーティー料理食べに行くべきか行かないべきか
翌日〜
いい天気。お城に行くために準備しよう。
椅子に座ると、メイドが髪を梳いてくれる。
「髪型はどうなさいますか?」
「うーん、いつもの縦ロールで。巻きは控えめに」
「はい」
この異世界には電気もカールアイロンもある。
綺麗に巻いてくれた。
次はドレス。
婚約者令嬢に気づかれたくない。なるべく、地味なドレスで行こう。いや、いっそ男装とか。
異世界恋愛読者だった時は、地味なドレスとか男装とか悪目立ちするじゃん、それが狙いか? とか思ってたけど気持ちわかりますわぁ。純粋に目立ちたくないんや。深刻な理由がありますねん。
「行かないと」
お母様に挨拶していこう。
一階に降りて。
お母様、リビングにいた。
「お母様、お城に行ってきます」
「失礼のないようにね。後、テーブルマナーの先生を雇うことになりましたからね。次のパーティーまでには間に合わないかもしれませんけど……」
「わかりました、ありがとうございます」
「先生は伯爵家の方で、多くの令嬢子息をレッスンしてきた方なの。失礼のないようにするんですよ」
伯爵家。男爵家より上の人か。
なんか、嫌な予感がする……
「はい、気をつけます」
お母様も不安顔でうなずいた。
「行ってまいります」
お城の門〜
今日は王子様と約束してない。
お城に行ってと当然のごとく御者に頼んだけど、モブ令嬢を乗せた馬車が無事入れるのか。
馬車が止まった。小窓から見よう。門番が来て御者に何か聞いた。
「ジュ――男――家のウ――イ令嬢――です!」
「どうぞ!」
スムーズに馬車が動きだした。
王子様が私がいつでも来れるように門番に伝えてくれてたのかも。
それにしても。
ジュなんとか男爵家が私の名字か。
ウなんとかが私の名前。何令嬢って言った?
ウ、ウグイス嬢!?
玄関についた。馬車を降りなきゃ。
さて、入城。こそこそ行かなきゃ。裏口ないかな?
いつもならキッチンに直行だけど、王子様いないだろうしどこに行けばいいんだろう。
「どうなさいました?」
あ、入口に立ってる門番さんが来てしまった。
「あの、王子様が痺れ薬を飲んでしまったと聞いて心配で来てしまったのですが。お加減はいかがでしょう?」
「王子様は痺れもなくなり、体調も問題ないとのことですよ。原因も痺れ薬ではなく、腐った豆を食べたとかいうことです」
「腐った豆」
納豆のことね。
「はい。王子様と婚約者様の証言もありますので間違いないでしょう」
痺れ薬混入事件は揉み消された――
王子様は事件を大きくしないために?
婚約者令嬢は自分に容疑がかからないようにするために?
私が入れたんですわ! とか騒がなかったんかな?
王子様が否定してくれたのかな。
ま、とにかく。腐った豆のせいになったんだ。
何もできないモブ令嬢の私に言えることは、
「王子様が、ご無事でよかったですわぁ」
「側近に話してまいりましょうか。ご面会が叶うかもしれません」
「えっと、いいえ。ここで充分ですわ」
婚約者令嬢と会うのがやっぱり怖いし……
「あの、隣国の王子様歓迎パーティーは予定通り開かれますか? 王子様はご出席なさるでしょうか?」
「城は既にパーティーの準備に取り掛かっております。王子様もご出席なさるでしょう」
「そうですか、あの、聖域は、キッチンはどんな様子でしょうか? わかりますでしょうか?」
それだけ聞いて、帰ろう。
「キッチンではパーティー料理を作っているのではないですかな? 最近は王子様がアイデアを出されるとかでコック達は気合いが入っていますよ」
「そうですか。ありがとうございました。失礼致しますわ」
パーティー料理、楽しみだな。
ああ、どうしよう。出ようか出るまいか。
帰宅〜
「ただいま」
「おかえりなさい」
お母様が慌てて出てきた!
