庭園にいる!?
お部屋〜
さぁ、お城に行く準備開始。
「新しいワンピースがあります。お召になっていかれますか?」
綺麗な淡い緑のワンピース。
「着て行くわ」
仕立ても高級感があって着心地抜群。
「新しいリボンもあります」
赤いリボンにブローチみたいな飾りが付いてる。
オペラのとき王子様が胸に付けてたルビーみたい。
本物じゃないと思うけど、こういうリボン可愛い。
「つけて行くわ」
髪も軽く巻いてもらって。白い靴を履いて準備完了。
玄関ホール〜
お母様とお父様がいる。丁度よかった。
朝の挨拶をしてと。ふたりとも元気そう。
さっそく、
「お父様、オペラのチケットなんですけど」
「なんだね?」
「メゾとスーの分も取ってあげてほしいんです。いつも良くしてくれるから、お礼にオペラを観せてあげたいの!」
「なんて思いやりのある娘だ、ウタカタリーナは! もちろん、取ってやろう!」
「ありがとうございます!」
フフッ、お父様を感涙させましたわ。
なんか――悪役令嬢が良い子の振りしてるときのやりとりみたいでもあるけど。私は純粋に良い子なんだ。
胸を張ろう!
「では、お城に行って参ります」
「こんな早くから、はりきっているね! 行っておいで」
「はい!」
「王子様に失礼のないようにね」
「はい、お母様」
「新しいワンピース、似合っていますよ」
「ありがとうございます。お母様もマーメイドドレス似合っていますわ」
お互いを眺めて笑顔を交わす。
お母様はVネックに長袖のグレーのマーメイドドレスを着てる。シンプルだけど高級感がありますわ。上品なお母様にぴったり!
「ふたりとも、城にいても見劣りすまいよ」
お父様の自慢げな言葉に、うなずいてしまう。
では、城に向かうことにしましょう。
「行って参ります」
「いってらっしゃい」
馬車の中〜
気持ちのいい出発だわぁ。
そうだ、空き屋敷がないか小窓から見てみよう!
「うーん……」
看板も出てないし。
見た目じゃ空き家かどうかわからない。ま、どこかにあるでしょ。
何もかも順調にいってるんだから――
順調に?
もしかして、お城に行ったら……
きょとん令嬢が出てきたりしないよね?
王子様を一瞬で魅了してさらっておきながら。
ほえ? 何もしてませんよ? って首かしげて。
純粋さと天然さに王子様のほうが夢中になってて。
いや、王子様は令嬢にトラウマあるから心配ないか!
でも "君となら一緒にいられる" とか言って……
私だって!
天然? 腹黒? かどうかはわからないけど。
王子様との初キスを夢見てる純粋な令嬢なのに!
それに、世間の人は私と王子様の仲を知ってる。今さら "君とは何もなかった。ただの料理パートナーだ。それ以外の何者でもない。私が愛するのは、きょとん令嬢だ!" なんてことになったら――
恥ずかしい! あんまりですわ!
もう外を歩けない。
悪役令嬢がさっさと隣国の王子についていった気持ちがわかるわ。自国にはいたくないよね。結果的にではあるけど、王子様を奪ってごめんなさい。その上、元悪役妹と結託してオペラで倒そうなんて考えてしまって。こうなったら悪役令嬢、いえ、ソプラノーラ様もテノールード王子様もまとめてハッピーエンドを目指す! ので許してください……
懺悔の気持ちのままに、城についた。
私はどうなってしまうの?
確かめに行かなきゃ……
玄関ホール〜
早く来すぎたので、誰もいない。
門番さんが執事さんを呼んでくれた。
「おはようございます。ウタカタリーナ様」
「おはようございます。今日は早く来てしまいましたわ」
「王子様はまだご支度中ですので、しばらくお待ち下さい」
「はい」
「よろしければ、庭園のほうでお待ちになられませんか?」
「庭園?」
に行ったら――いるかも。
「いつぞやは、庭園が整備中で入れませんでしたが綺麗なりましたので、どうぞ、お楽しみください」
「そうですか、ぜひ!」
お気づかいは受けねばなるまい。
確かめにも、行こう!
庭園〜
綺麗になってる!
花の数がとっても増えて、お花畑みたい。
「綺麗ですわ」
「お嬢様も花のようで。この庭園が、とてもお似合いでございますよ」
「えっ、本当ですか? ありがとうございますっ」
緑のワンピース着て、葉っぱみたいだけど。
「どうぞ、ご自由に歩かれてください」
執事さんは行ってしまった。
では、お言葉に甘えて歩き回ろう。
令嬢がいないか見ないといけないけど、まずは庭園を楽しもう。
いい天気。見たこともない綺麗なお花。木は丸くカットされてる、こっちは星型、こっちはハート。不思議の国みたい。異世界って感じ。
こっちは! 妖精の形にカットされてる!
オペラの妖精だ。よく出来てる……怖いくらい。
離れよう――
噴水だ。座って、王子様を待とう……
水音だけがする。静か。
誰もいないよね。
「おはようございます!」
いた!
飛び上がって驚いちゃったけど、男の人の声!?
40くらいのたくましそうな人。
ニコニコしてる。
とりあえず、挨拶返さなきゃ。
「おはようございます!?」
「驚かせてしまいましたね。私は庭師のガードンと申します」
「あぁ、庭師さんでしたの」
ほっとした。
シャツにズボンにサスペンダーつけて、いかにも庭師って感じ。
「いかがですか? 庭園の出来栄えは」
「とても美しいですわぁ!」
「ありがとうございます」
うやうやしく、お辞儀してくれた。
「こんな庭園を歩いてみたかったんです」
私の感想も進歩させなきゃね。
「あの木なんて不思議の国みたいで。可愛いですわ」
「ご満足いただけて、光栄です」
「特に、妖精が……お上手ですわ」
「あれは自信作です。今上演中のオペラをイメージして作り上げた庭園でして。もうすぐおいでになる隣国セリアー王国の王族もオペラを愛していますからね」
オペラを愛してるか。重い響きですわ。
胸にズンときました……
「そんな、セリアー王国の王族様方に見せる庭園を私が先に歩いてよかったんでしょうか?」
「もちろんでございます!」
めっちゃ、力んで断言してくれた。
「あなた様は王子様が唯一城に招かれる、ご令嬢ですからね――では、私はこれで」
ガードンは去って行った。
意味深な含み笑いを残して。
私が――
王子様が唯一、城に招く令嬢なんだ。
純粋で料理ができて。
トラウマも乗り越えて一緒にいる……
私が、きょとん令嬢だったんだ!!?
なにこのミステリー映画みたいな衝撃の気づきは。
私は違う! 確かに、そんな気ないんですよって感じで王子様は奪ってしまったけど。
ちゃんと自分のしでかしを自覚してるし懺悔もして許しを求めた!
これからその気持ちを展開に活かしていくから、バットエンドにも悲劇にもさせないし!
ハッピーエンド喜劇にしてやるっ、くらいの気持ちでいなきゃ――ドキドキドキドキ、落ち着いて。
ふぅ。全ては順調にいってる……
早く、王子様に会ってそれを確かめたいけど。
待ってる間は庭園を楽しもう――




