私は何令嬢?
「あ、蝶々」
綺麗な白い半透明の羽。
妖精じゃないよね?
花に止まった。よく見てみよう、普通の蝶々だ。
「お待たせ!」
「あっ、王子様!」
いつもの笑顔。
お会いしたかった――!
気持ち飛びつきそうに近づいてしまった。
「今日は早かったね」
「はい、あの、色々気になって」
なんて言えば。
「わ、私、何令嬢に見えます!?」
思わず、聞いてしまった。
王子様は当然驚いてる……
「何令嬢って?」
「ほら、悪役令嬢とかああいうのです」
「それか。どうしたの? 急に」
「急に、気になって」
そうとしか言いようがない。
「そう、うーん……」
首かしげながら、まじまじ見てくる。
笑っとこ。にっこ!
ドキドキ。
「面白、令嬢かな」
「おもしろ!?」
やはり、喜劇でいかねばなるまい。
「いやほら、一緒にいると楽しいって意味!」
「あぁ――!」
なるほど。
喜劇役者みたいとかじゃなかったんだ。
よかった……
「嬉しいです! 私も王子様と一緒にいると楽しいですっ……!」
見つめあえた。
「大丈夫、悪役には見えてないよ」
「よかったです」
「もう一つあげるなら、料理令嬢かな!」
「それですね! 王子様も料理王子です!」
笑いあえた。
よかった、よかった。
私は悪役令嬢でもなく、きょとん令嬢でもない。
王子様の言葉を信じて、このまま進もう。
タイトルにつけるのは喜劇令嬢……料理令嬢で決まり!
「色々気になることの一つは、答えでた?」
「はい! 満足しました」
「それはよかった」
次は、そうだ。
「次の気になることですが、王様と王妃様とオペラの話して大丈夫でしたか?」
「うん! 昨日は、家出するかもなんて言って心配かけてごめんね」
「いいえ。大丈夫だったならそれで」
「うん。オペラの感想話すだけで済んだ」
「よかった」
「それを伝えに行こうかと思ったんだけど。お腹いっぱいで横になってたらそのまま寝ちゃって」
フフッ、可愛い。
「起きたら朝になってた。ごめんね」
「いいですよ。何もなくてよかったですっ」
「うん、よかった! それと、君の父上の話だけど」
その心配もあった。
「はい」
「他の地位を考えるって父上が言ってたから。もう少し待ってて」
「他の地位を」
「うん」
王子様がニヤッとした!?
「お父さんはどう? 成り上がりたがってる?」
「そうですねぇ」
もう公爵に成り上がるつもりでいます。
ニヤついておこう。
「だよね。普通は誰でもそうだよ」
「ですかぁ」
私も、お姫様に成り上がろうとしてる……
いや、王子様への純粋な想いから派生したもので!
「成り上がりの件は父上に任せよう。テラーも考えてくれるそうだから大丈夫だよ」
「はい。ありがとうございます」
「テラーといえばさ。妹さんがオペラスタジオにぜひ来てほしいと言ってるそうなんだ」
「オペラスタジオに?」
「テノールード王子達にオペラを観せることになったから、激励にきてほしいって」
「そうですか――」
私もデスピーナ様とのことを話そう。
「実は、昨日、デスピーナ様が家に来たんです」
真面目な話だ。
妖精みたいに窓から来たことは言わないでおこ。
王子様の顔つきも真剣さが増した。
「なにしに来たの?」
「オペラのことを話に来たんです。テノールード王子様達にオペラを観せることで不安になってて」
「そうなんだ」
「その、王子様の婚約者だったソプラノーラ様はデスピーナ様の前のプリマドンナで圧倒的だったそうで。自分の舞台を観てもらってどう思われるかと気にしてまして」
王子様の表情に神妙さが加わったみたい。
「そうか。ソプラノーラさんは圧倒的なプリマドンナだったって話は聞いてるよ。反応が気になるよね」
反応も気になるけど。
王子様は婚約者だったんだから、本来の相手役とかではないの?
「一緒にオペラしたことはないんですか?」
「ないよ」
ないんだ。
「転生前ならあったかもしれないけど、記憶がはっきりしないというか。あんまり思い出したくないからさ」
オペラの過去はもういいって感じ。
「私も。転生前はオペラルートに挫折したモブ令嬢でしたし」
「挫折したんだ?」
「どうもそうらしいです」
王子様が優しく肩に触れて――
優しい笑顔。慰めてくれてるんだ。
好き!
「過去は気にしないで。前だけ向いていこう!」
「はい!」
王子様となら、どこまでもいける!
「それで私、デスピーナ様にオペラルートを任せることにしたんです!」
「それいいね! おれは相手役の人、ルバート君だったか。彼に任せよう!」
「そうしましょう!」
決まった。
王子様、晴れやかな顔してる。
私もこんな顔してるんだろうな。
「じゃあ、二人を励ましに行こうか?」
「はい! それと、仲間のみなさんも」
「そうだね!」
「それと、オペラ全体も」
「オペラ全体も励ますの?」
「励ますというか。支えてほしいと、デスピーナ様から頼まれました」
「支える、ね」
「はい!」
ここは強調しとかないと。
「パトロンとして!!」
「パトロン?」
「援助する人です。後ろ盾になってくれる人」
「あぁ。テラーがそんなこと言ってたな」
やっぱり、ぼんやりさんだった。
よく言い聞かせて、わかってもらわないと。
「私たちのオペラルート、パトロンで行きませんか?」
「オペラルートを?」
「ここはオペラ大国です。いくら、料理ルートを進もうとオペラとは関わらなきゃいけません」
「そうみたいだね」
観念したように、笑ってらぁ。
「それなら、パトロンとして関わっていきませんか? デスピーナ様も仲間のみなさんもそれを望んでるみたいですし」
「そうだね。後ろ盾なら、オペラしなくていいし」
うんうん。それ、大きいよね。
「よし! おれ達はパトロンとしてオペラを支えよう!」
「はい!」
決まった、私たちのオペラルート!!
ようやく、安心して歩き出せる……
綺麗な庭園を――
「この庭園も昨日観たオペラをイメージしてるそうですよ。綺麗ですよね!」
「うん、この妖精なんかそっくりだね」
「フフッ、そうですね!」
王子様? また真剣な表情になって妖精を見てる。
「確かに、ここはオペラ大国だ。料理だけじゃなく、オペラも大切にしないとね」
なんて、素敵で頼もしい笑顔。
「そうですね!」
王子様なら大丈夫、任せられる!
ついて行こう、どこまでも――
気持ち、肩近づけて寄り添ってしまう。
王子様の反応は……笑いかけてくれた!
「その服も凄く可愛いし、この庭園が似合ってるよ」
「ありがとうございます! 王子様も」
「そう? ありがとう」
白に金の刺繍されたズボンとベストのセットが。
王子様にも庭園にもよく似合ってる。
私とも、お似合いだったらいいな――
オペラ庭園のなかをこんな浮ついた気持ちで歩けるなんて。
パトロンは正解ルートに違いない!
しかし、気を引き締めていかなきゃ。
これから、オペラスタジオに行くんだから。
デスピーナ様とルバート様だけじゃなく――
たくさん役者さんがいるよね。世間の人が。
今まで逃げてきたけど、向き合うときが来たか。
世間の人からは、どんな令嬢に見られてるか?
はっきりわかるかもしれない。
怖いけど。
王子様と一緒ならいける――!