何……? 怖い。
「王子様から、あなたにドレスをと。仕立て屋がいらしているわ」
「えっ!? 王子様から」
王子様、ドレスプレゼントするよって。
覚えていてくれたんだ……
「仕立て屋は、お城御用達のポール•ベルーガよ!」
ポール•ベルーガにドレスを作ってもらえたら、上流令嬢の仲間入りじゃない。
王子様に出会ったパーティーに行く日、お母様がいつか着せてあげたいと話していた仕立て屋。
こんなに早く、我が家に。
「う、嬉しいですわ! いきましょう」
「ええ、衣装部屋にいらっしゃるわ」
二階には、小さいながら衣装部屋がある。
そこに、ポール•ベルーガはいた。
一目で最高級とわかるダークスーツをきている。
背の高いヒゲのおじさま。
うやうやしく、私に挨拶してくれた。
「初めまして。王子様のご依頼でドレスをお届けにまいりました。仕立て屋のポール•ベルーガと申します」
「あ、ありがとうございます。光栄ですわ……」
「まずは、王子様からお手紙をお預かりしていますので、お読みください」
お手紙〜
ウタカタリーナへ
私、ウタカタリーナっていうんだ。
心配かけてごめん。
痺れ薬はたいしたことなくて、体はもう良くなったよ。
婚約者とも話した。納得してくれたような感じだった。誤解は解けたと思う。
確信はなさそう……
それで明日なんだけど、隣国の王子が来るそうでパーティーがあるんだ。
パーティーと聞いて君にドレスをプレゼントするって話を思い出した。仕立て屋に頼んで家に行ってもらうことにしたよ。好きなドレスを着てね。
パーティー料理には日本料理っぽいのも作ってもらうつもりだから食べに来てほしいけど、ざまぁされるかもしれないから欠席したほうがいいかもしれないね。
誤解は解けてると思うんだけどね。異世界恋愛の世界はそんなに甘くない気もするんだ。
私もそんな気がしますわ。
王子をもてなす役を父上から仰せつかったから、欠席したいけどできないよ。
君は欠席するなら、ドレスは別のパーティーで着てくれればいいから。喜んでくれると嬉しいな。
それじゃあ、この手紙は読んだら燃やしてくれ。
セレナードより
王子様、セレナードっていうんだ。
「王子様、ありがとうございます」
私を気にしてくれる気持ちがいっぱい詰まってて、胸がいっぱいになる。
「ドレス選びに進んで、よろしいですかな?」
「お願い致しますわ」
「では――」
ポール•ベルーガが片手で示した。
手の行く先を目で追うと、何着かのドレスがトルソーに着せられていた。床に置かれた大きなトランクからも、ドレスが溢れそうになってる。
「今から仕立てていては間に合いませんので、既にできているものを持ってまいりました。サイズ合わせいたしますが」
ポールは裁縫道具の準備もはじめた。
「他にお望みの色やデザインがありましたら、できるだけ似たものを店からお持ちいたします」
「ありがとうございます」
ここにあるドレスで充分みたいだけど――
どれも綺麗なマーメイドドレス。ピンク、黄色、緑、青、どれも鮮やかだ。あまり目立ちたくないけど。
「いかがでしょう? お気に召しましたか? ボートネックでデコルテは開きすぎずエレガントに見せ、スカートの裾に大きめのドレープをつけて可憐さを演出しております」
スカートのヒラヒラが熱帯魚のヒレみたい。
「エレガントで可愛いですわね」
そのままの褒め言葉だけど。
満足そうにうなずいてる。喜んでくれた。
「どれを、ご試着なさいますか?」
「そうですね……」
ピンクと黄色は無理だ。緑か青か。
「青で」
青、悲しみのブルーで。
ざまぁされるかもしれないし、哀れを誘えるかもしれない。
「青ですね。どうぞ、こちらへ」
試着がはじまった。
手早く私のサイズに合わせていく。
動く余裕もなく、じっとしておく。
「鏡の前へ、どうぞ」
鏡の前〜
青いマーメイドドレス、ピッタリ合ってる。
綺麗で可愛い。
それに、一目で最高級品とわかる。
「お似合いですよ」
「似合うわ!」
お母様は泣きそうになってる。
私も――
「嬉しいですわ! これにします!!」
「かしこまりました。縫い目など改めて丁寧に仕上げますので、お待ち下さい」
ポールは脱いだドレスをトルソーに戻し、ジャケットを脱ぐと裁縫をはじめた。
お茶でも淹れよう。
はあ~〜、有名な仕立て屋のドレスを着てパーティーに行けるなんて! これこそ、令嬢の楽しみよね!
「よかったわね、ウタカタリーナ」
お母様と感動のあまり抱き合った。
「お母様が思う以上に仲良くなっていたのね、王子様からプレゼントされたドレスを着れるなんて……」
「はい……」
王子様からプレゼントされたドレスを着て、婚約者令嬢と隣国の王子のいるパーティーに行く?
ざまぁされに来ましたわって?
欠席でいいよ、私は欠席できないけどという健気な王子様を一人にするのも気が引ける。
パーティー料理も食べたい。
行くべきか行かないべきか、悩みますわぁ――




